星野リゾート社長・星野佳路氏が翻訳を務めた本書は、「この本がなければ、今の星野リゾートは存在しなかった」と言わしめるまでに星野氏自身に影響を与えた本だ。会社としての在り方を180度ひっくり返し、「指揮命令的発想」から「支援的発想=エンパワーメント」へと組織を転換していくための要諦が収められている。
「エンパワーメント」という言葉がそこかしこで言われるようになって久しいが、その実態はただの権限移譲や、エンパワーメントとは名ばかりの業務の丸投げであることが多い。本書を読むと、真のエンパワーメントとは一体どういうもので、実現までにはどんな困難が待っているか、実現した時に組織はいかほどの力を発揮するのかがよくわかる。そして、エンパワーメントはこれからの時代を勝ち残るために絶対に必要なことだと痛感する。
競争が激化し、とにかく素早い意思決定が求められる現代のビジネスの世界において、「社員一人ひとりがオーナーシップに溢れ、顧客との一番の接点である現場で重要な経営判断が行われること」は理想ではある。しかし、その理想は多くの矛盾とリスクを孕んでおり、ほとんどの会社がそこに向かうことはしないだろう。その上で、矛盾を乗り越え、理想を実現するためにはエンパワーメントが不可欠だ。本書はそのために必要な「3つの鍵」と、その鍵を実践するために押さえるべきポイントについても具体的に述べている。
まず、1つ目の鍵は全社員と正確な、そして重要な情報を共有すること。2つ目の鍵は境界線を明確にして、自律的な働き方を促すこと。そして3つ目の鍵は階層的組織特有の思考をセルフマネジメント・チーム型思考に置き換えることだ。この「3つの鍵」を組織の隅々で実践できたとき、会社は活気に溢れ、効率化が進み、飛躍的な成長を遂げるのだ。
さらに、本の中では「信念を持って、『従業員を信じる』ことを貫く」こと、そして、そのためにリーダー自らが「変わる」ことを一貫して述べている。ここだけを見ると、「なんだ、最終的には精神論か」と思われるかも知れないが、「信念を貫く」ということと、本当に「変わる」ということは、具体的な行動によってのみ証明される。本書はその道筋を分かりやすく示しており、組織変革の必要性を本気で感じているビジネスリーダーにこそ、ぜひ読んでいただきたい1冊だ。
さあ、本書を読んでエンパワーメントの国へ旅立とう。
社員の力で最高のチームをつくる―<新版>1分間エンパワーメント
ケン・ブランチャード、ジョン・P・カルロス、アラン・ランドルフ(著)
星野佳路、御立英史(訳)
ダイヤモンド社
1300円(税込1404円)