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本当に最後までやりきったのか(江幡氏) 「大企業とベンチャーのアライアンス戦略」 

投稿日:2014/12/03更新日:2021/11/30

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井上: では3つ目の問いに進みたい。御三方は、個人、リーダー、そして経営者として、それぞれどんな思いで会社を変えたいとお考えになっているのだろう。(32:57)

江幡: まさに新しいイノベーションを起こすということを、今は自分がミッションとして負っているので。もちろん、それを事業の形にしなければ意味がない。ただ、その入り口として、会社のなかでそういう思いを持つメンバーを増やす活動がすごく重要になると思う。その意味では、自分自身もしくは自分にすごく近いチームのメンバーには、基本的に「外へ行こうよ」と言っている。ベンチャーさんとの打ち合わせ1つにしても、うちに来てもらうのでなく、「こちらから行ったほうがいいよ」と。それで足を運んでみるといろいろな人に会える。CEOの方とお会いして話をするだけでなく、周辺にいるチームの方々がどんな職場でどんなふうに仕事をしているのかが分かる。(33:27)

それで私自身も外へ行くほうだから、なかのメンバーには「会社にいてもらわないと困る」と怒られてしまうこともある。でも、やっぱり外へ行って自分自身がその風を知る必要はあると思う。自分自身もそれで初めて上の人間に話ができると思う。会社のなかでそういう風を吹かせる存在でないといけないと思いながらやっている。(34:30)

井上: 外の風と社内の空気ではときに大きなギャップもあると思うが、それはどのようにマネージしていらっしゃるのだろう。(34:55)

江幡: 実は、周辺からすごく強い風もたくさん吹いてくる。そこで上とのコミュニケーションが重要になるのだと思う。そこできちんと伝えていくことで、僕の周囲にマイナスの風が少々吹いたとしても外から風を吹かせてくれるような、そういう理解を得られるような関係づくりが非常に重要だ。僕らはどちらかというと真ん中の点から面に広げていく活動をしている。で、外の人は外の人でそれを広げてくれる上司というか、とにかく上とそういう関係をつくることは不可欠だと思う。(35:13)

森川: 管理しないようにするというか、ある意味、いい加減さを維持することは大切だと思う。最近、僕は社内で「動物園みたいになっちゃいけない」とよく言っている。真面目な人ほど管理したがる。レポートや決済といった報告系を求めるというか。でも、それでは部下の人たちがお客さんを喜ばせることよりレポート提出をメインの仕事にしてしまう。それで上から何か落ちてくることが仕組化して凝り固まってしまう。(36:08)

LINEは動物園よりサバンナに近い。仕事も与えず、自分で餌を獲ってきて自分で食べて生活するような、そんな環境でやっているから全社ベンチャー体質だ。そこで首を締めてカゴに入れて、「何時に餌だよ」なんてしてしまうと、どうしてもそれに慣れちゃう。だからなるべく自由に、羽ばたけるようにする。そのぶんリスクもあるけれど、それを超えるような力を持つと会社も強くなる。だから、全社ベンチャー体質みたいな環境を維持するためにもルールはなるべく無くすし、たとえばパラメータ評価といったものも止める。「良いか悪いか」といったシンプルな基準で評価するようにしている。(36:49)

井上: 管理しないと言っても、経営者のお立場であれば数字を確認したくもなると思う。それをご自身のなかではどのようにマネージしていらっしゃるのか。(37:38)

森川: 企業文化が一番重要だと思う。で、そのなかで最も大事なのは、管理好きな人を増やさないこと。会議にしても管理者にしても、とにかく管理するのが仕事だという人が増えた瞬間、いい人が出ていっちゃう。もしくは、いい人が変な部署に行って、管理好きな人だけ集まっちゃう。実際、ビジネスの効率化や生産性向上を考えると、会議や報告書作成の時間は大きな無駄だ。それを削るだけで、たとえば大企業なら3割ぐらい削ることができると思う。そうするとスピードも上がるしコストも下がるしイノベーションも起きるので。(38:10)

