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医療特区が無事機能するために必要なことは?

投稿日:2015/05/17更新日:2021/11/30

国家戦略特区“医療イノベーション”が拓く未来[4]

※前回はこちら

澤:では、Q&Aに入りたい。

会場(御立尚資氏:ボストン・コンサルティング・グループ日本代表):経済同友会の医療・福祉改革委員会委員長として、日本版NIHなどの議論をさせていただいた立場から申し上げたい。今のお話は大変面白いから絶対にやったほうがいいと思うが、病院側の規模を考える必要もある。ピッツバーグの売上は1兆円だ。基本的には数千億の規模がないと臨床も数が集まらない。データを数千億の規模で集めて、そのなかで誰が何をやるかを考えるべきだと思う。ピッツバーグでもピッツバーグ大学病院が1兆円をやっているのではない。ピッツバーグが使える保険で、州内のほとんどの診療所まで含めてバーチャル1兆円の規模を達成している。だから関西で特区をやるのなら、中核病院とその周辺部をネットワーク化して症例数を集め、イノベーションに使えるデータを集めて規模を実現しないと絶対にだめだと思う。

そのときにもう一つ、先ほどの原さんのお話に刺激されたので二つ目の提言をしたい。日本でその規模を実現できていない理由は、常に学閥だ。どこの医局もそう。阪大は阪大の先生が言うことは聞くけれど、他から来た先生の言うことは聞かない。おかしなことがたくさん起きている。阪大も京大それぞれやっていただいたらいいわけだけれども、そこで新興国と組んでバーチャルに規模を追求してはどうか。たとえば阪大がインドや中国と組む。で、そこの人たちも同じような仕組みで、場合によっては保険も提供して、その地域でも役立つようにする。それで結果として100万人に医療を提供する、5000億の頂点に立つ阪大を実現する。アジアでそういうことをしていけば産業になると思う。そうでないと、失礼ながら「ニッチですごい大学は出たけど、産業にはならないね。これを特区から全国に広げる話にはならないね」という風になるリスクを強く感じる。ぜひ、規模の議論をしていただきたいと感じた。

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澤:素晴らしいご提案をいただいた。やっぱり関西そして日本全体につながらなければいけないと思う。ばらばらに行くのでなく、せめて西と東で二つほどのネットワークをつくるのがいいと思う。東のほうは医療特区のトーンがだいぶ低いけれども、少なくとも関西ではネットワーク化したい。以前、鈴木寛(東京大学公共政策大学院教授/慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授)さんは、「こうなったら“京大阪大ホールディングス”をつくったらどうや」とおっしゃっていた。経営面は別としても、それ以外の部分で横串に京都・大阪・神戸をつながる大きな仕組みのなかに、皆に入ってもらわないといけない。アジア諸国も日本に期待している部分があると僕は思うので、ぜひその辺の考えは皆でブラッシュアップしていきたいと思う。

会場(後藤玄利氏:ケンコーコム株式会社代表取締役社長):混合診療のお話があったが、「解禁」という表現はなさらなかった。それは、そう言い切れないからだろうか。あるいは、単なる言葉の違いなのだろうか。また、フェーズIIIの迅速化というお話があったけれども、規制緩和合戦になると新興国のほうが強いと感じる。そこで日本はどのように競争力を保っていくべきだとお考えだろう。それと最後に一つ。今日はお医者さんが忙しいとのお話もあったが、たとえば医師会のようなところが医者の権利についていろいろ主張していていることも影響しているように感じる。それで、たとえば「針を使えるのは医者だけにすべきだ」と言って、自分たちで忙しくしているようにも思う(会場笑)。たとえば大学病院の勤務医と開業医でも違うと思うが、そういったこともあると思っていた。その辺についてはどうお考えだろう。

浅野:保険外併用療養は、仮称ではあるけれども正式には「患者申出療養」という名前らしい(会場笑)。それで国側は予防線を張っているようだ。ただ、のべつまくなしという話ではないらしい。たとえば、海外で先行的に売られているものを日本に持ってきて使う等々、とにかくすべてではないようだ。ただ、ある意味、事実上の混合診療と言い切っていいと思う。ただし、どこでもやれるわけではない。臨床研究中核病院にはそのインセンティブが与えられるけれど、その他の病院は、それをやるために臨床研究中核病院とネットワークを組まなきゃいけないという規制が設けられようとしている。そうしたネットワークのなかでセントラルIRB(臨床試験審査委員会)という機能を持って、臨床研究も一つハブ機能を持たせようとしている。

