鎌田: では、2つ目の問いに移りたい。衆智を集めなければ世界の変化にアップデートできないという文脈で、御三方の取り組みやお考えを掘り下げてみたい。(35:10)
八木: 日本人のスパイを送らない。我々はM&Aを行った。でも、アメリカン・スタンダードやグローエに日本のやり方を押し付けるために、あるいは日本側のコミュニケーション能力が足りないために、日本人を送り込んで情報を吸収するとか、裏で何かするといったことは一切やらない。グローバルの知恵を我々のほうへダイレクトに持ってきてもらい、議論して物事を進めていく。それがダイバーシティだと私は思う。(36:06)
日本人対日本人以外なんていうふうに考えていると、世界では競争に勝てない。だから世界中の人たちを同じように扱う。そこで、LIXILの価値やLIXILが目指しているものを理解する人たちが集まって、議論していくと。もちろん、これは理想論だ。「じゃあ、実際にそれをどれだけできているんだ?」と言われたら、100点満点中10点ぐらいかもしれない。でも、まずはそれを目指していかないと勝てない。(36:36)
だから、我々は日本人を送るといったことも一切しない。グローバルで勝つために誰が一番優秀か、誰が何をしようとしているのかをよく見ている。で、それを徹底的に議論する場もつくった。グローバルマネジメントコミッティというものを今年4月につくり、3カ月に1度、何十人もの人間が集まって「LIXILはどうあるべきか」を徹底的に議論するというものだ。先週もニューヨークに集まってそういう議論を行った。そこには主要メンバーの17名に加えてサブメンバーが60名ほど集まるけれど、とにかく、そういうことをやりながら1つの価値を求めていく。(37:00)
鎌田: 新しい仲間への経緯と信用を明確に示すことは、ダイバーシティを盛りたてる一つの鍵だと思う。一方、日本人にはどんな言葉を投げかけているのだろう。(37:52)
八木: 日本の人たちには、「黙っていては何も起こらない」と。分かって欲しいと思うだけでは何も起きない。主張があり、自分たちがやってきたことのなかで正しいことがあると考え、そして日本で培ってきたことを相手にして欲しいなら、それをロジカルにストーリーとして語らないといけない。その勇気とロジック性とプロフェッショナルとしての知恵を持たないと、グローバルでは勝てない。それをせず「日本の会社だから」「日本人だから」というだけで上に立って何かしようとしても、企業はまとまりを失って離散するだけ。「そうではなく、LIXILとして何をしなくちゃいけないのかをきちんと戦略的に、ストーリーとして議論できるようにしよう」と。で、日本の人たちには通訳はつけているけれども、最近はきちんと喋るようになってきた。すごく嬉しいことだ。(38:11)
日本人は本音と建前が大好きだ。本音を裏側に置きながら建前で喋る。で、建前で決まったものに関して、「本音は違うからね」と言ってほったらかす。そうじゃない。「ストーリーにして語る」と言ったけれど、グローバルでは言ったことがすべてだ。心のなかで何を思っているかなんて、知ったこっちゃない。「私はダイバーシティが嫌いだ」と思っていても構わない。でも、「会社としてダイバーシティを盛り立てていくんだ」「その通りだね」となったら、本当にそうしろよと。口では言っておきながらおじさんばかり使う…、会場にはおじさん多いけれど(会場笑)、それじゃあ話は進まない。(39:20)
鎌田: 中国事業のトップとして一緒に働く部下の思いをくみ上げ、一方ではイオンの考え方を彼らに伝えるため、羽生さんが大切にしていることはなんだろう。(40:05)
羽生: 今は中国全土で1万5000人強の従業員がいる。そうした人々すべてに語りかけるのは不可能だ。だからコアとなるメンバーに会社がどれだけ、日本的に言うと「面倒を見てあげるか」という話になると思う。人事担当も同じだと思うが、社長として彼ら一人ひとりの顔が頭に浮かぶかどうか。そして、その人たちとどのように語り合っていくのか。そうしたコミュニケーションの力が大事になると思う。(40:51)
