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「アベノミクス“第三の矢”〜地方経済の現場で考える成長戦略、中央から地方へ、地方から中央へ」 後編

投稿日:2014/05/09更新日:2021/11/30

水野:今のお話(前編)が本質的ポイントだと思う。例外をどこまで許すか。たとえば医療特区の議論をしていても、「日本の規制を特区では緩めてください」といった話になることが多い。ただ、それらの規制が成長を阻害しているのなら効果はあると思うが、薬品行政等に関して言えばそれだけが阻害要因ではない。本来、特区はかつて九州に設けられた出島のように、まるで外国のようになって初めて意味がある。日本の規制が少し緩い程度の特区にどれほどの意味があるのかという疑問はあると思う。(45:12)

ただ、いずれにせよそうした環境を前提にしつつ具体的アイデアをさらに掘り下げてみたい。現在の環境下で、どのような政策を要求すると効果が生まれるのか。自治体としても短期間で特区申請を出すように言われてやっているから、新しいアイデアを生み出す時間もないのだと思う。一つはJesperが提案した外国人の活用になると思うが、他にはどうだろう。あまり実現可能性を考えると面白くなくなるので、「不動産税ゼロ」等、多少ハードルが高いものでも良いのだが。(46:04)

松尾:そんなに難しい質問を突然しないで欲しいと思う(会場笑)。(47:14)

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シリコンバレーは国家戦略から生まれた訳ではない(Koll氏)

高島:特区には二つの考え方がある。一つは特区を採用することによって生まれる富で、その地域を発展させるというものだ。で、もう一つは、まずはその一箇所で規制を緩和して、それが上手くいったらロールモデルとして全国に広げるという考え方になる。今回の特区は国家戦略特区であり、国家のためにならなければ意味がない。その意味で言うと、福岡が今掲げているのは後者だ。特にスタートアップ支援では起業だけでなく、子供たちの教育から変えていこうと考えている。つまり起業予備軍をつくる段階、実際に起業する段階、そして起業後の成長段階という三つの段階に分けてロールモデルをつくっていきたい。(47:27)

これは福岡だけが成長するという話ではない。今の日本ではどこで誰がどのように起業しているのかというモデルが分からないから、起業予備軍のパイ自体が小さい。起業が子供の夢になっていないし、内閣府の調査でも「将来社長になりたい」と考える子供の割合は職業別で最下位だ。だから起業モデルをつくって全国に広げたい。それで昨年、本サミットにおけるG1首長ネットワーク有志で、「スタートアップ都市推進協議会」をつくった。そこで福岡のモデルを全国に広げるための取り組みを行っている。そうした実際のアイデアがありつつ、「でも、これはどうしても国の制度を変えて貰わないとできない」という点についてのみ、今回は特区申請している。従って福岡が目指しているのは、いわゆるバーチャル特区と言われているものだ。(48:47)

Koll:その点は本当に素晴らしい。日本では国家戦略の議論に終始することが多いけれど、シリコンバレーは国家戦略から生まれた訳ではない。ライフスタイルから生まれたものだ。若者達が「何かやろう」と考えて、そのなかで起業家が集まっていった。別にトップダウンで生まれた訳ではない。地域とは「It’swherepeoplelive」。そこに生きる人々は自分の人生を歩んでいる。従って、起業家に優しい環境をつくらないといけないし、霞ヶ関とはほぼ関係ないとも感じている。(49:51)

アジアの中での日本のポジション、福岡・九州が30年ビジョンの試金石に(松尾氏)

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松尾:ただ、そうは言っても新しい事業等を立ちあげようとしたときはいろいろと規制の壁にぶち当たる。後藤(玄利氏・ケンコーコム代表取締役会長)君のようにネットで薬を販売しようとすると手を変え品を変え邪魔をしてくる訳だ。たしかに国が主導する話ではないが、シリコンバレーのような自発的動きに期待するだけでは、日本ではなかなかベンチャーをピックアップするのも難しいのではないか。キャピタルと規制緩和がセットになっていれば、その先で何をするかは皆に任せれば良い。そこで行政が一つのビジョンに向けて動きやすい環境を提供しながら、国に対しては規制緩和をお願いする。だからこそ自治体がビジョンを示す必要がある。福岡には魅力があって数多くの人が集まる。九州には唐人町なんていう街があるほどで、歴史的にも中国や韓国の人々が入り混じっていた。この100年前後だけ互いに閉じて、「私は日本」、「私は韓国」と言い張っているような面がある。従って、繰り返しになるが、これから30年後に日本がどのようなポジションでアジアに残っていくのかというビジョンが欲しいし、その意味でも福岡あるいは九州が日本の試金石になるべきだと思う。(50:45)

