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小泉進次郎氏が語る「ビジョンを伝える言葉の力」とは?

投稿日:2016/11/29更新日:2019/08/08

G1カレッジ2016
第1部全体会「『ビジョンと言葉』~ビジョンを正確に発信する為に必要な言葉をどう磨くか~」(肩書きは2016年11月23日登壇当時のもの)

<動画の書き起こし>

小泉氏:私からは、今日はせっかくですから、みなさんに「言葉とビジョン」ということでお話をしたいと思います。

言葉に「体温」と「体重」を乗せる

私は常に心掛けていることは、自分の話している言葉に「体温」と「体重」を乗せることです。実際、言葉に「体温」と「体重」はありません。温度を測れることはできないし、体重をはかることもできません。だけど、必ず言葉には「温度」と「体温」が乗ります。そして、受け取る側の感じる重量、それが必ずあると僕は信じています。じゃあ、なんで僕がそういう思いを持つに至ったか。それは、人に話を聞いてもらえない体験があるからです。相手にされなかった経験があるからです。いくら思いを伝えようと思っても、思いを伝えることができない体験があったからです。

初めての選挙の「苦い思い出」

私が初当選したのは28歳の時でした。今35歳なんですけど、今から7年前の民主党が与党になった時です。その選挙はとても言葉では言い表せないぐらい(今日は言葉がテーマなのに)本当に厳しい選挙で、雰囲気は「とにかく自民党は嫌い!」という空気。そういった中で選挙をやっていると、街中で名刺を渡そうとしても名刺を受け取ってもらえない。目の前で破られる。握手を求めても握手をしてもらえない。そして街頭演説をしているとわざわざ近寄ってきて足を踏んでから行く人。そういったことが自分の中で全部残っている。しかも、それが初めての選挙だから、これはおそらく一生忘れない。あれが自分の原点です。

その時に本当に話を聞いてもらえなかったんです。演説会やっても、人が来てくれない。今、私は農林部会長ですけど、横須賀と三浦の畑の周りで演説をしていて、本当にキャベツと大根ほど静かに聞いてくれた人はいなかった(会場笑い)。本当にそういう環境で、そしてマスコミも「自民党大敗、民主党政権誕生。本格的な二大政党制、政権交代が当たり前の時代へ」という空気だから、その作られた空気の中で生きていくためには、生き残っていくためには、生き抜くためには、そして自分の思いを正確に伝えるためにはどうすればいいのかということを徹底的に考えざるを得なかった。

生き抜くために必要だった「言葉」

つまり、これだけ言葉にこだわるのは趣味じゃないんです。生き抜くために必要だったんです。自分が言いたいことを伝えるためには。だから、よく海外留学で英語を学ぶとか、外国語に対する学習とかも私は同じだと思いますけど、いちばん身に付くのは「話さなければ生きられない」という環境に身を置くことだと思います。逆に言えば、「あまり話せない」って言っているってことは、あまり話せなくても生きていけるからだと思います。私はあの初めての選挙で「何を言っても結局最後は作られたシナリオの方に報じられてしまうのだな…」「なんでこれだけ話を聞いてもらえないのだろうか。自分って本当に政治の世界を目指して良かったのだろうか…」と悩みました。苦しかった。街中に出るのが本当に怖かった。

最高の教材は「自分で自分を直視する」こと

だけども、その時に僕がやったのは、自分の演説を自分で聞いてみたんです。「どうしてこんなに人は止まってくれないんだろう」と思って。それで自分の演説を、ポケットにICレコーダーを入れて録っていました。それで選挙中の寝る時に、電気を消して、ベッドの中でイヤホンで聞いてみたんです。そしたらですね、驚くほどよく眠れるんです。つまらないから。自分で話を聞いてみると、自分の話し方が、自分が思っている以上に早口で、一文が長くて、言葉に抑揚がないということがわかるんです。

世の中には「スピーチを上手くするにはこういったテクニックがある」とか、いろんな本が並んでいます。『スティーブ・ジョブズのプレゼン術』だとか、いろんなものがありますよね。だけど、自分が危機感を持って、本当に変わらなきゃいけないと思うきっかけになるのは本じゃありません。自分のことを「直視する」ことです。だから、ぜひ言葉や自分の思いをどうやって周りに伝えるのかということで悩んだり、どうすればより良くなるかと思っている人がいたら、自分の話を録ってみる。そして、自分が話している姿を映像でも撮ってみる。そういったことから自分を振り返ることは、僕にとってはものすごく最高の教材でありました。そんな体験があるからこそ今があるんですね。そして、そんな体験があるから、世の中は変わるということもわかるんです。

