関西・観光客“倍増”計画 ~2020年に向けての挑戦~[3]
星野:さて、ここで少し話題を変えたい。全体会では広域連合というキーワードも提示されていた。僕は、道州制は大事だと思う。これは政治家の方々に頑張ってもらわないといけないけれども、それを民間がサポートするうえで、「広域連合の成功事例をつくりましょう」といったお話があった。実際のところ、観光客にとっては県境もない。どこかの地域に行ったら、その地域の魅力的なところを回りたいと考える。広域で観光を考えることは、須田さんのビジネスでも重要だろうか。
須田:基本的に95%以上のツアーは二つ以上の都道府県をまたぐし、一つの地域にずっと滞在するツアーはない。だから地域の組み合わせはツアーを組成するうえで非常に大事だ。ただ、今は各県が結構ばらばらにプロモーションをしていたりする。たとえば、海外の旅行博覧会にも各県で出展している。で、現地の旅行会社は「新しいツアーを組成したい」ということでそれらの県に情報を求めに行くのだけれど、県が出しているツアーのサンプルは県内しか巡らない。これ、現実的ではない。この辺をどう考えていらっしゃるのかと思う。隣同士で協力しようという感じがしないので。
星野:たとえば京都周辺の観光地が有名になれば、京都が最も得をすると思う。もう一度京都に行こうと考える理由になるので。サンフランシスコも周囲のナパとかヨセミテが有名になって、それでサンフランシスコの観光客も増えている。周辺と協力することはかなり大事だと思うが、この辺はどう考えていけばいいのだろう。
門川:外国の方が、「京都に行ってきた。素晴らしくきれいな湖だった」と。「いや、それ大津や」と(会場笑)。つまり、観光というのは広域で考えないといけない。京都で一番成功した事例はオーストラリアの観光客向けキャンペーンだ。「北海道と京都の舞妓さん」ということで一緒にしたら、ヨーロッパに行っていたスキーのお客さまが北海道でスキーして、そのあと京都で舞妓さんと遊んで帰りはる。時差なし。これが一気に増えた。それで、この10年ほどでオーストラリアからの観光客は10倍になった。だから、広域というのは絶対に大事。私どもはこれからも、たとえば広島と連携したりしていろいろやっていく。もちろん、関西広域連合も大事だ。
ただ、こんなことを言ったら怒られるかもしれないけれど…、大阪も神戸も奈良も滋賀琵琶湖もブランドになるけれども、関西自体をブランドにするのは無理だ。そういうものではない。だから、それぞれが頑張って、そのうえでつながっていく。無理矢理に「関西や」という風にする必要はないと思う。
それともう一つ。我々は大津と奈良と京都で「3都会議や」ということでやっている。かつてJR西日本さんが神戸と大阪と京都で「三都物語」というのをやった。「でも、あそこは都やった?」と思うけれども…、まあ、都であってもなくても構わらないけれども(会場笑)。ただ、我々は奈良と大津で基礎自治体連携をしていく。今は関西広域連合の取り組みが、基礎自治体、あるいは旅館やホテルを含めた事業者との連携になっていない。その点、大津と奈良と京都は観光協会から旅館からホテルから、料理関係からお土産屋さんまで含めて連携をしていく。そういう形にしないといけない。政治のレベルでなく事業者のレベルで連携して、そしてそれを行政が邪魔せず応援するということが大事なんだと思う。
星野:僕らは広域というと関西と考えてしまうが、今の事例は京都とニセコだった。外国人から見たら一つのジャパンというわけだ。ちなみに、海外で日本のプロモーションを見ていると、最も面でまとまった広域プロモーションしているのは九州だと感じる。そこで、予定にはなかったけれども会場にいらしている古川知事に伺ってみたい。九州の広域連合は観光面で佐賀県にプラスの効果をもたらしているのだろうか。
