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雇用、大学連携、税金、女性活躍、若者の働き方 「日本を変えるモデルをつくる 〜創業特区でのベンチャー生態系形成〜」後編

投稿日:2014/07/01更新日:2021/11/30

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堀:では会場の皆様にもいろいろと伺ってみよう。ちなみに、福岡に拠点を持っていらっしゃる方はどれほどいらっしゃるだろうか。…(会場多数挙手)あ、結構いらっしゃる。では、福岡市へのご要望やアイデアを募ってみたい。

会場(里見治氏・セガサミーホールディングス株式会社代表取締役会長兼社長):福岡だけでできるかどうかは分からないが、やはり人材の流動性確保が一番の課題だと思う。たしかにフィンランドは大変積極的にベンチャー支援をしているが、実はもう一つ、同国では多くのベンチャーが成功した最大の要因としてノキアの存在があった。ノキアの調子が悪くなったときに外へ出た数多くの人材が、いろいろなベンチャーで活躍するようになったためだ。日本では「人を切るのは最悪。経営者としてやってはいけないこと」と言われる一方、アメリカにはレイオフというシステムがあり、シリコンバレーのベンチャーなんて調子が悪くなるとすぐに人を切る。ただ、それによって人の流動性が確保できる訳で、ある会社では必要とされなかった人が別の会社で活躍することも多い。日本にも優秀な人はたくさんいるので、大企業からベンチャーに人が流れる仕組みをつくることができればプラスになると思う。

堀:雇用分野は特に要望を上げたい分野だ。今回、政府でもホワイトカラーエグゼンプションが再度議題にあがってきた。やはり裁量労働制が可能になると大きなプラスだと思う。それでまた「残業代ゼロ」とか「ブラック企業が横行する」とか、某新聞系に言われたりする訳だが、その辺は解雇規制の検討を含めて思い切り進めて欲しい。難しい点は多いかもしれないが、そうすることで企業も投資しやすくなると思う。

会場(時津孝康氏・株式会社ホープ代表取締役):僕は33年ほど福岡に住んでいるが、福岡には観光でいらっしゃる方が多くて、僕も接待等でいろいろと案内することが多い。ただ、本当に細かい話だが、福岡市の公共トイレはめちゃくちゃ汚い(会場笑)。そのあたり、なんとか民間の力を借りてイノベーション…、とまでは言わないが、トイレを綺麗にして外国に方々にも良質なサービスを提供していきたいと思う。

会場(高島宏平氏:オイシックス株式会社代表取締役社長):大学生のインターンシップは私たちの会社でも大変役に立った。私自身も18歳の頃、ブラック企業でバイトをしていたことがある。そこはアルバイト8人と社会人2人というぐらいの会社で月給は1万円程度だったが、アルバイトだった8人中、今は3人が上場企業の社長をやっている。ベンチャー起業家を増やすという意味でも大学は非常に重要だと思うので、たとえば福岡にあるすべての大学でインターンシップが単位になるといった施策を実現して欲しい。そうすれば大学生が社会人経験、とりわけベンチャーでの仕事をオフィシャルに経験できると思う。あと、将来的にはシリコンバレーにスタンフォードがあるように、福岡にアジアNo.1のベンチャー大学のようなものをつくっていただき、そこで会場にいらっしゃるような方々が先生になっていただくと良いのかなとも思う。

堀:福岡市催の大学連携等はあるのだろうか。

高島:「大学ネットワークふくおか」ということで具体的にやっているので、そこはばっちり提案ができると思う。

堀:グロービスでも今年4月に福岡で大学院キャンバスをスタートさせたが、実はすでに定員オーバーの状態だ。日本の大学は元々の地域からなかなか動かないきらいもあるが、たとえばグロービスは大阪・名古屋・仙台・福岡にキャンバスを設けている。キャンバスを広げていく発想も大事だと思う。