そこで、去年は皆にクリスマスカードを送った。中国でも最近はクリスマスが流行り始めている。それでクリスマスカードを、2000人のうち100人前後となるコアメンバー全員に送った。一人ひとり顔を浮かべ、この1年間で私とともにどんな仕事をしたのか、会議でどんな話をしたのかと。そんなことを考えながら全員に手書きの一言メッセージを添えて、それぞれの机に置いた。すると、「社長からカードをいただくとは思いませんでした」と言われて(笑)、すごく嬉しかった。書くのは本当に大変だった。自分でカードを選んで、「このお店の子たちに送るカードはこの色かな」なんて考えながら書いたりして。それで「来年も頑張りましょう」と、すごく嬉しい声が聞こえてきた。今年は中国全土で38社もあるからどうしようかと悩んでいるけれども(笑)。(41:49)
とにかく、そういう部分は日本も海外も同じだと思う。特にコアとなるメンバーをどれだけ大事にしていくのか。そこで一人ひとりのキャリアデベロップメントを考える必要があるし、会社として人材を発掘する仕組みも不可欠になる。私たちは年に2回、経営人材委員会というものを開いている。専門の部署で2人の担当を付け、1年間、特定の人材を追いかける。そして360度インタビューを行い、最後にそれを人材委員会に持ってきてもらうと。それで対象の人材を、いわゆるグローバル人材あるいは総合人材として育てていくかどうか考えていく。あるいは、財務や商品づくりに長けている人として専門の道に進めていくのかという見極めを行う。そんなふうにして今後3~5年間でどんなふうに育てていくのかを、半年に1回お話ししている。ただ、八木さんの四半期に1回というお話を聞いて、「頻度を増やしていかなければ」と今は思った。(43:00)
鎌田: 社員に対して、なぜそこまで懸命になれるのだろう。「お客様に接する人たちだから」というお話かもしれないし、先ほどの「覚悟が」というお話の延長かもしれないが、そこまでやり尽くす動機の源泉も併せて伺いたい。(44:12)
羽生: 人は誰だっていい仕事がしたいし、いい生活がしたい。その思いは万国共通だと思う。で、私はこの会社で20数年、転職もせずやってきた。思い起こせば会社とともに成長してきたという思いがある。「じゃあ、同じことを部下に経験をさせよう」と。それがすごくハッピーだ。いろいろと苦労はあるけれど、「皆がハッピーになることを少しでもサポートできれば」という気持ちがある。社長は常に変わっていくわけで、誰もがずっとそのポジションにいるわけではない。それなら一人ひとりが先へ先へとハッピーに進んでいけるようにするためのサポートが、私たちリーダーの役割だと思う。(44:41)
フィッシャー: 仕事の中身については厳しく判断すべきだと思う。でも、仕事周りの雰囲気を明るくして皆を楽しくさせるのもリーダーの仕事だ。人の心を掴んで明るく楽しい雰囲気をつくる。その意味でリーダーというのは、自分ででそう思うよりも、むしろフォロアーから、「あの人に与えてあげる」という気持ちを持ってもらえる人だと思う。「あの人を成功させたい」「あの人が掲げるビジョンを達成させたい」と。そう思われるような存在がリーダーではないか。(45:40)
八木: 会場に経営企画部の方はどれほどいらっしゃるだろう。…あまりいらっしゃらない。人気ないでしょ? なぜか。物事にロジックであたるから。人はロジックだけじゃ動かない。行動しないからということあるけれど、いずれにせよ、羽生さんは手紙を書いている。このデジタルの時代に超アナログだ。でも、そこで人々の心が動く。(46:51)
変革というリスクに飛び出すために、リーダーは人の心を動かなければいけないと私は思う。そこでフィッシャーさんが言うように、心が動くような楽しい環境をつくってあげるということがある。あるいはロジックを語る前に、「皆に幸せになってもらいたいんだ」という一言を添える。羽生さんがおっしゃっていたことももちろんだし、「ありがとう」の一言を添えるというのも大事。リーダーシップというとロジックの話になりがちだ。「きちんとした戦略があるか」とか、「財務的にどうか」とか。もちろん、それも重要だと思う。ただリーダーシップはロジックに加えてハードが不可欠になると私は思う。(47:25)
フィッシャー: その辺に関して、私は社内で「サメとイルカ」という話をよくしている。前職のP&Gはどちらかと言えばシャークが多い組織だった。自分の成功が大切で、ときには周囲を食べてしまってもいいと。とにかく生き残ること。これがサメだ。でも、資生堂はイルカ。インテリジェントで優しく、遊び感覚がある。ただ、そういう組織はなかなか競争に勝てない。だから資生堂が勝つ組織になるためにはサメの血も入れなければいけない。遊び感覚を持ちつつ、目的には厳しく向かう必要があると思う。(48:25)