古川康氏(佐賀県知事:以下、敬称略):絶対にプラス。広域については二つある。まず、九州には九州観光推進機構というところがあって、そこに各県がお金を出して、企業もお金を出して、皆で一緒にプロモーションをしている。これ、大変な効果がある。あと、福岡は空港の発着便数が多いけれども県内には観光地があまりないということも影響している。だから、街は楽しいけれども観光で各県に人が流れていく。それで、たくさんの人が来てくれるというのは各県にとってプラスなので。
星野:ただ、九州の場合は九州というブランドを立てようとしている。あれはどこかがリーダーシップをとってやっているのだろうか。
古川:変な話だけれども、福岡自体が観光大県ではないのでうまくいっているのだと思う。そこで福岡県が“兄貴意識”を発揮してくれている感じだ。
星野:では、最後のテーマということで、規制緩和についてもお話ししておきたい。今は海外で特に感じるのだけれども、世界の旅行業界で最大の話題は二つの新しいサービスだ。「Airbnb」と「Uber」。「Airbnb」は自分の家を貸すことのできるサービス。たとえば、たまたま軽井沢の別荘があったとして、「自分は8月の2週間しか使わないから、他の時期は観光客にお貸ししますよ」と。これをオーガナイズしてやってしまっている。これは、日本では法律上、黒に近いグレーだ。
で、「Uber」のほうは白タクを組織化してしまった。僕も登録しているけれど、たとえばサンフランシスコで白タクが向かえに来てくれて、お金は「Uber」側にクレジットカードで払う。で、ドライバーも評価される。これが爆発的に伸びている。これはもうホテル業界もタクシー業界も反対だ。ただ、ユーザーはどんどん増えていて、世界中で大問題になっている。いずれ日本にもやってくると思うが、観光業界の規制緩和に関してはどういった観点で見ておられるだろう。「Airbnb」と「Uber」に対する市長のご見解も併せて伺ってみたい。すでに、京都でも「Airbnb」に登録している家は1000軒ぐらいにのぼっていると思う。こうした新しいサービスについてどうお考えだろう。
門川:規制緩和すべきものについては京都でもずいぶん要望を出している。ただ、「おもてなしの町:京都」ということを考えると、最大のおもてなしは安心・安全だと私は思う。また、観光客にとって良いと同時に、その街にとっても良いということを両立させることで持続可能になるのだとも思う。それで京都はいち早く、たとえば町屋を宿泊施設にしている。で、そのときは旅館業法や消防法で「非常階段や防火設備をきちんと設置しなければいけない」といった話になったけれども、そうすると町屋でなくなってしまう。典型的なのは玄関のカウンターだ。それがないと宿泊施設にならないという規制が40年ほど前にできたためだ。
ただ、そこは京都市独自の条例を設け、町屋のままで宿泊施設となるようにした。もちろん安全等についてはきっちりと守る。また、今度は大阪と京都と兵庫でマンションの一室を、外国人に限って5日以上…、だったかな、貸してもいいということを条例化する。ただ、そこで旅館業法や消防法の適用を外すことに関して国の見解があいまいだ。だから、まじめに旅館をやってはる人が旅館業法と消防法ですごく規制される一方で、片方では規制が骨抜きになる。こうなると、旅館はアウトだ。また、安心・安全も確保できない。外国人の方でならパスポートのコピーを渡さないといけないとか、そういったことがすべてクリアされてしまう。そういう緩和はダメだと思う。だから京都市独自であっても安心・安全は確保できるようにする。また、そういう基準でコンセンサスを得ながら規制を緩和するということはやっていきたい。
星野:僕はこういうサービスは世界のマーケットに支持され始めているので、日本にも入ってこざるを得ないと思っている。で、そこで既存のホテルや旅館を守ろうとするのでなく、むしろ規制緩和をしていく。それによって新しい成長をホテル業界に促すことも大事だと思う。下條さんはどうお考えだろう。たとえば観光業界の規制に関して、「こういった部分がやりにくい」「これを取っ払ってもらうと伸ばしやすくなる」とお感じになっているものがあれば、ぜひお伺いしたい。
