水野:日本市場に流動性が無さ過ぎて上場の意味をまったく感じられない部分もある。逆にプライベート・エクイティであれば簿価で持ち続けることができるのに、上場した途端、株価が上下して投資家さんに「いい加減に売れ」と怒られる。でも、マーケットがあまりにも薄いから売れない。これは私のようなファンド運用者にとってかなり厳しい。そこを改善しないといくらプレゼンしても実際にはトレードできない状況が続くように思う。日本の、特にベンチャーの株式市場における流動性を高める方策として何かお考えがあれば、何がそれを阻害しているかという部分も含めて伺いたい。(43:26)
千本:難しい問題だ。たとえばマザーズにはまったく流動性がない。だから株価がいくら高くても少し売ったら一気に下がってしまう。そうした市場には世界一級の機関投資家やファンドは投資しない。やはりボリュームとして最低でも東証一部ほどあって、かつ流動性が高いこと。私がイー・アクセスをソフトバンクに売却すると決めた大きな理由は、ソフトバンク株の流動性が大変高いからだった。だからいくらでも売ることができるし、イー・アクセス株からソフトバンク株に変えることで流動性も大きく高まる訳で、ファンドとしても良かった。一日の取引で何百倍もの差があったので。そうした流動性を高めないと世界のお金は入って来ないし、相変わらず日本という村のなかで注目を浴びるだけという話になってしまうと思う。(44:37)
水野:鍵は国内機関投資家のビヘイビアだと思うが、先ほどのお話だと彼らはあまり相手にされておらず、どちらかというとフォロアーとのことだった。実際、マザーズでトレードしているのはほぼ、Yahoo!掲示板を見てトレードしているような個人だ。この状況が続く限り将来性もなかなか出ないと思う。本来、マザーズは機関投資家がベンチャーに投資できるようつくられた市場なのに、結果的には彼らの誰一人入れない、あるいは入ってこないマーケットになっている。武田さんはセカンダリ市場でまさに流動性を見ていると思うが、どうすれば機関投資家が入るようになるとお考えか。(46:13)
武田:明確に答えることは出ないが、やはり鶏と卵だと思う。たとえばマザーズから新しい日本の産業を創出するようなメガベンチャーが何社出てくるか。そのトラックレコード次第ではないか。ただ、たとえばマザーズで時価総額100億を超える会社は、およそ180社のなかで1/3程度だと思う。一方、最近は未上場市場で10億以上の調達を行う企業も増えている。そういう会社さんには時価総額で100億円以上がついている。だから未上場市場と上場市場の役割分担も大事というか、たとえば未上場市場でメガベンチャーになるような会社をきちんと上場市場へ連れていくようなファンクションも大切だと思う。そういった部分でも市場のセンチメントは大分変わると思う。ただ、繰り返しになるが、やはり一番重要なのはベンチャー市場発の産業をつくること。過去のことを言っても仕方がないので、とにかく今後、そうしたスケールの会社を何社つくっていくことができるか。過去の例を含め、改めて学ぶ必要がある。(47:11)
水野:実際、海外では誰もマザーズを知らないために海外機関投資家も同市場でほとんどトレードを行っていない。恐らく上場市場とすら認識されていないとのことで、出雲さんは本セッション前の打ち合わせでも「かなりショックを受けた」と仰っていた。その意味でユーグレナは、マザーズとの付き合いやその先の市場替えも含めた成長プランを、上場までに証券会社ときっちり議論できていたのだろうか。(49:03)
出雲:難しい。「皆で知恵出し合い、頑張ってマザーズに行こう」と、皆さんはきらきらした前向きな気持ちでG1ベンチャーにいらした筈だが(会場笑)。千本さんにも「マザーズ?そんなのあるの?」と言われ(笑)。でも、ここから頑張るのがベンチャー。ミドリムシは普段からそういう扱いに慣れている(会場笑)。武田さんがトラックレコードと仰っていた通りだ。流動性を高める特効薬があればとっくに誰か使っている筈だし、私もそれは知らない。流動性の課題に関しては取引所に頑張っていただくとして、発行体である我々としては、ただただ、「ミドリムシを給食に入れて栄養失調が治った」「ミドリムシからつくった燃料で飛行機が飛んだ」といったエビデンスを示していくしかないと思う。後者に関してはまだラジコン飛行機や車でしか証明できていない。本物の飛行機を飛ばすのは本当に難しく、制約も多い。たとえばジェット燃料となるケロシンという油をミドリムシからつくることは日本の法律で想定されていない。「原油からこういう風につくりましょう」とのマニュアルがあるだけで、ミドリムシからつくったものを入れるとも入れないとも書いていない。だから、やりたくてもなかなかできない。高島(宗一郎氏:福岡)市長には特区でそういうことをやっていただきたいと思うけれど。(49:46)