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会場(田口義隆氏・セイノーホールディングス株式会社取締役社長):保税区を提案したい。福岡だけでできるかどうか分からないが、たとえば保税エリアがしっかりしている釜山はすべての港を代替し、今はハブとなっている状態だ。福岡にもその能力はあるので、何らかの形でサブハブのような状態になると人もモノも寄ってくるのではないか。あと、たとえば当社では震災以降、買い物弱者を無くそうということで「コミュニティ・コンシェルジュ」という役割を掲げ、今はそれを全国展開している。その辺についてもいろいろと規制があるのでご相談したいと思っていた。

会場(アレン・マイナー氏:サンブリッジグループCEO):ここ15年間ほど、ベンチャー関係の仕事で福岡によく来ているが、明確に「あ、福岡が変わったな」という瞬間があった。高島さんが市長になったときだ。それまでも個人レベルではいろいろなプレイヤーがいろいろなことをしていたが、高島市長に変わってから完全に、前を向いて走る雰囲気になった。ただ、そうしたムーブメントはリーダーが変わると続かないときもある。高島さんがいつまで市長をやり続けるのか分からないが(会場笑)、今のうち、このムーブメントをコミュニティへ引き継いで定着させる必要があるのではないか。そうした引継ぎやコミュニティに数多くのリーダーをつくるような動きも欲しいと感じる。

堀:僕は福岡市長の応接室に行ったことがあるのだけれど、室内には歴代市長の写真が並んでいた。お歳を召し感じの方々の写真が続いて、急に30代という高島さんの写真になる訳だ(会場笑)。この変化は非常に大きいと思う。高島さんが継続的に特区で改革できるよう、ぜひ福岡市の皆様も応援とバックアップをして欲しいと思う。

高島:11月が選挙になるので(会場笑)、しっかり頑張りたい(会場拍手)。

会場(経沢香保子氏・トレンダーズ株式会社代表取締役会長):私自身は3回の出産を経験しながら企業経営を続けてきたが、やはり育児と仕事の両立に関しては大変悩んでいた。ただ、優秀な女性はたくさんいるので、たとえば福岡市で働く女性を対象にシッター代を半額補助する、あるいは福岡で起業したら女性に関する支援金が出る等、大胆な育児支援の仕組みをつくっていただきたい。ここ15年ほど事業として働く女性を応援しいているが、ベンチャーで素晴らしいサービスを提供している女性は非常に多いという実感がある。ぜひ、女性が働きやすく、かつ起業する女性が集まるような仕組みをつくっていただきたいと思う。

堀:今発言してくださった皆さんが全員アドバイザーとして入ってくれると(笑)、非常にパワフルでダイバーシティに富んだ動きができると思う。

会場(為末大氏:一般社団法人アスリートソサエティ代表理事):現役の頃、たとえば合宿で血尿が出るまで走っていたこともある。そうした苦しい体験を経て引退したとき、僕は「社会というのはどれだけ怖いんだろう」と思っていた。しかし、実際には現役時代の苦しみと比べるとそれほど痛いことや苦しいことはないなと感じ、すごく安心したことがある。実は人間の成長にも同様のことが言えるのではないかと、少し思っている。ぜひ、ブラック企業特区を福岡につくっていただいて(会場笑)、「この福岡でのみ、1〜2年限定で労働環境的にも徹底的に追い込む」と。それで成長していただいて、そのあと何かベンチャーをつくったりしていくのはいかがだろうか。とにかく、「ここは限界にチャレンジする特区なんだ」というものをぜひつくって欲しい(会場拍手)。

会場(中野智哉氏・株式会社i-plug代表取締役):当社の新卒求人サイトに登録している9000人のうち、およそ20%がアンケート等では「ベンチャーに行きたい」と書いている。ところが、学生と実際に話をするとベンチャーの定義がばらばらで、最終的にはベンチャーに行かないという状態だ。せっかく創業特区ができたので、ベンチャーの定義を再度多くの人に知らしめて欲しい。今は多くの人が都合良くベンチャーという言葉を使うし、学生も都合良く受け取ってしまっているところがあるので。

