VCの進化論~日本発の“破壊的”イノベーションを生み出すために~[1]
仮屋薗聡一氏
仮屋薗聡一氏(以下、敬称略):今日は独立系ベンチャーキャピタリストのなかでも最も濃い方々にお集まりいただいた。全員の投資業歴を合計すると、ゆうに50年を超える。これほどのメンバーにお集まりいただいたので、今日は互いにしっかりと本音を引き出し合いたい。テーマは、「グローバルで破壊的なイノベーションのプラットフォームとなるためにベンチャーキャピタル(以下、VC)が何をしていくべきか」といった話になる。まずは簡単な自己紹介を兼ねて、これまでどういった会社をバックアップしてきたか、あるいは今しているかといったお話から伺いたい。投資先のどういったイノベーションに惹かれて投資をしていらっしゃるのだろう。
渡辺洋行氏(以下、敬称略):B Dash VenturesというVCをやっている。設立4年ほどで社歴はまだ短いけれども、現在は2本のファンドを走らせている。基本的にはインターネット分野に特化して投資をしている一方、ステージは割りと幅広い。1号ファンドはどちらかというとシード・アーリーに絞っていたけれども、2号ファンドではシード・アーリーからレーターまで幅広くやっている。
渡辺洋行氏
代表的な投資先というと、最近では昨日上場したGunosy(グノシー)。かなり危なかったけれども株価がついて良かった。こちらには初期段階から応援をさせていただいていて、1号2号両ファンドで投資をしていた。追加投資を含めて何回も投資している。で、あとは、今問題になっているgumi(グミ)とか。こちらは今のファンドというより、私自身がこの数年間でいくつかのファンドに分けて投資をさせていただいていた。
ただ、投資をするにあたって、「イノベーションを」という風に大上段で考えたことは実はあまりない。投資をする側だってまずは儲けないといけないし、受ける側も事業を成功させないといけない。となると、共通解としては成功の件数を増やすことだと思う。それはベンチャーで言えばIPOやM&Aだと思うけれども、金額に関わらず、まずは成功事例を数多くつくるという観点で投資している。
他方、特にファンドとしては注力分野を決めていて、直近2年ぐらいはメディア全般が大きなテーマだった。特にスマートフォンメディアということでGunosyやiemo(イエモ)に投資をしていた。今でこそキュレーションメディアが増えたけれども、2年前はまったく世に出ていない状態。だから「ゲーム以外にスマホが儲かる分野ってあるの?」という命題が、ここ2~3年はあったと思う。ある意味ではそこにチャレンジしていた。「ここは絶対にいける筈だ」と。会場にいらっしゃる方々ともいろいろと話をしたりして、最初にGunosyやiemoで切り込んでいった。そこは非常にうまくいったと思う。
で、去年あたりからここ半年前後で意識しているのが動画になる。「動画の時代だ」と言われるようになって2~3年経った。でも、スマホが普及して皆がその使い方を覚え、デバイスの速度も含めて問題が解消されてきたのは、ここ1~2年の話だと思う。だから実際は来年だと思うけれども、投資家としてはもう去年から今年が「張りどき」という感じだ。それでここ半年でも5~6件、動画関係に投資している。
たとえばLINE前社長の森川亮さんがつくった「C Channel」。実はここ、最初の立ち上げから2人で仕込んでいた。また、スリーミニッツという面白い会社もある。まだメディアではないけれども、YouTuberやインスタグラム等で著名なモデルを集め、プロダクションをつくってこれからメディアに切り込んでいく。あとは動画周辺の広告会社もお手伝いしている感じだ。恐らくこの分野から、次のGunosyのような大きな会社がまた生まれるのだろうと思って日夜頑張っている。
仮屋薗:渡辺さんはスーパー経営者とか、シリアルアントレプレナーと言われる方々とともに企画して立ち上げるケースが多いと感じる。
渡辺:そう思う。仮屋薗さんもそうだと思うけれども、皆、十数年やっているから世代的にも1~2回転している。それで山田進太郎(株式会社メルカリ代表取締役社長)さんのような古株も増えていて、そういう方々が2回目3回目の起業をしたりしている。あと、大企業でエース級だった人とか、ある程度事業をつくってきた人たちが今ベンチャーの世界に流れ込んできている。彼らとがっちり組んでつくっていくことは、成功事例を増やすうえでもすごく効果的だと思う。
松山太河氏
松山太河氏(以下、敬称略):私どもは主にアーリーステージ。創業の初期段階に投資をすることが多いから、かなりの件数になる。地域は80%が日本国内で20%が海外。海外では今のところ東南アジアが中心だ。インドネシア、フィリピン、タイ、あるいはシンガポールといった地域にも初期段階の会社が多く、そういうところに投資をさせてもらっている。で、領域はコンシューマ向けサービス。もう一人のパートナーである衛藤バタラがミクシィのファウンダーだったこともあり、コンシューマ向けサービスに関しては少し知見がある、と。それで、「メルカリ」「ツイキャス」「Gunosy」のような一般の方々が使うサービスへの投資が多い。アジアでも同様だ。
