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味の素の風土を変えたKPIや縦横のつながり

投稿日:2016/04/28更新日:2021/10/22

本記事は、2016年2月18日に行われた人材育成担当者様向けセミナー「味の素 水澤氏が語る イノベーションを創出し続ける組織作りの要諦」の内容を書き起こしたものです(全4回、3回目)

井上陽介氏(以下、敬称略): 多くの質問票をいただいた。人材に関するご質問が多かったので、まずはその辺から伺ってみたい。マイノベ活動では1人1人の熱意やモチベーションを大切にしているとのお話だったが、「最近、会社で個人の思いや志がなかなか表に出てこない。そうした状況下、水澤さんはどのように個々人の熱意を引っ張り出していらっしゃるのだろうか」とのご質問をいただいている。

水澤一氏(以下、敬称略): 最初に一番難しいご質問をいただいた(笑)。結局、今は世の中全体がそうなっていると思う。「あくせくしない」というかなんというか…。世の中の流れとしてワークライフバランスが大切になってきたのはわかるし、男性の育児休暇取得も進めていかなければいけない。ただ、一方では我々世代またはそれ以前の方々が抱いていた「仕事に対して一生懸命取り組む意識」が若干薄れてきた面もあるように思う。

そんな状況だから今日お話しした活動についても積極的でない人たちはいるわけだ。だから縦横のクロスオーバーでやってきた。まず、グループ活動は時間内に行う。横串となるコアの活動は時間外、ライン活動は時間内だ。従って、グループ長さんには基本的に仕事の一部としてやらせているから、「嫌だ」って言ったって仕事としてやってもらう。熱心かどうかは別だけれども。そのうえで横串のほうはグループ内で期待値の高い若手を選定したうえで活動を任せた。だからそれほど後ろ向きの人はいない。とにかく、1番大きいのはグループ活動を業務としてやってもらう点だから、当然、その時間帯はきちんと取り組んでもらう。

また、横串のほうもリーダーをきちんと決める。こちらは先ほどお話しした通り、昇格初年度から2年目の管理職。だいたいトップ昇格の人材ということでモチベーションも能力も高い人間を私が指名する。だから、1対1のコミュニケーションのなかで彼らも一生懸命やろうとする。で、そんな彼らに引っ張ってもらっているから、かつコアメンバーもグループ内でモチベーションがすごく高い人たちを集めているから、そこはきちんと進む。そうした組織のなかで「その他大勢」も引っ張られていくわけだ。そんな風にして、とにかく縦横の両方でなんとか引っ張っている。だからといって全員のモチベーションがすごく高いかというと、そうでない人もいる。ただ、彼らを見ていると、最初はなんとなく後ろ向きだったとしても、活動を進めるとともに少しずつモチベーションを高めていっている。それで最後は皆一定のレベルまで来ることが多い。

井上: マイノベリーダーに引っ張られながら、周辺も少しずつその流れに乗ってイノベーションに向かう「空気」が生まれていくのだと思う。そのなかで次のようなご質問もあった。その方の会社では、経験ある40代ミドル層のモチベーションが課題になっているという。会社の変革に関して、少し、というか相当後ろ向きなのだそうだ。先ほどのお答えと少し重なるが、味の素さんにはそうした後ろ向きの方は少なかったのだろうか。

水澤: 他社さんと比較するのは難しい。ただ、40代にもなると、皆、先が見えてくるので。だから、視線が先を向いているモチベーションの高い人がいる一方、そうでない人も出てくる。だから、後者の方々は先ほどお話ししたような活動のなかで引っ張っていく。まあ、それでも半分は「嫌々ながら」という話かもしれないし、その辺は各社でそれぞれ根源的な問題にも行き着くと思う。

だから…、ここでこんな話をしていいのか分からないけれども、弊社も今後、管理職の人事制度を少し変えていく。そこで、これまでは管理職にしていた全員に一定の期待値を持っていたという状態から、スタッフとマネジメントに分けていくような形としていく。そうして「部長になってもモチベーションがあまり高まらない人はスタッフとして割り切って、給料を下げていくという方向の人事制度に変えよう」と。その意味で、今後は厳しい会社になって…、いけばいいかなあ、と(笑)。とにかく、そうした施策を打たないと今後は人が育たなくなるように思う。

井上: メリハリを設けるというお話だと思う。一方、マイノベリーダーやコアメンバーに関するご質問も多数いただいた。こちらは任期が決まっているのだろうか。

水澤: 決めてはいない。ただ、グループのコアメンバーは、2年ほどかけてサブリーダーを務めたのちリーダーになるとか、サブリーダーからリーダーになって2年とか、そういった回し方をしている。リーダーは2~3年だ。複数人がリーダーになって、そのなかでさらに「リーダー・オブ・リーダーズというのを決めている。

井上: マイノベリーダーを束ねるリーダー?

