キャンペーン終了まで

割引情報をチェック!

アジアの競合に技術をキャッチアップされない方法は?

投稿日:2015/04/29更新日:2019/04/09

日本の技術力が世界を席巻する日[3]

佐藤:一方で、たとえば電機業界では技術が流出してアジアにキャッチアップされた面がある。世界を席巻し続けていくため、どのように技術をキープしていけばよいのだろう。あるいは、それまでと違うことをやっていくべきなのだろうか。(29:14)

鈴木:製品を販売した瞬間から技術流出は始まっていて、それを止めることはできない。分解され、分析され、研究される。また、お客さま自身が流出の手助けをしているようなところもある。レシピに対する好奇心が大変旺盛で、「教えなさい」とおっしゃるわけだ。監査という名の下、徹底的に教えるよう強いられる。それをいかに誤魔化して、隠して、機嫌を損ねず教えないようにするかという工夫はしている。ただ、いずれにしても販売した時点で分解・分析されるということはある。

だから、流出したとしても真似されないようなものづくりをする必要がある。仮に材料やレシピが解明されても、「あそこの良品率には辿り着けない」と。それは工場における創意工夫といった言い方もできるし、まあ、シークレットという言い方になるのかもしれないけれど。たとえば、「日写と同じ製造機械を使っています」という風なことを言って回っているメーカーさんがいる。で、それは迷惑だなと感じつつも「仕方がないな」と思ったりするわけだけれど、仮に我々と同じ機械を買って来ても我々と同じようなものはつくれない。その辺になるのかなと思う。

佐藤:それはノウハウ?

3b33e2778ea07251fe81cde406fb6558

鈴木:そう。工程の管理能力も含めて。逆に、私どもはカタログで買えるような機械を極力使わず、自社設計をするようにしている。

佐藤:それが日本の強みでもある、と。

鈴木:私の経験から言うとそういうことがあるんじゃないかなと思う。

佐藤:村田さんのところも真似されることはあると思う。

村田:どんどん真似される。カタログで間違っているところまで同じみたいな(会場笑)。取扱説明書のスペルミスが同じだったり(笑)。ただ、面白いことがある。メカニカルなものは…、ソフトでブラックボックス化といったことはよく言われるけれど、それとて限界はある。ただ、たとえばうちの場合、先ほどお話しした「空気で糸を紡ぐ」というのはノズルで旋回流をつくるのだけれど、そのノズルはセラミック製だ。とある国内の協力会社につくってもらっているのだけれど、これ、図面と違う。図面に載っていないような公差がある。私もときどき挨拶にいくほど親しくて付き合いの長いところだからやってくれるのだけれど、要は図面通りにつくるとなかなかできないわけだ。一方で、スイスの競争相手はそのノズルを金属加工でつくっている。削り出しだ。うちはセラミック。シュリンケージを考えないといけないので難しいからだ。

旋回流というのは音速だ。それを小さなノズル内で起こしている。ただ、内部で糸がどういったふるまいをするかは、自分たちもいろいろ解析しているものの、20年間やっていてもまだ分からない。解析が難しい。欧米の怖いところは、あるいは中国もそうだと思うけれど、その辺を徹底的に分析することだ。そして、可視化して数値化して、理論で攻めてくるところは怖いなと思う。ただ、今のところは図面にない要素があって、図面と同じものをつくろうとしてもできない。そういう、比較的アナログな要素が、一見デジタルに見えるメカニカルなものづくりのなかにもある。

佐藤:それは試行錯誤しながらつくっていく?

村田:そう、試行錯誤。それで後付けする。サイエンスとインダストリーにはそういう面が結構ある。今の旋回流は分析すれば学会で発表できるような結果になるかもしれない。うちもヨーロッパもまだ研究しているけれども、いずれにせよ、後付けでやってみたらできたということが実はある。

佐藤:試行錯誤を繰り返す粘り強さも日本の強みだとお感じだろうか。

村田:ちょっと三六協定を改めてもらって(会場笑)。たとえば研究所に泊り込んで徹底的にやるような人のなかには、管理職になかなか上げられない若い人もいる。従って、その辺はやっぱり専門職というか、スペシャルなホワイトカラーとして扱っていただけるような環境にして欲しい。今は工学部の卒業生にインド人や中国人がものすごく増えていて、続々と入ってきている。でも、日本の若い人は少ない。だから今いる人材をどのように教育し、モチベートしていくかが大変重要だ。そう考えると、あまりにも過酷な労働規制はマイナスになるんじゃないかという気もする。

佐藤:青木さんの会社は匠の技を持つような職人さんも多いと思う。(34:29)

青木:最後は手でやるから。ただ、そこに行き着くまでお金がかかる。人への投資ということだと思う。あと、先ほどお話に出ていた技術流出に感じても同じだけれど、僕としては「それでええんか?」と心配していることがある。僕は、今の日本に一番必要なのは軍事産業だと思っている。軍事産業を、なんというか…、今の日本でもう少しいい位置づけにしないといけない。その技術に国の投資がかなり入るから。

以前広島へ行ったとき、タクシーの運転手さんとこういう話になった。「景気、どないやねん?」「あかんなあ。今日は広島何しに来たん?」「大和ミュージアムを観に来てん」なんて話をしていたら、その運転手さんが「造船の技術は大和から来たんやで?」と言っていた。戦後の日本が造船で世界一になったのは、戦前にとてつもないお金をかけて大和のような船をつくったからだ。飛行機でもゼロ戦があったけれど、そっちはアメリカに全部取られた。それで7年間、飛行機つくったらあかんということになって、それでパーだ。技術が途切れた。でも、造船は違う。日本の製造業はよくやっていると僕は思う。だから、そこで加えて…、国を頼れというわけじゃないけれど、日本の技術を冠たるものにするのなら、やっぱり軍事産業は最新かつマル秘の技術だ。