何を申しあげたいかというと、とにかくベンチャーは「こんな未来にします」と言って、そしてそれを実現するためにやっている訳だから、証拠を見せないといけない。「これで飛行機が飛びました」といったエビデンスを提示して、それでも注目を貰えないのならそのときに次の施策を考えるという話だと思う。今はそれ以外に我々の価値を高め、市場の流動性を高める方法はないというか、少なくとも私は知らない。(52:18)
水野:残り時間で少しずつポジティブな方向へ進もう(会場笑)。ともかく資本調達の手段として、そうした資本市場は常に銀行融資と競合関係にあると思う。ユーグレナはそのなかで2回、資本市場を使って調達した。銀行融資やプライベートなプレイスメントもあったと思うが、資本市場を使うと決めた背景は何かあったのだろうか。(53:06)
出雲:事実上、IPOまではデットで調達するのが不可能だった。で、IPO後は可能だったが、我々としては多くの方に正面からミドリムシの話をして、それで調達できるか否かを試してみたかった。「それを通じて会社の技術や発信力や意識も高まるのでは?」という思いもあったし、それらを総合的に勘案してエクイティを選択した。(53:50)
水野:千本さんは、たとえば「ここでファンドを入れて、ここで公募を」といった決定プロセスに関するお考えは何かあったのだろうか。(54:44)
千本:約1400億のエクイティは先ほどお話しした通り、ゴールドマン・サックス証券やブラックストーンをコアにしつつ、他にも日本のジャフコさん等に入っていただいた。で、デットはその約2倍まで。それで2200億円を調達した。このときも、やはりメインは香港上海銀行、ロイヤルバンク・オブ・スコットランド、INGグループ、それからフランスの農林中金のような一流どころから調達している。そこに日本の3大メガバンク等を付けていった。そのうえでデット・エクイティ・レシオを2倍以下ぐらいに抑えようと。難しかったのは、4000億をファイナンスして、かつ会社のコントロールステークも持つことだ。どこかの傘下のようになってしまうと我々の経営思想が実現しないから、その微妙なバランスを考えつつ倍率は2倍以下ぐらいで抑えようとしていた。そのうえで足りない部分はオリックスさんやJA三井リースさんといったリース会社で補った。(55:03)
水野:素晴らしいプランだと思うが、私としては同時に、「何故そこまでのお考えに至ったのかな」という興味がある。すごく、普通でないというか(会場笑)、日本企業の資金調達パターンとしては非伝統的だったと思うが。(57:31)
千本:日本の例はまったく参考にならなかった。私どもが見ていたのはアメリカだ。それで何度もアメリカを訪れては米企業の資金調達や会社経営の方法、あるいはレギュレーションのあり方を、微に入り細に入り勉強した。その意味でグローバルな資金調達を行ったという風に考えていただいて良いと思う。(57:51)
水野:アメリカでの資金調達方法は、たとえば種類株を使う等々、ストラクチャーも抱負だ。私もラクオリア創薬という製薬会社を日本でつくったとき、かなりこだわって種類株を入れた。すると上場の際、証券会社や取引所に「こういう変な株があると売れない。迷惑だ」と言われ(笑)、こちらのノウハウが完全に否定された。そのあたりでストレスはなかっただろうか。証券会社や取引所とのやりとりも伺ってみたい。(58:39)
千本:本当におっしゃる通りだ。アメリカはそこがすごくフレキシブル。ある種、経営層に優先権を持たせ、そうした種類株式の発行も許している。その点、日本の東証は大変堅い。世界で最も堅いと思う。だから水野さんのご指摘通り、日本市場でアメリカ的なグローバルファイナンスを行うにあたってのギャップには大変悩んだ。(59:12)
出雲:フレキシビリティの低さには我々も困っている。我々は資本市場から調達することで結果的にミドリムシを知っていただき、ファンとなってくださるような株主を増やしたい。とりわけ、正しく知っている方、そして長く応援してくれる方と仲良くしたい。これ、普通の感覚だと思う。たとえば、「ミドリムシを2年以上飲んでいて健康になった」という方がいれば嬉しいし、そういう株主の方は虫だと思っている方に口コミで正確な情報を広げてくださったりもする。だから我々は個人株主獲得に力を入れているし、そうした方々の優待ももちろん可能だ。ただ、優待ではあまり面白くないので議決権や株主提案権あるいは配当といった、優待とは別の株主還元を重点的に行っていきたい。でも、それができない。法律事務所の方に相談もしたし調査もしたが、結局、エグゼキュートできなかった。もう…、良くない市場ですね、本当に(会場笑)。(01:01:06)