柳川:答えになっているかどうかは分からないが、国家戦略特区が現在のような形でやることになった背景には、基本的には国家戦略があった。高島市長が仰っていた通りだ。規制改革を行いたいが日本全体でいきなりやるのは難しいというものに関して、「実験場として特区にやらせてみよう」と。ただ、それが国の戦略であったとしても、福岡は福岡でそのツールに上手く乗って、地域がより成長するような方向に持っていけば良いと思う。(53:19)

ただ、そこで大きな問題がある。国家戦略の観点で政府が特区を選ぼうとすると、「失敗しないだろうな」と思われるような、それなりの成果を挙げそうな地域を選んでしまう。特区に認定した地域の経済が悪くなってしまうと、認定した側が何を言われるか分からないから。だから、ストーリー的に比較的上手くいく素地のありそうな地域を、あるいは、あまりリスクを取らない戦略を選んでしまう。これではいけない。実験場だとすれば、本来はかなりのリスクがあるような、それこそベンチャー・スピリット溢れる政策パッケージを選ばなければいけない。しかし、今お話ししたような意味では国による認定にも限界があって、なかなか難しいと思う。(54:09)

もう一つ。規制改革は大事だが、これは長期的な成長戦略だ。規制改革によって短期的に、たとえば来年の成長率が一気に上がるかというと、そういう話でもない。だから長い目で見ていろいろと政策パッケージを用意しなければいけない。短期的に成長させるのなら投資減税等を追加しないと難しいのではないか。規制緩和や減税をセットにするとどちらの効果によるものかが分かりづらくはなる。ただ、特区で地域を盛りあげるのなら、そうしたサポート的政策もパッケージ化したほうが効果的だと思う。(55:20)

地域にはフルタイム幻想がある。人材活用をもっと柔軟に(水野氏)

水野:人という意味では、良いところと言われている福岡に起業家や若い世代が集まらないのは何故かという疑問もある。たとえば私は現在、ある県の顧問も務めさせて貰っている。そこで根本的な問題として常々感じるのだが、地域にはどうもフルタイム幻想のようなものがあるようだ。人を地方に還流・滞在させようと考えるから、人材を選びづらくなっているようにも思う。東京の人材が地方に比べて豊富であれば、そうした人材をどのように使うかも考える必要があると感じる。松尾さんも「今は福岡と東京で半々程度」と仰っていたが、その辺を先に検討するほうが現実的ではないだろうか。そのうえで、今は地方の人材を活用するしかないように思う。(56:18)

松尾:福岡に関して言えば、人はいる。東京から帰ってくる人間は多いし、そうした人々が昔に比べて「東京が」「東京が」と言わなくなっている。他の地方都市と比較してどうかということは分からないが、僕としては人が集まっていて、それなりに経済も安定していると感じる。逆に言えば市も企業もそれに甘んじている状態だ。今はかなり恵まれていて、「それに安穏としているところがあるのでは?」という忸怩たる思いがある。そうした人々とキャピタルを繋いで、そしてリスクを取りやすい環境にするという方向にこの街はシフトして、そこにリソースを注いだほうが良いと思う。私見だが、福岡に関してはそういうことを特区でやるのが良いのではないか。(57:18)

水野:Jesperは以前、アベノミクスに関する議論で、「日本全体の成長を地方に落とし、それを地方の人々に実感させるのは難しい」というようなことを言っていた記憶がある。難しいというということは分かったうえで、それでも地方の人達が国の経済成長を実感できるような政策はないのだろうか。(58:41)

