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道州制は進めるべき?乗り越えるべき問題は?

投稿日:2015/05/19更新日:2021/11/30

"関西の時代" 新たな国づくりに向けて果たすべき役割とは[2]

※前回はこちら

秋山:私も国家戦略特区についてはワーキンググループで制度設計から法律の指定、そして第一次選定までやらせていただいている。特区自体は小泉政権でスタートしており、民主党政権でもその制度活用が進められていた。で、現在は再び自民党政権にて、国家戦略特区という形で進められている状態だ。同じ特区でも制度設計が時代に合わなくなってきたりしていたため、今回はそれをリニューアルしたという流れになる。で、今回、そのなかで関西特区が兵庫・大阪・京都を含む広域圏となったことは非常に大きな意味がある。現在のような時代環境では、経済成長につながるインパクトを持たせるため、ベースとなるエリアが大きくなければいけないという考えがあったためだ。(23:16)

それともう一つの背景として、今のお話にもあったコンセッションのような民営化の話もあった。元々は公がやっていたものを民間の力で効率化させたりして、新しい産業を興すことが大きなテーマだった。ただ、今はそれができていない。そのためにいろいろな規制改革が必要になるのだけれど、国の法律だけを変えても物事が動かないことは多い。実務的に条例でなんからの縛りがあったり、もう少し細かいレベルで運用ががんじがらめになっていたりすることが多いためだ。そこで一つの突破口となるのが道州制のような形であり、そして縦の構造をなるべくシンプルにしていくといった施策になるのではないかと思う。御二方は、道州制のようなキーワードも踏まえつつ、何が関西のパワーアップにつながるとお考えだろう。

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西村:これは道州制とも関係する話だけれど、1995年から1997年、私は経産省から石川県庁に出向して商工課長というのを2年間やっていた。そのとき、「金沢港を国際化しよう」と、地元の人たちも知事もおっしゃっていたことがある。で、私もそうだと思って国交省から一部補助金ももらい、水深12メーターまで掘った。18メーターにはおよばないが、それである程度大きなタンカーは入れるようになったわけだ。

で、金沢港を国際化するために一番手っ取り早かったのは一番近い釜山と結ぶこと。それで航路を開いて誘致を行ったのだけれど、同じことを富山港も新潟港も福井港でもしていた。北陸の港は国から補助金をもらって12メートルまで掘って、皆が釜山と結んでいた(会場笑)。自分のためにと思っていたわけだけれど、国全体で考えると釜山港の国際ハブ化を手伝っていた(会場笑)。そういう変なことが起こる。当時の我々に戦略性がなく、国の選択と集中ができていなかった。そこで道州というものがあれば、北陸で一つ、たとえば新潟港をハブにしてロシアや中国や韓国と結ぶという戦略もあったと思う。だから私は道州制に大賛成だ。ぜひ進めるべきだと思う。

ただ、今は政治的にやるべきことが多い。もちろん道州制も早くやりたいし、やったらいいと思う。ただ、大変な労力がかかる。知事さんたちはだいたい反対だ。自分たちのものがなくなってしまうという気持ちもあるのだと思う。各省庁も同じ。まあ、各省庁の反対は政治家がきちんとやればできないことはないが、とにかく大変な労力がかかる。それを今行う余裕があるかという点だけが、今は若干心配だ。ただ、やるのなら早く宣言すべきだと思う。15年後なら15年後、20年後なら20年後、「道州制をスタートします」と。それでもう制度設計を始めるほうがいいのではないかと思う。

そうすれば、まあ、今の知事で15年後も知事を続けている方はいない、ですよね(会場笑)。年齢的に何期もやらないと思うので、まずは宣言すること。で、それに向けて着実に工程をつくって進めたら、あまり大きな労力をかけずにできると思う。宣言する段階できちんと政治的に意思決定ができれば進むのではないか。そこはできれば超党派でやっていきたい。そこで対立すると大変な労力を取られるので。

それともう一つ。石川にいた当時、輪島塗や加賀友禅や九谷焼といった石川の伝統をすべてデジタル化してアーカイブをつくろうとしたことがある。それを全国や世界へ発信していこうと考えた。そこで1億の予算を要求したら、当時の財政課長に「西村さんは地方財政のことを知らないんじゃないですか?」と言われた。「1億あれば10億円の箱物が建つんです」と。しかも、それはすべて地方債でやって、あとで国の交付税もある。「だから1億あれば10億円のものが建つ。知事選にはこっちのほうがいいんです。デジタルアーカイブなんて県民は誰も見ないですよ」と言われた。