安渕: 企業文化を変えるのは大事だけれど、そのためには自分自身がどう変わっていくかが一番重要になると思う。僕は時折、会社で3つの質問をする。1つ目は、本当にお客さんに聞いたのかどうか。お客さんが好んでいるかどうかを我々が知っていなければいけない。2つ目は、我々に十分なスピード感があるのか。3つ目は、この会議はなんのためにやっているのか。「本当に必要か?」といったことをトップから問い掛けていく。するとあっという間に、会議は半分ほどに減る。また、「お客さんに聞いたのか」と問いかけていくと、お客さんと話すようになり、「お客さんが言っているからやりたいんだ」という話に変わる。そうして外を向くようになる。(39:03)

一方、「じゃあ、私自身が何かを学んでいるのか」という問いもある。私自身が学んでいない状態で社員に新しいことを学べと言っても、信頼性はまったくない。だから、たとえばこういうところに足を運んでいろいろとネットワークをつくったりして、それをどんどん社内にぶち込んでいく。私の名前で検索していただくと、グロービス関係のビデオだけでも相当数ヒットする(会場笑)。私自身がどんどん外へ出て行って、しゃべったり聞いたりしたことを会社で広めていくことで、「そういうことは良いことなんだ」と伝えていくためだ。それで、「もっと出ていこうよ」という話になっていけばいいと思う。自らそういうことを行って、同調する人を増やしていこうと心掛けている。(40:00)

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井上: では、ここで一旦会場に開いて質問等を募ってみたい。(40:55)

会場A: 撤退基準を確認させて欲しい。いろいろなことにトライして先ほどの‘Pivot’になったとして、そればかりでもゲームは進まなくなるし、仮説検証を行っていくうちに「これは撤退だな」となるような基準もあると思うが、いかがだろうか。(41:36)

会場B: 最終的には大企業が変わらないと大きな成長は望めないと感じる。また、日本経済全体で考えても多くの雇用はそこからしか生まれないように思う。本セッション動画はグロービスに通う学生たちも観ていると思うが、そのなかには30~35歳前後の大企業社員も多い。その人たちがアントレプレナーシップを持つことがすごく大事だと思う。そういう学生たちに起業家精神を持つためのアドバイスなりメッセージがあれば、ぜひいただきたい。(42:10)

会場C: 我々もベンチャー企業と提携することはあるが、いつも「撤退基準が違う」といった話になったりする。そうならないために、どういったルール化が望ましいだろうか。(43:29)

安渕: 撤退に関して言うと、外形的な基準は設けていない。基本的にはその計画がどれほど信じられるか、そしてその計画にどれほどのボラティリティがあるかを見ている。従って、計画の前提が変わったときは、「どちらの方向にどれぐらい変わったから、どうなのか」ということを徹底的に詰める。そのうえで、結局はそれを推進しようとしているチームが自分で撤退を決める。「こんなのやめろ」でなく、「もう、どう考えてもここまで」ということで、自分たちから止めていく。それは比較的小規模なプロジェクトになるけれど、そういった方向に導いている。自分たちが納得したうえで、「これはダメだ」という方向にしないとなかなか考えないし、学ばないので。(44:16)

井上: 突き進んでいった結果、経営者として「これは考えられない」といったところまで行くことはないのだろうか。(45:12)

安渕: リソースをどこまで付けるかという部分でコントロールしている。コンセプトとしては考えられないところまで行ってしまう部分があるけれど、「それはさすがにないだろう」と、皆が2分ほどじっと黙っているとチームも気が付く。これはウケてないと気が付いて、「やっぱりダメでしたか」と(会場笑)。やっている本人たちが最も明確に気付いている。というか、元々分かっているんだと思う。でも、とにかく自分でトライして、それでダメだと気が付いて自分で止めることが大事な学びになる。(45:19)

森川: うちも撤退基準は特にない。新しいことをやるときに一番大事なのは人だと思う。最初からやる気がなくて仕事ができない人より、やる気があって仕事のできる人がやればそれが一番いい。ただ、そういう人はなかなかいない。従って、何か新しいプロジェクトがあるときは、それと既存の何かを比べる。それで新しいほうが価値は高いと感じたら、既存のものは止めて新しいことにリソースを移す。普通は新しいことをやるときにリソースが足りないから人を採用するという話になると思うけれど、良い人はなかなか採用できない。逆に、ある程度利益が出ていても既存のものを止めて、新しいほうに移す形でやっている。(46:01)

