北朝鮮の「脅し」をゲーム理論で考える

2017年の夏になって活発化してきた北朝鮮の挑発行為ですが、ついに8月29日には北海道上空を越えるミサイルが発射され、国内に緊張が走りました。一説には、北朝鮮はアメリカ本土を核攻撃の射程距離に捉えることを目標にしているとされ、それを武器にアメリカに対して交渉を有利に進めることを狙っているとされます。今回は、こうした脅しがどのくらい効果的なのかを、ゲーム理論の視点で考えてみます。

さて、脅しはネゴシエーションのテクニックとしても紹介され、実際に用いられることも多い手法です。自分も損失を被るかわりに、相手にも大きな損失を被ることを示唆することで交渉を有利に進めようというやり方です。

たとえば、力のある芸能事務所が、「この条件をのめないなら、うちのタレントを全員引き揚げる」とテレビ局や雑誌に圧力をかけるといった場合がそうです(あくまで例であり、実際にここまで極端なプレッシャーをかける事務所があるかは不明です)。

次に知りたくなるのは、「では、脅しはどのような場合に本当に効くのか?」ということでしょう。これについてはゲーム理論による研究があります。通常、こうした脅しに対してどのような行動をとるべきかについては複数のナッシュ均衡が存在します。ナッシュ均衡とは、どのプレーヤーも戦略を変更する誘因を持たないような一種の膠着状態です。

これについて「ゲームの木」を書いて数学的に説明すると複雑になるので、ここでは結論だけ述べますが、「脅しが本当に起こりうる」と相手が考えるならば、脅しは有効となります。ゲーム理論では、これを(脅しの)信憑性と言います(厳密に言えば、1回きりの交渉と長期にわたる交渉で条件が変わったり、情報の非対称性の度合いによっても多少変わってくるのですが、ここでは詳細は割愛します)。

つまり、「報復によって平壌が壊滅する事態になろうが、本当にアメリカを核攻撃する可能性がある」とアメリカが考えるなら、脅しとして有効ということです。その意味で、北朝鮮が長距離核ミサイルの開発に力を入れるのは、局所的・微視的ではあるのですが、ゲーム理論的には理にかなっているのです。周りの国にとってはいい迷惑ですが、そうした合理性がある以上、巧い別の懐柔政策をとらない限り、北朝鮮は核ミサイル開発を進めてしまうのです。

これをビジネスに応用すると、そうした脅しに直面した時には、その信憑性をしっかり見極めることが大事、という教訓が導けます。たとえば、(最近は減りましたが)組合がストライキを示唆してきたら、まずはその信憑性を検討するのです。彼らにとってあまりにダメージが大きすぎるようなら、それはブラフ(はったり)と考え、毅然として交渉できるようになります。

現実に難しいのは、ハプニングが起こる可能性です。上記の例でいえば、実際には組合首脳は最初からストライキの意思はなかったとしても、一部の人間が扇動して実際にストライキに流れ込む可能性はゼロとは言えません。組織ならではのリスクとも言えます。

人間はつねに合理的に行動するわけではないという問題もあります。99.9%合理的な人間でも、0.1%の一時の感情の迷いから好ましくない行動をとる可能性はやはりあります。

ゲーム理論の大前提は、「相手が合理的に行動する」ということです。その前提が崩れる可能性が少なからずある場合にどう考えるかは、ゲーム理論を実務に活かす上の大きな課題でもあるのです。

 

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