鎌田: 競争に勝つための強さ、知恵を生み出す多様性、仲間に対する思い、心を動かす役割等々、いろいろな話が出てきた。世界次元で勝利を導く、そうしたリーダーのコアマッスルとはなんだろう。それをどう開発していくのかも併せて伺いたい。(49:23)
羽生: 1つは価値観だと思う。企業の価値観と個人の価値観の両方を持つこと。そして、2つ目はとにかく動くこと。行動力も重要だ。動かなければ結果が正なのか非なのかも分からないので。で、そうした行動力を育むためにはチャンスを与えること。背伸びが必要な仕事を与えると、そのなかで人は最大限の能力を、本人も気付かないうちに発揮する。それが難しければ難しいほど人はチャレンジをするようになって、大きな成長につながると思う。(50:08)
フィッシャー: 私も価値観が大事だと思う。それともう1つ、コミュニケーション能力も不可欠だ。外の世界のトレンドを社内へ「通訳」するコミュニケーション能力が必要だと思う。組織というものはどうしても内側に向かってしまう。そこで外の厳しさやトレンドを社内へ持ち込むことが、1つのコミュニケーションとして大切になる。(51:24)
で、そのためには羽生さんがおっしゃる通り、自己開発のチャンスを与えるというのが1つ。また、社外での活動も幅広さにつながると思う。リーダーは自ら新しいことを勉強しなければいけない。別セッションでは、「日本では取締役やCEOというポジションがご褒美として与えられる」とのお話があった。アメリカではCEOや取締役が、「次のトレンドがどうなるか」といったことを懸命に勉強する。つまり、自分の会社の課題を超えた課題だ。リーダーはそんなふうにコンフォートゾーンから出なければいけない。そうして力をつけないと部下に同様のことができなくなる。(52:12)
八木: 変革・行動を起こすリーダーのコアは、お2人がおっしゃる通り、価値観と言える。私は軸という言い方をしているけれど、同じことだ。ただ、もう1つ必要なものがある。皆さんがおっしゃる価値は‘Value’。もう1つは、‘Win’‘Victory’のほうだ。「勝つんだ」という気持ちを付け加えて、“勝ち観”というふうにしておきたい。(53:35)
ただ、「勝ちたい」という意欲や「こうしたい」という軸から何か行動を起こしても、知恵がなければ絶対に勝てない。やる気だけで物事を勧められたら迷惑だ。では、知恵はどこから来るのか。1つはビジネスの基礎から来る。日本のビジネスリーダーのなかで、一体どれほどの方がビジネスの基礎を勉強しているだろう。グロービスさんを後押しするわけじゃないけれど、こういうところに来て戦略やファイナンスやマーケティングを学ぶことはできる。そうした教科書があるものぐらいは勉強して欲しい。私は研修で、最初にいきなり「シチハ!」と言う。「え?」「シチハ(7×8)だよ!」「56です」と。なぜ答えられるのか。小学校で勉強したからだ。勉強したら答えられるものがある。だから、「まずは勉強しなさい」と。競争相手のリーダーはビジネスの基礎を勉強している。そこに勉強していないやつが立ち向かったって、勝てるわけがない。(54:07)
で、もう1つの知恵が「プロであれ」だ。プロとは何か。私は三十数年におよぶキャリアのうち、二十数年人事をやっている。それなら、「5分なり10分なり、あるいは1時間なり24時間、人事について喋ってみろ」と言われたら、喋れなきゃいけない。よく、うちの研修でこんなやりとりになる。「あなたは営業を何年やってきたの?」「25年です」「なら10分あげるから俺に営業とは何かと教えてくれ」「え?」。答えられない。「じゃあ、もう少し簡単にしよう。値段はどこまで下げるもの?」「ボスが言ったところまでです」(会場笑)。話にならない。営業、製造、あるいは人事とは何かという、プロとしてインテリジェンスを持っていないといけない。で、それに加えてお二人がおっしゃった通り、行動力とコミュニケーション力。これがないと絶対に勝てないと思う。(55:21)
鎌田: では、ここから会場の皆様と意見交換を進めていこう。(56:26)