従って、規模は日本のなかではまだまだかもしれないが、今までのようにお山の大将で終わることはないと思う。連携して大規模施設で治験ができる可能性は、制度的にはできた。ただ、そのスピードをさらに上げるのなら、やはりマスがあるアジアと組んでいかないといけない。ただし、臨床研究中核病院に求められることの一つということで、「ICH-GCPをきちんと引っ張りなさい」というのがある。それができる病院にしかやらないと言われているので、大学側の使命としてそれをやらなきゃいけない。それができれば海外とダイレクトにつながる可能性は大きく高まると思う。

原:今浅野先生が言われたことを前提にしつつ、ビジネスでは途上国との関係をつくっていく必要がある。たとえば、来週は60名ほど企業側の人間が…、閣僚も何人か一緒に来ていただくが、イスラム57カ国の人々と再生医療を含めて医療についていろいろと議論する予定だ。たとえば澤先生の新しい医療については、ヨーロッパやアメリカとはまた違うルールが必要になる。「そこで新しいルールメイキングを日本1+イスラム57でやりましょう」と。それで58カ国。国連193カ国のうちの58だから結構なインパクトだ。同じような目的で、昨年の5月末にはアフリカ各国の大統領にも日本へ来ていただいて協議をしたし、その前には太平洋島嶼国14カ国とも協議をした。そういう布石を順番に打っている。

あと、規模に関して言うと、いきなり大きくするのは難しい。従って、再生医療のように日本が強み持つ分野で小さくスタートする。で、小さな池のなかの大きな蛙が池を大きくするというやり方になると思う。大きな池でいきなり大きなものをつくると沈む恐れがあるし、すでに大きな蛙がたくさんいるところでは競争が大変だ。グローバル競争が下手な日本人向けの作戦を考えたい。それで再生医療に特化して、浅野先生の言われたような制度論のなかで特に途上国と連携していく。あと、規制緩和については途上国が早いかもしれないが、やっぱり核となる技術が一番の中心になるので、その意味では日本が中心になれると思う。

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澤:「医者もきちんとしろ」というお話だったけれども(笑)、何を隠そう私も大阪府医師会副会長という立場がある。自身の意志に反してそういうポジションについているが(笑)、おっしゃる通り、医師会は医者の原理主義の塊だ。医者にもいろいろいるわけで、医師会にもイノベーティブな人はいる。ただ、組織を結集するため原理主義に走っているのは事実だと思う。私も医師会を内側から見たり外側から見たりしているけれど、まだあまり理解できていない(笑)。ただ、それ以外の勤務医はすごく働いているのも事実だ。…宋さんが何か言いたいようだけれども(笑)。

会場(宋美玄氏:産婦人科医・性科学者):私は大阪大学のことを日本で最も信用している。東京では一つも信頼できる病院がなかったので阪大で出産したほどだ。だから今日のお話を聞いて大きな希望を感じたが、私自身は阪大病院の裏側も聞いているので大変な懸念材料もある。この点は澤先生も同じだと思う。私は研修医のときと5年目ぐらいの頃に阪大で働いていたが、あちらは完全に滅私奉公による人海戦術だ(会場笑)。で、ほとんど給料も出ないのにたくさん当直をさせられたりする。また、医局様のご意向もあり、「それ、医者がやらなくてもいいやん」という業務まですべて引き受けたりする。でも、大学だから研究と教育もしなければいけないし、臨床だけにまい進できない。医者として論文を書かないと認められない面もあるので、研究をしながら、それでも研究だとほとんど給料が出ないからアルバイトで臨床もたくさんしないとお金にならない、と。結局、特区で患者さんが外国からたくさんやってくると言っても、「そこにいる人たちがフル稼働するだけですよね」という(会場笑)、そんな懸念がある。だから、滅私奉公ではない形でもきちんと人材が集まってくる仕組みを同時に考え欲しい。その辺はどのようにお考えだろう。

澤:その仕組みを変えなあかんというのは原点だと思う。ちなみに、宋さんは私の医局ではない(会場笑)。うちの医局はそれほど原理主義ではない(笑)。

原:その点について言うと、外国の方々には外国の方々向けの治療費を取ればいいと思う。彼らは民間の保険を持っているから。それで儲けたお金を使って、たとえば医療以外にいろいろなことをやっている方々にも…。

