キャンペーン終了まで

割引情報をチェック!

ソフィアバンク・藤沢久美氏×ドットジェイピー・佐藤大吾氏×ETIC.・宮城治男氏「NPOが創る参加型社会」

投稿日:2010/06/09更新日:2019/04/09

藤沢:私たちは昨夜、「なぜこのG1サミットでNPOなんだろうか」と、かなり長い時間にわたってディスカッションしました。先ほど、堀(義人・グロービス・グループ代表)代表に「なぜNPOのセッションをつくったんですか」と聞いたところ、「社会起業家に出会ったときに大変新鮮な驚きがあって、いろんなことを考えるきっかけになった」と。「この会場にお越しの方々にも、社会起業家、NPOの活動を知って、何かの気付きを得て、事業や仕事の中で活かしていただけたらという想いがある」ということなんですね。

今日ご登壇なさるお二人ともNPO法人の方でいらっしゃるので、まず、社会起業家やNPOというものはいったい何なのか、その辺りから議論をさせていただき、問題を浮き上がらせます。その後、皆様から「ウチはこんなことをやっているよ」「それはどうなの」といったお話とか、「実際こういう考え方がある」といった議論を投げかけて頂ければと思います。

まずは佐藤さんに、お仕事の内容、自己紹介、そしてまずは NPOがどういう状況にあるのか。佐藤さんご自身は、「新しい公共」の事務方で、内閣府政策調査員という役職もお持ちです。その辺りの政策に繋がるところまでお願いします。

文化なんて変えられる(佐藤)

佐藤:皆さん改めまして、よろしくお願いいたします。私自身は、株式会社とNPOの二足のわらじで14、5年やって参りました。堀さんが問題提起された、社会起業家とはいったい何なのかというような話について、私自身も非常に考える時間が長かったと思っております。

私がNPOを設立した1998年当時は、「社会起業家」という言葉がありませんでした。ですから、僕が自身を社会起業家として意識したことは、一度もありません。いまだにそうです。メディアの方々が社会起業家としてとりあげてくださるので、最近そう呼ばれることも増えました。頭の中で、社会起業家としての僕、株式会社の経営者としての僕。この二つの人格は分かれておりません。

やっている内容を簡単に申し上げると、現場で支援活動を行うNPOを最初に立ち上げました。大学生たちにの社会勉強として、あるいは政治との距離を近づけるために、地方議員や国会議員の下でインターンシップを行うというプログラムを提供しています。1998年にスタートしたとき、最初に大学生をインターン生として受け入れてくださった議員が、河野太郎さんら11人の国会議員でした。最近は昨日お話しされていた三木谷浩史(・楽天代表取締役会長兼社長)さんにも大変お世話になっていて、政治の IT 化にも取り組んでいます。与野党の約720人の国会議員の、各法案に対する賛成・反対の情報を全部掻き集めて、それを楽天(楽天LOVE JAPAN)、ヤフー(Yahoo!みんなの政治)、そしてサイバーエージェントのアメブロ、3社に提供しています。

1998年から2004年ぐらいまでこの活動に取り組んだ時点で私が考えたのは、「なかなか世の中が大きく変わっていかないNPO業界全体をもっと盛り上げなければダメだ」ということでした。NPOは総じて胡散臭いというか、よく分からない存在であるという声がとても多くて、応援しようにもどこが信頼できる団体なのか判断できないという声もよく聞かれます。だから株式会社市場における『四季報』とか帝国データバンクのような機能が必要だと思い、信頼できるNPOのデータベース作りから始めました。全国に3万9000あるNPO団体のうち、事業規模の上位6000団体ぐらい直接訪問して、こういっては僭越ですが、審査・評価し、そのデータベースを運営しています。