高島:逆に、どういった定義が相応しいとお考えだろう。

会場(続き):「市場を変える」、「市場シェアとしてここまで成長する」といったような、明確な指標を持っている必要があると思う。

会場(タカハシ氏):テクノロジー分野で一流を目指すのなら、スタンフォードやバークレーのような一流の研究大学院が地元にあることも欠かせない要素だと思う。ただ、そういうものをいきなりつくるのは簡単ではないが、たとえば私は1円もお金を払わず、お給料をもらいながらアメリカの大学で博士課程を経た。向こうではそれが当たり前だ。日本もそのぐらいのことをすべきではないか。中国やインドや韓国のトップにいる学生たちは皆、アメリカの大学に行きたがる。日本人は、「ブラック企業を受け入れる」「学生をすぐ使いたい」といった発想にすぐなってしまうが、世界中で一流の理系学生を獲りあっているという視点をきちんと持たないと、本当に質の低い学生しか集まらない。きちんとお金を使って一流の人材が集まるような魅力ある政策を掲げ、ファイナンシャルの負担も個人には当然求めないという形にしない限り、世界中でシリコンバレーになりたいという都市がある現状の環境下では無理だと思う。

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堀:残り5分となった。会場からのご意見に対する回答も含め、最後に壇上の御三方からそれぞれコメントをいただきたい。

高島:皆さん、一つには雇用分野へのご興味をお持ちだと感じた。では、今回の特区でそうした雇用についてどう考えていくか。当然、具体的な部分は国とやりとりをしながら決めていくが、まずは規制緩和というよりルールの明確化が必要だと感じているし、それはむしろ施策に近いとも思う。よく「日本では解雇しにくい」と言われるが、もう少しはっきり言うと「合理性のない解雇は無効」ということだ。ただ、その合理性の定義がない。だから「何をもって解雇すればセーフで、それ以外はアウト」という線引きが分からず、使用者側も被雇用社側も疑心暗鬼の状態に陥るのだと思う。そこで今回の特区では、国がお金を出して雇用労働センターというものをつくる。そうして、たとえばベンチャー企業が「こういう新しい業態で仕事をする」というとき、それに近い判例を持ってくる。具体的に「こういう線引きだから、ここからはアウトでここからはセーフ」という基準をかなり絞って示していく。スタートアップは短期間で利益を挙げる必要があるから、超優秀な人材を確保する必要があるだろう。だからこそ、そこで後々「あれ?騙されてしまった?」という話にならないよう、採用条件も含めて互いにしっかりと明記すべき部分は明記し、納得したうえで雇用契約が結ばれるようにしたい。今回の特区ではその環境をつくるというのが一つの大きな特徴になる。

孫:皆さんもおっしゃっていたことだが、僕も改めて強調したい。やはり10年といったスパンで考えると人材育成に尽きると感じる。IT業界ではすでにスタートアップもたくさん生まれていて、今はもう東京でもエンジニア等がまったく獲れない状況だ。何故か。就職したい人はたくさんいるが、スタートアップは即戦力が欲しい。しかし、そういう技術力を持った人がいないということで、「人がいない」と言っている訳だ。従って、そこを徹底的に集中して育成し、それで人材が豊富にいるということになれば自ずと企業は寄ってくると思う。やはり中期的な戦略としては人材育成が一番大事だ。そこにどれほどの投資できるかが鍵になると思う。

堀:グロービスの投資先にプログラミングを教えている学校がある。そういうところが自然発生的に大きくなり、大学や大学院になっていくと良いと思う。僕らが起業家として、大学もゼロからつくっていけば良いのではないかと感じた。

森川:今日は経営者の方が多いので、どちらかというと経営者目線のお話が多かったと思う。ただ、若い人がどのように働きたいのかを考えることも重要だと感じる。たとえば韓国ではIT企業に入ったら兵役免除ということにして同分野に優秀な人材を集めた。従って、若い人がどう働きたいと考えているかを理解したうえで、それを制度に落とし込むと良いのではないか。たとえば「住民税が3年間ゼロになる」、「3年で大学を卒業できる」等々。あと、特に大企業の場合は新卒でないと入れないところも多いから、皆、それが怖くて大企業に行く面もあると思う。従って、「ベンチャーに行けば2年経っても新卒扱いになる」といった施策も良いかもしれない。失敗してもやり直しができるような制度があると若い人はもっと安心してチャレンジするようになると思う。

