京都大学iPS細胞研究所所長・山中伸弥氏
G1サミット2015
第6部 全体会「iPS細胞の未来~再生医療の実用化が世界に貢献する日~」Part1
2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥氏。iPS細胞は、難病治療・再生医療の大きな可能性を秘め、世界中から期待と注目を集めている。一方で実用化に向けては、莫大な資金力を持つ米国はじめ各国が参入し、熾烈な国際競争が繰り広げられている。「iPS細胞を患者のベッドサイドへ」--実用化に向けた道のりと課題を紹介する。山中伸弥氏は2009年の第1回G1サミット以来のメンバーでもある(肩書きは2015年3月20日登壇当時のもの。視聴時間40分19秒)。
山中 伸弥氏
京都大学 教授
iPS細胞研究所 所長
【ポイント】
・高齢化のスピードは世界で日本が1位。1930年は子どもが最も多く、まさにピラミッドの形だった。でも、今から15年後の2030年には逆ピラミッドのような大変不安定な形になる
・寿命は延びて男性は80歳超、女性は86歳。日常生活を楽しめる寿命が健康寿命で、それと本当の寿命とのあいだに10年ある。それが介護などで周囲を圧迫し、何よりご本人を一番不幸にする。健康寿命と本当の寿命との差を1年でも2年でも縮めたい
・皆さんの血液や皮膚の細胞を少しいただき、我々が見つけた「山中因子」、と今は呼んでいる小数の遺伝子を細胞に送り込むと、iPS細胞というまったく違う細胞になる。神経や心臓や筋肉や軟骨等、あらゆる細胞を大量につくることができる
・私たちは二つの応用を目指している。一つは再生医療。細胞を移植して、患者さんの機能を回復させようというもの。それともう一つそれと同じかそれ以上に大切なのが薬の開発
・4つの目標達成を約束している。1)基本技術の確立、知財確保、2)再生医療用iPS細胞ストック構築、3)再生医療の臨床試験を開始(パーキンソン病、糖尿病、血液疾患)、4)患者由来iPS細胞による治療薬開発(難病、希少疾患など)
・iPS細胞からつくった心臓や筋肉の細胞を他の誰かに移植しても、拒絶反応をあまり起こさない特殊な細胞の型を持つ人が世の中には数百人に一人いる。我々は現在、そうした方を日本で100名見つけて、100人ぶんのiPS細胞をつくろうとしている。それだけで日本人の90%となる9000万人以上をカバーできる
・iPSを使った再生医療は、日本はアメリカ、ヨーロッパよりも先を行っている。特に、パーキンソン病、眼疾患、心疾患、脊髄損傷、血液疾患といったいくつかの病気については臨床研究の直前まで来ている
・CiRAでは高橋淳教授がパーキンソン病の再生医療に取り組んでいる。高齢化に伴って増え、80歳前後になると3人に1人でパーキンソン病の症状が出ると言われている。原因はたった1種類の細胞だから、iPSからその細胞をつくることができたらいい。高橋先生はそれに成功した
・難病・希少疾患と呼ばれるものは何百種類もあるが、患者数は日本全国でも1000人や100人、10人だったり非常に少ない。製薬会社でもそうした病気の薬をなかなか研究できない。しかし、iPS細胞を使うことで創薬が実際にできてきている
・病気を実験室で再現できるのがiPS細胞の真骨頂。iPS細胞を使えば一人の患者さん由来のものを何百枚分のお皿へと簡単にコピーできる。そして、その一つひとつに異なる薬の候補を試すことができる
・個別化医療もiPS細胞で進めたい。「同じ薬でも効く人と効かない人がいる」「人によって副作用が出る」「数年飲まないと分からない」といった問題も、iPS細胞を使うことで、どの患者さんにどのタイプの薬を使えば良いかを予想できる
・CiRAには今は200人以上の教職員がいるが、9割が有期雇用。任期は数年で、昇給も昇任・昇格もない。民間企業を辞めて来てくれる20~30代の方も最初は気持ちで頑張るが、結婚して子どもができたら、やっぱり昇給するシステムがないと無理だ。だから優秀な人材から再び民間へ帰ってしまう
・私たちがいただく資金の大部分は競争的資金と言われるもの。研究者同士が数年ごとに競い合った結果、上位2~3割の人がもらえるお金だ。健全な競争を刺激する意味では大切だけれども、やはり人の安定的雇用はできない。数年単位のプロジェクトが終われば雇用もおしまいとなる
・アメリカのNIH(National Institutes of Health)もお金には大変困っていて、我々と同様、競争的資金が圧倒的に多い。ただ、アメリカでは研究者がきちんと30~40年雇用されている。なぜならファンドレイジングで国以外からお金を集めて雇用するからだ
予告編はこちらから
iPS細胞でどんな治療ができるのか