岩瀬:ではQ&Aに移りたい。(36:14)
会場(筑波大学・菅野):生きていくうえでこれだけは譲れないといった信念があれば教えていただきたい。(36:47)
会場(佐藤):「よく分からないけど面白そうな、言語化・映像化できないものをサポートしたい」とのお話があった。あるいは地域のサポートに関しても、ベネッセさんは、特に被災地では前例のないことにチャレンジしているケースが多い。そうしたものを見抜く力とはどういった力になるのだろう。(37:10)
会場(愛知大学・伊藤):新しいサービスをつくって広げるためには人脈が必要だと思っている。そうした人脈の広げ方を教えて欲しい。(38:17)
会場(横浜国立大学・藤永):ビジネスモデルを海外へ輸出する場合、商習慣、文化、インフラ等、ボトルネックになるものは多いと思う。そこで1番大きなネックになるのはどんな要素だとお考えだろう。解決方法も併せて教えていただきたい。(38:43)
会場(琉球大学・国仲):1言で、「リーダーとはこうだ。こういうことをする人間だ」というものがあれば、ぜひ教えていただきたい。(39:17)
福武:「面白そうなものをどうやって選ぶか」。難しいけれども、まあ、皆がぱっと分かるものって、たいしたことないじゃないですか。1番大事なことは好奇心を持つことだと思う。もちろん、会社で好奇心を育成するのはなかなか難しい。どれだけ育成しようとしても興味を持たない人は持たないから。でも、好奇心を持たなければ課題の設定もできない。そこで僕は心掛けていることがある。大事なのは、なんというか…、茂木さん的に言うとドーパミン、僕的に言うと「心がぶるぶるっと震えるもの」がどれだけあるか。好奇心って、錆びついていく。放っておくと目の輝きがなくなって、常識という錆がどんどんついてくる。だから好奇心を維持して、向上させていくためにはめちゃくちゃ努力しなきゃいけない。僕の場合、意図的に非日常空間に自分を入れ込むということをしている。大抵の場合、「ぶるぶる」っと来るのは日常空間に非日常な要素が入ってきたときだ。それをつくらなきゃいけないんだと思う。だから、僕は好きじゃないことや興味のないことにチャレンジしたりしている。(39:51)
たとえば最近はファッション。僕はファッションに興味がない。でも、「おしゃれにちょっと気をつけようかな」って。それでファッションジャーナリストの生駒芳子さんに、「僕、おしゃれになりたいんです。教えてください」と。すると、「英明君にはこれがいいわよ」と言われた靴が、なにかこう…、とげとげの靴だった。今履いている靴じゃないですよ?(会場笑)。「いや、こんなの履きこなせないよ」って。クリスチャン・ルブタン…でしたっけ? そのとげとげの靴が20万する。そこで「ええ!?」と思うけれど、「まあ、そういう世界があるんだな」というのはそこに入ってみないと分からないわけで。(41:29)
とにかく、そういう「ええ!?」とか「うぅ…」とかいう状態を意図的につくっていかないといけない。いくらでもあると思う。皆さんだって、「やりたいことはありますか?」と聞かれるとあまり出てこないと思うけれど、「興味のないことはありますか?」と聞かれたらたくさん出てくると思う。そういうものを今は順番に潰している。これは水野さんがお詳しいかもしれないけれど、「72の法則」というものがある。たとえば1000万預金して6%の複利で運用すると12年後は倍の2000万になる。感覚的にはそれと同じだ。自分の時間の6%はそれに使うというルールを、僕は自分で設定している。それが複利になっていったらいいなと(笑)。成果が出るかどうか分からないけど、6%なら1日1時間程度。その時間はまったく興味のないことに触れてみようと思っている。(42:03)
程:今まで、日本の商品やサービスはコストパフォーマンスが高いとされていた。対価と比べて品質もコストも非常に高いモデルだったわけだ。でも、今はどこに何を輸出するかによって変わってくる。新興国と成熟した国では価値観もまったく違うし、今はそれで新興国に輸出するものに関して価格が合わないという話になることもあるわけだ。ごく一部の層に受けるけれど、マスには届かない。成熟した国の、いわゆる高次な自己実現欲に対して提供されるような商品・サービスと、新興国向けの必需品ではまったく違う戦略が必要になる。だから分けて考えたほうがいいと思う。(43:14)
あと、人脈について言うと、その通りだと思う。僕は今社会人33年目になるけれど、まさか、そのあいだずっと今の会社にいるとは思わなかった。ひとつ言えるのは、時間はすごく短いということ。僕は「3年ルール」というものを自分に設定している。今の仕事に価値があるか、外か社内に面白いものがあるか、そして社外での値札というか自分のマーケットプライスはいくらか。この3点を基準に、3年前より価値が下がっていたら、「ここで今やっていることはダメだ」ということになる。人脈についても、僕の場合は時間をすごく大事にしている。(44:19)