あと、私自身は一応VC業ということだけれども、壇上御三方のようなベテランのベンチャーキャピタリストの方々と比べると、エンジェルに近いのかなと最近は考えている。アメリカでエンジェルとVCの数比較してみると…、統計を見たわけではないけれども、実感として相当たくさんのエンジェルいる。でも、日本の個人はごく一部。それこそ川田さんとか、名前が出てくるのは10~20人だと思う。もちろん、あえて名前を出さず仲の良い後輩の応援ということで投資している経営者の方もいると思う。ただ、アメリカではエンジェルのリストに名前がずらっと載っている。で、そこでオーナーだけでなく幹部クラスも、「これを次の人に」ということで手金をベンチャーに投資する文化が、なんとなくある気がしている。それで、エンジェルの機関化みたいな形で投資がなされているような雰囲気だと思う。
ただ、最近は諸先輩方のアドバイスで「なるほど」と思うこともあって、「フォローオンというのもやったほうがいいか」と(笑)。ケースバイケースだ。メルカリやツイキャスのように、ミーティングに出てコミットしているものに関しては進捗が分かるのでフォローオンもさせてもらっている。
川田尚吾氏
川田尚吾氏(以下、敬称略):個人投資家という極めていかがわしい肩書きだけれども(笑)、2008年頃から投資をはじめた。投資先は、たとえば上場した会社だとフリークアウトやスマートニュースやウォンテッドリー。スマートニュースやウォンテッドリーにはシード段階から入れていて、外部の大きなVCや事業会社が入るまでは外部最大の投資先という形だった。あと、画面のスナップショットを撮る「Gyazo」というサービスをつくったNOTA(ノータ)という会社にも、かなり前から投資している。諸々含めて25~26社に入れている状態だ。あと、グロービスさんとも一緒にやっていて、こちらではスマートニュースのほか、Quipper(クイッパー)や動画の制作プラットフォームのViibar(ビーバー)に入れたりしている。
一方、分野は結構幅広い。ネット系サービス以外にも、私自身は元々大学院で機械工学のドクターを取得していたこともあって、やっぱりテクノロジーが好きだというのがある。それで、シリコンバレーで電池の電極をつくっているZeptor(ゼプター)という会社にも投資している。電池の電極からSNSまで幅広く入れている状態だ。
あと、最近注目している領域というと…、出資先に色をつけると怒られちゃうからあまり言えないけれど(笑)、今日の流れだとAI。スマートニュースがそれだ。あと、enish(エニッシュ)にいた杉山全功さんと松本浩介さん、それとオプトの海老根智仁さんと私という4人のおじさんエンジェル軍団で、「ZenClerk(ゼンクラーク)」というサービスをつくったEmotion Intelligence(エモーションインテリジェンス)という会社にも去年から投資している。これは、ユーザーのビヘイビアを見ながら、購買意欲が高まっているような画面遷移等をしているユーザーをリアルタイムに特定し、その人だけにクーポンを打つというようなサービスだ。
赤浦徹氏
これ、めちゃめちゃパフォーマンスが高く、今はいわゆる大手の自社カタログ通販サイトに軒並み入っている。あまりに良過ぎて、去年、「これ、ダマでいこうよ」という感じになってほとんど何も言わないまま続けていた。昨年末にちょろっと出した程度で、今もまだ露出は少ないけれども、これはすごい。サイトにアクセスしている数百ユーザーのビヘイビアを、裏で、リアルタイムで、ビッグデータ化している。そうしてピンポイントで、「この人は購買意欲が結構高まっているからプロモーションしよう」みたいなことをリアルタイムで行う。スマートニュースも、インターネット上にある山のようなニュースから、注目が高まっているものだけをリアルタイムに取り出して紹介する。
これは人間じゃ不可能だ。今まではそこで人間の、なんというか…、職人技みたいなものに“うまみ”や“ひねり”をまぶしていた。でも、今はデータ量が増え過ぎて人間ができなくなった。それを機械でやるのがAI技術の一つだ。これを導入すると大変なジャンプが起きて、圧倒的に使いやすく、見やすく、ハイパフォーマンスになる。今はこの手の技術が革命を起こしつつあるということで、僕の出資先ではその2社が代表事例だ。こういう領域は非常に面白いと思う。
赤浦徹氏(以下、敬称略):投資歴は結構長く、1991年にジャフコに入って8年半勤務したのち、99年に独立した。そこから16年、11個のファンドで300億弱を出資していて、出資先はたぶん200数十社におよんでいる。で、最近注目している分野はスペースベンチャー。1年前、「月でレースをする」と言う人に出会って、「じゃあ僕は3億出します」と、そのミーティング中にコミットした。ただ、そのときはファンドもまだつくっていなかったから、「ちょっと待ってください。ファンドができたら出します」と。それで昨年10月にまた一つファンドをつくったので、早速そこに出資をさせていただいた。
投資先に対するVCの役割とは?