武田:資本市場におけるファイナンスは、事業会社さんと市場とが同じ言語で話せる数少ないコミュニケーションツールだと僕は考えている。従って、出雲さんのように「何故そういうことをしたいのか」を伝えてコミュニケーションを取るというのは、マーケットに向けて成長戦略を発信するのと同じくらい大事だ。私自身は成長する会社が大好物だし、そういう会社には上場していただいて資本市場をフル活用して欲しいと強く思う。資本市場は同じ言語でコミュニケーションを行うことのできる機会ということを、もっと多くの事業会社さんに知っていただきたい。(01:02:28)
水野:ではそろそろQ&Aに移ろう。(01:03:29)
会場(田口義隆氏:セイノーホールディングス株式会社取締役社長):種類株式が発行できるようになると、ひょっとしたらいろいろな組み合わせでエクイティやデットが使えるようになって良いのではないかと思った。それで、たとえばユーグレナさんが世界一流のお金をマザーズ以外で組み込むことができるようになれば、今はマザーズ上場が大事なステップであっても、「あ、マザーズに行くと次にこういうステップがあるね」と。そんな話になり、コミュニケーションも豊かになるのではないか。今は種類株がTOPIX等でまったく相手にされないが、これではまずいと思う(会場拍手)。(01:04:17)
水野:INDEXも同様なので、もう少し努力して欲しいところだ(笑)。(01:05:47)
会場(小泉進次郎氏:衆議院議員):議論を伺っていて国会議員としてすごく悩む点がある。千本さんの見ていらっしゃる世界と出雲さんの見ていらっしゃる世界が、まったく違う。今、「ベンチャー支援だ」と国は言っているが、どこを見てサポートするべきなのか。千本さんのお話にあった、まさに世界の超一流に志高く焦点を合わるべきなのか、それとも出雲さんのような…、それが良いか悪いかはさておき、何かこう、きめ細かい日本的要素を応援すべきなのか。以前、出雲さんには「最初の段階ではあまり支援する必要ないですよ。そこで支援がなければできないのならベンチャーなんてやらないほうがいい」と言われて、本当に力強い言葉だと感じたが、その辺も含めてベンチャーに対する国の姿勢がどうあるべきかを伺いたい。(01:06:01)
出雲:前回小泉先生に申しあげた通り、応援しなければできないようなベンチャーはベンチャーではないから応援も必要ない。そして、ミドリムシはぜひ応援していただくという(会場笑)。とにかく、大事なのはどうすれば我々が千本さんのようになれるかだと思う。そこで、まさに今日のような「世界一流のお金を集める」といった高級なメンタリングを受けると、我々もさらに成長できるようになる。従って、上と下ではなくて、真ん中ぐらいにフォーカスしていただきたい。で、そこから本物になろうというフェーズで、たとえばメンターを紹介するといった形の支援が効果的ではないか。国として千本さんに、「楽隠居しないでボランティアで指導し続けなさい」とか(会場笑)、「千本塾を立ちあげなさい」という風にお話を進めて欲しい。そしてそのご経験やご見識を後進育成のために貢献いただけるような形をつくっていただきたいと強く思う。(01:07:40)
水野:もう一社ぐらいできるかもしれないが(会場笑)。(01:09:42)
千本:素晴らしいご指摘をいただいた。おっしゃる通りフェーズは違うものの、私としてはその両方が必要だと思う。まず、出雲さんたちのようなベンチャーが日本から今の10倍、100倍出ないと困る。それに…、出雲さんは本当に偉いし、「助けはいらない。自分できちんとやる」という言葉は力強いが、そうしたベンチャー企業にはさらに成長してもらう必要もある。そして世界中で、機関投資家からも個人投資家からも消費者からも高い評価を得ることのできる強いベンチャーに…、僕は「ソリッドなベンチャー」「尊敬されるベンチャー」と言っているけれど、そういうベンチャーに育てていかなければいけない。(01:09:48)
だから、出雲さんが今おっしゃったことに大賛成だ。私はシリコンバレーでも5社ほどの社外取締役を務めてきた。だからアメリカの社外取締役を内側から見た、数少ない日本人の一人だと思う。で、そうした取締役会に必ずいるのが、英語で言うところの‘grayhair’だ。私は70で、まだ白髪もあまりないけれど(会場笑)。要するに、かつていくつかのベンチャー企業を私のようにシリアルアントレプレナーとして創業・経営したり、あるいは投資したりして、成功も失敗も数多く経験している人々のことだ。そうした‘grayhair’たちが、たとえばミドリムシさんが世界レベルのベンチャーになるよう励まして、助言する。そうした人々が非常に大きな役割を果たす。(01:10:59)