言葉は「体験」から生まれる

だから、私は言葉に「体温」と「体重」を乗せたいと思っている。そして、それだけ思うきっかけになったのは「体験」なんです。それは、言葉は体験から生まれるということです。そして、その体験というのはどんな体験かというと、骨が記憶をしてるぐらいの体験をしてください。自分の骨がそれを覚えているぐらいの体験をすれば、それは決して忘れることのできない言葉が自分の中に生まれるはずです。

今、私は農業関係の改革の調整の真っ只中にいて、自分が今どういう状況にあるかということを最近よく使う表現があるんですけど「登山」に例えるんです。山は登れば登るほど空気が薄くなる。苦しいけど、一歩一歩は本当に重い。だけども、その空気が薄い中の登山を諦めずに最後まで行けば、今まで見ることができなかった景色を見られるはずだと。だから、酸素ボンベを積んだって、落石が落ちてきたって、時に途中にクレバスがあったって、最後まで登りきって見たことない景色を見るんだという。そういった思いで、そういった言葉をよく使うのですけど、じゃあ、なんでそういう言葉が出てきたかというと、私がみなさんと同じ年ぐらいの時に登った富士登山の体験なんです。

登った方はわかると思うけど、夜中登っているから本当に今まで見たことがない満天の星空が見えて、あそこで僕が勉強になったのは、もう見てもありがたみを感じないぐらい流れ星を多く見たんです。その時に、「ああ、流れ星っていうのは無いんじゃなくて、見えないもんなんだな」っていうのが勉強になった。そして、そうやって一歩一歩登っていくうち、一番苦しかった所がどこかというと、9合目から頂上なんです。空気が薄いって、こういうことかと。一歩登ると息が切れる、まるで一歩がダッシュのような、そういった感覚を持って登ったことを今でも自分の骨が覚えているから、こういった政治の状況で、べつに山に登ってるわけではないんだけども、今の自分の置かれてる状況、また、その立場を自分なりに人に伝えたいと思うその表現の中に、自然と自分の体験から湧き出る言葉が出てくるんです。それは、私にとっては登山だった。ずっと小学校2年生から高校3年生まで長くやっていた野球の言葉ではなかった。ここから何が言いたいのかというと、みなさんも学生時代に多くの体験をしてください。そして、それがどこかで将来自分の中でフィットする表現の言葉が、そこに初めて降りてくるという救いになる時があるかもしれません。いっぱい体験して、いっぱい自分の中の言葉の貯金を増やしてもらいたいなと思います。

リーダーに求められるのは「ビジョン」と「足跡」

今日のテーマは「言葉」と「ビジョン」ということですけど、私はリーダーに求められるものっていうのはビジョンだけではないと思います。そこには、その人が今までどんな人生を歩んできたのか、何を訴え続けてきたのか、どんな道のりを歩み続けてきたのかという、今までの「足跡」、それを人はビジョンと共に見ているのではないかなと僕は今思っています。

昨日トランプ次期大統領は、選挙で言っていたとおりTPPから離脱をするということを当選後初めて名言しました。私は野党の時から「TPPの交渉にすぐに参加すべきだ」ということを自民党内で言っている少数派でした。今でも忘れないのは、党内は反対の大合唱ですから、その中で交渉賛成だということを訴えたあとに、ある先輩から部屋に引きずり込まれて、1対1で「なぜおまえは賛成なのか」ということを説き伏せられたことを今でも忘れません。そんな経緯があった中で、私はTPP交渉に即参加すべきだと言い続けてきたことで、選挙の時に、農協の中央会という、これは神奈川県とか都道府県単位である農協の組織ですけど、そこから推薦をもらうことはできませんでした。彼らはTPP反対だから。だけど、そのあとからずっと思いが違っても、どんな関係性になるかというと、「TPPでは絶対に小泉さんとは思いは合わない。だけど、あなたはずっとそれを言っているからね。だから応援します」っていう、そんな農協のみなさんが増えてきてくれて、都道府県単位の中央会は小泉進次郎には推薦をしない、だけど地元の横須賀と三浦の農協のみなさんは僕を独自に応援してくれている。そういった中でいうと、本当の信頼関係というか、思いが違っても共にやれるという、そういった支援者が出てきます。だからぜひ、これからみなさんには、ビジョンというのが今日のテーマだと思いますけど、そのビジョンを大切にしながらも、今まで自分がどう足跡を残してきたかということもものすごく大切だと思いますので、いろんなことを学んでいただきたいなと思います。
最後、みなさんから少しずつ質問を受けたいと思います。

