今年9月発売の『MBA 2030年の基礎知識100』から「第2章18 ブロックチェーン・暗号資産の活用」を紹介します。
ブロックチェーンや暗号資産(仮想通貨)、さらにはトークンエコノミーという言葉は数年前から話題になっていました。ただ、その実用化となると、暗号資産が多様化したことを除けば(価格は概ね2022年10月現在下降気味ですが)、まだ予想されたような浸透は果たされていないように感じます。一方で、技術進化は確実に遂げられています。2030年にはさらに利便性が向上し、ブロックチェーンを応用した市場規模などは何倍にも膨れ上がるでしょう。その中でもやはりブロックチェーンの活用先として、暗号資産は重要な位置を占めると予想されます。スマートコントラクトなどの技術がどのような発展を遂げるかは未知数な部分もありますが、中央銀行が発行しない通貨が一定の比率を占める時代はやってくるでしょう。そうした時代に向けた利用方法を開発したり、事業機会を見出したりということがこの数年間、企業には求められそうです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、PHP研究所のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
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ブロックチェーン・暗号資産の活用――トークンエコノミーの実現へ
ブロックチェーンとは、データを記録するための技術の一種であり、分散型台帳とも言えます。その特徴は以下の通りです。
- データを参加者全員で記録・管理する。そのため改竄することができない。また、あとでデータの変更履歴をトレースすることも容易
- 中央集権型ではなく分散型で、データが参加者に共有されているため、一部で不正やエラーが起こってもシステム全体への影響がない
- イーサリアムなどでは、契約の自動化(スマートコントラクト)ができる
この技術はもともとビットコインに代表される暗号資産(仮想通貨)において発達しましたが、その他にも多くの応用が考えられています。その分かりやすい例は、金融分野などにおける決済・証明・契約の効率化です。これは必ずしも暗号資産によるものである必要はありません。通常の決済などであっても、スマートコントラクトの特性を生かして、効率化が可能です。
2030年頃には、もともとブロックチェーンと相性がいいと言われていたサプライチェーンマネジメントなどにも、かなり応用されているでしょう。各製品の原料から製造、出荷といったトラッキング情報が、一企業の中だけではなく、サプライチェーン全体で共有されることで、物流などの最適化にも応用できるということです。食品などでは、安全性に関するトレーサビリティを高めることにもつながります。
こうした応用は多々ありますが、ブロックチェーン応用の本命は、2030年段階では、やはり暗号資産、そしてそれと連関する次世代インターネット(分散型インターネット。2022年現在はWEB3.0と呼ばれます)でしょう。
暗号資産と言えば、まず名前が出るのは、現状ではビットコインですが、これはブロックチェーンを応用した暗号資産としてはかなり原始的なものとなっています。また、資産としてはともかく、決済手段としては、あまりにトランザクションが遅いことから、実用性がありません。
しかし、数年前から出てきたイーサリアムのような暗号資産は、かなりの部分、こうした問題を解決してくれることが期待されています。NFTで使われているブロックチェーン・プラットフォームの多くも、イーサリアムです。イーサリアムは単なる暗号資産ではなく、スマートコントラクトの機能をアルゴリズムとして持っています。例えば、NFTが取引される際、その取引ごとに、「取引価格の何%かをオリジナルの作成者に戻す」といったことも、スマートコントラクトに盛り込めるわけです。
こうなると、デジタルのエコシステムはさらに広がっていきます。そして、数年前から予想されていたトークンエコノミーが花開く可能性も高まります。トークンは、法定通貨ではないものの、価値のやり取りができるものです。自分が「いいな」と思ったものを暗号資産で買うこともしやすくなるでしょう。
想定される難しさは、法整備が追い付かないことです。 トークンエコノミーの税制も大きな課題でしょう。ただ、だからと言って足を止めてしまうと、ますます海外との差が広がってしまいます。通貨は円やドルだけではないという世界観を持ち、その中でビジネスチャンスを見出すことも必要となっていくでしょう。
『MBA 2030年の基礎知識100』
著者:グロービス 著・編集:嶋田毅 発行日:2022/9/22 価格:2,145円 発行元:PHP研究所