津田大介(つだ・だいすけ):ジャーナリスト/メディア・アクティビスト
メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。ソーシャルメディアを利用した新しいジャーナリズムをさまざまな形で実践。オンラインメディア「ポリタス」編集長を務める。Twitter
津田大介さんのニュースピックアップ
1. KDDIで過去最大級の通信障害、完全復旧まで86時間
回線にアクセスが集中する「輻輳(ふくそう)」が起き、完全復旧には86時間もかかった。我々は普段当たり前のように通信インフラを使っているが、日本ほど通話・通信品質が高い国は少ない。それでも今回は119番などの緊急通信も使えなかったので、こうした障害時も緊急通信だけは確保する仕組みを今後の教訓として構築してほしい。本当に電話が止まって困るという人は複数のキャリア契約を考えることも大事だと感じる。
2. 東京地裁、性風俗事業者へのコロナ給付金除外に合憲判断
今回の除外は「差別でなく区別であり政裁量の範囲内」という判決だが、私自身は職業差別にあたると考えている。他方、性風俗産業が性差別の構造を助長させている面もある。セックスワーカーの権利を守るとともに、別のレイヤーでは、同産業への望まない従事を防ぐような貧困対策を含め、産業のありかた自体も議論しなければいけないと思う。いずれにしても原告側は即日控訴を行った。高裁判決に注目したい。
3. 誹謗中傷対策でSNS事業者に情報開示の法制化を検討
SNS上の誹謗中傷コメントについて削除の申し立てなどを行っても、これまで米国に本社があるGAFA等の大手プラットフォーマーはなかなか対応してくれなかった。しかし、日本でサービスを展開するなら日本の法で定められた情報開示は必要だ。事業者による過度な投稿削除については憲法が定める表現の自由との兼ね合いで議論にもなるが、削除基準の明示を含めた情報開示の法制化という方向自体は良いと思う。
4. 「電力需給ひっ迫」で7~9月は全国で節電要請期間に
古い冷蔵庫やエアコンを最新機種に変えるだけでも大幅な節電になるので、買い換えを含め省エネが進むような政策誘導も大切になると思う。それと、電力需給が逼迫するたびに原発再稼働の声は大きくなるが、原子力規制委員会の審査を通らないかぎり政治側も再稼働は決められない。再稼働を決めたら次の日から電気を供給できるというわけでもないので、電力需給ひっ迫の際は正しい知識を持ったうえで議論を行いたい。
5. 音楽業界4団体、参院選で自民候補者2名の支援を表明
4団体に所属する企業にもさまざまな政治信条持つ人がいるため、特定候補を「一丸となって応援する」という今回の支持表明に抗議の声が上がった。音楽文化がマイノリティの人々を包摂する営みのなかで発展してきた歴史も考えると、同性婚反対など、多様性を否定する自民候補の推薦という点にも反発は大きい。特定候補を支持するなら事前に参加企業へ諮ったうえで、一定のコンセンサスを得るほうが良いのではないか。
【スペシャルトーク】ダイバーシティの観点から見た参院選公約
スペシャルトークでは、「ダイバーシティ」の観点からみた参院選公約や目指すべき社会像について、津田大介さんに掘り下げていただいた。
ダイバーシティの観点で見ると、与野党で公約が最も明確に分かれているのは選択的夫婦別姓に対する賛否だ。自民以外はすべて賛成の状況がここ数年続いている。今は世論調査でもおよそ7割が賛成で、経済界も女性活躍の観点から賛成が多い。今は自民内ですら5~6割が「選択的なら良いのでは?」という声になっているという。ところが、得票率で言えば国民の2割前後となる自民党の、さらにその3割前後となる一部の頑迷な人々が、どうしても認めずに実現しないわけだ。
岸田政権の「女性版骨太の方針」がベースにしている今年の「男女共同参画白書」には、夫婦別姓に関して興味深い指摘がある。男性が姓を変えないようになったのは第二次世界大戦後であり、さらに言えば夫婦同姓制がはじまったのは明治31年。実際には夫婦同姓の歴史も百数十年程度であり、「伝統的だと思われるものも長期的に見ると新しいものが多い」としている。専業主婦が一般的だった時代も高度成長期の40年程度だったわけだが、「その時代こそ良かった」という一部自民保守派の反対で女性の社会進出もなかなか進まない現状がある。
同性婚についても自民は今まで態度を保留していたが、今回の公約ではむしろ後退しているし、東京都が導入を決めたパートナーシップ制度にすら反対している状態だ。東京都が導入すれば国民の大半をカバーする制度なわけで、それならむしろ法制度化することが国の役割ではないのか。「LGBT差別禁止法」も昨年は成立寸前までいったが、一部の自民保守派が反対して止められた。
一方で野党の主な公約を比較してみると、たとえば日本維新の会は同性間に加えて異性間でもパートナーシップ制度の導入を目指すという。事実婚でも法律婚と同様の社会サービスが使えるようにすることで、出生率改善につなげようというわけだ。また、国民民主党はインクルーシブ教育の環境整備でマイノリティへの偏見をなくしていくことが重要であるとしている。このほか、社会民主党と日本共産党は一定の議席を女性に割り当てるクオータ制を掲げているし、共産党は家事の負担割合が高い女性も政治活動を十分行えるよう、比例代表中心の選挙制度に変えるという提案も行っている。
このように、細かく見ると違いはあるが、ジェンダー・多様性に関連する野党の政策や公約は8割ぐらいが共通しており、とにかく与党との差が際立っている。このあたり、諸外国の事例や施策も参考にしつつ、「この政策なら投票しようかな」となるような、さらにエッジの効いた関連政策を野党には提案して欲しい。
ダイバーシティニュース視聴方法
1.LuckyFM茨城放送のラジオ FM88.1/94.6MHz
2. YouTubeライブ配信(アーカイブでも視聴可能です)https://www.youtube.com/channel/UCOyTwjQoiUJXxJ8IjKNORmA
3. radikoでも聴取可能です
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