腹の底から自分が思っていることを「言葉」にする

参加者A質問は一言で、相手によって「体験」をどう選ぶかです。先ほどの登山のお話を聞いて、僕はすごく共感をしました。なぜかというと、僕自身も弾丸登山をしていて、それと失恋をして、もっと強い男になりたいと思って。飽き足らずマレーシアの東南アジア最高峰の山にも弾丸登山しに行ったりとか、そういう体験があったので、すごく言葉が響きました。ただ、これって(私と小泉さんが)同じ体験をしているからだなと思います。なので、相手が同じ体験をしているかどうかによって言葉の伝わり方の強度が変わると思います。その上で、学生であったり、政治家であったり、経済人であったり、相手によってどの体験を選ぶかっていう視点を加えているのかどうかをお伺いしたいです。

小泉氏:ご質問、本当にありがとうございます。たぶん、その富士山じゃない弾丸登山はもっと激しかったと思いますけど。言うとおりなんです。自分が選んだ体験に基づく言葉は、Aさんには響いたかもしれない。だけど、もしかしたら多くのみなさんには響かなかったかもしれない。だけど、逆に言えば、今日僕がここに来てその話をして、Aさんに響いたので、今日ここ来て良かったんです。200人ぐらいいて、200人全員に伝わるような話をするということは、全員に伝わらない話をするのと同じ意味なんです。
その中のひとり、その中のひとりに、この会場から今日出たあとに、帰り道の電車とか、家に戻ってからとか、お風呂に入っている時とかに、何か共鳴したなっていう思いを持ち続けてくれるひとりが生まれたら、それは1つの意義なんです。だから、言葉を選ぶこと、そして、どの体験から言葉を伝えていくかということは、もちろん、その思いを持ってくれる大勢のみなさんがこの会場にいることが一番いいことだけども、逆にそれを考えすぎると、本当に自分が何を伝えたいのかがわからなくなるというか、伝わらなくなる。だから、同時にその体験を的確に選ぶということと、一方では、ちょっと逆なのだけども、とにかく腹の底から自分が思っていることを選ぶっていうことが大事です。僕自身も、どういった人の話を夢中になって聞くかというと、自分と考え方が合っているかどうかではありません。「とにかくこの人は本気でそう思っているんだ」っていう、腹の底からその人はそう思っているっていう言葉を吐いているという、その人の言葉の力に僕は惹かれます。だから今日、Aさんと会えて良かったなと思います。ありがとうございます。

最後に自分を支えてくれるのは「自己決定に対する責任」

参加者B自分が大好きな人だったり、この人に向き合い続けたいと思う人、小泉進次郎ひとりの男として、「体温」と「体重」をかけるということと「骨太の経験」というのをどう空回りせずに向き合い続けているのかなということを、言葉とビジョンをテーマに聞けたらと。

小泉氏:要はプライベートの小泉進次郎と政治家・小泉進次郎の折り合いというか、それをどうやって自分でつけているのかっていうところもあると思うんですけど、僕は政治の道を職業だと思ってないんです。これは今日、実は最後に、恋愛のことはドッキリしたけど、いいテーマを振ってくれたなと思うのは、みなさんこれから職業の選択、人生の選択の機会が来ると思うんですけど、僕は政治の道のことを自分の「生き方の選択」だと思っています。「職業の選択」ではないと思っています。だから僕は、悩んだ時、苦しい時、精神的にも体力的にもギリギリだなと自分が思う時も、最後に自分を支えてくれることは、「この生き方を選んだのは俺なんだ」という、誰かから「跡を継げ」とか、「この仕事にしなさい」とか、そういったことではなくて、自分がこの道を選んだのだという「自己決定に対する責任」、これが最後、自分の力にすごくなっていますね。
みなさん、今日は本当にありがとうございました。

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