グロービス経営大学院とflierが共催した「読者が選ぶビジネス書グランプリ2022」で、『超ファシリテーション力』がビジネス実務部門賞を受賞し、総合では2位にランクイン。「ABEMA Prime」(通称:アベプラ)で論客を相手に番組をまとめるテレビ朝日アナウンサーの平石直之氏にグロービス経営大学院教員の林浩平が、時間がない中でのファシリテーションの準備や組織における対立などについて聞きました。(全2回、前編)
場を好きになってもらうスキル
林:まずは、『超ファシリテーション力』ビジネス実務部門での受賞おめでとうございます。ご感想をお聞かせいただけますか。
平石:ありがとうございます。こうして選んでいただくと、きちんと届いているのだと伝わってきますので「書いてよかった」と実感しております。
林:良いファシリテーションというのはどんなものだと、整理なさっているのでしょうか。
平石:簡単にいうと、「円滑にグループ活動を促進していく」ということです。うまく仕切られた場には、気づきや学びがあって、その場を好きになります。3人以上の人が集まる場をいかにエモーショナルに円滑につくるかというのは、人間関係にとって非常に重要ですから、そういう機会のある方に本書を手にとっていただきたいです。
時間がないときの「準備の優先順位」
林:『超ファシリテーション力』のなかで「準備」が大事だと書かれていますが、改めて強調なさった趣旨は何でしょうか。
平石:その場に行ったときの、自信のためです。「私が責任をもっていい場にします」と言えるようにするには、準備以外ないですよね。いざ議論が始まったら、どんな発言がどう飛び出すか分かりませんから、パッとすぐに取り出せる情報がどれだけ頭に残っているかの勝負になります。
林:グロービス経営大学院の「ファシリテーション&ネゴシエーション」の授業でも、「準備」が大事だと伝えています。とはいえ、平石さんは毎日番組を担当されています。実務家の方も、準備が大事とわかりつつも時間がないと悩む方が多いと思いのではないでしょうか。時間がない中で、どのように優先順位をつけていらっしゃいますか。
平石:本番までの持ち時間を逆算して、取捨選択をしていきます。1~10まであるときに、全部とれたら最高ですが、時間がないなら1、3、7、10を押さえる。もっとなければ、1、5、10を押さえる。例えば、多くのご著書がある方がいらっしゃるときは、まず代表作と最新作を押さえます。次に賛否両論あった作品を押さえます。YouTubeなら、まず最も多く再生されている動画を見る、とすると効率的です。
また、「人」を追わないといけないのか、「テーマ」を追わないといけないのかでも優先順位は変わります。その時々に合わせて優先順位の高いものから潰していきます。そのうえで、ここまでしかいけなかった、ここがわからなかったというのはあっていいと思います。その線引きを自覚して、「ここがわからないので、伺わせていただきます」というスタンスでいくこともあります。
林:分からない部分があったら、そこを自覚しておいて、その場にきちんと論点として投げ込んでいくという。こんな感覚なんでしょうか。
平石:おっしゃるとおりです。その投げ込む時に大事なのは芯を食っていることです。何となく面白くて、本論からズレた話を続けてしまうことがありますよね。でも、そこをいくら話しても議論は前に進まない。ですので、情報を集めたら、議論の芯を決めるために他を捨てていく準備をします。
芯を食う議論のために、捨てる
平石:参加者がどういう人で、どんなご意見をお持ちか。今回のテーマには、どんな論点や意見があるのか。そうした情報をできるだけ集めたあと、最終的に解くべき問題は何か、議論しなければいけない軸になる論点を決めます。情報不足のままこれをやってしまうと軸がズレますので、十分に集めてから行います。
論点の軸が決まったら、頭の中で何度も何度も反復して叩き込みます。ファシリテーションは、相手の発言を聞いて、瞬時にやっていかないといけない。メモを見たり、考える時間はないわけです。ですから、準備して最後の残った時間は論点整理とそれを頭に叩き込むことに費やします。
林:準備をすると、計画通りにやりたくなりますが、そうではないということですよね。
平石:その通りです。ファシリテーターの役割は、参加者に言いたいことを言ってもらって、受け止めること、参加者の化学反応をプラスにしていくことです。その意味でファシリテーターは非常に受け身だと思います。受け身で、集中して相手の発言に耳を澄ませる。「聞く」ことに徹するための準備9割ですね。
ファシリテーターでチームが変わる
林:企業では、ジレンマを内包するような白黒つかない議題が多々あります。立場が上になると、部門を背負って簡単に譲れなくなり、対立が深まることも。そのような場合、平石さんはどのようにされますか?
平石:そういう場合は、両者の間に、連絡を取り合えるくらいのパイプを作ることをゴールにします。組織内で対立して戦闘モードになってしまうと、言い合っているだけで、お互いやり取りしないんですよね。私が間に入って「それぞれちょっと聞いていきますので」と、一回切り離すというのは意識してます。そうして、「ここの部分は理解できるだろうな」というところを見つけていきます。パイプが一度できたら、次に参加するときは話し方が変わりますよ。喧嘩腰は、相手と連絡を取る気がないからできるわけです。だって失礼ですからね。
林:共通する興味関心が明らかになってくると、関係が変わってくる、と。
平石:そうです。対立に限らず、踏み込んだ議論は、心理的安全性がないとできませんから、組織でしたら根回しが大事です。ファシリテーターは、会議以外の場で、できるだけ一人一人とコミュニケーションをとって関係をつくるのがいいと思います。昔のタバコ部屋じゃありませんが、そういう場の信頼関係が会議でも「喋っても大丈夫」という信頼につながります。組織外の方なら、相手について調べて、「あなたのことを知っていますよ」と好意を自分から伝えていくことが心理的安全性をつくる第一歩です。
林:先ほどの準備の一つが、土俵にあがる前の個々人との関係を作るということなんですね。
平石:「みんなに対してフェアである」という姿勢が見えるように関係をつくります。ファシリテーターがどちらかの味方だったら、もう発言をする気にならないですよね。
林:「彼なら、こちらの言い分も、向こうの言い分も聞くだろう。でもだからこそ自分だけでは分からないようなことが、彼が仕切る場であれば見えてくるだろう」と思われる。こんなイメージなんでしょうね。
平石:その通りです。だから、誰にファシリテーターを任せるかというのは、組織にとって非常に重要な決断の一つだと思います。リーダーが自分でやるのもよし、誰かに任せるのもよし。ですが、ファシリテーターを誰が担うかはチームをつくるうえでも非常に重要だという認識は持っていただきたいですね。
(後編に続く)
【ビジネス書グランプリ2022 特別セミナー】「超ファシリテーション力」 主催:グロービス経営大学院
グロービス経営大学院の科目「ファシリテーション&ネゴシエーション」はこちら
「超ファシリテーション力」
著者:平石直之 発行日:2021/10/30 価格:1,650円 発行元:アスコム