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申し上げたいのは、予算制度のことだ。地方財政を考えてみると、地方債を発行して、そして交付税でまた国から来るわけで、地元に負担をほとんどかけずに箱物をつくることのできる仕組みになっている。これはだいぶ改善されてきているが、基本的な発想はあまり変わっていない。そのぶん、目に見えないものやソフトになかなかお金がつきにくいし、国からのサポートもない。全体の枠組みがそれほど変わっておらず、いつまで経っても箱物主義で目に見えるものでやろう、と。しかし、そうした発想を変えなくてはいけない。時代は大きく変わっているので。

日本の一番弱いところは、そうした知識資本と言われるようなブランドやITソフトの蓄積だ。それがアメリカやドイツに比べてすごく劣っている。そこでもっと重点的に、民間企業としても投資が行われるようにしていきたい。政府としてもそのインセンティブが付くよう、地方財政の仕組みを含めて変えていかなければいけないと思う。

関西には京都と奈良があり、大阪も神戸も滋賀も世界で知られている。琵琶湖は日本一の湖だし、知名度は高い。また、先ほど申し上げたような進取の気風に富む企業が集積しているし、本来はもっと関西のブランド価値を高めることができる筈だ。それを外国企業の立地にも生かせる。便利さだけなら東京かもしれないが、今はITでいろいろとカバーできるし、関空にはまだかなりの枠がある。世界中に飛べるし、港もある。だから関西に立地してもらうためにブランド価値を高める必要がある。

そこで二つ申し上げたい。まず、関西の企業は東京本社をつくらないようにして欲しい。多くの関西企業がどんどん東京に本社をつくっている。私の地元でそうだ。神戸製鋼や川崎重工は神戸の企業でありながら、東京本社と半分ぐらいになっている。コマツの坂根(正弘氏:同社特別顧問)さんがよくおっしゃっているが、コマツは渉外機能だけ東京に残し、多くの本社機能を石川県小松市に移した。それで人件費も下がり、社内の出生率は上がった。また、最新鋭の工場をつくったことで、エネルギーコストを含めて相当コストダウンをされた。「なんの不便もない」と。そういうやり方があるのだと思う。今まで、関西の企業はだいたいそうやって必要なところだけを東京に置いてきた。ここはインセンティブ付けが必要なのかもしれないが、これだけITも進んでいるわけだし、一部は東京に置くとしても、本社はぜひ関西に置き続けて欲しい。

それと、ベンチャーがもっと関西から生まれてしかるべきだ。大学発ベンチャーは阪大からも京大からも出ているし、理研からも出るだろう。大学や学生の数は、関西は日本一だ。東京圏よりも多い。京都を中心に大学が一杯あるわけで、そうした環境をもう少しイノベーションがつなげられないかと思う。企業人を含め、「新しいことをやってやろう」と考える関西人は多いと思う。学生のなかからそういうベンチャーが出てくるような環境をつくりたい。ただ、知財に通じた国際弁護士や弁理士あるいは公認会計士といった、企業を支える層が東京に比べると薄い。そこをもう少し強化できたらいろいろなことができると思う。

前原:道州制は大事だけれども、実際、政治的なハードルは相当に高いと思う。そこで、まずは今関西でやっておられるような広域連合でしっかりやっていくことになるのだと思う。奈良県だけはまだ入っていただけないようだけれども、広域連合として互いに協力していくことで、どういったメリットが生まれるかという点で実績を積んでいく。それで、「やっぱりまとまったほうがいいね」というものを見せていかないと、一般有権者からすると道州制と言われてもなかなか分からない。それが必要だと分かっているのはごく一部だ。それ以外の人々にもゴールを示しながら、広域連合や広域的取り組みのメリットを見せていくことが大事になる。

たとえば、私は京都出身ということもあって観光というものにずっとこだわってきた。おかげさまで京都には現在、年間5000万人の方々が国内外からいらっしゃる。特に最近は海外からいらっしゃる方が大変増えてきた。これは大変結構なことだ。ただ…、少し生意気に聞こえるかもしれないが、京都は世界でもブランドがある一方、ほかの地域はどうか。奈良はあるかもしれないし、大阪と神戸も、ある程度はあるかもしれない。ただ、ブランド力という点で滋賀や和歌山はどうか。琵琶湖に限らず滋賀にも良いところは多いし、和歌山にも熊野古道はじめ素晴らしい場所が数多くある。