Koll:地方の野心が大事になるし、自己責任できちんと成長していかなければいけないと思う。そこで、これもマクロの話になるが、地方は自らの歳出と税収をあまりコントロールできないので、行政改革の議論ということで地方法人税のあり方や消費税の取り分、あるいは地方債に関する議論を進めて欲しい。それによってお金に関する地方の独立性が大きくなるし、その過程で責任や関心も高まると思う。(59:18)

起業家が規制緩和を語るのは鬼門、「政府は何もしない」が前提だ(会場)

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水野:では、フロアからの質問を受けていこう。(01:00:56)

会場A:そもそも日本で特区の話が出てきたのは、国が道州制をやりたくなかったからだ。「補助金等の権限を地方に渡してしまうと自分たちの存在価値がなくなる」と、官僚が抵抗していた。それで特区の話が生まれ、政治家もそれに乗っかっている訳だ。そうした環境で一国二制度がどこまでできるというと、できない。民主党の総合特区も適当なところでお茶を濁していた。だから、地域ではそれなりの効果が出ているものの、当初お題目に上げていたような国の経済を引っ張る特区にはなっていない。では今回の国家戦略特区がどこまでできるのかと言うと…、安倍さんは徹底的にやりたいと言っているが、最初に出た特区の構想では駄目だった。さらに大胆なものを出すと仰っているが、抵抗は非常に激しく、難しいのではないか。ではどうするか。他の国と一緒にやればどうかと思う。たとえば、九州であれば九州経済連合会が香港と非常やシンガポールと非常に親しいので、そうした地域と一緒に特区をつくってしまうのはどうかと思っている。(01:02:35)

とにかく、我々としてはやりたいことがたくさんある。たとえば税の問題。今は法人税も相続税も住民税もすべて高いのに、国はさらに上げようとしている。しかし、地方とすれば税率を下げることで人々が外から来てくれるし、それで需要も増えるからトータルでは税収アップが計算できる。そこで国のほうは「それが日本全体に波及してしまっては…」という危機感を持つのだろうが、そこで香港政府やシンガポール政府とともに働きかける訳だ。それで外交問題にできるし、そのあたりから緩和の糸口が見えてくる気がしている。また、人を集めるために港や空港を充実させる必要もあるし、英語や中国語の教育も不可欠だ。たとえば私立のインターナショナルスクールは授業料が非常に高いので、特区に公立のインターナショナルスクールをつくるという考え方もある。高等教育に関しても同様だ。外国の良い大学と提携して人材を連れてくれば良い。産業に関してもいろいろある。九州大学を中心にして地域に合った産業を大学ごとに…、たとえば、エネルギー、ナノテク、あるいは医療という風に特化したうえで、徹底的に人と金を集めていく。そういうことをやっていけば良いと思う。(01:04:20)

会場B:特区に関して、今オフショアに流れているものを九州・福岡へ呼び込んでくるという視点があると思う。本来は日本の成長に繋がるようなものであっても、税制や規制がネックとなってオフショアに流れてしまっているものは多い。従って、国家戦略の観点からそれらを日本でやるのはどうだろう。地域からのボトムアップでアイデアを出すだけでなく、全国に対して、「オフショアにしたかったことはありますか?それを九州あるいは福岡ですべて引き受けますよ?」と。そうしたアプローチで成長の源泉を集めることができると思うし、そこでまた新しいインキュベーションも可能になると思う。(01:06:40)

会場C:国との戦いをどのように“略す”べきだろうか。私はKollさんがおっしゃる通り、移民、そして税制が課題だと思っている。ただ、これらは岩盤中の岩盤であり、そこで国と真正面からやり合っても上手くいかないと感じる。あるいはシンガポールのように独立という荒療治はあるかもしれないが、その点に関して永田町や霞ヶ関でロビイングをしても難しいと思う。そこで樋渡(啓祐氏・武雄市長)さんのようにできる範囲で実績をつくるのはある程度可能だと思うし、石原さんが仰っていた多国間・地域間協定も良いと思う。ただ、それ以外で国と喧嘩をせずに進めるアイデアが何かあればぜひ教えていただきたい。(01:08:02)