会場A: リーダーとして仕事をするなかで、顔と名前が一致したうえでコミュニケーションをしっかりとることができている方はどれほどいらっしゃるだろう。たとえば300人なのか、400人なのか、あるいは100人前後なのか。その辺のスパン・オブ・コントロールを伺いたい。(57:20)
会場B: 議論を通して御三方が具体的に抱いていらした「勝ち」の定義を伺いたい。(58:04)
八木: 僕は人事にも関わらず、顔と名前がほとんど一致しない(会場笑)。うちの社員が観ていたら大変申し訳ない。なんせ5万人もいるから。ただ、藤森はよく覚えている。ちなみにGEのトップたちはたぶん600人ぐらい覚えている。これは努力している。写真つきの経歴を見たりして。それはそうだ。私だってジャック・ウェルチに‘Hey, Yagi!’と言われたときは嬉しかった。たぶん会う前に予習をしているだけだけれども(会場笑)。ただ、顔と名前を覚えておいてもらえることの嬉しさもあるけれど、私は一対一で向き合ったとき、その人がどういうインプレッションを与えていたかを覚えることにしている。あるいは、「何を言ってあげればこの人は自ら成長するか」「どうやってこの人を刺激するか」。それを必死に本気で考えていれば、社員は顔と名前を覚えていなくても、「あ、この人と一緒にやっていこう。この人の言うことを聞こう」と考えてくれるものだと思う。私はそういう努力をしてきた。(58:55)
羽生: 覚えたいから覚えるというものでもないと思う。中国の場合、会社によっては英語の名前をつける人もいれば中国語の名前で呼び合う人もいる。だから、「リンダの中文ってなんでしたっけ?」と言われて分からないときもある。そこで私としては、私なりの基準として、各会社でマネージャー以上となる人とは必ず話し合って、その人の顔と名前を一致させるようにしている。店舗のマネージャーがだいたい5名いて、プラス店長1名。で、本社にはだいたい6~10の部門があって、マネージャー以上の人は30~40いる。その人たちとは必ず話をするし顔も覚える。また、本社ではマネージャー以上の最終面接を必ず自分で行う。人事部署には任せない。(01:00:14)
フィッシャー: 人事部長に自分の名前を覚えられることには良い面も悪い面もあると思うけれども(笑)。私も八木さんと同じだ。特に日本人の名前が覚えづらいというのもあるけれど、どちらかというと別の形で努力している。たとえば私は自分の部屋を持っていない。資生堂自体がそうしているわけではないけれど、私は皆と一緒のフロアで皆と一緒に座る。すると、私がどんな仕事をしているかが見えるし、私も皆のことがいろいろ分かる。私は基本的に、‘Management by walking around’。私から皆のほうに行く。「どうですか?」と。海外出張が多くて月の半分は会社にいないこともあり、本社にいる人も私になかなか会えないし、彼らから見えにくいからだ。できる限り見えるようにしてコミュニケーションを取っていくというのが私の方針になる。(01:01:31)
それと勝ちの定義について言うと、資本主義である以上、マーケットシェアを伸ばすというのが1つの定義にはなると思う。ただ、シェアを取るだけじゃなく元気なビジネスモデルを構築できていなければいけないからファイナンシャルデータも大切だ。だから我々に見合った利益率やROEを目指す。それが必ずしも一番高くなければいけないわけではないけれど、継続的に競争力を持つことができるほどの利益は必要だ。その意味では、どちらかというと利益率より利益額だろう。やっぱりROEが資本主義の原点だと思う。そのうえで「正しいことをやりましょう」と。社会的な貢献も不可欠になる。ただ、社会的に良くてもビジネスモデルがぼろぼろでは意味がない。(01:02:56)
羽生: 「お客様にとって最良か」「企業経営に合理性があるか」「社会に対して責任ある行動をとっているか」等々、価値観にはいろいろな定義がある。ただ、私の定義は「道理に叶っているか否か」だけ。何をするにしても道理は必ずあると思うので。それで道理に叶っていれば進むし、道から外れていれば進まない。(01:04:17)