「支援型NPO」という構想が頭の中で膨らんでいったのもそのころです。現場で支援活動に取り組むNPOを応援する仕組みが必要だという認識を強くし、立ち上げたのが、「チャリティ・プラットフォーム」です。名前の通り、「日本における寄付文化の創造」をミッションに掲げています。その手段として3つの柱があります。日本で最も信頼性の高いNPOデータをまとめ、NPOの情報を公開すること。会員サービスを通じて、社会貢献と企業・NPOを結ぶこと。企業とNPOが相互にwin-winとなる社会貢献の関係構築を提案することです。

具体的には、企業の方々に対してNPO支援を求める活動をしていまして、例えば募金箱を全国にいっぱい置いていただく。英米と比較して、日本はチャリティ文化が根づいていないといわれますが、チャリティ文化が根づいていないのではなくて、募金箱の数が少ないということなんです。牛肉だって150年前まで日本人は食べていなかったんですが、今はみんな食べているように、文化は変えられると思っています。文化がないんじゃなくて、募金箱が少ないだけだと思っています。機会や情報の接点が少ないだけです。また、商品の一部が寄付に回るような仕組みづくりも企業に提案しています。

あと、制度として寄付やNPOに関する法律・政策に関わっていかなければならないと思い、「新しい公共」の円卓会議の事務局も務めています。中々具体的な姿が見えないと言われていますが、5月の最後の取りまとめに向けてラストスパートをしているところです。

志を立てることによって社会の資源が動き出す(宮城)

藤沢:有り難うございます。では続きまして、宮城さんに自己紹介をしていただこうと思います。

宮城:私は大学在学中の1993年に、今の仕事をスタートしました。もともと私は早稲田大学に通っていたんですけれども、早稲田は学生時代、結構好き勝手にやっている人が多いんですよね。音楽をやったり、演劇をやったり、海外に飛び出して帰ってこなくなったりとか、あるいは政治を変えるとか、メディアを変えるとか言って、息巻いている先輩方を見て、私は大学に入ったとき「あっ、これぞ大学だ」と思ったんです。けれども、皆さん、大学を卒業する頃になると、その活動から足を洗ってしまって、また偏差値で選ぶように、自分の就職先を上から眺めて、順に「入れてください」とお願いして回っている姿を見て、つまらないと思いました。

これだけの自由と豊かさのうえに生活をしていて、一生懸命勉強して築いてきた自分の基盤に、自分の人生が縛られているような人たちの姿を見ていて何ともいえない気持ちになりました。自分で自分の可能性を閉じてしまうような今の日本の空気を、打ち破るようなインパクトを何か提供できないかなと思っていました。頑張ってきた人の足を引っ張り合うような日本の空気を、何とか変えられないか。問題意識は小さい頃から持っていたんですけれども、そこで出会ったのが起業家精神というメッセージであり、起業家としてのチャレンジを若い世代に伝えていくことでした。

具体的には、大学に起業家の先輩方、グロービスの堀代表などに10回ぐらいお越しいたただきましたけれども、お話をしていただいたりしていました。そういう方に登場いただいたり、インターンシップでベンチャー企業やイノベーションの現場で人を育てていくことに、力を入れていきました。

当時はNPO法人がありませんでしたが、私はこのスタイルにはまってしまったんですね。というのは、例えば大学に起業家の先輩に来ていただいて、学生たちに話をしていただく。起業家の先輩方は、皆さんボランティアで来てくださるんですね。金銭の報酬はありません。「忙しい忙しい」と言いながらも来ていただいてお話しいただくと、だいたい1時間の約束のところ、2時間とか3時間の話をしてくださって、かつそのあとの飲み会まで来て、飲み代まで全部出してくださるというようなことが常だったんですね。

そういう活動をしている間に、メディアが取り上げてくれたり、行政の方が応援してくれたりとかいうことを通して、このように志を立てることによって、社会の資源が動き出すんだということに気付きました。私は資金を一銭も掛けないまま、色々な人が動いている。面白いですよね。利益の最大化よりも、「社会に与えるインパクトの最大化」を考えて動き出したときに、いろんな資源を乗数的に総動員できる。この面白さがNPOの醍醐味であり、非営利で中立な立場で仕事をしていくということの可能性だと思いました。