ただ、僕はアメリカの大学にいたから日本では人脈が狭かった。だから会社に入った当初は合コンに出まくっていた(会場笑)。アメリカの大学には皆が集まるパーティーがあるけれど、たとえば5対5でやるような形式だった合コンはなかったから。で、そこから異業種交流会といったことを始めていったりして。それでも当時はあまりつながらなかったけれども、10数年ほど経つとあちこちでその頃の人脈がつながり始めていった。「この人とあの人が知り合いだった」とか。そういう時間を大事にしていろいろなところに出ていると、少しずつ、いろいろなところにつながっていくと思う。あと、仕事場での人脈づくりということで言うと、僕はクライアントに行ったとき、むしろ「あ、この人は僕のことが嫌いなんだな」と思えるような人のところにいつも行っている。そうすると新しい人脈ができるから。ピンと来ないかもしれないけれど(笑)、いろいろなところに顔を出すと、いつかはすべてつながってくる。僕は小さい頃、すごく恥ずかしがり屋で出不精だった。でも、そういう子どもでもいろいろなネットワークができたので。(45:04)
岩瀬:僕も人脈についてひとつお話ししたい。どれだけ多くの仲間がいるかというのは、本当に、社会人としてすべてじゃないかと僕は思っている。何をするにしても、それを教えてくれたり紹介してくれたり、あるいは何もなくてもただ支えてくれるような仲間がどれだけいるか。それがビジネスマンとしての価値だし、人生を豊かにする指標だと思う。で、これは自分の反省になるけれど、「この人と付き合ったら得をするな」と思って付き合っていると、なんだかうまくいかなかったり長続きしなかったりする。でも、損得を抜きにして、「この人はすごいな。一緒にいたいな」と思って付き合う人とは、不思議なもので、10年ほどすると一緒に仕事をしていたりする。それで人脈が膨らんでいく。特に今回集まった皆さんは、我々がいろいろなツテを通してそれなりに選んでお呼びした方々だ。だから一生の宝になるような素晴らしい仲間がここでも見つかるんじゃないかと思っている。そういう気持ちで今日の残り時間を過ごして欲しい。(46:29)
水野:私はそれほど信念を持っていない。ましてや皆さんの歳の頃は普通の大学生だったし、信念なんて考えたこともなく、普通に銀行に就職した。で、それ以降もその時々で、「来年はどうしようか」と、プラス1にすることしか考えていなかった。ただ、そうすると少なくとも「ここまでは来ることができる」という話になる。だから、「信念を持っていなければいけない」という風に思い込まないほうが逆にいいんじゃないかと思う。そんな風にした結果、自分探しで終わってしまう若者は多いから。(47:33)
あと、人脈と海外に出て行く際のハードルについて。まず、私はとにかくパーティー系が嫌いで、大学時代も合コンには行き損ねていた(会場笑)。「皆で集まって名刺交換を」みたいな場に行くと、どんどん隅のほうへ行ってしまって…。堀(義人氏:グロービス経営大学院学長/グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナー)さんと出会った頃は、「早く前に行って!」とよく言われていた(笑)。今でも極めて苦手だ。はっきり言って、私は2~3分話してもすごくつまらない人間だと思う。30分話すと結構面白い(会場笑)。だから1対1で会えば次も会いたいと思ってもらえるような気はするけれど(笑)、2~3分だとこんな普通の顔だし忘れられてしまうと思う。だから、そういうことが苦手な人は、必ずしも一生懸命パーティーに出て名刺交換をしたり名前を売らなくてもいいように思う。よほどハンサムだったり可愛かったりしない限り、たぶん忘れられてしまうから。それよりも、たとえば15~30分話をできる機会があったとき、相手に「この人の話をもう1度聞きたい」と思ってもらえるようなコンテンツを自分が持つこと。長期的にはそのほうが、僕のような性格の人には向いていると思う。(48:13)
あと、海外に出て行く際のハードルについて。1番難しいと思っているのは、日本人の「相手の立場に立つ」という能力の低さだ。私はずっと疑問に思っていた。日本人は「空気が読めないのはダメ」と言って人のことを考える。それがなぜ海外へ行くとあれほどできないのか。先日、ついに分かった。日本では子どもの頃、相手の立場に立つことを親に教えてもらうとき、「あなたが相手だったらどう思うかを考えなさい」と教えられる。同一性がかなり高いグループなら、あなたが嫌なことは相手も嫌がるから。でも、そもそも相手の立場になったら「あなた」じゃないから(会場笑)。それで自分がどう思うかを考えてみるといっても、そもそも相手の立場に立っていない。ところが、日本人は外国人に対してもそういうアプローチをしてしまう。そうじゃなくて、サービスでもなんでもすべてについて言えるけれど、外国人の立場には立てないということをベースに物事を考えないといけない。それが日本企業や日本の個人が海外へ出て行くときのハードルになっていると僕は思っている。(49:26)
岩瀬:時間も迫ってきた。「リーダーとはこうする人だ」というお話も一言交えつつ、今日残りの時間を過ごす学生の皆さんへ最後のアドバイスや応援メッセージをお願いしたい。私の場合、リーダーというのは自分の言動なり行動なり作品なりを通じて、人々の心を動かして行動する人のことだと考えている。人々をインスパイアして動かす人というのが私のリーダー論だ。(50:40)