水野さんの期待には反するが、もう70を超えているだけに私自身がもう1社興すつもりはない。ないけれど、若く幼く、コーポレートガバナンス等も危うい日本のベンチャーを、いずれグーグルやフェイスブックのような企業に育てあげるという、そんな日本の‘grayhair’たる役割を、私は今後、全力で担いたい(会場拍手)。それを政府にもぜひ励まして貰いたい。会場で「そういう役割の人が欲しい」という方がいらしたら、どんどん私に声をかけて欲しい(会場拍手と多数挙手)。(01:12:07)
会場(菅原敬氏:アイスタイル株式会社取締役兼CFO):一年半前に東証一部上場を果たしたが、現在の時価総額は100億未満。僕はCFOとして市場とのコミュニケーションをがりがり進めたいが、海外のカンファレンスにも時価総額1000億未満の企業は呼ばれにくい。欧州系の投資銀行が時折開催するスモールキャップ向けカンファレンスに頑張って行ってみると、皆、かなり会ってくれるし、少しでも買ってくださったりする。ただ、やはりトレーディングが発生しないとフィーを稼ぐこともできない訳で、なかなかスモールキャップに対して動いてくれないというのが現状だ。当然、成長と業績がすべてを癒してくれるのは分かっているから経営陣は皆必死に頑張っているが、それとは別に、マーケット側でなんとか出会いのマッチング創出といったことをしていただけないかなと、時価総額1000億未満の上場会社としては強く思う。(01:13:25)
会場(吉田浩一郎氏:株式会社クラウドワークス代表取締役社長兼CEO):ミクロの視点で何をすべきかと言えば、上場でも非上場でも、とにかく100億調達できる会社を増やすべきだと思う。私は創業後のこの2年ほどでおよそ14億を調達したが、2年前の未上場市場では3億でも無理と言われていた。しかし、普通株で個人補償、そこから個人補償が外れて普通株、そして普通株から優先株という概念が出てきた。それでベンチャーにとっても10億調達が普通のことになってきたと思う。マザーズでは10億以下の調達に留まる会社もあるなか、未上場で少し流動性が出てきたという意味で、光が見えてきたと思う。それなら鶏と卵だ。今流動性が高まらないのなら、「調達できるからお金が回り出す」という考えでも良いと思う。従って、上場会社も優先株のスキーム等を実現し、まず100億を調達できる世の中にして欲しい。(01:15:25)
水野:小泉さんの話に少し戻るが、そもそも千本さんの事業は世界中の皆に理解されるモデルだと思う。ただ、一方でミドリムシが海外でどこまで盛りあがるかというと、正直、温度差があって難しい面もあると思う。出雲さんが手掛けている領域に関しては明らかに日本のほうが温度は高いと感じるからだ。であれば、ひょっとしたらそちらの調達をしておいて、そこで余ったエネルギーで事業を成長させるという方向でも差別化に繋がるのではないかという気はする。ベンチャーというと一括りにされがちだがいろいろある。誰にでも理解できるビジネスモデルであれば良いが、そうでないものにも価値はあるだろう。従って、そうした領域では国のサポートというか、出資が必要になるのかなと感じる。最後にお一人ずつ、締めのコメントをいただきたい。(01:17:10)
武田:今日の議論を通して、資本市場側の人間としてまだまだできることは多いと感じたし、産業側にもたくさんお願いしたいことがあると思った。国に対してもある。皆で数多くの「ユニークジャパン」とも言うべき産業をつくっていくことができたら思う。皆で頑張りましょう。ありがとうございました(会場拍手)。(01:18:37)
千本:結局のところ、これからの日本を変えるのはベンチャーだ。積極的に、ダイナミックに、新陳代謝を進める必要がある。ただ、先ほど申しあげた通り、そのなかで世界に通用するソリッドなベンチャーにならないと途中で死んでしまう。だからこそ、休日にも関わらずこうして朝から集まってこられた会場の皆様に、私は最大の希望を置いている。頑張ってください(会場拍手)。(01:19:05)
出雲:我々は100億調達できた。従って次は千本さんのような‘grayhair’の方をお迎えしたうえでソリッドなベンチャーを目指したい。現在、日本では年間1兆円分、グローバルでは同20兆円分の航空燃料が消費されている。今後はLCC等がさらに増えてくることもあり、ガソリン等他の燃料と違ってジェット燃料は需要が今も拡大している。これを一定の規模感で供給できる会社になるため、山手線圏内ほどの大きなプールをつくるまで頑張りたい。ありがとうございました(会場拍手)。(01:19:39)
※前編はこちらから。