人材育成に関しても、社会の資源という視点を大切にしたいと思い、例えばインターンシップのプログラムでは、地域の大人たちや社会で活躍する先輩たちが師匠になって、次の世代のリーダーを育てていくという仕組みとして取り組んでおります。

昨日、よさこいソーランが披露されましたね。よさこいには鳴子を持っているということと、ソーラン節のワンフレーズを必ずいれるという型があります。型があることによって、実はものすごく自由でオリジナリティ溢れる踊りが創造されている。これが日本人の特徴なのかは分かりませんが、何かしらの信頼できる型がどこかにあることで、逆に自由なマインドが発露されることがあるのかなと感じました。

日本では従来、柔道や剣道などといった「なんとか道」を、子どもの頃から叩き込まれてきたということがあると思います。身体を通してリスペクトできる先輩や大人たちの動きを真似することによって、そこから精神の自由であったり、あるいは知性のようなものが発露されていくというのが、日本においては、人材育成の一つの基盤じゃないでしょうか。

師匠の背中を見られる現場で、人を育てるということ。地域やイノベーションの現場をキャンパスにして、人を育てるというようなことを取り組んでいます。いま経済産業省にも協力をいただいて、これまでETIC.が取り組んできた人材育成の仕組みを、全国の30地域ほどに広げて、いろいろな地域で私どもの存在のような人たちが活躍して、人を育てています。

藤沢:いま非常に興味深いというか、面白い言葉がありました。それは、「インパクトの最大化ができるのがNPOだ」ということですが、企業人の方がどうお感じになったのか。インパクトの最大化というのは、経済力を持った企業のほうができるんじゃないのか、という考えもあるでしょうし、これも一つの議論のタネになるのかと思いながら聞いておりました。

もう少しNPOの整理をしたいと思います。佐藤さんから、NPOの現状をご披露いただきたいと思います。

日本の寄付はイギリスの10分の1、アメリカの150分の1(佐藤)

佐藤:いよいよ本論に入っていきます。NPOと普段関わっておられるとか、自分で運営されている方はどれくらいいらっしゃいますか。半分ぐらいいらっしゃいますね。これは非常にレアですね。企業経営者とお目に掛かり、「NPOとお付き合いがありますか」と聞くと、ほとんどの方が「ない」とおっしゃいます。だから多くの場合、NPOとはいった何なのかという話から始めなければなりません。

今日はご承知の方も沢山いらっしゃいますが、改めてNPOと株式会社の違いを、機能としてお話させていただきたいと思います。当然のことながら、NPOは株式を発行できないわけですね。資本を調達しづらいので、大きな投資ができずに、ほとんどのNPOはスモール事業になっています。また、NPOは利益を配分できません。株式がありませんから、ストックオプションもありませんし、キャピタルゲインもありません。配当もありません。

役員報酬は制限されておりますけれども、一部は認められています。それから給料として取るのはOKです。誤解のなきよう申し上げますが、「NPOなのになんでお金を取るの?」とか「なぜ給料を取るの?」というご質問を沢山いただきますけれども、この点においては株式会社と何ら変わりがありませんので、給料が支給されてもいい。しかも法律上でいうと、別に1000万円プレイヤー、1億円プレイヤーが出ても、違法ではない。ただそんな人はなかなかいませんけれども。

それからNPOは寄付金収入に税金が掛からない。これは、ほぼ唯一といってもいいほどのNPOのメリットで、いただいた寄付金は、税法上では「不課税」と言うらしいんですが、分かりやすく「非課税」という言い方をさせていただきますけれども、課税されません。貰えるものなら、寄付金をいっぱい貰ったほうがいい。せっかくNPO法人を選んだのであれば、寄付金を貰わないともったいない。