仮屋薗:続いては投資先に対するVCの役割についてお考えを伺ってみたい。各企業にいろいろな成長の分岐点があったと思うが、「そこで投資家としてこういう役割を果たしたのが良かった」といった認識しているような事例は何かあるだろうか。
渡辺:自己アピールのようで恥ずかしいけれども、いろいろな局面があったと思う。ただ、投資のステージがそれぞれ違っていたりするから、立ち上げ時、成長段階、それと出口の3段階ぐらいに分けて話したほうがいいかなと思う。で、まず立ち上げ期について言うと、シード段階で「こういう会社がやりたい」という相談を受けたりする。逆に「こういう会社をやろうよ」と、こちらが背中を押すケースもあるけれども。
仮屋薗:シリアルアントレプレナーの方々にはどうアプローチするのだろう。
渡辺:ケースバイケースだけれども、やっぱり長い付き合いの方々ばかりなので。そのなかで「新規事業をどうつくるか」「どんな会社をつくりたいか」といった話を普段からしている。その延長線上という要素が一番大きいと思う。特にシリアルアントレプレナーの方々とは数年間に渡ってそういう話をしていることが多いし、その辺はナチュラルだ。そこで各種条件が合ったりすれば選んでいただいたりすることもある。いずれにしても、プロセスというよりは話のなかで「やろう」という方向になるときが多い。そういうときのほうが、なんというか、気合いも必要になるし、思い入れが深い。
たとえばエイリムという会社。「ブレイブフロンティア」というゲームをつくっていて、今は月収20億ほど。gumi上場の原動力になった会社で、ここは社長の早貸久敏さんに相談を受けて投資をした。3年前、当時彼がいた会社がダメになりかかっていたのだけれども、「実は絶対当たるゲームがあるんです」と言う。「でも、VCや知り合いを含めて10社以上回ってぜんぶ断られました」ということで僕に相談があった。で、一応以前から知ってはいたけれども、「ダメなんだろうな、この人」とは思いつつ、「義理もあるし、とりあえず」ということで会ってみた。
それで途中までつくっていたゲームの一部を見たり彼の話を聞いたりしているうち、やっぱりびびっと来るものがある。で、私もその場でコミットして、「これでやろう。こういう条件ならやる」と、合意を取り付けた。正直、ゲームだから当たるかどうか分からない部分もある。でも、そのときは自分なりにイケるという確信があったし、あとは本人の気合い。「ここで断られたら破産しかない」という状況だったから勢いが凄くて、それが背中を押した。それで、あれよあれよと、半年後に月商10億を超えていった。
松山:僕の場合、こちらからアプローチするケースが半分以上。向こうから来ることも多いけれど、実際の投資に到るのは自分から探してきたケースのほうが多い。最近ではDeNAさんに昨年買収された「MERY(メリー)」というサービス。これをつくった中川綾太郎さんは、以前からツイッターでやたらと絡んでくる学生だった。僕の場合は2/3ぐらいが若い人への投資で、1/3ぐらいが(山田)進太郎や赤松(洋介氏:モイ株式会社代表取締役)さんみたいなベテランへの投資。で、若い人は今何かしているわけでもなし、まあ、「その人がその分野にどれほど詳しいか」といった部分は見るけれども、あとはなんだろう…、なんとなくなんですよね(笑)。
仮屋薗:どんな風に若い人の背中を押して起業させているのだろう。
松山:会社をつくること自体はそんなに怖いことじゃないというのがまず一つ。登記自体だって20数万円あればできるし、実際、人をたくさん雇うフェーズでもなければ、自分や共同創業者のリスクぐらいで始められる。で、僕は若い人への初期資本をすぐ振り込む。合意したら3日以内に着金するぐらいのスピード感だ。
仮屋薗:デューデリジェンスも無し?
