今年9月発売の『MBA 2030年の基礎知識100』から「第8章84 ミドルでも組織変革はできる」を紹介します。
組織変革において鍵となるのは、組織のトップである社長のリーダーシップや先見性、逃げない執着心などであることは論を待ちません。では、ミドル発の変革は不可能なのでしょうか? もちろんそんなことはありません。課長や部長クラスでも「将来の社長候補」「鋭い視点の持ち主」などと一目置かれている人材は必ずいるものです。彼/彼女が同僚を巻き込み、トップに変革を迫って味方にすれば、組織変革は進んでいくものです。もちろん通常は抵抗勢力もいるので、そう簡単に事が運ぶわけでもありません。時には術数が必要になることもあるでしょう。だからこそ変革のキーパーソンの関心事を見抜く洞察力や、粘り強くWin-Winの落としどころを探る課題解決能力が必要となるのです。
このVUCAの時代、ある程度の変革は必須です。「変革はトップが始めるもの」という思い込みは捨て、自ら変革の最前線に立つミドルが求められています。 (このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、PHP研究所のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
ミドルでも組織変革はできる――いかにトップを動かすか
組織変革は、基本的にはトップダウンで行う方が効率もいいですし、本来の筋ではありますが、だからと言って、ミドル発の組織変革が不可能というわけではありません。往々にして保守的になりがちなトップを動かし、組織変革を推進するのも、2030年代のマネジャーの仕事と言えます。ミドルの方がトップよりも現場の社員や顧客に近く、危機感を持ちやすいという事情もあります。
ミドル発の変革の難しさは、トップダウンの変革とは異なり、「武器」が少ないことです。組織の経営システム(人事制度や管理会計、意思決定ルール、ITシステムなど)や組織図の変更の権限、あるいは人材配置などに関する権限がないということです。ミドル発の組織変革においては、そうした武器を手に入れるためにも、必然的に、トップの早期の巻き込みが必要になってきます。
では、どうすればトップを突き動かすことができるのでしょうか。効果的なのは、「可視化された現実」や「象徴的なエピソードや声(特に顧客からの声)」、「イメージしやすい将来ストーリー」、「新しいやり方に関する明確な顧客からの期待」といったことを丁寧にトップに伝えることです。心あるトップであれば、こうした声に耳を傾けるでしょう。
ミドル発の組織変革の場合、さらに必要なのは、変革に向けて志を同じくする仲間を多く募ることです。一人の課長がどれだけトップに直訴しても、簡単にトップは動きません。
しかし、例えば課長が100人いる企業において、50人が変革を望んでいるとしたら、トップもその声を無視することはできません。どのくらいの仲間がいればトップを動かせるかについては、ポジションや組織文化などによっても変わってきますが、数十%のミドルマネジャーが声を出せば、通常、トップはそれを無視することができなくなります。特に、社内において「彼/彼女は将来の経営幹部候補だ」と目される人材が複数入っていると、影響力が強くなります。
仲間を増やすためには、諄々と切々と変革の必要性を説き、説得をするのが、結局は早道となります。可能であれば、組織の優秀な層、重要な層から味方を増やし、経営トップや組織全体に影響を与えうる閾値を早い段階で超えたいところです。
一般に、組織変革に対する姿勢は、賛成、中立、反対に分けられます。反対派は取り込むのが難しく、賛成派は比較的簡単に味方になってくれます。それゆえ、中立の層をいかに味方につけるかが、成否の分かれ目になることが多いものです。誰が中立かを固有名詞レベルで見極め、その人たちを巻き込んでいくことが必要です。「早く協力するほどいい」という状況になり、バンドワゴン効果でどんどん味方が増えることが理想です。
その際に気をつけるべきは、彼らの事情です。総論では賛成でも、各論となると反対に回る層は、一定比率いるものです。知識や意識のギャップ、立場などにも配慮したうえで説得しないと、無駄に敵を増やすことになる点には、気をつけたいところです。
反対派を全員口説くのは難しくても、中心人物を昧方にできれば、これも効果が大きいです。そのためには、彼/彼女が変革に反対する理由を丁寧に探り、対話することが必要です。一見別のことを言っているようで、会社や事業に対する思いの強さは同じということもしばしばあります。本質的な意見の相違がどこにあるのかを丁寧に見極め、Win-Winのクリエイティブなやり方がないかを探る姿勢も必要です。
『MBA 2030年の基礎知識100』
著者:グロービス 著・編集:嶋田毅 発行日:2022/9/22 価格:2,145円 発行元:PHP研究所