後はこれが非常に問題なんですけれども、寄付者への免税がほぼないと申し上げてもいいと思います。まさにいま鳩山内閣のほうでは、寄付税制を変えていこうとしています。先日、日本経済新聞の一面でも書かれた通りです。寄付金に関する税制が変わり、寄付をすると、税メリットが得られるかもしれないという状況までようやくたどり着きました。

寄付の状況を申し上げますと、日本で個人寄付は2000億円程度、法人寄付は5000億円程度の市場です。全国で3万9000団体ほどのNPO法人が存在しております。そのうち、寄付者への税メリットが認められる認定NPO法人というものあるんですが、これが100団体程度です。収入規模が3000万円ぐらいあるNPO法人は、全体の15%ぐらいで、1億円以上が1%程度だと言われております。専従の職員を1人雇えるクラスが、3000万円ぐらいの団体になってきます。逆にいうと、85%の3000万円に満たないNPOは、ほぼ全員がボランティアでやっていらっしゃる。専従スタッフがいないという状態のNPOが、大部分を占めているということですね。

海外ではどの程度かというと、イギリスでは日本の10倍ぐらいの個人寄付があります。アメリカは150倍ぐらいあります。荒っぽい表現になってしまいましたが、それくらいの規模感です。特徴は、個人寄付がとても多い。企業寄付は少ない。コーポレートガバナンスが効いていて、経営者といえども、株主から預かっているお金を勝手に寄付するというのはけしからん、という意見も多く、企業が寄付するというケースはあまりないと、直接いろいろな方から聞いてまいりました。概況については以上です。

藤沢:そういう意味では、NPOというのは日本では存在しているけれども、自立力がある団体はほとんどないというふうに考えてもいいのでしょうか。

佐藤:ユニセフとか日本赤十字といったとても大きいNPOがある一方で、純国産NPOで収入100億円を超えている団体はないという感じがします。アメリカやイギリスからヒントを得て、その事業モデルを日本で展開しているというところは、数十億円の規模になっているところもありますけれども、専従職員を雇える純国産のNPOというのは、少ないという印象です。

寄付税制は実は本丸ではない(佐藤)

藤沢:「新しい公共」という形で、NPOの税制を変えようとか、NPO法人の制度をもう少し緩やかにしようとか、いろいろな議論がされてますが、今まさに国として政府として、NPOの存在が必要であるという判断で議論が起きているかと思います。その文脈で伺いたいのですが、今なぜNPO は必要なのでしょうか。

佐藤:寄付税制を検討している立場として、誤解を生じさせることを承知で申し上げるんですが、寄付の文化を日本に根付かせたり、NPOを力強く育てるときに、一番重要な政策は寄付税制の改正ではないと思っています。今現在でも、寄付するメリットが認められる認定NPO法人が100団体は存在するわけです。じゃあこの団体に寄付がジャブジャブ集まっているかというと、ほとんど集まっていないわけです。したがって寄付税制を変えたところで、寄付金が集まらないことがもうすでに証明されている。寄付税制は実は本丸ではない。

重要なのは、身を正す意味でも申し上げますけれども、NPO自らが寄付者に対する関係性をもっと親密にするとか、ちゃんといただいた100円や1万円の寄付金が、どのように社会を変えたかということを、分かりやすく報告するということが、まったくといっていいほど足りていない。

僕も少ないながら、寄付したことがあるんです。司馬遼太郎さんが亡くなったときに記念館を建てるというので、そこに少ないながら寄付しんですが、楽しかったんですね。一方で、人から頼まれてNPOに寄付をしたことがあります。そのときは「有り難う」とお礼を言われましたが、次の連絡は1年後でした。久しぶりに連絡があったかと思えば、「今年も寄付をください」と言われて、やはり嫌な気持ちがするわけですよね。困ったときだけ頼みごとに来るという状況です。何も面白くない。2年3年と続けて応援したいと思ってもらえるNPOになること。このことが重要です。

