かつてマーケターの端くれであった者として世の中のマーケティング活動を眺めていると、まだまだこの領域は発展途上にあると感じる。例えば、広告宣伝は商品名とイメージの訴求が中心だが、一体何が良いのかよくわからないものにお目にかかったことはないだろうか。商品の機能訴求があったとしても、ユーザーにとって何が嬉しいのかまで伝わってこない広告宣伝が多いのはなぜなのか。本書は、今日の激しい市場競争の中で少しでも競合に抜きん出ようと日々奮闘するマーケターに、そのヒントとなるような、新たなマーケティング戦略の考え方を提案する一冊である。
まず筆者は、市場の括りを従来の「モノ」発想ではなく「行動」発想で捉えよ、と唱えている。例えば、これまでヨーグルト市場とか日本酒市場といったモノで括っていたものを、食べ物であれば朝食、昼食、夕食行動があるわけで、それぞれ朝食市場、昼食市場、夕食市場等と、行動と紐付けて括ってみてはどうか、という考え方である。この考えに基づけば、ヨーグルトであれば朝食市場にも位置づけられるだろうし、あるいは間食市場にも位置づけられる。そのため、市場機会の拡張のみならず、ユーザー行動に対する提案機会もまた増え、ビジネスの勝機が高まることを目論んでいる。
この考え方の良い点は、市場機会を拡げてくれるのはもちろんのこと、むしろマーケティングにおける顧客理解とは何を理解すべきなのか、の指針を与えてくれるところだ。顧客理解は基本中の基本とされているが、何を理解すべきか、については意外と曖昧なところがある。顧客理解はニーズを特定することが目的の一つだが、ニーズとは場面に宿るものであり、それは行動を伴うものである。だから行動を理解せよ、観察せよと唱えるのである。まずは自分の行動や習慣を自分自身で眺めてみてはいかがだろうか。なお、ここでいう行動とは購買行動ではなく、体験等の使用行動を指すことに注意してもらいたい。
他にも、行動を促す際の阻害要因や、行動を誘発するための仕掛けの考え方について触れているが、詳しくは実際に手にとって確認していただきたい。きっと役に立つヒントがあるだろう。
「一人でも多くの人に、より多くの量を、より多くの回数使用してもらうこと」は、私が支持するマーケティングの定義であり、マーケティング活動はこの点を通じて事業成長に貢献すると考える。そして私は、日本企業もマーケティングに注力することでビジネスをもっと活性化できると考えている。マーケティングを軸に事業成長を目論むマーケターにこそ、ぜひ本書を手にとっていただければと思う。
『人を動かすマーケティングの新戦略 「行動デザイン」の教科書』
博報堂行動デザイン研究所(著)、國田圭作(著)
すばる舎
2500円(税込2700円)