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範囲の経済性=シナジーは勝利の十分条件ではない

投稿日:2017/04/22更新日:2019/04/09

『新版グロービスMBA経営戦略』から「範囲の経済性」を紹介します。

範囲の経済性=シナジーは、企業の戦略において非常に重要な意味を持ちます。特に多角化を図る際には、既存事業の経営資源やノウハウがその新事業においても活かせるかを検討するのが一般的です。たとえばセブン銀行の成功は、セブン-イレブンの店舗網なくしてあり得なかったでしょう。一方で、安易にシナジーが効くはずと新規事業を行い、失敗した例も枚挙にいとまがありません。シナジーはあるに越したことはないものの、それは成功を約束するものではないのです。筆者はよく100m競走の例を用います。シナジーが効くというのは、100m競走に例えると、スタートラインを前に出してもらったということです。確かに有利にはなりますが、それだけで勝てるわけではありません。やはり真剣に事業に取り組まなければ、多少の「下駄」はすぐに追いつかれてしまいます。シナジーがどのくらい競争において意味があるのか、冷静に見極めることが必要です。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

◇ ◇ ◇

範囲の経済性

規模の経済性が同じ事業における固定費の分散(あるいは仕入れにおける強いバイイングパワー)を意味していたのに対し、範囲の経済性は、異なる事業間における資源の共有によるコスト低減を意味する。

たとえば経営大学院と企業向けマネジメント研修という事業は、基本的に教材や講師、教育手法など、用いる経営資源やノウハウはかなり重なる部分が大きい。大学院生には企業派遣でやってくる学生も多いから、人事部や事業部に対する営業やマーケティングの資源もある程度共有可能である。別の見方をすると、同じ規模で企業向けマネジメント研修事業を展開している会社がある場合、それだけをやっている会社よりも、大学院事業も同時に展開している会社のほうが、資源やプロセスを共有することで範囲の経済性が効くぶん、コスト優位に立てるのである。

事実、ハーバード・ビジネス・スクールをはじめとする海外の多くの経営大学院は、MBAを授与する大学院事業以上に、法人向けの事業で利益を生み出している(さらにハーバード・ビジネス・スクールの場合はケ-ススタディ=企業事例の外販を大きな収益源としており、他の経営大学院の追随を許していない)。

範囲の経済性は、シナジーとほぼ同義である。シナジーは、「1+1が3になる」と表現されることがあるが、範囲の経済性は、「1と1のコストを足しても1.5のコストにしかならない」と言い換えることができる。その趣旨は、結局は同じである。

シナジーはいくつかのタイプに分類される。下図に示したのは、経営学者のアンゾフによる分類であり、やはりコストの共有を強く意識している。

次の図に示したのは、バリューチェーンを強く意識して分類したものだ。ここでは、コーポレート・シナジーとソフトとハードのシナジーに注目してほしい。

コーポレート・シナジーとは、特定の職能(機能)にかかわるものではなく、企業全体をマネジメントするノウハウを横展開することで生じるシナジーである。たとえばGE(ゼネラル・エレクトリック)はリーダー育成のノウハウが卓越しているが、これは同社の中核事業である重電事業だけでなく、その他の事業にも展開可能である。

ソフトとハードのシナジーは、補完財(DVDとDVD再生機のようにお互いが消費を刺激し合う関係にある製品・サービス)を自社で持つことにより、マーケティングコストを相対的に低減するものだ。エレクトロニクスメーカーが子会社に音楽会社を持つのはその典型例である。

ケースのセブン-イレブンを核とするセブン&アイ・グループについて言えば、まず流通業では購買を共有できることで、大きなバイイングパワーを生み出すことに成功している。また、第2章のケースで紹介するオムニチャネル戦略では、物流網や店舗網を共有することでコストダウンを図っている。

範囲の経済性の効く度合いは、多角化を考える際に非常に重要なポイントとなる。ただし、本当に経営資源やプロセスを共有できるか、事前にしっかり検討する必要がある。かつてヤクルト本社は、商社と組んで、同社の強みでもあるセールスレディに健康器具のカタログを持たせ、範囲の経済性を追求しようとしたが、あまりの商材特陛の違いに効果的なセールスを行うことができず、チャレンジはうまくいかなかった。

(本項担当執筆者:グロービス出版局長 嶋田毅)

 

 

『新版グロービスMBA経営戦略』
グロービス経営大学院  (著)
2800円(税込3024円)

 

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