今年5月発売の『MBA 言語化トレーニング』の「Part3 Lesson16 顧客に刺さる言葉を選ぶ」の一部を紹介します。
世の中に流通する情報量は、テクノロジーの進化とともに指数関数的に増えています。その中で消費者に目をとめてもらい、自社製品を知ってもらうことの重要性はますます増していると言えるでしょう。
そこで必要になるのが消費者に「刺さる」言葉を用い、関心、興味を持ってもらうことです。ここでは古典的な原則である「BTRNUTSS(バターナッツ)」の原則を紹介します。8つの要素のうち、いくつかを巧みに盛り込むことで読み手の目に留まったり記憶に残してもらったりということが促進されるのです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、PHP研究所のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
心を揺さぶるコピー「BTRNUTSS(バターナッツ)」の原則
ビジネスは、突き詰めれば顧客に自社の製品・サービスを購入してもらうことで成り立っています。あなたの給料も企業の先行投資のための資金も、もとをたどれば顧客から得たキャッシュです。
ベンチャー企業などでは初期の活動資金の源泉は投資家から調達したキャッシュということもありますが、それも「将来的にこの会社は顧客から支持を得て売上を拡大するだろう」という見込みがあるからこそ投資家は資金提供してくれるわけです。ビジネスにおいて、企業にキャッシュをもたらす顧客の重要性はどれだけ強調しても強調しすぎるということはありません。
さて、顧客はある会社の製品・サービスを何のきっかけもなく購入するわけではありません。マーケティングの有名なフレームワークである態度変容の「AIDAモデル」によれば、顧客に自社の製品・サービスを購入してもらうためには、彼らにまず認知してもらい(Attention)、興味を持ってもらい(Interest)、欲しいと思ってもらい(Desire)、購買してもらう(Action)必要があります。
そして、それぞれのフェーズにおいて、カギとなる活動は変わってきます。最初の認知してもらう段階では広告の比重が大きくなりますし、最後の行動を起こしてもらう段階では人的販売(セールスパーソンの働きかけ)が重要度を増します。
ただ、どの段階であれ、顧客を動かすための言葉は非常に重要です。広告であれば、みんなが関心を持ってくれるキャッチコピーが必要になりますし、営業であれば、顧客のニーズや関心に合ったセールストークが必要になります。
それらをすべて語りつくすのは難しいので、本項ではAIDAの前半の、認知と興味のフェーズにフォーカスして議論します。昨今の情報洪水の中で自社の製品・サービスに目を止めてもらうことの重要性が上がっているという事情がありますし、後半のセールストークに関しては本書の他のパートを参考にしていただければある程度は組み立てられるからです。
良いキャッチコピーの判断基準としては、「BTRNUTSS(バターナッツ)の原則」があります。これは図に示した要素から成ります。
これをすべて盛り込むのはほぼ無理ですが、複数のものが盛り込まれると効果的なキャッチコピーになることが知られています。いったん言いたいことの素案を考えたうえで、これらの要素がどのくらい含まれているかを確認し、表現も工夫しながら新しい要素を追加し、より顧客に刺さりやすい言葉に練り上げていくと効果的です。
たとえば、古典的名作といわれるキャッチコピーに「私かピアノの前に座るとみんなが笑いました でも弾き始めると――」というものがあります。アメリカの音楽スクールの広告です。
広告スペースの中で圧倒的に大きな文字サイズで書かれていたのがこれです。そして次に文字サイズの大きな中見出しには、「そして私か弾き始めると」「完全なる勝利」「どうして先生なしでピアノの弾き方を習ったのか?」「どんな楽器も弾ける」「無料冊子とデモレッスンをお取り寄せください」という言葉が続きます。
中見出しを見るだけでも、ちょっと読んでみたいなと思わせるストーリーができているわけです。BTRNUTSSの原則に照らすと、Unique(独自性)、Surprise(意外性)、Story(物語性)が巧みに盛り込まれていることがわかります。
現代のネットの時代とは事情は異なりますが、参考になる部分は非常に大きいでしょう。
演習問題や回答例をごらんになりたい方は本書をご覧ください。
『思考力を高める 人を動かす MBA 言語化トレーニング』
著:グロービス 執筆:嶋田 毅 発行日:2024/5/22 価格:1,870円 発行元:PHP研究所