関西発・世界に突き抜けるビジネスの方法論[2]
堀:では、続いて堀場さん。今は京都でなく大津にお住まいと伺っているが。(15:06)
堀場厚氏
堀場厚氏(以下、敬称略):そうなんです。この会場から私の家が見える。京都市民の顔をしながら大津にきっちり税金を納めている(会場笑)。さて、別セッションでもこのお話をしていた方がいらしたけれど、まず大阪の人は大阪をもって「関西」と言う。たとえば大阪の同友会も大阪同友会と言わず関西同友会と言う。「関西の発展を」と言って、「大阪駅北口の梅田北ヤードをどうするか」と(会場笑)。「そう言われて僕たちはどうしたらいいのかな」と。それで、私が京都同友会の代表幹事をしているときも、奈良と京都と神戸の同友会は仲が良かった(会場笑)。
そういうバックグラウンドが少しあって、関西の議論は本当に面白いというか、難しいというか。それでいて仲は決して悪くない。ただ、30分の距離でこれほど大きな文化の違いがある。女性の言葉も神戸と大阪と京都でまったく違うから、すぐにどちらの出身か分かる。東京だと周囲の県にいても「私、東京」と言う人が多いけれど、よくよく聞いてみると栃木とか千葉だったりする(会場笑)。京都の人間は「私、大阪です」「私、神戸です」と、絶対に言わない。神戸の人が「私、大阪です」とも言わない。
まあ、大津に移ってきたときは少し問題があった。私はこちらに来ておよそ25年になるけれど、最初の3~4年は正直に言うと車も京都ナンバーだった。「どちらの方ですか?」と聞かれると、「京都です」と(会場笑)。だから滋賀と京都は一緒になったほうがいいと私は思う。変な話だけれど、大津の食事やお菓子の味は京都とまったく一緒だ。どちらがメインという話ではなくカルチャーが一緒。それなのに県境という線を引いてしまったことに私は憤慨している(会場笑)。だから、ここに住んでいる。
少し話が逸れたけれども、なぜ、堀場製作所が京都に本社を置いているのか。もっと言うと、ほとんどの上場企業が東京に本社を移した大阪に対し、なぜ京都の上場企業は1社も移っていないのか。言うまでもないが、ひとつの大きな理由は京都市民140万人のうち10%が学生だから。我々は理系の優秀な学生を必要としている。その点、京都には京大を中心に、立命館、同志社、龍谷、京都産業と、理系の学生が非常に多い。東京に本社を置いていて、今雇用している優秀な人材を採用できていたかというと、やはり難しい。それに、京都駅でタクシーをつかまえて「堀場製作所」と言っていただくと100%うちの本社に着く。東京で同じことを言ったらどんな悲劇が起こるか(会場笑)。ということで、我々のメリットはすごく大きいということだ。
また、我々はたとえば分析計をつくっているけれども、検収というものがある。製品が完成すると、それがちゃんと動くかどうか、お客さまが工場まで調べに来られる。それで、昔は我々のところに来る注文が東京の拠点に対する注文よりも多かった。製品は同じでも、我々の製品を買いに来ればと金曜日にチェックしたあと土日に京都で遊べる。こういうメリットがあった(会場笑)。当然、食べものもおいしい。皆さん、京都といえば和の京料理と思っておられる。でも、イタリア料理でもフランス料理でも中華料理でも、東京には決して負けない。本場で学んできた新進系のシェフたちが京都で店を開いている。とにかく、仕事以外にもあるわけだ。私の家系は特にそうだけれど、「オンとオフの両方が大事や」と。仕事も一生懸命するけれど、遊びも大事。遊びのなかに、そうした食文化もある。
もう少し深夜に渡っての遊びについても、祇園がある。それで私は…、こんな話をしていいのかどうか(会場笑)、とにかく、京都ではこういう話がすべてできる。銀座のクラブがなぜあんなに高いのか(会場笑)。京都には祇園の花街があって、これが権威だ。数百年続いていて相場が存在する。フィックスドプライス(会場笑)。それで祇園の相場が最上位にある。そうなると東京にあるような普通のお店はそれ以上のチャージができない。ということは、健全なんだ。それに、長年のいろいろな間違いを経て、間違いが起こらないようにルールというかしきたりも存在している。