福武:今日はすでに何度か、「行動したほうがいい」というお話がなされていたと思うし、実際、僕の話も「絶対に行動してください」ということになる。で、水野さんが直感の話をなさっていたときにぱっと思ったのだけれど、直観力というのは動きながら、走りながらのほうが鍛えられるんじゃないかなと、最近思っている。この前、運転していたときに思ったことがある。高速道路を100 km/hぐらいで走っていたのだけれど、運転中は前後左右すべて確認して、隣の奥さんとも話をして、しかも流れている音楽に合わせて歌ったりしているわけだ。でも、そのなかでも前方に障害物があれば、「うわっ」と言いつつ、さっと避けることができたりする。その直観力、すごいなって。だから、なにか行動しながらのほうが見えるものもあるんじゃないかと思う。先日はゴルフをしたのだけれど、ゴルフは難し過ぎる(笑)。僕は野球派で、動いているボールのほうが簡単だ。勘で打てるというか。止まっているボールを見ているといろいろ考えちゃう。やっぱり動いているほうがいいなと思う。ぜひ、動いてください。(51:23)
程:グローバルリーダーと言われるような人たちは本当にすごい。世界をまたにかけて仕事をしなくちゃいけないから、皆、タフだ。GEのジェフリー・イメルトさんは10数年、社長として世界を廻っている。これはGEキャピタル社長の安渕(聖司氏)さんがおっしゃっていたのだけれど、本当に24時間仕事をしていて、自身のプライベートジェットにはジムの機器を一式載せているそうだ。だから飛行機のなかでもホテルでも体を動かしている。それほど精神と体を使いまくって、それで世界中を廻って会う人会う人と握手をしていると。もう、パワーの源みたい人だ。結局、メンタルと体の両方を使わないとグローバルリーダーはやっていけないのだと思う。(52:38)
それともうひとつ。名前は言えないけれど、こういうことがあった。私の母が美容整形に行ったとき、車で待っていたら出てきた母が、偶然外を歩いていた、とあるグローバル経営者を見かけた。で、「あの人、私の隣で受けていたよ」と言う。(53:51)
とにかく外見もすごくケアしていると。メディアトレーニング等をいろいろ受けるだけじゃなくて。もちろん、その方は頭もいいし元気があってロジカルな方だけれども、見栄えもきちんと気にしながら、ある意味ではカリスマ性をつけて人をうまくコントロールするというのも重要なのかなと思った。(54:17)
あと、経営者というものを一言で表現すると、皆、リスクテイカーだ。「リスクを取るのが本当に楽しい」と。そして、それで失敗したら自分がいなくなってもいいというような覚悟を持って、連戦連勝に近い形でキャリアを積んできた人たちがグローバルのトップをずっと張っているのだと思う。それと、リーダー像に関してもうひとつ申し上げると、僕は「この人のようなリーダーになりたい」というロールモデルがいなかったから、自分の型を持っていた。皆さんも、もしリーダーになりたいのなら、誰かひとりを真似て勉強していくという考え方はあまりしないよほうが良いかなと思う。(54:49)
水野:私が元々リーダーというタイプじゃないし、リーダーになりたいと思ってやってきたわけでもない。たっだ、リーダーというと会社のトップというイメージが強いと思うけれども、その下にも部や課の長がいて、皆がリーダーだ。そう考えるとリーダーにもいろいろなタイプがあって、同じ組織のなかにもたくさんのリーダーがいる組織は強いのだと思う。リーダーの属性は2つあると僕は思っている。ひとつは共感を生むタイプで、もうひとつが説明できるタイプだ。で、その2つを兼ね備えるのがベストに決まっているけれど、私が見てきた世界のリーダーでそういう人は極めて稀だった。逆に言えば、トップが共感を呼ぶタイプなら、その下の副社長や役員に説明のうまい人をつければ強い組織になる。従って、どちらでもいいと思うけれど、自分がどちらのタイプなのかを考えてみるのも大事だと思う。フィールで引っ張るのか、ロジックで引っ張るのかを見極めて、そのうえで「こっちなら自分はリーダーになれる」といったことを考えながら過ごしていくといいと思う。(55:48)
岩瀬:繰り返しになるけれど、皆さん、ぜひ社会のなかでリーダーシップを発揮して欲しい。別に社長になるという話じゃなくて、それぞれの分野で人をインスパイアして動かせるような人間になって欲しい。「そういう人たちのための機会をつくりたい」という堀さんの思いでG1 カレッジは始まった。今回登壇していらっしゃるパネリストの皆さまは、社会人の我々からしても、「この方の話を聞きたかった」という方ばかりだ。その意味で、今日はすごく貴重な場であるということを改めて感じていただきたい。続くワークショップのセッションでは今日の半日振り返って、皆さんにいろいろと議論をしていただく予定だ。発表の時間も取っているので、そのつもりで今日の半日を振り返って欲しい。そして、これから一生付き合うかもしれない仲間を1人でも2人でも、この場で見つけていただけたら素晴らしいと思う。では、3人の素晴らしいパネリストの皆さまに拍手をお願いします(会場拍手)。(57:07)