江幡: 撤退についてはケースバイケースだ。プロジェクト的に始めるケースでは、ステップを分けたうえで最初から一定の目標をクリアしながら進めるようなものもある。ただ、そのほかはあまり決めていない。あと、1つの考え方として、「やりたい」ということを通した一番の責任者を最後まで絶対に変えないというのを徹底している。途中途中で、いろいろな事情もあって変えたケースはある。すると、下のメンバーが残っていたとしても、引っ張る人がいなくなった途端に随分と方向が変わってしまう。だから、ベンチャーさんと向き合う場合でも基本的に担当は変えない。とはいえ、やっていくなかでどうしても、「これはそろそろスクラップ&ビルドを」というケースはある。それを上に話すと、「本当に最後までやりきったのか」ということだけを問われる。そこでまだ弱いところがあると、「すいません、もう一度考え直します」と。本当に心底、最後まで考えて「もう何もない」というところまで行って、初めて止めるというケースをつくるようにしている。(46:51)

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井上: 30~40代のビジネスパーソンに向けたアドバイスをお願いしたい。(48:13)

江幡: 私自身がまだ何もやり遂げておらず、大企業に身を置きながらイノベーションに関わる形でやっているだけだから、アドバイスなんていうことはできない。ただ、自分自身が今関わっていることに対しては、少なくとも…、楽しむという言い方はダメかもしれないけれど、少なくとも自分自身が生き生きできるような仕事の仕方を見つけられるようにしている。大企業にいると、なんとなく「大きい話だ」「小さな話だ」といったことを感じてしまうと思う。でも、そうではなく、何かちょっと感じたことを自分のなかで気持ちとして取り入れるというか。「実はこんなことがあったんだけど」と、チームのメンバーに話したりする。そのなかで「面白いと思われている」「今ひとつ乗ってこない」といったことを感じつつ、「ちょっと面白い」と言ってくれるメンバーが何人かできたら実際に取り掛かってみる。そうした仲間づくりから、皆が「こんなことをやってみよう」なんていう機運が生まれることもあると思う。(48:42)

森川: 「これをやるべきだ」という気持ちがあっても、大企業では具現化が難しいときはあると思う。また、中間マネージャーの人たちからすれば、新しいことをやらせて失敗されたら責任を取らなければいけないから、そういうものはなるべく封印しておくといった感覚もあると思う。その意味ではトップに直接働きかけてみて、やらないにしてもその理由を明確にすれば、求められているものにもっと貢献できると思う。まあ、それでダメなら会社を辞めてもいいのかなと思う。いい会社は世の中にたくさんあるから。自分が本当に共感して、力を生かせると思う会社があるなら、そこに転職するのも有りだし、自分が創業する手もある。そんなふうに世の中は循環していくと思う。(50:15)

井上: LINE以前のご経験のなかで、なかなか変わらない先輩や上司を乗り越え、トップを巻き込むような動きを森川さんはなさっていたのだろうか。(51:08)

森川: まあ、いろいろ経験はした(笑)。結局、自分が変わるか会社が変わるかしかない。でも、1人で大きい会社を変えるのは無理だから、「それなら別のところで変えたほうがいいのかな」と思うことは多々あった。(51:19)

安渕: 35~40歳なら、日本では中間管理職ぐらい。部下が何人かいても不思議はない。それなら自分のチームから変えていけばいいと思う。会社の制度とは別に、たとえば「自分のチームでは新しいことをやれば評価します」といったことをメンバーと合意していく。そのうえで「新しいことを起こそうよ」と。自分のチームで、‘something new’ ‘something interest’を目指して盛りあげていく。そんな人が増えていくことがスピリットにつながるのだと思う。上や外からスピリットを押し付けても身には付かない。まずはそうした実践のなかで身に付けていく。あと、役員クラスであれば会社の制度として新しいものへの取り組みが評価される制度にするという話だと思う。評価が人を変えていくので、「新しいことをどれほどやったか」という一項目を入れておく。それが間違いなく皆さんの態度を変えていくと思う。(51:38)

あと、兼業推進というのもある。夜でも日曜でもいいけれど、とにかく違ったことを経験して欲しい。最終的に、それが自分の仕事に関係するかどうかは分からない。けれども、「面白いから」ということで、「まずは会社を辞めずにやってみてください」と。そうすればいろいろな経験をしていくなかでアイデアが浮かんでくる。それで辞める人はいるかもしれないけれど、残って新しいものを立ち上げる人だっているかもしれない。そんなことを会社として進めていくと面白くなると思う。(52:48)