会場(続き):きちんと人件費を還元して欲しいなと…。

原:十分可能だと思う。利益は十分に出る。だから日本国民と外国の方々で…、外国の方々でも先進国と途上国では価格差を付けたらいい。

澤:時間が迫ってきた。今日の議論を聞いていただいて、特区をどうすべきか、少しお分かりいただけたと思う。ただ、特区で何かするのなら、やはりそこに夢があって、それをどのように実現するかという考え方をすべきだと思う。宋さんのお話にあったようなボトルネックを解消するレベルに留まらず、さらに高いレベルの仕組みをつくるなかで、雇用も含めていろいろなことを考えていかないといけない。まずは大きな夢として、医療特区で日本経済に大きなインパクトを与え、さらには(世界に先進医療を提供することで)日本が尊敬される国になる。まずはそれが一番の目標になると思う。そうした夢を持った若い世代が数多く集まって、病院のなかで医師や看護師以外でも活躍できるような、そんな場ができたらと思う。それは僕の夢だけれども、それが特区によってもたらされる最終的な姿ではないか。最後は私の自己主張的にまとめさせていただいたけれども、今日は壇上御三方とも非常に良いディスカッションができたと思っている。本当にありがとうございました(会場拍手)。

※開催日:2014年10月18日、19日

講演者

  • 浅野 武夫

    大阪大学大学院医学系研究科 寄付講座准教授

    オリンパス株式会社にて研究開発、経営戦略策定等企画業務などを経て、2011年に内閣官房に設置された「医療イノベーション推進室」に出向。2012年からは大阪大学大学院医学系研究科・医療経済産業政策学寄附講座准教授。内閣官房 健康・医療戦略室 企画官を兼務。中央大学大学院理工学研究科博士前期課程修了(工学修士)、東京女子医科大学大学院医学研究科修了(博士(医学))。
  • 原 丈人

    DEFTA PARTNERS グループ会長 大阪大学大学院 医学系研究科 招聘教授

    1952年大阪生まれ。 欧米を拠点にする日本人実業家。慶應義塾大学法学部を卒業後、中央アメリカの考古学研究に従事する。考古学資金づくりのために、79年スタンフォード大学経営学大学院へ入学、国連フェローを経て、81年、同大学工学部大学院修了(工学修士)。在学中に光ファイバー事業を起業して成功。84年デフタ・パート ナーズを創業、主に情報通信技術分野でベンチャー企業への出資と経営に携わり、1990年代にマイクロソフトと覇を競ったボーランド、ピクチャーテル、SCO、ユニファイ、トレイデックスなど十数社を会長、社外取締役として成功に導いた。米大手VCのアクセル・ パートナーズのパートナーも兼務し90年代にかけてのシリコンバレーを代 表するベンチャーキャピタリストの一人となった。2000年からは、欧米を中心にオープラス・セミコンダクター(2005年インテルと合併)や、フォーティネット(2009年IPO)の社外取締役などとして、ポスト・コンピュータ分野での事業経営を行う。また、DEFTA率いる 企業群が開発した技術を使い、発展途上国の情報インフラを低コストで整備、その事業収益を途上国支援に当てるビジネスモデルを開発した。公職として、国連政府間機関特命全権大使、米国共和党ビジネス・アドバイザ リー・カウンシル名誉共同議長、ザンビア大統領顧問、日本では首相諮問機関の政府税制調査会特別委員、財務省参与などを歴任。著書に、『誰かを犠牲にする経済は、もういらない』(ウェッジ)、『21世紀の国富論』(平凡社)、『新しい資本主義』(PHP新書)がある。
  • 山田 邦雄

    ロート製薬株式会社 会長

    昭和54年3月 東京大学理学部物理学科卒業 昭和55年4月 ロート製薬株式会社入社。営業現場を経て、商品開発・マーケティング等に携わる。 平成2年 慶應義塾ビジネスMBA 平成3年6月 取締役就任、営業全般の指揮を取る。専務、副社長時代は海外への展開をはかり、中国、ベトナム等に進出。 平成11年6月 代表取締役社長就任。新規分野であった化粧品ビジネスへの大幅シフトをすすめ、主力事業に転換。米国メンソレータム社会長兼務。 平成21年6月 10年任期の予定通り53才で社長交代、代表取締役会長 兼 CEO就任。 現在に至る。

モデレーター

  • 澤 芳樹

    大阪大学大学院医学系研究科 特任教授・名誉教授/大阪警察病院 院長

    昭和55年大阪大学医学部卒業。医学博士。平成元年、フンボルト財団奨学生としてドイツMax-Planck研究所心臓生理学部門、心臓外科部門に留学。その後大阪大学医学部第一外科講師、助教授等を経て平成18年心臓血管外科教授。大阪大学医学部附属病院ハートセンターセンター長、大阪大学臨床医工学融合教育研究センターセンター長、京都大学iPS細胞研究センター客員教授等を併任。2021年3月に心臓血管外科教授を退官。現在は、大阪警察病院 院長、大阪大学名誉教授。

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