堀:最後に、世耕さんにもコメントを求めてみたい。無茶振りだが(笑)。

会場(世耕弘成氏・内閣官房副長官/参議院議員):激戦を勝ち抜いて特区に指定された福岡にはぜひ頑張って欲しい。官邸でも、「福岡の取り組みが一番切れ味が良い」と言われているし、私どもとしても応援している(会場拍手)。

堀:激戦を勝ち抜いて福岡が特区となった。しかも創業特区だ。G1ベンチャーにはITばかりでなくさまざまな分野からベンチャー起業家が集まっていて、経営者も多い。そこに地域の首長や国会議員の方もいらしている訳で、皆でいろいろなことを考えていくことができると思う。では最後に高島さんから一言。

高島:福岡市でも、たとえば「福岡で起業したら奨学金を返さなくても良い」といった制度等、いろいろなことをやっていく。ただ、いろいろな施策を我々も進めていくが、あくまでも主役はベンチャー。皆さんが主役だ。今日はいろいろとご要望もいただいたが、アイデアもたくさんいただきたい。「この規制を緩和してくれたら俺たちがプレイヤーになる」といったことを、ぜひ主体的にご提案いただけたらと思う。よろしくお願い致します。

堀:ということで全体会を終わりたい。これから分科会でさらに議論していこう。ありがとうございました(会場拍手)。

前編はこちら

講演者

  • 孫 泰蔵

    連続起業家

    日本の連続起業家、ベンチャー投資家。大学在学中に起業して以来、一貫してテック・スタートアップの立ち上げに従事。2009年に「アジアにスタートアップ・エコシステムをつくる」という志を掲げ、ベンチャー投資やスタートアップ成長支援を開始。2014年には社会的インパクトの創出を使命とするMistletoeを開始し、世界の問題を解決する起業家の育成に尽力。そして2016年、子どもを未来の社会づくりに包摂するムーブメントであるVIVITAを創設するなど、その活動は広がりを見せている。著書に『冒険の書』(2023年)がある。
  • 森川 亮

    C Channel株式会社 代表取締役

    1967年生。1989年に筑波大学卒業後、日本テレビ放送網株式会社に入社。システム部門配属後、ネット広告事業や映像配信、モバイル事業ならびに、国際放送事業、BSデジタル放送事業などの新規事業プロジェクトを中心に幅広いメディア事業に関わる傍ら、1999年には青山学院大学大学院国際政治経済学研究科修士課程を修了しMBA取得。
    その後ソニー株式会社に入社。新規モバイルコンテンツ事業、ブロードバンド事業を担当。事業・サービスの企画、営業などコンテンツビジネスの責任者として事業全般に関わる。
    2003年にハンゲームジャパン株式会社(現・LINE株式会社)に入社。事業部長としてハンゲーム事業全般の運営を担当。取締役を経て、2006年10月、取締役副社長、2007年10月NHN Japan代表取締役社長に就任。 同年11月、ネイバージャパン株式会社設立に伴い、ネイバージャパン代表取締役社長を兼務。
    2012年1月、NHN Japanとネイバージャパン、ライブドアの3社が経営統合、引き続き代表取締役社長を務める。
    2013年4月、NHN Japanの会社分割・商号変更により、「LINE」「NAVER」「livedoor」のウェブサービス関連事業を行う、LINE株式会社代表取締役社長に就任。2015年3月、同社代表取締役社長を退任。同年4月、C Channel株式会社代表取締役に就任。
    2020年5月C Channelは東京証券取引所TOKYO PRO Marketに上場。

モデレーター

  • 堀 義人

    グロービス経営大学院 学長/グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー

    京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事を経て、1992年株式会社グロービス、1996年グロービス・キャピタル設立。2006年グロービス経営大学院を開学。2008年に「G1サミット」を創設。2011年には復興支援プロジェクトKIBOWを立ち上げる。2016年に茨城ロボッツ、2019年に茨城放送オーナー就任。2022年にLuckyFesを立ち上げ、現在総合プロデューサーを務める。2024年よりBARKSオーナー、世界最大のPR会社の米国エデルマン社 社外取締役。

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