松山:金額による。たとえば5000万ぐらいなら慎重にやっていく。ただ、とにかくそういう段階にある若い人は悩んでいることも多い。そこであまり時間を取ってしまうと悩み過ぎて潰れちゃうことがある。だから、僕としてはそこであまり悩まず、会社自体はサクっとつくってプロダクトにフォーカスするほうがいいと思っている。プロダクトで悩むのはいいけれども会社をやるかどうかといったことで悩むのは時間の無駄だと思うので。だから、そこら辺はできるだけクイックに対応してあげるようにしている。
もちろん我々も最近は投資契約等を用意するようになったけれども…、(笑)この話をすると皆に引かれるけれども、実は投資契約書を交わすようになったのは最近だ。それまでは普通株の株式申込書だけ。基本的には契約前に振り込んで、株式申込書に捺印して郵送するという(笑)。インスティテューショナルな投資家の方にはドン引きされると思う。ただ、起業家側からするとそれで安心するというか、「本当にすぐ入ってくるんだ」という感じになる。
川田:あまりネタはないけれども(笑)、立ち上げ期だとウォンテッドリー。あるイベントに出ていたとき、仲暁子(同社代表取締役CEO)が僕のところへ来て「出資してくれ」と言ってきた。でも、当時はそのビジネスモデルがまったく気に入らなくて、断った。結局、3回ぐらい断ったのかな。ただ、感覚的に断っても通用しない相手だから、毎回「これこれこういう理由でダメだ」と、理詰めで毎回“激詰め”していた。だからその都度「これでもう来ないだろうな」と思っていると、またやってくる。さすが元外資系証券の営業という感じだった。で、最後に出てきたのが今の事業。その前はクラウドで人をあてがうみたいなモデルだったのだけれども、最後はすごく良くなっていった。それで投資したというのがある。だからディスっていただけで、ドラマはない(笑)。ディスってディスりまくった結果、いいものが出てきたという。
仮屋薗:川田さんのところに通い続けた理由があったのかなと思うけれども。
川田:ほかに出す人がいなかったんじゃないですか?(笑)分からないけど。
赤浦:僕の場合、ほぼすべてのケースで会社設立の前後半年ぐらいから関わらせていただいている。で、どんなエピソードがあったかというと、本会場を見渡すだけでも思い入れを共有させていただいた方が結構いる。深田(浩嗣氏:株式会社ゆめみ代表取締役社長)さんに、宇佐美(峻氏:株式会社mikan代表取締役社長)さんに、尾下(順治氏:アクセルマーク株式会社代表取締役社長)さんに、寺田(親弘氏:Sansan株式会社代表取締役社長)さん…、は今いないか。100社100様だけれども、投資家の役割としてはいつも近くにいて一緒に判断するというか、応援する感じだ。
仮屋薗:立ち上げ段階で何か心掛けていることはあるだろうか。
赤浦:そういえば、質問の答えになっていないけれども、僕もこのあいだまで投資契約を結んでいなかった(笑)。最近は仲間が増えて、「ちゃんとやらなきゃいけない」と言われてやるようになったけれども。で、心掛けていることというと…、尾下さんどうだろう(会場笑)。とにかく、いつも近くで応援する気持ちだけは常に持っている。
仮屋薗:私自身はワークスアプリケーションズの立ち上げ期に投資をさせていただいたことがある。今から20年ほど前の話で、当時、牧野(正幸氏:同社代表取締役最高経営責任者)さんは100社ぐらいに断られていたという。グロービスはそこで最初にコミットをさせていただいた。それで、当時は協調投資で他の証券会社系VCさんも2社出していただいたのだけれども、そこに私も一緒に行って出資してもらえるよう口説いたりして。それで今は、「当時を振り返ると、やっぱり最初にお金をつけてくれたのが良かった」とおっしゃっていただいている。立ち上げ期、経営者に全幅の信頼を置いてお金をコミットすることは、経営者の方々にとって非常に大きいのだと思う。
→VCの進化論~日本発の“破壊的”
※開催日:2015年4月29日