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人口問題を解決するためにすべきことは?

投稿日:2015/05/27更新日:2019/04/09

選択する未来 ~人口減を食い止め継続的に成長する方法とは~[3]

御立:あと二つほどお伺いしたい。まず、地方の問題や少子化問題等々、いろいろなテーマも絡む人口問題に、現在は真正面から取り組まざるを得ないという雰囲気が珍しく出てきた状態だ。今後、そうした政策を実際に進めていくため、何をしていく必要があるとお考えだろう。

それともう一つ。人口問題を学んで最も衝撃を受けたのは、地球上の人口はかなり確実に減っていくであろうということだった。1950年に30億人、2000年に60億人、そして今は70億。で、国連の最新統計でも2100年前後におよそ110億でピークとなって、以降は減っていくとされている。乳幼児死亡率が下がると、洋の東西や宗教を問わず合計特殊出生率が限りなく2に近づいていく。それで、およそ110億でピークになると言われているわけだ。そのピークが2070年前後になると予測する人もいる。

そうだとすると、日本がこれからやっていくことは今までどの国もやったことのない政策で、そのことがいろいろな面でプラスに働くと感じる。ビジネスになるかどうかは分からないけれども、それを使った社会システムのあり方を皆で考えていく。そこで、「少しずつ定常的に増えていくというのが一番好ましいんだから、そういう社会をつくっていこう」という話になったら、日本社会のあり方が新しいモデルになるかもしれない。いずれにせよ、課題先進国と言っているぐらいなので、世界中が人口減に悩み始める前に何ができるかを徹底的に考えていくというのは価値があると思う。

ただ、そういうなかでも、いまだに「華麗なる衰退」というのを考えている人たちがいる。一人あたりGDPも「失われた20年」のあいだは4万ドルで伸びなかったけれど、かつて同じぐらいだったスイスは7万まで増えた。「だから、人口が減りながらも少しずつイノベーションを起こしていけばいいんじゃないの?」と思っている人が、まだまだ世の中には多い。そこで、日本として、とにかく頑張って1億人ぐらいで定常化するという以外に考えておくべきシナリオは何かあるだろうか。「人口減は仕方がない」という議論になりがちなところに、どういうスタンスで向かっていけばいいのか。ごくごく個人的な意見で結構なので、お一人ずつコメントをいただきたい。

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宮内:まず二問目にお答えすると、私は110億までいかないんじゃないかと思っている。いろいろな推計があるけれども、90億台で減少していくのではないかな、と。そうして、最後はまた70億に戻るといった説もある。そのなかで日本というものを考えると、やはり1億ぐらいはいて、世界に良い影響を与え続けることが我々の務めなのかもしれない。その意味でも、どんどん減っていくのは好ましくない。

で、たとえば、お年寄りの今の生活を見てみると、実は日本の美風と言われる家族制度はすでに崩壊している。最近は老老介護という言葉もあるけれど、すでに面倒を見ることができなくなっているわけだ。それでほとんどの方が家庭から離れて老人介護施設に行く。言うならば家族から放り出されるわけだ。経済的に放り出されるのでなく、「もうこれ以上介護できない」と。もう年寄りの世界では、日本の美風である家族制度もほとんど崩壊していると思う。これ、私の悪い言葉で表現すると、「苦痛の社会化」が行われている。お年寄りを介護することはできないから、どこか入ってもらうのが普通になった。しかし、子どもを育てることについてはまだ美風が残っている。子どもを育てるのは苦痛でなく、快楽ということだ。だから引き続き「家庭」と称する個人で育てていくことによって、「快楽の個人化」は続いていく。

そこを変えていくことが一番大事なのだと思う。きついことばかり言うかも分からないが、25万の人口中絶があったとして、私はこれ、ほとんどが母体保護法の違反だと思う。だから、法律をきっちり適用すれば、そういうことができなくなる。しかし、そうすると、「それじゃあ、できちゃった婚で生まれた子どもがかえって可哀相じゃないか」「母子心中のようなことが起こるよ?」となる。だから、社会で対策を立てる。誤ってできた子どもであっても、新しい命は社会として歓迎するという雰囲気と、それに応じた施設や養子制度をつくりあげていく。それによって失わなくてもいい命を世の中に出すことができる。それは、今でもできるものだ。そのうえで、出生率に関しては、乱暴かも分からないが、先ほど言ったようにお金をつぎ込んでいけばいい。

