今年10月発売の『AIファーストカンパニー』から「第2章 企業を再考する」の一部を紹介します。
デジタル技術が人よりも優れている点は多岐にわたります。正しく指示を出したらという前提はつきますが、仕事がスピーディかつ正確、疲れずに仕事を続ける、感情に左右されない、マルチタスクをこなせるなどです。それゆえ、コンピュータやAIはどんどん人の仕事を置き換えるわけです。
さらにビジネス的な観点に照らすと、デジタル技術が人よりも優れているさらに大事な点があります。それは、AIファーストカンパニーは、それまでの企業の成長の制約条件であった「人や仕事のマネジメントの複雑性」を劇的に下げうるということです。むしろ、規模や事業範囲が広がるほど、AIはさらに良いサービスを提供できるようになります。ビジネスモデルとの擦り合わせさえしっかり行うことができれば、AIファーストカンパニーは「成長→進化→成長…」の果実を容易に手にできるのです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、英治出版のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
ビジネスモデルとオペレーティング・モデルのすり合わせ
企業が価値を提供し、規模、範囲、学習を最適化しようとする際には、オペレーティング・モデルがビジネスモデルで設定した方向性と合っていなければならない。オペレーション戦略の研究者は長年にわたって、戦略とオペレーション、言い換えると、ビジネスモデルとオベレーティング・モデルをうまくすり合わせれば、企業業績は最適化されると論じてきた。
フォード、シアーズ、バンク・オブ・アメリカ、AT&T、GEなどの企業は、ビジネスモデルに合わせて規模、範囲、学習の目標を推進するオペレーティング・モデルを設計、実施することで、素晴らしい業績を達成してきた長い歴史がある。結局のところ、規模、範囲、学習を推進すればするほど、企業の価値は高まる。
しかし同時に、3つのオペレーション次元がそれぞれ広がれば、従来のオペレーティング・モデルの複雑さが増し、これまで以上にマネジメントが困難になる。極めて重要なのが、ここから、企業による価値創出や価値獲得をこれまで限定してきた業務上の制約が生じることだ。デジタル企業が異なるのは、まさにこの部分である。新タイプの企業は、基本的に新タイプのオペレーティング・モデルを展開することで、これまでにないレベルで規模拡大を実現し、これまで以上に広大な範囲の製品・事業領域への進出を実現し、伝統的な企業よりもはるかに速いスピードで学習し適応している。これは、デジタル企業が価値提供のクリティカルパスを変革しつつあるからだ。
デジタル・テクノロジーがソフトウェアやデータ重視のアルゴリズムの形態で、事業活動のボトルネックである労働者を代替すると、単に代替されるのではなく、それをはるかに超えた効果が企業にもたらされる。
『AIファースト・カンパニー――アルゴリズムとネットワークが経済を支配する新時代の経営戦略』
著:マルコ・イアンシティ、カリム・R・ラカーニ 訳:渡部典子 監修:吉田素文
発行日:2023/10/20 価格:2,640円 発行元:英治出版