そういうオンとオフがあるから、私なんて東京に本社があったら生きがいがなくなると思う(会場笑)。私どもの会社の社是は「おもしろおかしく」。英語では‘Joy & Fun’。で、ここで大事なことがある。東京の会社はそういうことが好きだけれども、一般的にはグローバル化というと「英語で会議をします」といった話になる。それがメディアに載るわけだ。京都でそんなことを言ったら、「バカとちゃうか」と(会場笑)。英語を使わなければいけない事実はあるけれど、グローバル化とは英語で喋ることではない。自分の文化、すなわち日本人としての文化と誇りを持って初めてグローバル化できる。
今、堀場製作所にいる従業員6000人のうち、6割にあたる3600人は外国人だ。フランス人が1000人、ドイツ人が800人、アメリカ人が800人、あるいは中国人が300人いる。彼らをマネージできる理由は、私や幹部たちが日本人として、もう少しはっきり言うと京都人として、自信を持って対応しているから。だから、彼らも自分の人生をかけて我々を信頼してくれるし、外資系の会社で一生懸命頑張る。でも、そこで彼らに迎合してしまったらまったくマネージができなくなる。つまり、舐められる。
企業文化がグローバル化のなかでなぜ大事になるのか。我々は17~18年前、フランスの企業を2社ほど買収したのだけれど、なぜ、フランス人をマネージできたのか。私はアメリカにいた時期も少しあったけれども、アメリカの友人は「フランス人は絶対にマネージできない」と言っていた。けれども、私どもは彼らを20年近くマネージしているし、それは技術で抑えているわけでもない。だいたいにおいて、メーカーが海外に出て行くときは非常に強い本社の技術力で現地の会社をねじ伏せることが多い。マネージはそのあとで付いてくる。
でも、我々にはそれまで可視光線領域の賢い技術がなく、買収した2社はその技術を持っていた。つまり我々は技術力がゼロなんだ。なぜそれで買収できたのか。そのフランス企業2社とドイツ企業1社に関して言うと、彼らのほうから傘下に入りたいと言ってくれた。「おもしろおかしく」という企業文化があったからだ。では、なぜ「おもしろおかしく」なのか。森さんのところもそうだと思うけれど、我々は開発型の企業で、そういう企業にはオリジナリティがないといけない。人の物真似をしてつくったものはダメ。そして、自分の仕事が面白くなければオリジナリティのある仕事はできない。やらされ感だけではダメだ。だから‘Joy and Fun’だ、と。買収した仏独の企業は、「そういう企業文化で仕事をすれば我々も国際的な戦いができる」ということで来てくれた。
異文化を理解しながらマネージするという点において、日本人は特別優れていると思う。私は日本人がそういう面でもっと自信を持つべきだと思っている。メディアの方は「日本がダメだ」と言い過ぎる。ほかの国に行ったらもっとダメだから(会場笑)。「格差社会が」とか「生活に困窮している人が」とか言うけれど、インドに1週間行けばそんなことは口が裂けても言えなくなる。アメリカでさえ行くところにいけば厳しい社会がある。もっと見てから言って欲しい。日本にいながら海外を見てきたかのように報道したり語ったりする人があまりにも大きな顔をしていると、私は思う。京都でそんなことをしていたら「あほちゃうか」と(会場笑)。四条通を歩けなくなる(会場笑:拍手)。
堀:京都の企業が伝統文化のなかで革新を繰り返しているのはなぜだろう。
堀場:やっぱり人の物真似をしたくないという思いがある。京都には島津製作所もあるけれど、一般の方からすれば2社には似たようなところがある。たしかに10%ぐらいは競合していて、場所も結構近いから昔は石をほうり合っていた(会場笑)。ただ、島津さんがやっていることを我々がすることはほとんどない。島津さんも同じ。たとえば我々は以前から放射線モニタをつくっていた。それなりの値段になる。それを、あの事故を受けて福島のほうに寄付した。すると、それが高性能だという話になって後々注文をいただいた。ただ、島津さんにもその技術はあったけれど、彼らはそのコピー製品をつくらなかった。東京の会社は3~4社、我々の機器と比較して1/5ほどの値段になるコピー製品をつくっていた。「それを買って売ろうかな」と思ったけれども(会場笑)。で、結果的にはそうした会社が在庫の山をつくった一方、我々の、非常に高価だけれども精度の高い機器はデファクトスタンダードとして今も活躍している。
→関西発・世界に突き抜けるビジネスの方法論[3]は4/15公開予定