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懸念と展望-Web3で変わる世界 vol.5

投稿日:2022/10/24

ブロックチェーン黎明期より、同技術の本質的な価値と可能性に賭け、社会システムの構造展開に挑戦してきた株式会社Ginco代表取締役の森川夢佑斗氏による「Web3とは何か」の連載。第5回では、ここまで見てきたWeb3のサービスの懸念と未来の可能性の両面について解説する。(全5回、第5回)(第4回はこちら

※本記事は、2022年6月9日にグロービスのテクノベート勉強会で実施した森川氏の講演「Web3で変わる世界」をもとに再編集しています。また、本稿は投資や購買の勧誘を目的とするものではありません。

「思想」に対する懸念-Web3の美化

Vol.1-3では、Web3を「思想」「技術」「ビジネス」という3つの側面から捉えてみましたが、今回は、それぞれについて懸念と展望をみていきたいと思います。

まず思想です。Web3ではWeb2.0を過度に否定しすぎているのではないかという懸念があります。TwitterをはじめとしたSNSやZoomのようなビデオ会議ツールなど、実際、多くの人が使っているのはWeb2.0サービスです。つまり、Web2.0とWeb3を切り離して考えるのではなく、組み合わせて考えるべきなのです。Web2.0は不要でWeb3だけになるという意見は、過熱しすぎだと思います。

もうひとつの懸念は、Web3を美化しすぎていることです。業界全体が民主化、分散化といったキレイな表現をする傾向にありますが、実態としては一部の企業が運営を担っているということもままあります。また、誇大広告によって素晴らしいプロジェクトだと喧伝されていますが、なかには詐欺的なプロジェクトも見られます。思想が先行しすぎると実態が見えなくなるのです。

「技術」に対する懸念-非中央集権は本当か

技術面では、本当に「非中央集権」なのかという懸念があります。ブロックチェーンノード(ブロックチェーンのデータを通信するサーバーのような存在)は一部の企業が提供するAPIを経由しているため、ブロックチェーンノードを提供する会社と、それをただ参照するだけの会社があるように、結局のところクライアントサーバモデルのようになっているのが現実です。    

さらに、ブロックチェーンノードは、ユーザーそれぞれがノードを持っているので、どれかのノードが停止してもネットワーク全体としては機能不全を起こさないというのが基本的な考えですが、実際ノードの大半はGCP やAWSなどのクラウドサービス上にあるので、それらで障害が起きたときにどうするのかという問題もあります。

また、Web3サービスのシステム構成は、Web2.0のシステムとWeb3のシステムのハイブリッドが大半になので、全てが分散しているわけではありません。

一方、トークンに関する部分や、トークンの交換を行うDEX(分散取引所)が仮にある場合はブロックチェーンによって担保されるため、運営企業起因のシステム障害からは切り離されます。つまり、仮にサービス運営企業が消えてもトークンが残ったり、ゲーム会社が潰れてもNFTのゲームアイテムは残ったりするのです。

このように分けて考えると、すべてが非中央集権的ではないといえます。ただ、もちろんだからダメだという話ではなく、分解して考えるべきだろうということです。

また、ビットコイン論文が発表されてから14年が経過しましたが、未だにスケーラビリティの問題等が指摘されるなど、未成熟な点も挙げられます。ただし、私のようなブロックチェーンやWeb3の未来を信じる人間の意見としては、今後、技術的課題は解決されていくだろうと考えています。

ビジネスモデルに対する懸念-見かけだけの成長か

Web3サービスは、先行者が利益を得やすいビジネスモデルなので、どうしても出口詐欺やインサイダー取引が横行します。

また、トークンはサービスに紐づいているケースが多く、企業に紐づいた株式よりもライフサイクルが短いため、中長期的に価値がきちんとつくのか、もしくは短期的に高騰してすぐしぼんでしまうのか、あるいはポンジスキーム*的な構造で終わってしまわないか という懸念があります。    

*ポンジスキーム…「資金を運用して配当金を配る」と謳って出資者を募るが、実際は運用せず、新しい出資者の出資金を配当と偽って配ること。破綻を前提とした詐欺。

Web3はユーザーから集めたお金でサービスをグロースし、ユーザーに対して価値を還元するというモデルを謳っていますが、実際は流入する資金をそれ以前ユーザーに分配しているだけのケースも存在し 本質的な成長に基づくものな のかの判断が難しいのです。

よくトークンエコノミクス(もしくはトークノミクス)などと言われますが、どんな構成になっているのかしっかりと吟味しないといけません。「見かけ上は分からない」というのも厄介で、技術的な側面や、経済学的な側面もしっかり見ないと真偽が判明しづらいことから、いわゆる一般の投資家から見ると差異の判別が難しく、周りの意見に流されて安易に乗っかると損をしてしまう恐れもあります。

テクノロジーの未来は明るい

以上、懸念点を説明しましたが、私はテクノロジーの未来は明るいと思っています。ブロックチェーンの基礎技術及び暗号資産等の領域は、ハイプ・サイクル*の中でも谷を越えつつあります。クリプトカレンシーも機関投資家等からアセットクラスとして認められつつあり、今後もっと普及していくでしょう。

*ハイプ・サイクル…ある技術・サービス・関連する概念等のキーワードについて成熟度、採用状況、どの程度社会に浸透し実ビジネス上の課題解決や新機会の開拓に貢献する可能性があるかを図示する。新たに登場するキーワードには過剰な期待が寄せられるケースも多いが、それがハイプ(誇張)なのか実用化可能なものなのか判断できる。

一方で、NFTやDeFiなどはピークを迎え、ここからの動きに注目が集まるところかと思いますが、しっかりと実用に乗るものだと思います。

Web3サービスの発展には、今までの仕組みであるWeb2.0との関係性を理解したうえで、ビジネスとして社会に適合する形でブラッシュアップされることが不可欠だとだと思います。    

図表5-1 将来展望

おわりに バーチャルな空間を軸にしたサービス

Web3を一言で表現するのは難しいですが、まず、思想という観点からは、「既存インターネット産業の歪みから生じた願い」であるということです。より公共性が高く機会均等な、開かれたインターネットを志向するものだといえます。

技術では、「ブロックチェーンを基盤とし、価値をデジタルに表現したトークンを従来のシステムに連携させる」もので、新しいユーザー体験やユーザー価値を生むことを可能にしています。

ビジネスでは、「トークンを基軸にファイナンス、マーケティング、マネタイズを一体化して成長する、新しいサービスグロース手法」を取り入れたものだと理解しています。

全体をまとめると、Web3とは、「トークンを活用して急激な成長を遂げる新しいモデルであり、バーチャルな空間を軸とし価値提供を行うサービスのこと」だと言えるでしょう。

「バーチャルな空間を軸」とは、バーチャルな空間での決済などをさします。たとえばNFTでは、TwitterのアイコンにNFTを使う、またはDiscordなどそのNFTを持っている人しか入れないデジタルのコミュニティがある、といったものです。

新しい潮流というのは、既存の世界ではなく、新しい世界の中でこそ大きなものへと成長していくものです。そういった観点から、既存のフィジカルな世界ではなく、バーチャルな世界を軸としたものが、いま広く浸透しているWeb2.0を塗り替えるようなサービスになっていくという予測も含めて、Web3は、バーチャルな空間を軸とした価値提供をするサービスとここでは呼びたいと思います。

図表5-2 Web3とは?

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