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2023年の注目トピック――テクノベート編

投稿日:2023/01/04

グロービス経営大学院の教員らが2023年の注目トピックを取り上げるシリーズ。今回はテクノロジーとイノベーションを掛け合わせて考える「テクノベート」編です。テクノベート時代の問題解決手法を学ぶ「テクノベート・シンキング」ほか、テクノベート領域の科目開発やプロダクト開発に取り組む2名に、2023年を紐解くテーマを聞きました。

大企業も参戦 DXによる「無人・自律・セルフ」の文脈がtoCサービスの最前線に

八尾 麻理


いつの時代も、生まれたばかりのテクノロジーがすぐさまブームとなるのは極めて稀です。なぜなら私たち人間は、そこに、ある種の”ナラティブ(物語)””意味”を求めるからです。そのため、ナラティブのもとにいくつかの技術が掛け合わされ、意味ある用途となって顕在化してくるのです。では、2023年に私たちが求める意味やナラティブとはどのようなものでしょうか。

コロナ禍とウクライナ侵攻がもたらした“ナラティブ”

まず、ナラティブで捉えてみましょう。新型コロナウィルスに翻弄されたこの3年の時は、実に多くの経済活動の低迷と深刻な社会の分断を招きました。ロシアによるウクライナ侵攻がどう終焉を迎えるのか未だ見えない中で、少なくとも確実なのは、ウィルスの脅威がエンデミック(一定の周期性・罹患率で定常化する状態)へと向かっていることです。

そのため2023年は、企業や個人が経済活動の活性化へ舵を切りながらも、資源高やインフレ懸念を完全払しょくできないままに迎えることから、今までの延長で人員や設備へ投資して固定費を上げることが難しい状況です。むしろプロセスを抜本的に見直して中長期で固定費を抑える投資へ知恵を絞ることとなるでしょう。たとえそれが一時的なコスト上昇を招くとしてもです。

顧客サービスの最前線に出てくるテクノロジーとは?

このようなナラティブな背景から注目したいのが、「Unmanned : 無人」「Autonomy:自律」「Self:セルフといった”意味”を含蓄するテクノロジー利用です。

人の目に触れない倉庫や厨房などのバックヤードを無人・自律型ロボットで制御する取り組みはこれまでもありました。また、これら「価格を抑えてサービスの質を担保する手段」あるいは「近未来的な付加価値」としての「無人・自律・セルフ」といった文脈は、小規模なスタートアップが戦略的に用いるのが常でした。ところが今後は大企業と言えども、顧客サービスの最前線に臆面もなく出してくることになるでしょう。なぜならここまでのナラティブを踏まえて顧客もまた「中長期で固定費を抑えつつ生活の質は維持(あるいは向上)」することにより意味と価値を見出すようになってきたからです。

例えば、パーソナル、マンツーマン、完全個室で顧客のボディメイクを成功に導く高価格サービスで一世を風靡したRIZAPは、それとは真逆の24時間無人、セルフ利用・器具使い放題、AI搭載アプリによるサポートで「5分でも結果が出るメソッド」とするコンビニ型店舗「ChocoZAP」を開始しました。月額定額使い放題で税込み3,278円と、ANYTIME FITNESSなど競合の半値以下となる破壊的な価格設定です。

また、22年にロボット掃除機のiRobotを買収したAmazonは、ロボット掃除機が蓄積するホームマップ(室内の凡その間取りのようなもの)を使った住居空間のインテリジェンス化で家を丸ごと抱え込む気配です。AmazonのほかGoogle、Appleらが参画して話題のスマートホームの国際規格「Matter」に連動した室内家電が増えれば、それらの位置関係をマップ上で把握しやすくなります。家の中の人の動きは多くがルーティーンの集積です。手に届く価格の音声アシストAIが、状況ごとのルーティーンを察知してホームコンシェルジュ的にアシストするようになれば、私たちはより多くの可処分時間を享受することとなるでしょう。