現にイギリスの企業経営者に聞いた話ですが、イギリスではアメリカとちょっと違っていて、小口の寄付が多いんです。アメリカでは投資家のウォーレン・バフェットが6兆円寄付するとか、大富豪が巨額の寄付することが度々ありますが、イギリスではあまりそういった例がなくて、一般の方が無理のないお金を寄付することがとても多いんですね。

それを聞いていると、寄付税制はたしかに日本より進んでいて、寄付者メリットがあるにもかかわらず、それをもらいに行く人は実はそんなに多くはない。要するに面白いから寄付しているのであって、税制メリットがあるから寄付しているわけじゃないんだ、ということを言われたんですね。ああ、なるほど、やっぱりそうかと。寄付税制を変えたところで、寄付金が増えるのではなくて、やはりNPOが寄付者を楽しませている。活動意義を感じさせてくれているから、提供者は寄付税制を受けられるかどうかにかかわらず、寄付をどんどんしているんだと感じました。

だから日本もまずは、我々NPOの者が、提供者に対する満足度を高めていくという努力をして、そのうえで寄付税制を変えてくれると、鬼に金棒でしょう。この順番ははっきりしていると思います。

「社会起業」のマインドは元々日本人が持っていたもの(宮城)

藤沢:なるほど。有り難うございます。寄付することが楽しい。ここが一つのポイントなのかもしれないですけれども、宮城さんにうかがいたいと思います。宮城さんは社会起業家を支援するという仕事を、もう何年されているんでしょうか。

宮城:17年です。

藤沢:長いですね、本当に。その間随分流れは変わってきたと思うんですよね。そういうNPOを支援したいとか、寄付をしたいとか、サポートしたいという人は増えてきて、それはたしかに宮城さんと関わっていると楽しいということなんでしょうけれども、今度は逆の立場から伺います。NPOがそれだけ注目されるようになってきたのは、何が要因なんでしょうか。みんながもっと楽しみたいから関わっているというような、そんな単純なものではないかもしれないし、その辺りをどうご覧になっているのか伺いたいんです。

宮城:もちろん、社会の様々な課題の受け皿として、行政や企業が対応しきれないというような背景があります。ただ私がより強く感じるのは、実際にNPOをやりたいという側の人たちが、このスタイルの仕事の仕方を求めていたという要因があります。私がもともと社会起業家に焦点を当て始めたというのも、若い世代、例えばITベンチャーの支援を1990年代の後半にやっていた中で、彼らのマインドは今でいう社会起業的なマインドだったからです。インターネットというのは「パワー・トゥー・ザ・ピープル」のツールであって、新たに人の可能性を、社会の可能性を広げていくものだという信念が彼らの中にあったわけですよね。

ところが、実際に彼らを支え、取り巻くビジネス側の考え方やマインドは、すごく営利主義的で、エゴイスティックなんです。「IPOした後自分はどうするんだ」というところで、投資家のプレッシャーを受けつつも、立ち往生しているような仲間をたくさん見たり、場合によっては心の病にかかってしまう人もいるわけです。金銭的な大成功を収めたがゆえに、心が病むような構造がある中で、彼らはむしろ、社会を良くしていくことに関わるといったことが、一つの存在意義になる。

これまでのようにただ大きな会社をつくるとか、大きな収入を得るとか、権力を得るということに対して、あまりモチベーションを感じられない。あるいは感じたとしても継続しないという世代であるように思えます。彼らが自分の人生における生き甲斐を懸けてチャレンジするスタイルとして、NPOや社会起業的な考え方を求めていると感じました。

藤沢:なるほど。社会起業家の最近の流れを見ていると、何か若者たちの活動だという感じがすごくしませんか。NPOというとお年を召した方も多いんだけれども、社会起業家というと、非常に若い人たちがプレイヤーの中心で、新しい生き方や働き方を探し求めて、そういう活動をしているという印象です。これを別の見方をすると、世代間の断絶みたいにも見えたりもします。ではずっと企業として利益をちゃんと上げて、日本の経済成長を支えてきた人たちと、社会起業家とは、形が違うんだろうか。そこで断絶が起きるものなのか、起きているものなのか、その辺りも是非が伺ってみたいんです。社会起業家によるNPOと、利益を上げて上場するような企業は、決定的に違うんですか。