井上: 以前、サイバーエージェントの藤田(晋氏:同社代表取締役社長)さんが「兼業禁止は撤廃すべき」とおっしゃっていた。森川さんのところはどうだろう。(53:18)

森川: うちは良くも悪くもルールをなるべく作らない会社なので(会場笑)。(53:36)

安渕: ちなみにうちは兼業禁止だけれど(会場笑)、「業」としてやるのは禁止であって、「趣味ならいいじゃないか」という話にだってできる。大企業のルールを額面通り受け取らず、自分なりに解釈してぎりぎりのところを歩くのがいいと思う(会場笑)。(53:49)

会場D: スピード感を持って変化を起こし、‘Pivot’していくためには、変わらない目的も必要だと感じる。それは、うちの会社であれば「良い車をつくる」だ。そうした究極の目的や目標が皆で共有されたうえで、「そのために変化も起こすし、スピードも上げるし、ルールを決めず運営していく」という話になると感じた。そうした観点で何かお話があればお伺いしたい。(54:25)

会場E: 周囲にはベンチャースピリットを持った企業が多く、私もいろいろな企業を支援させていただいている。ただ、大企業の方とお話をすると、どうしても今日のお話に出たような壁がある。ベンチャー企業が大胆な仮説を立てて失敗できるようなチャンスを、できれば大企業にいただきたい。たとえばどこかのベンチャー企業がつくったツールに関して、KDDIさんにて「全社員が使うように」とのメールを出していただくだけで、それが使えるかどうかすぐ分かる。オープンに、「社内でとりあえず使ってみて意見を集めてみよう」といったチャンスをいただくだけでも十分にベンチャーは喜ぶと思う。ぜひその辺をお願いしたい。(55:53)

会場F: 弊社もベンチャーだが、これからは日本発のイノベーションを目指してグローバル展開しているサービスと戦っていきたい。そうしたグローバル展開の成功を目指すうえで、ベンチャー企業は大企業とどのようにアライアンスを組んで、役割分担をしていけば良いのだろう。あるいは「海外マーケットや海外の事業者さんとはこんなふうに接していくべきだ」といったアドバイスがあれば併せてお伺いしたい。(58:53)

安渕: 究極の目的は、基本的にはサバイバル。たとえば我々は大きな製造業をやっているが、それが5~10年後、本当にそのままの形かどうか。新しい競合だって次々出てくるはずだ。そうした変化のスピードに遅れると加速度的に遅れていく。現在の変化は指数関数的に伸びていくから、リニアに追いかけていると絶対に追いつかない。どこかでダメになる。だから究極の目的はサバイバルになると思う。(01:00:06)

森川: 質問の趣旨と少し違うかもしれないけれど、サッカーに例えるとなるべくフォワードにボールを渡すようにしている。日本企業はパス回しばかり長くて、誰もシュートを打ちにいかない感じだけれども(会場笑)。たぶん一番大事なのは、もうそういう人を振り切ってシュートするフォワードがいるところにボールを運ぶことだと思う。だから、僕らは会議にもなるべく人を呼ばないようにしている。偉い人たちを呼ぶとネガティブな話が増えて、その対応で遅くなっちゃったりするので。なるべくやる気がある人だけでこっそり集まって、シュートしてしまうというスピード感が大事だと思う。(01:00:48)

井上: そのシュートを見て、人々はどういう反応をするのだろう。(01:01:35)

森川: まあ、問題が起こってから対応するということで(会場笑)。実際、問題が起こる前の話をしていても仕方がないので。(01:01:39)

江幡: 究極の目的ということで言うと、これは理念のなかに入っているけれど、「感動を届ける」という思いでサービスや事業に関わっている。だから何かの判断についても、たとえば使ってくれる人を想像して、きちんと説明できるようにしている。「誰がどんなシーンでこういうふうに使うんです」と。そこがブレていると何度も付き返される。「それ本当なの? 自分がそういう体験をしているの?」と。そこが一番大事だ。それを考えながら皆で一緒にモノや事業をつくるという思いでやっている。(01:01:52)

