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ベンチャー活性の肝、日本型エコシステムはできるのか?

投稿日:2015/05/13更新日:2019/04/09

地域発ベンチャー大国・日本をつくる[3]

高野:では、続いて「日本型エコシステムができるか」という議論もしたい。これについては私もいろいろと分析したが、「シリコンバレー型はダメだけれども日本型はあるだろう」との結論に至った。ベンチャーのエコシステムには「ヒト」と「チエ」と「カネ」があればいい。で、日本は23年連続対外純資産No.1の国だ。つまり世界で一番お金持ち。「ヒト」も結構いる。特に大企業には多い。「チエ」もある。日本は世界で最も特許の数が多い国だ。ただ、それでもベンチャーのエコシステムが醸成されている感じが今はしない。この辺の現状や背景についてご意見をいただきたい。(27:08)

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岩田:ロックオンという会社の企業理念は「Impact On The World」。日本発の世界企業をつくりたいという一心で創業した。で、事業モデルには特にこだわっていない。今たまたまアドテクやその界隈でやっているのは、それが伸びているから。これから20~30年、あるいは50年や100年かかるかもしれないけれど、日本発の世界企業をつくりたいと思っている。

ただ、もちろん今はシリコンバレーがメッカだ。ルネサンスの時代に皆がフィレンツェへ行ったのと同様に、我々もシリコンバレーに行った。で、そこで圧倒的に負けているポイントが三つあると感じた。今はそれを消化しないといけないと思っている。先ほどお話ししたお金の話に加えて、まずは外部のグローバル人材という点。日本では人材がかなり限られている。東京の会社が福岡で採用するとか、オフショアをやるといった話もあるけれど、とにかく人の確保が重要なポイントになる。我々はその宿題への対応ということで、ベトナムのホーチミンにおける事業を加速している。

それともう一つ大事な点は多様性。会場の皆さまはほとんどが日本の方だと思うけれども、シリコンバレーでこうしたセッションを行うと半分が外国人になる。アメリカ人は半分前後で、残り半分は日本人や中国人やインド人等々。そうした人々が製品企画を行って、そのなかから出てくるものがグローバル規格になって世界で売れる。たとえば日本人だけで京都で詰めて考えても、それがそのまま世界で売れるわけじゃないということは、残念ながらあるのかなと思う。いずれにせよ、グローバルな事業を目指すにあたってその三つをいかに消化するかを考えて、2年前に日本へ帰ってきた。今はそれを推進しているという状態だ。

谷井:東京のベンチャーと比較すると、役所・行政、それから大手企業との関係がすごく希薄だと思う。シリコンバレーと比べてどうかというのはよく分からないが。で、これは歴史的な背景があるのかもしれない。たとえば淀屋橋という橋は淀屋さんが架けたとか、大阪の八百夜橋はほぼ民間が架けたと言われる。歴史的にも、恐らく民間と役所・行政の接点が強くなかったんじゃないかという気がする。

で、エコシステムという観点で考えてみると…、今はシリコンバレーと対比しながら話をしているけれども、時代や業界によっては日本独自のエコシステムがあると僕は思っている。たとえば最近では単品通販のビジネスが九州ですごく伸びている。皆さん同じようなモデルで、それぞれビジネスを伸ばしている。これ、ある種のエコシステムがそこに動いているという気がしている。

あるいは京都。世界に冠たる研究開発型のメーカーが京都にはたくさんあって、昨日のセッションでも「京都から出て行った上場企業社は一社もない」とのお話があった。これも強固なエコシステムがあったからじゃないかと想像している。京都の代々続く会社さんが、新しく出てきた若手製造ベンチャーにいろいろとノウハウや資金面で支援をして、それでベンチャーが立ち上がっていったのではないか。だからこそ皆さん京都を離れないというのもあるのだと思う。関西という少し広めのエリアで見ても同様だ。そうした観点で見れば関西型のエコシステムというのもいろいろな形で考えられるんじゃないかと思う。

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吉川:高野さんが言われた通り、大企業の役割は大きいと思う。私自身も企業内ベンチャー等をやっていたときは大企業に助けてもらうことが多かった。やはり大企業さんの販売力や信用力がベンチャーにはめちゃくちゃ効く。それで売上の目処が立てばVCさんもお金を貸しやすくなる。最初に売上が立つかどうかはすごく重要。売上のない段階でお金を入れるのはVCさんとしてもリスクが高い。そこで大企業さんの「一緒にやっています」という一言があれば大きく変わる。(33:01)

で、我々大阪イノベーションハブ(以下、OIH)としても、大企業さんとベンチャーとの出会いをアレンジするため、いろいろとイベントを行ったりしている。たとえば「ハッカソン」と言われるイベント。ある種のワークショップで、企業や立場を乗り越えて、共通のお題に向けてアウトプットを出していく。先般はそれでNTT西日本さんがスポンサーとなってくださった。NTT西日本さんは、「ここで生まれた商品やサービスやアイディアについて、1位から3位までは真剣に事業化を考えます」と、大変明確にコミットしてくれている。そこに至るまで1年半ほどかかったけれども、審査委員長には同社新規事業部の幹部の方に来ていただいた。とにかくNTT西日本さんが丸ごと協力してくれたのが嬉しかった。同社スタッフの方々も相当苦労しておられた。それで今は3事業を選んでいただき、そこにNTT社員さんが入っている状態だ。

それで今はNTTさん好みにナビゲートしてくれている。そういう作業を通じてNTTさんの社員もモチベートされたりして、双方向で効果があると感じている。ただ、今はNTTさん以外の大企業さんになかなか来てもらっていないので、大企業さんには「ベンチャーと出会ってください」というお願いをしている。そうすればベンチャーも大企業の社員さんも活気付く。これは朝日新聞の方も言っていた。朝日新聞さんでもハッカソンに社員が入って、それで現場がすごく熱気を帯びてモチベーションも上がったそうだ。会社の外に出たら社員さんも活性化するということを改めて感じる。そういったイベントを行っているので、大企業の方々にはぜひ声掛けていただきたい。

高野:大企業とベンチャーのコラボは大変重要なテーマだと思う。結局、GDPの大半は大企業によるものだ。そうした大企業の人材やアイディア、あるいはお金が、ベンチャーのマインドと一緒になったら日本は絶対に強くなると思う。

吉川:あと、私も大企業に務めていたから分かるのだけれど、やはり自由裁量権が大きな人間ほど成長する。その裁量権を与えるためにも新規事業をさせるというのはいい教育になると思う。ただ、「失われた20年」のあいだに多くのことが短期の効率重視という話になっていった。かつての同僚を見ていても可哀相な人が多い。「え、こんなに高学歴のヒトがこんな仕事ですか?」みたいな。そういう状態は本人にとっても会社や社会にとってもアンハッピーだ。大企業は優秀なリソースを抱えているんだから、それを社会へ還元しないとこの国はダメになってしまうと思う。

→地域発ベンチャー大国・日本をつくる[4]は5/14公開予定

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