宮城:私はもともとの日本の企業経営者は、地域や社会に対しての貢献意識を旺盛にお持ちだと思っているんです。同様に、企業経営にそういうマインドがなければ、商売は成り立たないものとおっしゃる経営者の方は多い。私はそれが正しいと思います。「社会起業」という概念はアメリカやイギリスから日本に導入されたとされているけれど、もともと日本人のマインドの中にあったものでしょう。

しかし、私どもより下の世代の人たちが見てきた社会やビジネスのイメージが、必ずしもそういうものではなかった。特にここ数十年、右肩上がりの経済成長の時代が続くなか、そして時に歯車としての意識しか持てない、依存体質が染み付いたような組織人、さらには自分自身の生き様や哲学を考える機会をあまり持たないまま来てしまった人たちのエゴイスティックなビジネスや仕事に対して、若い世代の人たちが共感できなくなっている。そのギャップはあります。ただその中でも、今も高い志を持って、社会起業的マインドを持って仕事をされている方もいらっしゃるでしょうし、そのリスペクトなしに、「俺たちは社会起業家で、株式会社の人たちは営利ビジネスだから金儲けだ」という分け方をするのは、あまり美しいことではないと思います。

それぞれの法人格のメリットデメリットを見極める(佐藤)

藤沢:なるほど。有り難うございます。佐藤さんは先程、社会起業家としての自分と株式会社の経営者としての自分を分けていないという話をされていましたが、これについてどうお考えでしょうか。また、分けて考えないのであれば、なぜNPOという器をお使いになるんでしょうか。

佐藤:NPO法人、社団法人、財団法人、社会福祉法人および株式会社というのは、みんな法人格が違いますし、それぞれに法律があるわけですから、それぞれにメリットとデメリットがあります。何をやりたいかによって、どの法人格を選ぶか見極める。いわば乗り物みたいなものだと思っています。先程ご説明した通り、NPO 法人でできることできないこと、株式会社でできることできないことを、しっかり冷静に判断して、選ぶべきです。

例えば、私はドットジェイピーというNPO法人を1998年に立ち上げました。これはもともと私の株式会社の中の一事業部だったんです。一般企業のもとでのインターンシップ部門は、企業の人事部採用予算をいただけたので、黒字になっていました。一方で自治体や中央省庁、国会議員や地方議員のもとでのインターンシップ部門は、収益的には採算が合いません。企業が払ってくれるお金と議員個人が払ってくれるお金は、桁が違いますから。しかし、国会議員のインターンシップのほうが、企業のインターンシップよりもはるかに多く報道されるんです。なんとか続ける方法はないものか。議員の方々も喜んでくださっているし、大学関係者からの問い合わせも多かったんです。

何とか続けたくて、財政をうまく回して経営状況を安定させるための方法として思い付いたのが、寄付や会費を頂こうじゃないかということです。普通のビジネスというのは受益者負担ですから、お客様から直接お金を貰いますが、NPO法人ドットジェイピーのビジネスモデルのお客様というのは大学生です。そんなにお金がありませんから、ちょっとしか貰えない。だから、国会議員の先生方からもちょっとずつ貰おう、地方議員の先生方からも貰おう、そして第三者からも貰おうと。世の中のためになるのであれば、みんなが応援してくれるはずだと思って、その制度を導入してみたんですね。これは株式会社的ではないと直感して、NPO法人を選びました。