それと大企業の対応に関しては、おっしゃること、もちろんだと思う。我々も3年ほど前までは、外の方から新しくお話をいただく窓口のようなものがばらばらだった。で、今はそれを全社的に私の部門へ、まとめるというものではないけれど、「何か新しいことはあそこだ」といった形になっている。外に対してもそういうメッセージを発信していくことが1つのミッションだ。そのうえで、ご指摘のように、「これは一度社内で使ってみればいいじゃん」と、社内の業務用ツールとしてトライしてみるという取り組みを始めている。そのうえで、「次へ進むステップのなかで何か一緒に事業ができるように考えてみればいい」と。今はそれが少しずつ浸透してきたので、「コンシューマ系は私のところで見て、ソリューションやBtoEは別のところで見よう」といった感じで少しずつ流れを変えている。(01:02:35)

森川: 「日本発のグローバルサービスを目指すために」とのご質問にお答えすると、一般的には分かりやすさが重要だと思う。特に日本人は難しく考えがちだ。それで「あれもこれもできます」というふうにするけれども、それだと理解を得られない場合が多いし、あれもこれもどれも足らなくなってしまう。僕はその点について、水に例えることが多い。無色透明で安心感があり、できればそれが無料であれば皆が使う。それぐらいの気持ちでモノやサービスを捉えるべきだと思う。実際、僕らもいろいろな地域で活動しているからグローバル戦略についてはよく聞かれる。ただ、地域によって好みや背景は違うので、無理に押し込もうとしてもうまくいかない。水を持っていってもすぐには飲まない地域だってあるわけで。だから僕たちは、最初にいきなり法人をつくったり駐在員に引っ越しをさせたりしない。ホテル住まいにして3カ国ほど担当させる。ただ、その期間は毎週3カ国を回らなければいけない。すると、すごく疲れる。それで「無理だな」と思う国には行かなくなってしまう。そして3カ国ぐらい担当すると一番いいところに行くわけだ。ラクがしたいから。そしてその地域にフォーカスして、そこから家族を説得したり引越しをしたり社員を雇う形にすると、リスクは非常に小さくなる。(01:04:13)

今日は安渕さんから‘Pivot’のお話があったけれど、海外ほど‘Pivot’しやすい環境を提供してあげないといけないと思う。家族も引っ越して学校も決まって家も建てて人も雇ってから‘Pivot’ってなかなか難しい。それを言ったら、「じゃあ、君に戻るところはあるの?」みたいな話になっちゃうので(笑)。だからすごくライトに。それと僕たちは、最初のうちはなるべくパートナーをつくらない。新しいものに関するほど、「この国では受けない」とか、「この国のやり方はこうだ」というふうに言われるからだ。どちらかだと思う。新しいから当たるか、新しいからダメか。で、たぶん3カ国ぐらい見ると、そのどちらかがだいたい見極められる。それで一気にフォーカスする感じで進める。(01:05:40)

会場G: KDDIさんやGEさんのようにベンチャーとアライアンスを組んでイノベーションを起こそうという大企業も一部ではおありかと思うけれど、ほとんどの大企業はベンチャーの存在を知らない。というか、興味すらない。前任者から引き継いだことを後任者がそのまま回しているような感じだと思う。すごく尖ったサービスやコンテンツを持つベンチャー企業も多いが、大企業さんへプレゼンに行っても部署を1つ間違えたら、「何しに来たの?」なんていうことにもなる。どハマりする部署なら、「これいいね」ということで話が前に進むケースもあるけれど、僕たちベンチャー企業側はどのようにすれば、大企業に自分たちのコンテンツやサービスを知ってもらえるのだろうか。あるいは、大企業はどのように僕たちベンチャー企業を探し、どういった接点をつくろうとしているのだろうか。(01:06:45)

