グローバル・ニッチビジネスの戦略[5]
安渕:では、フロアからご質問等を受けたい。(01:01:12)
会場(御立尚資氏:株式会社ボストン・コンサルティング・グループ日本代表):面白いビジネスをやっておられる企業も、グローバル展開に伴って「会社化」というか、管理システムを含めて「きっちりやらないかん」という誘惑に迫られてくることがないかなと思う。我々がお付き合いする企業さんを見ても、ユニークさが強みである企業が、ガバナンスという名の下、「おもろいこと」を押さえつけるようになってしまいがちだ。そのあたり、「徹底的にそうならんところまで頑張りたいんや」となるのか、「それならもう規模を追ったりせえへんわ」となるのか。サイズに加えて地域的に拡大した際、どのように面白さとかユニークさを残し、官僚化を防ごうとお考えだろうか。
更家:ある程度は官僚化というか、数字の面を管理しないとガバナンスを効かせることができなくなる。今まで、それでプロトコルを決めて「これをやれよ」と言っても、嫌がってやらないようなところがあった。稟議書を書くとか、資金繰りに関して問題が起きるまで報告しないとか。そこは、ある程度やらなければいけないと思う。ただ、それでワイルドなところがなくなるのもいかんと思うから、そこはバランスを考えなければいけない。まあ、会社全体ではいろいろなことをしているので、社員にもいろいろな体験を比較的自由にさせている。野生生物や環境の保護活動をさせるとか、あるいは「手洗いダンスを世界中でつくろう」とか。イベント等も行いながら自由な雰囲気をつくっていくことは大事だと思う。答えになっていないけれど、いずれにせよ僕らのレベルでは管理をもう少しきちんとやらなければガバナンスを効かせられないと思う。
会場(続き):「きっちりやる部分と面白い部分は別にやっていこう」と。
更屋:そういうことになる。
辻本:上場企業だからコンプライアンスは重要だ。労基の問題もあるし、やらなければいけないことは多い。社外役員の方はゲームをご存じないけれど、これも仕方がない(会場笑)。そのうえで、あとは開発投資金額の承認プロセスというか、枠組みをしっかり守ってもらったうえで、「中身はちゃんとつくってね」と。それは僕らが評価するわけじゃない。評価するのはユーザーだし、品質管理部という、ユーザーに近いアルバイトの人たちにも客観的にクオリティをチェックしてもらっている。それでダメなら延期してもらうこともある。そこで僕らサイドが忘れてはいけないことは、開発というのはどうしても保守的になってしまうという点だ。だから、ある一定のレベルのなったとき、「新しいものをやってくれ」と言っている。予算組みも踏まえ、中期計画のなかでも「毎年1本ぐらい新しいものをやってくれ」というようなことを経営側が開発側に提示していく。そうした環境づくりが重要だと思う。
渡部:国も企業も成長・成熟の過程は同じだと思う。企業も創業者の思いから始まって、成長してくると創業者が好き勝手にやり始めて、それで「むちゃくちゃになるから」ということでルールができる。で、そのルールでがんじがらめになって創業者が言い出した企業価値の面白みがなくなってきて、それが衰退しかけてから今度は「理念や」と。人治から法治になって、最後は心の統治みたいなところに行くのだと思う。ただ、サービス産業の商材はまさにその心に価値を置くものが多い。だから、成長・成熟の過程でつくるルールと我々の商材はマッチしていると思う。「あ、それできっと、『ハッピーだな』と感じる人が増えると思うから、ルールをつくろう」みたいな。今、当社はそういうフェーズに入り始めている。その意味では商材がラッキーだったなと思う。
会場(高野真氏:『Forbes JAPAN』編集長):東京にいると、「この人はどこの出身だろう」といったことをほとんど意識しない。京都には上の世代の方々とも強いつながりがあるとのお話だったが、そうした環境だと、逆に外から入ってくるのが難しくなるのではないかなと感じた。それ自体は京都にとって良くないことだという気もするが、その辺について率直な意見をお伺いしたい。