奇跡的なタイミングなんですが、その経営的課題に直面したのが1998年でした。その年の12月にNPO法が施行されたので、運命だと思ってNPO法人を選んだわけです。株式会社という選択肢もありながら、議員のインターンシップ部門だけNPO法人に分離させたんです。そしてボランタリー経済という仕組みを使って、運営スタッフもボランティアを活用し、寄付金を頂いて、国会議員の先生方からもお金を頂くという仕組みを導入してみたら、何とか今日ここまで13年間続いたということです。

藤沢:なるほど。今のお話の中で一つ、面白いと思ったのは、社会のためになることをしているのだから、関係のない人も寄付してくださいよと。それでお金になるのだったら、企業だって社会のためになるのだから、お金くださいと言ってもらえないものだろうか。

佐藤:それは税法の問題で、株式会社が寄付をいただくと税金を沢山取られるので、もったいないということと、寄付金を集める力があれば、本業で商品を売ったりサービスを売るほうに集中しようじゃないか、という考え方があるのかなという気がします。

藤沢:そのときに、寄付という形で貰うのではなくて、企業経営者が「私たちは社会のためになることをしているのだから、利益を上乗せさせてくださいよ」と。松下幸之助さんの言葉で、利益というのは、社会に貢献している証である。より利益を上がるということは、もっと貢献せよという社会からの声である、という言葉がある。そう考えたならば、この社会起業、NPO的なやり方、考え方というのが、普通の企業の中にもつくれないだろうか。もしくは、一緒にできないだろうかということが、フッと浮かび上がってきます。宮城さんも企業とコラボレーションされていますけれど、いかがでしょうか。

宮城:できると思いますし、企業セクターのほうに圧倒的に人材も経営資源も沢山存在しているので、その力が活かされずして、狭いところでNPOの議論をしていてもあまり面白くないと思います。

藤沢:そういう意味では、今日はNPO以外の方が多いと思いますので、皆様からのご意見、アイデアをいただきたいです。

NPOの存在意義とはインキュベーション?

会場:ちょっと前にプロノバの岡島悦子社長が週刊東洋経済で、「アラサー世代は、成功するとかお金を持っていることにあまり興味がなくて、社会起業家に向いている」という記事を書かれていました。私は会社をつくって上場させてしまったクチなので、アラサー世代には入らないわけですが(会場笑)。アラサー世代がどんなことを考えているのか気になって、このセッションに参加させていただきました。

3万9000団体のNPO 法人があると聞いて、結構な数だと感じました。その3万9000団体が、それぞれの思いがあってNPOをつくるのは分かります。しかし、もし本当に寄付金に頼って経営をしているとなると、資本の論理でいうと非常に受け身型だという感じします。そこが何となく心配なんですが、どうなんでしょうか。

佐藤:これは昨夜、激しい打ち合わせをして、僕もハッとさせられたことがあったんです。事業領域として、受益者負担が成立しづらい分野があります。例えば、ホームレスに対してパンや毛布を差し上げる事業というのは、受益者がホームレスの方ですよね。その人から料金を頂くのは、望むべくもない。受益者負担が成立しづらい分野に関して乗り出していく人たちを、社会起業家というふうに見られているのかなと思いました。

受益者負担が成立しないのだから、ほかからお金をもらわないといけない。その重要なパートナーが行政府です。NPOは、行政府から助成金や補助金を貰っていますよね。典型的な例が、介護福祉の領域におけるNPO。国が9割の保険を払ってくれるわけなので、受益者負担は1割で結構だということです。医療もそうですね。3割負担で結構。7割は国が払ってくれるということがあります。

受益者負担がしんどいところに対して、乗り出していく社会起業家。寄付金に「頼る」という言い方をされましたけれども、アラサー世代はもっとしたたかで、「頼る」というよりも、「戦略的に寄付金を集めている」という方がしっくりきます。

会場:企業とNPOの違いを考えている間は、堂々巡りで先がないような気がしています。考えたいのは、何を満たしているのかという部分です。受益者負担が成立しにくい分野のニーズを満たしていくんだということだとすると、行政がなぜそれをできないのかという問いが立ちます。行政が埋めきれていないものを、どういう形で埋めていくのか。たしかに現場の感覚からすると、多様なニーズがあったり、地域によって非常に差が大きいところがあったり、雇用条件などいろいろな違いがあると思うんですけれども、あまり明確に定義されていないのはそちら側の話でしょう。