江幡: KDDIの場合、2000年頃から通信以外で何か事業を起こそうとしてきた。ただ、それはどちらかというと受け身で、外から来る話に関してはケースバイケースでやるかやらないかを判断していく感じだった。でも、今は通信の領域が完全にオープンインターネットの世界へ入っているので、自らそこに身を置かないといけない。そこで、KDDIは外部のIT系投資ファンドにLP(有限責任組合員)としての出資を2つ、3つ入れた。これがすごく大きな節目だ。それでベンチャーキャピタリストの方々と直接お付き合いする機会が増えたのと同時に、その方々にベンチャーとの接点をつくっていただけるようになった。そして、そういう先端の部門がたまたま私のところにつくられた形だ。今はそれが循環している。従って、直接投資のリスク、あるいはベンチャーとの提携で会社がなかなかスピーディーに動かないということがあれば、外のファンドに関わってみるというのもあると思う。リスクが少ないので。お金のリスクはもちろんあるけれど、仕掛けとしては有りではないかなと思う。(01:08:35)

安渕: 私どもは日本の技術にすごく着目している。日本の技術に関するイニシアティブを過去4回行っているけれど、いろいろな技術を持っている会社さんに来ていただき、プレゼンテーションしていただいた。で、それを我々のなかでビジネスとマッチングしている。すでにヘルスケアに一部採用されたりしているし、いろいろなテクノロジーを製品に取り込んでいったりしている状況だ。「製品をより小さくする」「製品をより省電力化する」等、技術に対するニーズは幅広い。我々としてはそこでいろいろな、ベンチャーというか技術との接点をつくっている。それが一番大きい。(01:10:32)

また、全国に我々のセールス部隊がいるし、お客様には製造業が多いので、そこで「我々はこういう技術を求めています」とお話しして回っているというのもある。そのなかでいろいろな技術を応募してもらう。あるいは銀行さんにもネットワークがあるので、たとえば「静岡県に良い技術を持っている会社さんはありませんか?」と聞いて、それで銀行さんが何社か紹介してくれたりする場合もある。そんなことを繰り返しながらいろいろやっている。我々の販売網も活用してあちこちから探している。(01:11:18)

江幡: 今は日本からのグローバル展開がまだまだ足りないと言われている。でも、私たちが普段お付き合いしている、特にITおよびその周辺領域から新たなイノベーションを生み出そうとしている方々のマインドは素晴らしいものがある。北米のベンチャーにも決して引けを取らないと思う。なので、そこを支える環境がもっと大きくなってくればいいなと、日々思いながら仕事をしている。今後もベンチャーさんとの協力を進めていきたい(会場拍手)。(01:12:15)

森川: アライアンスってやっぱり難しいなと思う。もちろん互いの価値を刷り合わせることでより良いものをつくることができたらいいと思うけれど、互いのことを知らないとかえって邪魔になってしまう場合もある。その意味だと、特に提案する場合は、相手が何を求めているか、そして相手がどうなればその会社の価値が高まるのかといったことも理解して提案することで、互いの理解も深まるのかなと思う。そういう提案を互いにできるような会社になっていきたい(会場拍手)。(01:13:06)

安渕: ベンチャービジネスや新しいアイデアを理解するために、45歳以上、あるいは50歳以上の方々にお勧めしているのはリバースメンタリングだ。私もやっていた。自分より若いメンターを持つべきだと思う。30歳、あるいは20代の人たちに「今は何が面白いの?」と。今、GEではジョブシャドウイングが流行っている。そういう若い人たちが1日、エグゼクティブにくっついていく。すると、その人たちが、「え? なんでこんなことやってるんですか?」と、質問してきたりする。それで、「だって、これは大事だから」、「え? そんなこと、こうすればすぐにできるじゃないですか」なんてやりとりをしていく。そのなかで新しい仕事のやり方などが分かってくる。「自分としては当たり前だと思っていたことが、この人たちにはすごく不思議に見えるんだ」と。そういう発見がある。そんなふうにして行動を変えていくと、考え方も変わると思う。また、そうすると次にベンチャーの人と会ったときも視点が変わってくる。なかなかうまくいかないけれど、我々はそんなことにもトライしている。皆さんもやってみられたらいいと思うし、そのなかでさらに新しいアイデアが出てきたらいいなと思う(会場拍手)。(01:13:43)

井上: 素晴らしいディスカッショになったと思う。個人的には大胆な仮説を持つこと、そして失敗をしてもいい文化をベンチャーも大企業もつくっていこうというお話が日本の成長戦略にも貢献すると感じた。今後、ぜひ会場の皆様や視聴者の皆様とともにイノベーションをますます起こしていけたらと思う。改めて御三方に盛大な拍手をいただきたい(会場拍手)。(01:14:56)

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