今年9月発売の『改定4版 グロービスMBAアカウンティング』から「第1章1節 コラム:ブランドや人材・技術力は「資産」にどのように反映されているか」を紹介します。
企業において最も重要な経営資源は、言うまでもなく人材やノウハウ、知的財産です。近年ではブランドの重要性も増しており、これも重要な経営資源と言えそうです。
これらは企業の価値創出につながるのみならず、競合への差別化要素ともなります。ところが、この大事な経営資源は、貸借対照表の資産の部には登場しません。どれだけ良い知的財産があっても、あるいは世界で通用するブランド力を持っていても、貸借対照表には表れないのです。財務諸表を読んだり指標分析(比率分析)を行うことはいまやビジネスリーダーになくてはならない素養ですが、こうした点には注意が必要です。
ただ、たとえばスターン・スチュアート社が開発したEVA®商標という指標では、開発費やブランド構築につながる広告費を費用ではなく資産として計上し直します。その方がより実態に迫れるからです。
また、外部から取得した知的財産については、現時点のルールでも、取引価格に基づき貸借対照表に記載します。こうした財務諸表の「癖」やそれを活用する際の知恵を知っておくことも大切なのです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
コラム:ブランドや人材・技術力は「資産」にどのように反映されているか
会社の競争力の源泉として、近年、ブランドやノウハウ、技術力といった目には見えない無形の経営資源、いわゆる知的財産の活用が重視されてきている。一方で、財務会計においては、貸借対照表の「無形固定資産」として、「特許権」や「商標権」、「のれん」といった科目があるが、会社の「知的財産」のすべてが計上されているわけではない。
例えば、会社内部での事業活動により生成されたブランドやノウハウといった「知的財産」については基本的には計上されない(ただし、自社開発の特許権の登録費用など一部の支出について「無形固定資産」として計上される場合がある)。
その理由は、財務会計では会社間の財務数値の比較可能性や公正性を重視しており、貸借対照表上の「資産」の範囲を①その資産に起因して、将来の経済的便益(収入アップや費用の削減)につながる可能性が高いこと、及び②資産の取得原価を信頼性をもって算定できることを満たす場合のみに限定しているためである。
例えば、会社内部で特許を取得するための研究開発や調査などのコストが発生したとする。コスト発生時点では、最終的に特許権として認められ、ライセンス収入など将来の経済的便益につながるものかどうかの判断は難しく不確実性が高いため、①の要件を満たさす資産としての計上はできないことになる。
一方、外部から特許権を取得(企業結合の一部として取得した場合を含む)した場合は、将来の経済的便益につながるものとして取引が行われたものとみなされ(①の要件)、特許権としての取引価格が特定される(②の要件)ことから、当該取引価格で資産計上が行われる。
このため、財務会計においては、会社内部での研究開発の成果として獲得した特許権については、それまでの研究開発に要したコストは通常の場合費用処理され、資産として計上されるのは特許の登録費用などに限定される。特許権そのものがもつ価値(特許権を使用することによる将来の売上の獲得など)が貸借対照表に資産として反映されているわけではない。貸借対照表を見る時は、このような点に注意が必要である。
一方で、「知的財産」の企業経営に与える重要性の高まりを受け、会社の知的財産の活用について戦略的な観点からの開示が求められている。日本においては、2004年には経済産業省から「知的財産情報開示指針」が公表され、上場企業を中心に、知的財産経営についてアニユアルレポートや知的財産報告書などの形で開示が進められてきた。 2021年6月には、東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードが改訂され、新たに人的資本や知的財産への投資等について「自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつわかりやすく具体的に情報を開示・提供すべき」と言及している。
この改訂を受けて、上場企業では、会社の知的財産の活用について戦略的な観点からの開示がより求められるとともに取締役会などでは、知的財産への投資についてより活発な議論が求められることになるなど、知的財産をめぐる情報開示・ガバナンス体制の強化が注視されてきている。
『[改訂4版]グロービスMBAアカウンティング 』
著者:グロービス経営大学院 著・編集:グロービス経営大学院 発行日:2022/9/27 価格:3,080円 発行元:ダイヤモンド社