だから、たとえば京都へ来られた方に、プラス1またはプラス2ということで関西のどこかに案内していく。そんなコーディネーションを考えると、やはり広域連合のなかで互いに良い点を出し合うのが良いのではないか。今はSNS上で日本のことが口コミで広がり、それで海外の方が来られるというケースが大変多い。そういう意味でも連携して発信力を高める必要があると思う。とにかく、観光というのは最も分かりやすく、広域連合の必要性を国民の皆さまにご理解いただけるテーマではないか。

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あと、これは西村さんも私も心していかなければいかんことだけれど、特区がずっと続くのは、実はおかしい。「特別区」なわけでしょ? そこでうまく行ったものを普遍化するために特区としたのに、それがずっと続くのはおかしい。中国では1978年の年末から経済特区ができて、それが現在の経済発展につながった。特別区で成功事例を出し、そのブレークスルーを全体に広げて普遍化していったわけだ。では、特区で成功して全体に広がった事例が日本にどれほどあるか。民主党政権のときもあったし、自民党さんの政権でもあるだろうから、やはりそれをもう少し普遍化する必要がある。そのうえで、「特区が続くのは実はおかしいことなんだ」と、しっかりと国民の皆さんに説明していく。さきがけとしての特区の重要性を説いていくことも大事だと思う。

※[3]はこちら

※開催日:2014年10月18日、19日

講演者

  • 西村 康稔

    衆議院議員

    1962年10月15日生まれ、54歳。神戸大学附属明石中学校、灘高校、東京大学法学部卒業。通産省入省後、米国メリーランド大学院で国際政治経済を学び修士。1999年、通産省環境立地局調査官を最後に退官。2003年衆議院議員総選挙において初当選。2009年、自民党総裁選立候補。2012年に4期目の当選を果たす。この間、外務大臣政務官、党政務調査会副会長、党改革実行本部副本部長、影の内閣経済産業大臣などを務めるとともに、議員立法で「海洋基本法」「宇宙基本法」等を制定。現在、自民党において「日本・AU(アフリカ連合)友好議員連盟」事務局長などを務めるほか、超党派の「新世紀の安全保障を確立する議員の会」事務局長、「日本・インド友好議員連盟」事務局長等、要職も多数。著書に、『繁栄か衰退か 岐路に立つ日本』(プレジデント社)、『新(ネオ)ハイブリッド国家 日本の活路』(スターツ出版)、『リスクを取る人・取らない人』(PHP研究所)、『国家の生命線』(PHP研究所)などがある。
  • 前原 誠司

    衆議院議員

    1962年、京都市左京区に生まれる。京都大学法学部に入学、恩師である故・高坂正堯教授のもとで国際政治を専攻。大学卒業後、1987年に財団法人松下政経塾 第8期生として入塾。1991年、京都府議会議員選挙に左京区から出馬、28歳で初当選を果たす。1993年第40回衆議院議員総選挙における初当選以降、現在まで7期連続当選中。民主党代表を経験、民主党政権期に国土交通大臣、外務大臣、国家戦略担当大臣等を歴任。現在は、民主党行財政改革総合調査会長を務める。専門分野は「外交・防衛」「徹底した行政改革」「住民参加型分権社会」。座右の銘は「至誠 天命に生きる」。趣味はSLの写真撮影。
  • 山田 啓二

    京都産業大学 理事・法学部法政策学科教授 前京都府知事

    昭和29年4月5日、兵庫県洲本市生まれ。東京大学法学部卒業後、昭和52年自治省(現総務省)に入省。和歌山県地方課長、国際観光振興会サンフランシスコ観光宣伝事務所次長、高知県財政課長等で内外の地方自治を現場で体得。自治省行政局行政課課長補佐、同理事官で地方分権の制度を担当。その後、内閣法制局第一部参事官では、政府の憲法解釈の答弁づくりや法律解釈にあたり、平成11年京都府総務部長として京都府に赴任。京都府副知事を経て、平成14年4月から京都府知事。現在4期目。全国知事会会長。

モデレーター

  • 秋山 咲恵

    株式会社サキコーポレーション ファウンダー

    1994年株式会社サキコーポレーション創業。デジタル画像処理技術を応用した産業用自動検査ロボットメーカーとして世界市場でブランド確立。2018年社長退任。 ソニー株式会社、日本郵政株式会社、オリックス株式会社、三菱商事株式会社社外取締役。国立大学法人奈良女子大学工学部客員教授(起業論)

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