八木: お客さまに対しては、「豊かで快適な住生活を世界中でデリバーする」というのが「勝ち」の定義だ。あと、フィッシャーさんがおっしゃった「資本主義のなかで勝つ」ということに関しては、成長とリターン。株主価値をいかに上げるか。で、社員に対しては冒頭で申し上げた通り、ダイバーシティとイコールオポチュニティ、そしてメリトクラシーになると考えている。で、私個人としては、「今正しいことを正しくやる」というのが定義だ。これは長くなるのでこれだけにしておくけれど(会場笑)。(01:04:58)
会場C: 私もポジションが人を育てると考えているが、最近、宇宙飛行士の選定ではストレス耐性というか、逆境における伸びしろがどれほどあるかをすごく見ているという話を聞いたことがある。その人にストレス耐性があるかどうかということを、たとえば機会を与える前に潜在能力のような形で見ておられる部分があれば、ぜひご教授いただきたいと思う。(01:05:47)
八木: 楽しんでいるやつは余裕がある。ストレス耐性があるから楽しんでいるわけで、面白そうなやつかどうかを見ている。24/7でやっているやつなんか面白くもなんともない。そういう人はどこかで折れるか、自分が折れなければほかの人に迷惑をかけるかのどっちか。仕事だけじゃない、と。ライオンもチーターも狩りばかりしているわけじゃない。必ず休む。休まなきゃ狩りはできないから。もっと言えば彼らは生きるために狩りをしているわけで、狩りのために生きているわけじゃない。人間も動物だから同じだ。ただ狩りをするだけじゃなく、人間としての幅や余裕、あるいは生きることに対する考え方とか、そういったものをしっかり持っている人間は耐性があると思う。(01:06:57)
羽生: 一言で表現すると、その人の神経が図太いかどうかという点は「勘」を頼りにしている面が強い。また、私は採用面接でかなり圧迫する(会場笑)。もう、追い詰めて、追い詰めて、それでもきちんとロジカルに回答してくるかどうかを見ている。それと、仕事以外でもよく見ている。飲み会でも見ているし、たとえば私たちは先般、運動会を開催した。日本にはもうあまり見ないけれども。仕事と関係のないところでチームメンバーが何を言っていて、どんな行動をしているのかというのも見ている。(01:07:58)
フィッシャー: 2人と同じだ。ワークライフバランスが大事だと思う。仕事以外で楽しみを持っていないといけない。リーダーはそのロールモデルになるべきで、仕事以外にも趣味の時間を使うべきだと思う。あと、八木さんがおっしゃっていた通り、ストレッチも1つの考え方だろう。自分が考える能力よりも大きな課題を与えることは1つの育成方法だと思う。ただ、ストレッチをさせる場合はどのレベルで、どのほどの責任感を持たせるか、考える必要がある。その場合、仕事は大事だけれども、あくまで仕事だけ。メンタルヘルスに問題を抱えさせないことも大事だ。そうしたことで仕事のパースペクティブを高めなくてはいけないと思っている。(01:08:50)
会場D: 投資ファンドの仕事でリーダーというか社長とコミュニケーションをとることが多く、どのように自分たちの気持ちをリーダーに理解していただくかを常に考えている。御三方の上司はそれぞれ素晴らしいリーダーだけれども、人としてのエネルギーが非常に高く、ひょっとしたら人の話をなかなか聞かない面があるのかもしれないと思った。そうしたリーダーとどのようにコミュニケーションをとっておられるのだろう。あるいは、そこでご自身の気持ちをどのように伝えいらっしゃるのか。その辺りの方法論をお伺いできればと思っている。(01:10:16)
八木: (動画を)観ているかな…。私のボスは本当に素晴らしく優秀な上司だと思う(会場笑)。で、人の話を聞かないように見える。あと、とにかく勝ちたい人。私との論争にでも絶対に勝ちたい人だから、何を言っても聞いていないように見える。でも、彼はビジネスで勝つために何をしなきゃいけないかをよく分かっている。お二人の上司もそうだと思う。その場で聞いていないような顔をしていても、「こいつが言っていることはビジネスで勝つために意味があるな」と思えば必ず聞いてくれる。それがリーダーというものだし、リーダーがそういう人じゃない会社は辞めたほうがいいのではないか。私自身はそれぞれのバトル…、バトルと言っちゃいけないか、それぞれの議論ではやられることもある。でも、言わなきゃいけないことは言う。そうすればまともなリーダーなら必ず聞いてくれるし、そういう人間をきちんと評価してくれると信じている。(01:11:28)