御立:金銭的インセンティブと、そもそも法律を適用してなかったところの対応で、合わせ技でやるだけでもだいぶ違うんじゃないか、と。

宮内:はい。それで、今のままでも大丈夫だと思う。今はやれることを実行してないのではないかなという気がしてならない。

三村:たとえば「東京集中を止めろ」という話をしていたとき、若い女の子に、「だけど東京のほうが楽しいもんねー」と言われたことがある。事実だと思う。それに、「子ども二人だって大変なのに、これからもう一人なんてとても無理だ」というのも率直なところだ。だから、女性にのみ責任をおっかぶせるような政策は絶対にいけない。日本人男性の1日の家事時間は1時間だけれども、欧米諸国ではそれがおよそ3時間。宮内さんなんて恐らくぜんぜんしていませんよ(会場笑)。私も同じで(笑)。だから、「何人産んでどこで育てるか」いったことは個人の基本的な権利だから、そこに立ち入れないとすれば、その気にさせるような政策にすることが大事なのだと思う。その環境をつくる必要があるし、そのためにもお金が絶対に必要だと思う。

それともう一つ。たとえば私の姪とその子どもが今ロンドンにいて、先般ロンドンへ行ったときに会ってきたのだけれど、そこでつくづく思ったことがある。ロンドンでは地下鉄等に乗ると、皆、子どもを大事にしてくれる。でも、日本では電車に乗ると刺すような視線が浴びせられる。日本も昔はそうじゃなかった。でも、子どもは社会の宝だという意識が相当薄れたのだと思う。逆に「うるさい存在だ」と。学校で騒いだら「騒音だ」と言われたというような話が、東京でもあったと聞いている。

お金を出すことは絶対に必要だし、男性も子育てをしなければいけない。ただ、子どもは社会の宝だという感覚が必要だ。危機意識がもっと高まれば、そういうものが出てくると思う。だから、少子化対策・地方の疲弊に関する議論は、男性の働き方をどう考えるか、そして社会全体で子どもをどれだけ大切にしていくかという、大きな意味での運動論だと思う。たとえば、「第3子に1000万円」といったことも含めて今後は検討が進むと思う。だから、…言いたいのは、「なんとかなるんじゃないだろうか」と。

石黒:今起こっていることは、日本が恐らく世界で最も悪い政策をし続けた結果だと思っている。逆に言えば、そのぶん、伸び代は大きい。やれることは多い筈だ。「選択する未来」委員会では、人口のことだけを話していたわけじゃない。人口問題は諸悪の根源だけれども、それ以外にも人口を増やす努力はできる。たとえば、GDPが人口×一人当たりの生産性であるなら、その生産性を高める努力が必要だ。ただ、たとえばマーケティングやブランディングの生産性を上げる意識が、皆さんにまったくないと言っても過言じゃない。工場の生産性は高いのに、ホワイトカラーの生産性が非常に低い。それは誰がやっているか。ここにいらっしゃる皆さんだ。

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御立:あと、サービス業も。

石黒:そう。だから、まったくやっていないというのは逆に考えれば朗報で、やれることは多いと思う。今は、たとえば生産性のソフト開発している米国企業が日本でセールスをしても、まったくぴんと来ないという。でも、「コストカットだ」と言うとほいほい飛びついてくる。今はそういう社会になっている。でも、そこで皆が1時間あたりの生産性向上を目標に掲げたら、日本のGDPは絶対に上がる。少子化の話も同じ。たとえば私がいたシリコンバレーでは全員が夕方6時までに帰っていた。めちゃめちゃ偉い人も含めて全員6時に帰る。そうして保育所で子どもをピックアップして、帰宅して家でご飯食べる。日本はそういう社会にまったくなっていない。だらだらだらだら…。

だから、一人あたりの付加価値向上に関しても日本はやれていないことが多い。それを一つひとつやっていく必要がある。生産性に関して言えば、たとえば日本の工場ほどQA(Quality Assurance)を一生懸命やっている国はない。これは国民性に関係していると思う。トヨタのかんばん方式だとか、「3歩で歩くところを2歩で歩け」なんていうことができる国民はなかなかいない。それをホワイトカラーのところに持ち込んでいけば、できることは多い筈だ。

御立:非常に大事なご指摘があった。当然、人口に関してもやるべきことはやっていくが、それと併せて、一人あたりGDPに関わる生産性の議論を、特にサービス業やホワイトカラーのところで徹底的にやっていく必要がある、と。

三村:生産性に関しても我々は集中して議論した。ここ10年ほどのあいだに、日本の生産性は各国に比べて大幅に劣後している。実質労働生産性の上昇率は、日本では同0.8%前後。それがずっと続いているわけで、それを今後も放置していたら大変だ。人口減と生産性の低下によって大変劣後する。

