マーケティングの講座で講師として登壇していると「マーケティングは、身近な事例でイメージがつきやすいので楽しい」という声を聞く。一方で、難しいと感じる受講生の感想としてよく言われるのが「カタカナの専門用語が多くて覚えられない」という悩みだ。マーケティングはアメリカ発祥で、セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニングなど、英語そのままの言葉を使用しているため、なかなか頭に入りづらいというのも頷ける。
さらに昨今は、さまざまなマーケティングツールや指標などが出てきて、ますます専門用語が増えてきている。なおさら取っ付きにくいというところだろう。
そんなとき、まずやるべきことは、1つ1つの専門用語を必死に覚えることだろうか。いや、そうではない。まず重要なのは、ベースとなる「考え方」を理解することだ。本書は、マーケティングを実践する上で言わば“OS”となる考え方や着眼点をわかりやすく教えてくれている。
初めてマーケティングに携わるという人であれば、押さえておいた方がよい考え方を、本書から4点ほど紹介したい。
ます考えるべきは、「誰に」「何を」「どのように」
カタカナで覚えにくい専門用語が飛び交うマーケティングだが、まず考えるべき枠組みは、「誰に」「何を」「どのように」という3つなのだという。
- 誰に:どのような顧客に(顧客理解)
- 何を:どのような価値を(顧客価値)
- どのように:どのような施策で届けるか(各種施策の概要の知識)
この3つの枠組みは、どのようなビジネスであろうと普遍的な考え方だ。このようにシンプルな枠組みを押さえた上で、「顧客理解はどのようにしていけば良いのか?」「顧客価値はどんな視点で捉えたら良いのか?」といった問いがあなたの中にもし浮かんで来たなら、本書は読み応えがあるだろう。
顧客は価値と費用のバランスを評価し購入する
マーケティングとは、「顧客に買ってもらえる仕組みを作ること」と言える。だが、どうやったら顧客に買ってもらえるのか?
色々な考えはあると思うが、つまるところ「顧客が価値と費用のバランスで納得をするから」だ。やや乱暴な言い方をすると、顧客は基本的に「コスパ」で評価して購買するということだ。
たとえば、20〜30万円の洗濯機は、高級タワーマンションに住んでいるような富裕層であれば衝動買いできるような金額だろうが、「洗濯機に20〜30万円も出せない!」という人も多いだろう。また、金額だけでなく、時間という費用も含めて考慮される。安い洗濯機は売れていて在庫がなく、納入まで3ヶ月待たされるとなったら、3ヶ月も洗濯機なしで過ごすことを考えると、20〜30万円のものを買ってしまうということもある。
言われればそうだよね、ということだと思うが、この原理原則を理解しておくことは、非常に重要だ。なぜなら、価値を得るための費用も時間も、それぞれの顧客が主観的に捉えるものであるからだ。特に、競合がいる市場では、顧客は相対比較をするため、価値の独自性を打ち出す必要が出てくる。その際に、「価値と費用のバランスを評価する」という原則を踏まえながら「誰に」「何を」「どのように」を掛け合わせて考えられると、成功確率が高まる。
売上を伸ばす方法は5つしかない
「事業における一丁目一番地は、売上を伸ばすこと」というのが筆者の考えだが、どうすれば売上は伸びるのか?本書によれば、売上を伸ばす方法は短期的には3つ、中長期的には2つ、の合計5つしかないと言う。
<短期>
- 価値を感じてくれる人(潜在顧客)への接触範囲を広げる
- 顧客と価値の組み合わせを新たに開発する
- 顧客が商品・サービスを得るための費用(時間やお金)を下げる
<中長期>
- 商品・サービスの価値を高める(値段を上げる)
- 商材を増やして、顧客への価値提案の幅を広げる
売上不振になった場合などは、あの手この手を考えて「打ち手先行」になりがちだ。しかし、このように方向性がシンプルに示されると、次のアクションも納得感を持って進めやすくなるだろう。組織内での考えを整理するにも活用してみてほしい。
事業フェーズごとに異なる課題や重点事項がある
日々の業務に埋没してしまうと、事業を俯瞰して捉えられなくなる。そうなれば特に、先ほどのような組織内で方向性を共有し、視界をそろえることは、意外と難しい。ただ事業を指揮する経営層からチームメンバーまでが、事業のフェーズを俯瞰し、視界をそろえておけると、変化を予知し対応できるので効率的だ。
本書では、事業フェーズを以下の4つに分け、各フェーズにおける「誰に」「何を」「どのように」の枠組みにおける力点や注視する指標、よくある組織課題が整理されている。
- フェーズ1:事業の立ち上げ期
- フェーズ2:事業成長の前期
- フェーズ3:事業成長の後期
- フェーズ4:事業の成熟期・再生期
たとえば、「誰に」に関して言えば、フェーズ1では購入顧客に「選ばれる理由を聞く」のに対して、フェーズ2では未購入顧客に「選ばれない理由を聞く」と、力点が変わる。こういったという点は、組織内で共有されていると、実行の質もスピードも上がるだろう。
強い組織というのは、事業を俯瞰する「鳥の目」、現場レベルで考える「虫の目」、流れ(フェーズ)を読む「魚の目」を持ちながら、目線を揃え個が爆発できるものだ。
本書で得た「考え方」をベースに組織の目線を揃え、OSとなる共通言語をもち、皆さんが個を爆発させられることを期待したい。
『マーケティング思考 業績を伸ばし続けるチームが本当にやっていること』
著:山口 義宏 発行日:2023/2/6 価格:1,760円 発行元:翔泳社