人が介在する対面サービスが最上とはもはや言い切れない

こうした「無人・自律・セルフ」の文脈は、小型・高性能なウェアラブルデバイスの出現データ×AIで得られるインサイトによって、経済性と価値を両立する最強の手段であることに間違いはありません。ただし注意が必要です。このようなサービスが真に根付くには、受け手である当事者への丁寧な説明や真摯な対応で心理的な壁を克服することが欠かせません。悪意ある第三者に悪用される可能性を技術や法的な専門家を交えて常に議論する体制も必要でしょう。人が介在する対面サービスが最上とはもはや言い切れないーー、そんな新たな驚きに溢れた「無人・自律・セルフ」のサービスが今後どんな分野から創出されるか、ますます楽しみな2023年の幕開けとなりそうです。

大きく羽ばたくクリエイティブAI/生成系AI

鈴木 健一


昨年、「2022年の注目トピック」には【ブロックチェーンとクリエイティブAIが大きく羽ばたく日】と題して、Web3.0とNFT、さらに生成系AIについて書いた。予想を遥かに超えたのは、テキストからの画像生成AIの劇的な進展だ。2023年も引き続き、クリエイティブAI/生成系AIを注目トピックとして取り上げたい。

2022年7月にMidjourney、そしてOpenAIのDALLE-2がリリースされ、8月に英国のStability AIがStable Diffusionを公開した。なかでもStable Diffusionはオープンソースでなんと学習済みのモデルも公開した。誰でもStable Diffusionを組み込んで新しいアプリを作ったり、また、さらに例えばアニメデータを追加学習させてアニメに強いモデルを作ったりすることができる。画像生成AIの“民主化”だ。ネット上はお祭り騒ぎのようになった。

ぜひ手元でSable Diffusionを“体感”してみてほしい。<Stable Diffusion Online
入力となるテキスト(prompt)には例えば、以下を使ってみよう。SF調の空飛ぶ機械の画像が生成されるはずだ。

A digital illustration of a steampunk flying machine in the sky with cogs and mechanisms, 4k, detailed, trending in artstation, fantasy vivid colors

(出典:図は筆者が同じプロンプトで作成したもの)

入力テキスト(プロンプト)を変数のように変えることで、いろいろな画像が生成可能だ。創造性が半ばエンジニアリング化したと言ってもいい。プロンプト自体がノウハウで、ユーザー間では象徴的に“呪文”と呼ばれている。遠い存在であった創造性領域に手が届くようになったということでは、魔法の“呪文”と呼ぶのがふさわしいのかもしれない。

同様に動画生成ができるであろうことは想像に難くない。すでにGoogleからImagen Video、MetaからはMake-A-Videoが発表されている。

画像以外の分野も活発だ。言語系では対話が可能なOpenAIのChatGPTが注目を集めている。
(今回、この文章後半をChatGPTに試作させたが仕上がりの良さに驚いた。エッセイをAIに下書きさせるといったことは将来当たり前になってしまう予感がする)

こうした技術のクオリティは単なる遊び道具のレベルを超えつつある。はたして画像生成AIの民主化が与えるインパクトは何だろうか? 

AIにより画像生成の限界費用(新たに画像を追加的に作るコスト)がゼロになり“民主化”される。クリエイティブな才能の総量で決まっていた画像の供給制約が消滅し、今まで画像を使いたくても使えなかったユーザーやサービスプロバイダでも簡単に画像を使えるようになるのである。いろいろなアプリやサービスも登場してくるだろう。

スマホでの画像、動画撮影の“民主化”から、例えばスマホ以前には想像できなかったInstagramやTikTokが生まれた。画像生成の限界費用ゼロと“民主化”によるユースケースは想像を遥かに超えて広がるかもしれない。

限界費用ゼロのインパクトがどのように拡がるのか、2023年もクリエイティブAI/生成系AIから目が離せない。

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