水澤: そう。そこは順繰りに担当させる。そうすると人数が多いときはリーダーを3年務めなければいけない人もいるし。いずれにしても2~3年で回している。

井上: 「マイノベリーダーやコアメンバーとしてアサインされた方々に関して、何か能力開発をなさったりしているのだろうか」という質問についてはどうだろう。

水澤: コアメンバーは一般職だから通常活動の枠組みのなかでやらせている。そして、リーダーは基幹職・管理職になった人たちだから、当然、全社的なリーダーシップ研修のようなものを受けている。あとは僕がマンツーマンで教えていく。

井上: 個別でもコーチングをなさっている、と。

水澤: そう。たとえばリーダー・オブ・リーダーズになると、「今回の活動をどのように進めていくか」といったことを彼らが考えて持ってくる。私はそれに対してああだこうだと言うわけだ。あるいは講演会等の企画を各種立ててもらって、それにダメ出しをしたりしている。そういうことは直接やっていた。

井上: 水澤さんとのやりとりのなかで、それぞれがリーダーシップや視野の広がりを得られるような環境に、なんというか、追い込んでいくというような。

水澤: 私の言っていることが正しいと仮定するなら(笑)、一応、その方向で皆が引っ張られていく。

井上: 評価の方法についてもいくつか質問をいただいている。1つはマイノベ活動自体の評価方法について。また、先ほどBSCのお話があったけれども、そちらを含めた全体の整理についてもご質問が来ている。

水澤: BSCは各グループでやっているからグループ内でKPIを設けている。で、そのKPIが実現できたかどうかはライン長が通常仕事のなかで判断している状態だ。それと、知財数や発表数といった食品研のKPIに関しては、年に1回、総括会議を行っている。そこでグループ長さんが「今期はこうでした」と報告して、それに対して僕が罵詈雑言を浴びせる、と(笑)。極めて体育会的なPDCAを回しているけれども、それで基本的にはほぼほぼ達成してくれている。

あと、先ほども言った通りマイノベリーダーというのは大変な仕事だ。弊社の評価制度は実力評価と成果評価があって、「リーダー オブ リーダーズ」は個人の目標管理シートにその業務を加えている。で、こんな風に言うとアレだけれども、そうしたリーダーの仕事をしているということに、フィードバックがなければいけないから必ず高評価を付けていた。

井上: 通常のライン活動での評価に加えてマイノベ活動があって、そこに関しては、ある種の加点評価になるという。

水澤: 特にリーダーは加点評価になる。それだから頑張るという話でもないと思うけれど、結果的にはそういう風にして付いてくるようにしている。あとはご飯をたくさんご馳走したりして(笑)。

井上: 状況に応じて人材の「思い」やモチベーションをうまく引き出しながら取り組んでいらっしゃるというお話だと思う。一方、マイノベ活動の中身についても伺いたい。まず、その理念に関して。能力の向上ではなく思考の改革という理念があった。「これはどういう意味ですか?」という質問も来ている。

水澤: 個人の能力を高めるというより、やっぱりフィロソフィーが大切になるから、「そういうことを目指しましょう」という話でもある。

井上: 思考改革の結果として能力が高まり、行動の質も向上するということでしょう。ちなみに、「こうした活動理念はトップダウン的に落とし込まれたのだろうか、それともボトルアップでつくりあげたのだろうか」との質問もある。スタート時はマイノベ活動という名前を社員から募ったとのお話だったが、理念のほうはどうだろう。

水澤: そこはバランスを取った。当時は組織がいくつかに分かれていて、それらが同じマイノベ活動をはじめている。だから、私がすべての組織でトップというわけではなかったし、他の組織トップの方々と一緒に決めていた。理念は、そうした状況下で当時のマイノベリーダーたちが自分たちで考えて、「こういう理念はどうですか?」と提案をしてくれたものになる。