生産性の問題となると大きな話になる。宮内さんの一番得意な規制改革というのは生産性を上げる非常に有効な方法だし、それから農業改革もしていかないといけない。医療も介護もすべてそうだ。その意味では、我々には非常に大きな可能性がある。人口が減るのは仕方がない。何をしても、どれだけ減少の幅を抑えられるかという、いわば「程度の問題」だ。しかしその一方で、生産性はこれから集中して引き上げていく必要がある。これは会場におられる方々の商売に直結する話だと思う。生産性を上げるような会社がこれからは儲かる。人手不足がどんどん進むので。

御立:人手不足が大変だということで、海外から日本の工場へラインを見に来た人たちがいたのだけれども、彼らが面白い指摘をした。「コンビニで日本人以外の人を教育してちゃんと使っているじゃないか」と。「そこで金銭的なミスもない。こんなのができるのはすごい」と、アメリカから見に来た人が言っていた。世界中の人口が減り出していったときのため、日本が生産性の高い社会をつくっておけばいいという話も裏側にあるのだと思う。

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※開催日:2015年3月20日~22日

講演者

  • 石黒 不二代

    ネットイヤーグループ株式会社 ファウンダー

    名古屋大学経済学部卒業。米スタンフォード大学MBA。 ブラザー工業、スワロフスキー・ジャパンを経て、シリコンバレーでコンサルティング会社を設立。1999年にネットイヤーグループのMBOに参画し、2000年より代表取締役社長、2021年より取締役チーフエヴァンジェリスト。 ネットイヤーグループは、デジタルマーケティングサービスを法人向けに提供する企業で2008年3月に東証マザーズ上場。2019年3月にNTTデータのTOBによりNTTグループに参画。 現在、内閣府「男女共同参画 計画実行・監視専門調査会」の委員を務める。その他、内閣府「選択する未来」、外務省「日米経済研究会」など多数の公職を歴任。三井物産、Monex, セガサミー、シリコンバレーのVCであるペガサステックなどの外部取締役も務めている。

  • 三村 明夫

    日本商工会議所・東京商工会議所 会頭/新日鐵住金株式会社 名誉会長

    1963年、東京大学経済学部卒業。同年、富士製鐵(株)入社。
    1972年、ハーバード大学大学院 ビジネススクール卒業。
    2003年、新日本製鐵(株)代表取締役社長、2008年、同社代表取締役会長。2012年、新日鐵住金(株)取締役相談役。2013年、同社相談役名誉会長。
    2013年11月より日本商工会議所会頭、東京商工会議所会頭。
    2012年、豪州国立大学 名誉博士(科学)取得

  • 宮内 義彦

    オリックス株式会社 シニア・チェアマン

    1958年3月関西学院大学商学部卒業。1960年8月ワシントン大学経営学部大学院修士課程(MBA)修了。1960年8月日綿實業株式会社(現:双日株式会社)入社。1964年4月オリエント・リース株式会社(現:オリックス株式会社)入社。1970年3月取締役。1980年12月代表取締役社長・グループCEO就任。代表取締役会長・グループCEO、取締役 兼 代表執行役会長・グループCEOを経て、2014年6月より現任。株式会社ACCESS取締役、ドリームインキュベータ取締役を兼務。

モデレーター

  • 御立 尚資

    京都大学経営管理大学院 特別教授

    京都大学文学部米文学科卒。ハーバード大学より経営学修士(MBA with High Distinction, Baker Scholar)を取得。日本航空株式会社を経て、1993年BCG入社。2005年から2015年まで日本代表、2006年から2013年までBCGグローバル経営会議メンバーを務める。
    京都大学経営管理大学院にて特別教授を務めながら、楽天グループ株式会社、DMG森精機株式会社、東京海上ホールディングス株式会社などでの社外取締役、ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン専務理事、大原美術館理事なども務めている。経済同友会副代表幹事(2013-2016)。
    著書に、日経BP『「ミライの兆し」の見つけ方』、東洋経済新報社『戦略「脳」を鍛える~BCG 流戦略発想の技術』、日本経済新聞出版社『経営思考の「補助線」』、日本経済新聞出版社『変化の時代、変わる力』、日本評論社『ビジネスゲームセオリー: 経営戦略をゲーム理論で考える』(共著)、日本経済新聞出版社 『ジオエコノミクスの世紀 G ゼロ後の日本が生き残る道』(共著)などがある。

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