トランプ大統領の不確実性を「シナリオ・プランニング」で考える

つい1年前までは想像できなかった事態――トランプ氏の第45代アメリカ大統領就任がいよいよ間近に迫ってきました。彼が大統領選に勝って以来、すでにいろいろなことが起こりました。当選確定当日は一気に102円程度にまで円高に振れた為替は、一転円安に転じ、一時は118円を超えました。本稿を執筆している時点では113円近辺にまで戻ってきましたが、今後どうなるかは全く予測できません。

投資家として有名なジョージ・ソロス氏が、トランプ当選以降の相場を見誤って、すでに10億ドルの損失を出したというニュースも伝わっています。過去の大統領に比べても、「何をやり出すかわからない」といった不確実性にトランプ氏の大きな特徴があります。これはビジネス的に言えば、政策やその影響の振れ幅が大きい、つまりリスクが高いということに他なりません。

では、こうした不確実性、リスクの高い状況下で、われわれはどう考えるのがいいのでしょうか。良くないのは「こうなるはず」と決め打ちしてしまうことや、何も考えずに、何かが起きてから慌てて反応することです。

こうした不確実性が高い時に役に立つ分析手法にシナリオ・プランニングがあります。これは、いくつかの「起こりうる未来」を予め想定し、どの未来が起きてもある程度しっかりした対応がとれるように事前に備えるものです。一種の思考実験ともいえます。

通常、シナリオ・プランニングでは、特に振れ幅が大きく、かつ重要な影響をもたらす項目を2つ選び、それを2軸としてマトリクスを描き、4つの象限を設定します。そしてそれぞれの象限が同等に起こりうるものと考え、それが実際に起きた時にどうすべきかを検討します。

今回のケースでは、例えば図のようなマトリクスが描けます。彼の「アメリカ・ファースト」の方針そのものは変わらないと思われますが、その程度が問題となりそうですので、「経済面」と「安全保障面」の2軸について、程度に応じ、異なる4つの未来を描いてみました。

ポイントは、多少の可能性の濃淡はあれ、「どの象限の未来も起こりうる」という点です。今まではさんざん過激な発言を繰り返してきましたが、いざアメリカの大統領という、世界に最も影響力を持つポストに実際に座ってしまえば、それほど過激なことはできないだろうという見方もありますし、一方で、トランプ大統領なら本当にとんでもないことを一気にやりかねないという可能性もあります。こうした未来をいくつか認識し、それぞれへの対応を考えておくことが「転ばぬ先の杖」となるのです。

日本の産業界からしてみたら、一番嬉しいのは左下の「意外とまとも」シナリオでしょう。ただ、願望としてはわかりますが、そう決め打ちするのは極めて危険です。逆に、一番大変なのは、やはり右上の「アメリカ超自己中心シナリオ」です。もしこれが実現したら、たとえば一気に中国が政治的(例:東シナ海への軍備増強)にも経済的(例:東アジア包括的経済連携の推進)にも攻勢をかけて来て、日本は安全保障上も経済上も厳しい舵取りが求められるようになるかもしれません。中国だけではなく、ロシアの動きなども気になりますし、テロの脅威なども一気に増し、東京オリンピックにも影を落としかねません。

今回はトランプ大統領にフォーカスしましたが、その他にもEUの行く末など、世界は不確実性に満ちています。ただ、不確実だからと諦めてしまうのではなく、難しいことではありますが、不確実だからこそ、事前の思考実験が大切な時代になってきている点は認識しておきたいものです。

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