渡部:そうなんです(会場笑)。京都以外の人は入りにくい。「一見さんお断り」という言葉がある通りで、「知らん人は入れてあげまへん」と言うお店もある。ただ、京都以外の方が京都にいないかというと、実は経済界で活躍している方は京都以外の方が多い。ワコール創業者の塚本幸一さんは元々滋賀の方だし、もっと言えば京セラの稲盛和夫さんは鹿児島の方だった。でも、京都に家も本社も置かれた。
要は、京都の人は「けったいなやつ」が好きなのだと思う。外から来た人でも秀でた個性を発揮している人は、「お前、ちょっとおもろい。来い」となる。逆に、なにかこう、取り得のない人は基本的に入ってこれない(会場笑)。「口は出すけど金は出さん」という人が多いけれど、要はそれほど、「金も出してへんのにようそこまで言うな」という人が京都には多い(会場笑)。ただ、その人の価値観のなかで、なにかちょっと突き抜けている部分を持っている。「ぜんぶ聞き入れるわけにいかへんけど、逆におもろいと思うことを言えへんかったら京都に入れへん」というのもあるのだと思う。
安渕:褒めていらっしゃるのかどうか(会場笑)、しばらく考えてみないと理解できないけれど(笑)。大きく言うと、「面白ければいい」という感じなのだと思う。
会場(木村尚敬氏:株式会社経営共創基盤パートナー取締役マネージングディレクター):グローバル展開とは自社固有の縦糸と世界標準の横糸を紡ぎ合わせることだと思っている。で、縦糸である皆さま固有の強みはよく分かった。一方、グローバルに競合と戦っていくため、グローバル市場に合わせるため、「ここは世界標準に合わせなきゃ」とお考えになっている点があれば、ぜひ教えていただきたい。
渡部:また京都ネタになるけれども(会場笑)、1200年のあいだ都だった京都は、時の強い勢力におもねりながら殺されんように生きてきた。そのときどきの環境下できちんと生き残ってきたことが、たぶん京都人のDNAなのだと思う。だから何百年と続く企業も多い。同じように、世界へ出て行ったときも、「アジャストするべきところはここやな」と思ったら、なんやかんや言いつつもたぶん世界標準に合わせている。だから、それぞれの市場で世界No.1の企業が多いのだと思う。
辻本:ゲーム業界は地域ごとに多様化しているから一概に語れなくなってきた。ただ、グローバルでどうするかを考えてみると、大人を対象にしたゲームコンテンツが強いのだろうなと思う。かつての子どもが大人になってくれば、ゲームコンテンツの映画化をはじめとしたIP活用もしやすくなってくる。アジアでも展開しやすくなると思う。従って、将来グローバルに普及する、ハイエンドなゲームコンテンツをつくるという意味でも大人を対象にしたゲームということになると思う。
更家:世界標準という言葉があるけれども、具体的にはアメリカとヨーロッパ、そしてアジアのなかでも特にマーケットが大きい中国に足を突っ込んで、それぞれポジショニングをしていく発想が必要だと思う。一概に世界標準と言ってもなかなか統一的なものはないように思うので。
安渕:今日は関西ならではのキーワードが数多く出てきた。「儲かってなんぼ」「なにかっこつけてんねん」等々、ちょっと専門用語で恐縮だけれど(会場笑)。あるいは「おもろいやつ」とか。そもそも関西は「おもろいか、おもろないか」という価値観に分かれていて、「おもろない」ほうに入ってしまうと最悪という話になってしまう。
辻本:負け組みになる。
安渕:完全にそうなる。「どうすればおもろくなるか」が重要だ。それを感じてくれる方々がお客さんになっているのだと思うし、それがグローバルに広がっているのが面白いと感じた。また、「自国での成功なくしてグローバル化なし」といったお話も聞けた。