会場D:地域経済の成長に関しては、時間軸の視点と覚悟の二つも大切になると思う。まず、「いつ、良くしようという話なのか」と。実際、20〜30年かかるものだと思うが、そうであれば今20〜30代の人間がこれから何を考えていくべきか。特に規制緩和を語ることは起業家にとって鬼門であると思う。そこで、「もう国や政府は何もしない」という前提で、今、我々がどうすべきなのかを考える必要があると思う。20〜30年後に外貨を稼ぐものが日本にないという覚悟を、今、20〜30代がどれだけ持っているのか。そのことを前提にして、我々は自分の脳みそを本当に全力で使っているのか。そうした覚悟も大事になるという気がしている。(01:09:07)

東京が驚くような競争を仕掛けよ(Koll氏)

水野:そろそろ時間も迫ってきた。御三方には言い残したことと、できれば今のご質問等に対する回答や反論をそれぞれ1分ほどでいただきたい。(01:09:59)

柳川:国と喧嘩せずに上手くやるのは大変だが、先ほど申しあげた通り、今は国のほうでもアイデアが不足している。従って、とにかくいろいろとアイデアを出していくべきだと思う。岩盤は分厚いが、それを突き崩すという視点も半分は持ったうえで、一方では「こいつのアイデアを採用するといろいろ良いことがあるな」と思われるような方向に持っていくことが大切ではないか。それと時間軸については、実は国にも同じことが言える。具体的に「これをやっていけば、10年後にはこの辺りに来ることができる」といった長期戦略を、きちんと考える人が少なくなってきている。地方でも同じだ。しかし、そこは我々が真剣に考えなければいけない。政治家だけでなく企業の方にもそうした長いスパンで事業やプロジェクトを考えていただく必要があると思う。(01:10:41)

松尾:僕もそこは同じだ。何度も申しあげているが、この街のポテンシャルをどのように生かすかという長期ビジョンが必要で、本来であれば市長選でもそれが焦点になるような街になって欲しい。そこから具体的に、向こう3年あるいは5年の支出を決めていく。ビジョン自体は4年ごとの選挙で見直すことになるかもしれないが、とにかく、そうした視点を持った議論のなかで福岡が発展していくことを祈っている。(01:11:50)

Koll:長期的なビジョンとして、競争環境をつくることが第一だと考えている。勝ち組には飴。そして…、少し言い過ぎになるけれど、負け組には鞭。そういう環境をつくらないといけない。皆様にはその意味でも、「ChallengeEdo.」と言いたい。東京と競争して欲しい。福岡、香港、シンガポールで組むというのは本当に良いアイデアだ。それで“新しい3カ国”なんていう話になったら東京は驚くと思う。(01:12:37)

水野:東京と喧嘩することはないが、驚かせなければいけないとは思う。特区に関する各自治体のプランを見ていても、あまりびっくりしない。驚かせたあとに喧嘩をするかどうかということは戦略として考えたら良いと思うが、そもそも相手が驚かなければ喧嘩にもならないのが現実だ。それともう一つ。今の安倍内閣では経済政策を考える一つのキーワードとして、KPI(KeyPerformanceIndicator)ということがよく言われる。つまり、「何をしたいのですか?何ができたら成功ですか?」と。従って、各自治体でも、どのようにして国の経済成長に貢献するかというモデルをぜひ提示して欲しい。文化だけに注力する街があっても構わないと思うが、それならば日本人の文化に貢献する街ということがKPIになる訳だ。しかし、今は多くの地域が文化面でも貢献していないのが現状であり、経済のほうはJesperも言っている通りだ。たとえば大阪は完全に日本全体のGDPを引き下げている。そこで自治体に、「どうすれば日本のGDP成長に貢献できるか」といった具体的メジャメントやKPIを出していただかなければいけない。冒頭の繰り返しだが、国からの分配で地方があるという発想から、地方経済成長の合計が国のGDP成長に繋がるという発想に変わっていけば、少し変わってくるのではないかと思う。ご清聴ありがとうございました(会場拍手)。(01:13:14)

※前編はこちら

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