羽生: 難しいが、女性にはすごく優しいということは言っておく(笑)。他のメンバーには「なんだお前これは」と言うところを「羽生さんどうですか?」と言ってくるので(会場笑)。いずれにせよ、私としてはリーダーとコミュニケーションをする際、逆の立場を考える。私は部下と話すとき、なんでも「はい」と言う人があまり好きじゃない。むしろ「ここは違うでしょ? こうだから、こういう考え方もありますよね」と、理詰めで来る人のほうが納得できる。上司が怖いから言えないというふうにならず、自分が考えていることを言ってくれる部下を、私としても頼ってしまう。それが自分の考え方と違っていても、そこからヒントを得ることができるから。私自身はそれと同じことを上司に対してやっている。ただ、そのためには相当な準備が必要だ。無防備で向き合わず、「こんな風に言えば説得できるかな?」と、理詰めでいろいろとパターンを考えてから話をする。(01:12:38)
リーダーの「ダメだ」は単なるNGじゃない。「ダメだ」と言うときは、それだけの理由がある。まずそれが何かを自分なりに砕いて理解して、そのうえで話をすれば必ず理解してもらえると私は思っている。会議でも同じだ。社長に「なんだコレは」と聞かれると、ほとんどのメンバーは小さくなってしまう。でも、その「なんだ」は否定じゃなく、「なぜそう思うのか?」という問いかけ。だから、そこで答えられるようにするのが責務だと思っている。そういう気持ちでいつも接している。(01:13:53)
フィッシャー: 英語で話すのが一番ラクだ(会場笑)。ただ、彼はずっと外資系だったけれども仕事自体はどちらかというと国内向けだった。私はその逆。10年以上それぞれの本社で海外の仕事をしていた。だから二人の経験にずれがあって、それが面白いコミュニケーションにつながる。見方が異なることもあれば、当然、多少ぶつかることもあるけれど。まあ、どちらかというと魚谷さんとは会議よりも一対一でお話をする。メール交換や電話でのやりとりも多いし、オフサイトで話をすることも多い。「週末、どこかの喫茶店でちょっと喋りましょう」といった接し方をしている。(01:14:50)
八木: 言い忘れたので付け加えたい。藤森は傑出したリーダーだと私は思っているけれど、藤森のために働こうとは思わないようにしている。で、それができているかどうかは知らないけれど、私としては「チーム藤森で勝ちにいこう」と。それで藤森のダイレクトポートに皆でなろうというふうに動くことができたらそれでいいと思う。(01:16:18)
鎌田: 最後にそれぞれ、フロアの皆さんにメッセージをお願いしたい。(01:16:44)
フィッシャー: グローバリゼーションもダイバーシティも簡単な課題じゃない。それらのデスティネーションは皆が喜ぶものだと思うけれど、そこまでの旅自体はすごく大変だ。ただ、そこで考えたいのは、専門家と一緒にプロ野球をすればメジャーリーグに入ってめちゃくちゃ楽しいゲームができるということ。マイナーリーグというコンフォートゾーンで仕事をするよりメジャーリーグでブレークスルーを起こす。ぜひ、そうした意思を持って皆で努力していきましょう(会場拍手)。(01:17:03)
羽生: 今後のグローバリゼーションにおいて、日本の絶対的優位性はすでに存在しないと言い切れる。その危機感を…、会場の皆さまはお歳かもしれないが(会場笑)、それでも危機感を抱いて外へ打って出て欲しい。外の世界はまったく違うし、そこで得られるものは多い。とにかく行動を起こすことだと思う(会場拍手)。(01:18:01)
八木: 若かりし頃、年功序列のなかに潜って何も仕事ができず、文句ばかり言っていた時代がある。そんなことでは何も起こらないと気付いた自分もいる。そんな私が今言えるのは、「四の五の言わずに行動を起こせ」ということだ。自分の周りを変えるだけでいい。会社を変えようという大それたことは、場合によっては思わなくていい。でも、自分の周囲をとにかくクリーンナップして、そこだけはきらきら輝く世界にする。そういうことをしていけば会社全体に広がっていくと思う。変革で100点満点を取る必要はない。100点中10点で勝てればそれでいい。だから、その10点を取りに行くために、今、行動を起こして欲しい(会場拍手)。(01:18:32)