下條:少し難しい質問で(笑)。鉄道では安全・安心が最も大切だから、過去に事故が起こったというようなことが必ず規制されている。余程のことでなければ、それを緩和するのは難しい。現在の傾向としてはだんだん厳しくなっていると思う。そのなかでどうやっていくかという観点で、努力していかなければいけない。
星野:最近、バスは特に厳しくなってきた。現在の車両および運転手不足は、この規制強化によってかなり出てしまっているのではないかと僕は思う。
下條:たとえば「一晩で数時間以上運転する場合は二人つけなければいけない」といった規制が加えられてきた。それで、当然ながら今まで一人で済んでいたところが二人必要になっている。そういった変化が安全・安心の観点で出てきている。
星野:もちろん安全・安心は大事になるけれども、僕は日本の観光に自己責任の意識が足りないと思っていた。スキー、ヘリコプター、スカイダイビング等々、いろいろな観光アクティビティにリスクが付いてまわる。そこで、ある程度は自己責任を旅行者に認識してもらう必要があるし、そうでないとやっぱり業者もやっていけない。先ほど伺ったバスの運転手に関する規制なんていうのは、これはもう首都圏から遠い観光地に不利な要素となる。首都圏から遠い観光地に行くのなら時間がかかるわけで、それなら二人乗せなきゃいけない。だから、最近は首都圏に近いところの旅行が増えている。従って、安心・安全を強化し過ぎることのリスクということも私たちはよく考えていかなければいけないと思う。須田さんはこの点、どうお考えだろう。
須田:二つある。まず、インバウンドの業界で何が起きているかというと、たとえばバスツアーだと言われていたのに空港に着いてもバスが来ない。それで、結局は電車で団体様30人が移動するという、外国人観光客にとっては非常に悲しいことが起きている。とにかく、外国人観光客はかなり急激に増えているのだけれども、そこにバスと運転手の供給が追い付いていないためだ。
ただ、実はこれ、バスや運転手の数が足りていないということではなくて、営業権という問題がある。たとえば成田にバスを出したいなら、千葉県に営業所がないとダメ。つまり、実は東北にはバスがいっぱい余っていたりする。運転手さんもいらっしゃる。でも、バスを送れない。今はそこで少しずつ、「インバウンドに限っては」ということで規制が緩和され始めようとしているが。
星野:IR法案も同様だけれども、そうしたバスの規制緩和に関して「インバウンドに限って」となるのも僕は変だと思う。広域で見ればバスもあるし運転手さんもいるわけで、「ここを発着するにはここに事業所がなきゃいけない」なんていう規制は緩和すべきだと思うし、その辺、野党としても積極的に議論していただけないかなと思う。
福山:「千葉市に営業所がなければダメ」というのは合理的ではないし、そこは緩和ができるような領域だと思う。ただ、バス運転手さんに関して言えば、実は1度規制を緩和した経緯がある。で、そのあとに大変な事故が起きた。皆さんもご記憶だと思う。事故が2回ほどたて続けに起きて再び規制強化に振れた。実は、ここが日本社会の問題だ。緩和をしても事故が1度起きたら、「いや、やっぱりダメだ」と言ってすぐに戻す。「Airbnb」と「Uber」の話も同じで、たとえば白タクで規制緩和をして、それで何か事故が起きたら一気に元へ戻ると思う。ここは政治的に大変難しい。
星野:観光が強い国では基本的な考え方が違っていて、業者のリスク度を国や自治体が評価する。まあ、認定制度だ。で、「危ないですよ」「安全ですよ」「危ないけど安いですよ」「安全だけど高いですよ」と言ったりしている。そういう認定制度があると消費者が自分のリスクでサービスを選ぶ。最終的にはそういう風にしないと、日本の価格が高くなってやりたいことができなくなるように思う。
※開催日:2014年10月18日、19日