井上: 皆で散発的に動いていた時代というのは水澤さんがトップに就任される前というお話だろうか。

水澤: アプリケーションセンターという組織が動きはじめたのは2003年。当時は同センターを含めて食品R&Dの組織が4つに分かれていた。それで、マイノベ活動も最初は4組織のうちの2つで行って、そのうち3つ目に広げるといった展開の仕方をしていた。で、その頃、現在のベースとなる「リーダーやコアメンバーを決める」という形にしたり、理念をつくったりしていった。それが最終的には食品研で1つにまとまって現在の形になったという流れだ。従って、「どこかで何かジャンプアップはありましたか?」といったご質問もあったけれど、やはり食品研という大きな組織となったとき、一気に動いた。マイノベ活動をしていなかった組織の人たちがそのタイミングで数多く加わったから、「活動を1つにまとめよう」と。それで改めて活動の意義や方向性を見直して一気に進めた。それがマイノベ活動における分岐点の1つだと思う。

井上: アプリケーションセンターは何人ぐらいの組織だったのだろう。

水澤: 60人ぐらい。で、他に100数十人と50人ほどの組織があったから、全部で200人ほどだった。その状態から、一番大きなところとアプリケーショセンター、そして健康関連の事業をしていたところが集まり、今は食品研でおよそ220人になる。

井上: 活動を開始した頃の状況に関連した質問もいただいている。「同様の活動を進めたいけれども、どんな風にはじめたらいいのでしょうか」と。たとえば、導入時に抵抗や反対はなかっただろうか。そこで当時の水澤さんに悩みがもしあれば、そこでブレークスルーしたエピソード等を含めて伺いたい。

水澤: 壁や抵抗は上下左右で数多く、360度いろいろな形であったと思う。それに、組織が違えば活動の重点ポイントも異なる。だから、そこの擦り合わせで試行錯誤を繰り返した。そこで1番のポイントになったのは、若く志の高い人をマイノベリーダーに据えることが成功の秘訣になるということ。それでスタートを切ることができたのは、混沌としていた時期のなかで1番のポイントだったと思う。コアメンバーに関しても同じだ。従って、食品研になった段階ではほぼほぼ、ベースとなる活動方法が決まっていた。そこに活動経験がない人たちを巻き込んで進めていった、と。いずれにせよ、この活動は時間内にやっているけれども、いろいろな活動は他にも当然あるから、「そんなことやるな」と言う人はいなかったし、そこは我々の責任でやっていた。それで上からの反対もなかった。

井上: まずはスモールスタートで徐々に型を整えつつ、200数十名の組織になった時点で一気に拡大させた、と。うまくスモールサクセスを展開した感じだろうか。

水澤: 今考えると、最初から大きな組織でスタートしていたら大きな抵抗に遭っていたと思う。ただ、スモールスタートというのはたまたま。当時はいろいろな流れの結果として小さなところから広げる形になっていて、それでうまくいった。

井上: 臨界点になったようなポイントは他に何かあっただろうか。

水澤: 食品研になったときがポイントだと思う。それ以前もうまく進んでいなかったわけではないけれど、当時は手探りだったので。それで2010年に現在の形となって大きく伸びていった。その前の2005~2008年頃までいろいろ取り組んでいたことが、2010年頃からアウトプットとして一気に出てきたという感じだ。

井上: 「活動を通じてどんなアウトプットがありましたか?」というご質問も来ている。たとえば売上や収益へのインパクト、あるいは「鍋キューブ」「Cook Do® 香味ペースト」といった新商品開発はマイノベ活動とどうつながっていたのだろう。

水澤: 「マイノベ活動をやったからこういう製品が生まれた」という単純な話ではない。重要なのは活動を通し、たとえば「知財を出さなきゃいけない」「自分たちの技術で製品をつくって世の中に問うていかなければ」といった気持ちを持ってくれた点だ。理念の部分で、自分から何か動かなければいけないと思ってくれたから、少しずつ良い商品が出るようになった。あるいは、そうした商品につながるような技術開発が進んだのだと思う。マイノベが直接的に結果へつながったのではなくて、人が育ったことで間接的に現在のようなアウトプットになった、と。

井上: 以前、たとえば「Cook Do® 香味ペースト」のようなスタイル等、たとえば外部での勉強会を通じて商品パッケージに関する新しい知恵を得ることができたというお話を伺ったことがある。その辺りのエピソードを改めて伺ってみたい。「いろいろと勉強会をやりたいと思っているけれども、なかなかうまく回らない。外部での勉強会等はどのように回していけばいいのだろうか」というご質問もいただいているので。

水澤: 難しい質問だけれども、勉強会に関してはトップダウンで「これをやりなさい」と言っても、うまくいかないと思う。マイノベ活動における勉強会等の企画は彼ら自身が「こんなことを勉強したい」というものを選んでいる。だからこそ「マイイノベーション」なわけで。私たちはそのお手伝いをするだけ。自分事としてやってくれたのが良かったのだと思う。その辺が、すべてではないにせよ1つのポイントではないか。

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