村田:人の命がかかっているから。

4152 2

青木:そう。絶対に大事やと思う。皆さんがどう思っているかを逆に聞きたい。

村田:インターネットも元々は「ARPANET」という軍事技術だったことはよく知られている。実際、そういう風にアメリカやロシアや中国といった大国が巨大な予算でやっていることを日本はまだしていない。要するに、そういう技術をパクればいいと思う。インターネットは元々軍事技術だったけれど、現在はまったく違う方向に進んでいる。ロボットも無人化技術もそうだ。あれを民間利用や平和利用に転用するものづくりの技術を日本人は持っていると思う。だから、技術流出を防ぐと同時に、他所から取ってくるということも大事ではないか。昔の日本人はもっと、あられもなく謙虚に真似をしていた。今は逆で、少し格好をつけ過ぎているところがあるのかなと思う。

鈴木:優秀な技術は世界で幅広く求められているし、今後の世界はやはり技術移転というところに話が向かうと思う。で、そうした移転をしやすい技術か否かが、その技術が幅広く使われるかどうかを考えるうえで一つの判断基準になる。なにかこう、匠の技が満載されているような技術は、「良い技術というのは分かるけれども、あまり使いたくない」といったことをお客さんには言われる。日本でつくったあとに中国へ持っていってつくって、次はメキシコに持っていってまたつくるという風に、「技術移転しやすいものでないと使いたくないんだ」と。これ、我々当事者は自分たちで保持したいわけだから、移転云々と言われるのは面白くないけれども。

あるいは…、こういう言い方が良いのかどうか分からないが、内部統制やコンプライアンスといったことで企業による仕事の進め方や業務の設計が画一化されるような時代になっていくと思う。ただ、私どもは今年、とある中小企業を買収した。で、その会社の中身を改めて拝見してみると、我々のようなサイズの会社がもう忘れそうになっているようなものがある。匠の技とか、それこそ家にも帰らず研究開発に没頭する姿勢とか、材料まで自分でいじくって良いものをつくろうとする文化とか、そういうものを持っている会社だった。その意味では、たまにはキャラクターがまるっきり異なる会社を取り込んで、社内を目覚めさせるということも必要なのかなと思う。

講演者

  • 青木 豊彦

    株式会社アオキ取締役会長

    1945年大阪府生まれ。高校卒業後父が経営する青木鉄工所に入社、95年株式会社アオキ社長に就任。 中小企業が当初約8000社集まるモノづくりの町、東大阪で「メイド・イン・東大阪」の人工衛星を打ち上げようと計画をスタートさせた中心者。2002年「東大阪宇宙関連開発研究会」(東大阪商工会議所)会長、「東大阪宇宙開発協同組合」を設立、理事長に就任、“まいど1号”の打上げをめざす。 農業用機械の部品製造からロボット部品や航空機部品への進出を果たした「モノづくりにはプライドを持たなければならない」との思いは、同社を世界的航空機メーカーであるボーイング社の認定工場に押し上げた。航空宇宙産業を東大阪の地場産業にしたいというのが夢。
  • 鈴木 順也

    日本写真印刷株式会社代表取締役社長 兼 最高経営責任者

    慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程修了、第一勧業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)勤務、1998年に日本写真印刷株式会社入社、2007年に代表取締役社長就任。
  • 村田 大介

    村田機械株式会社 代表取締役社長

    1961年京都府生まれ。1984年一橋大学経済学部卒業。京セラ株式会社に3年間勤務後、1987年村田機械株式会社に入社。1990年スタンフォード大学経営学修士課程修了。 情報機器事業部長、ムラテック販売株式会社販売本部長、繊維機械事業部長、物流システム事業部長を経て、2003年同社代表取締役社長に就任、現在に至る。 日本繊維機械協会会長、日本物流システム機器協会副会長、ビジネス機械・情報システム産業協会監事、SEMI役員。

モデレーター

  • 佐藤 文昭

    株式会社産業創成アドバイザリー 代表取締役

    1981年に日本ビクター株式会社に入社、7年間に渡りビデオの研究開発に従事。その後1988年に証券アナリストに転じ、日本勧業角丸証券、スミスバーニー証券を経て、1998年から9年間、ドイツ証券で調査本部長兼電機全般および半導体アナリストとして業界や企業分析を担当。その間、1999年にITバブル崩壊を予想し、2000年から6年間連続で日経新聞の総合アナリスト・ランキングで1位にランクされた。2007年にメリルリンチ日本証券に移籍。副会長兼投資銀行部門マネージング・ディレクターとして電機・半導体・通信業界の業界再編やM&A関連業務に従事。著書に「日本の電機産業 再編へのシナリオ」(かんき出版)がある。

サブスクリプション

学ぶ習慣が、
あなたを強くする

スキマ時間を使った動画学習で、効率的に仕事スキルをアップデート。

17,800本以上の
ビジネス動画が見放題

7日間の無料体験へ もっと詳細を見る

※ 期間内に自動更新を停止いただければ
料金は一切かかりません

利用者の97%以上から
好評価をいただきました

スマホを眺める5分
学びの時間に。

まずは7日間無料
体験してみよう!!

7日間の無料体験へ もっと詳細を見る

※ 期間内に自動更新を停止いただければ
料金は一切かかりません

新着動画

10分以内の動画コース

再生回数の多い動画コース

コメントの多い動画コース