「新しい公共」についてですが、「Not for profit」とか「新しい何とか」と言っている間はおそらくダメで、それが何なのかとちゃんと言えるようにすべきだと思います。企業の側で埋めきれない話としての受益者負担というのは分かる。今度は公共側として、今までに満たされていないいったい何を埋めるために、我々はこんなことをしているのか考えたいという気がします。

会場:私はベンチャーキャピタリストなのか、ソーシャルキャピタリストなのか、微妙なところで仕事をしています。去年の12月にインドに行ってきて、小学校に1日115万食ぐらいの食事を提供しているNGOに訪問したときに、そこを応援しているある企業創業者と話をしました。彼が言った言葉がとても印象に残っています。NPOとかNGOには、イグジットが必要なんだ。そもそもNPOとかNGOは、行政の失敗する部分、もしくは民間企業の失敗する部分を埋めるためにスタートしたものだから、それがある程度まで確立した場合に、そのどちらかに行くべきなんだ、というようなことを突然言われて、そこで戸惑って一日中議論しました。その辺りの話も含めて、今のプロセスの話をちょっと教えていただけばと思います。

藤沢:なるほど。企業ができないことをNPO がやる。行政府ができないことを NPOがやる。プレイヤーがいるんだけれども、満たされていないものがある。それを満たすために、NPOが生まれてくる。そしてその結果、生まれたNPOの役割というのは、まさにインキュベーションなんじゃないかと。新しい行政府の役割の形とか、企業の仕組みの形が何か分かりませんけれども、いずれにしても形を満たして、最後にはそれが企業になったり、または下位の仕事として戻っていく。まさにインキュベーションする役割なんじゃないか。いつまでもNPOが続くものではないのではないか、というようなご提言であったのではないかと思いますけれども、何かご意見はございますか。

NPOは新しい直接民主主義の受け皿になり得る

会場:受益者負担が少ない部分をNPOがやるという発想とは僕は少し違っています。受益者負担をしてもらえるところでもNPO法人がやるべきだという分野もあるし、株式会社にして利益を出す方向に転換することも、ありなんだと思うんですね。

日本のNPO法人というと、どちらかというと受益者負担がないところをやるという話になるから、3万9000団体もあるけれども、人を雇っているのはごくわずかになっている。そうではなく、NPO法人というのは幾ら収入があるのかということと同時に、NPO法人のセクターでどれだけ人を雇用しているのかということを、堂々と言えるような産業になっていかないと、ダメなんじゃないかという気がしています。NPOのセクターで人を何万人も雇っています、と言えるようなNPOに、日本もなっていくべきだと僕は思っているんです。

受益者負担のある分野にNPOが積極的に出ていって、そこから株式会社に転換するということが行われるようになるならば、NPOは法人格の一つであるという位置づけにしていかないといけない。その位置づけでないと、社会のマインドが変わらないんじゃないかという気がしています。そういう意味で、インキュベーションの一つというのは、私も大賛成です。

それからもう一つ。寄付金税制の話がありましたけれども、所得控除と税額控除はまったく違うと思うんです。所得控除だと報告をちゃんとやらないとお金を出してもらえないけれども、税額控除になれば「そんなものがなくても金を出すよ」という人は増えると思っています。やはり寄付金税制を変えるというのは、受益者負担のない分野のNPO法人にとっては、死活問題じゃないでしょうか。そこは若干、意見が違います。

会場:私も「新しい何とか」とか「Not for profit」と言っているうちは、主体がはっきりしないと思います。これは重要なことなので、ちょっとフォローしたいと思います。私は大きな歴史の流れの中で、見てみるべきだと思います。いま何が起こっているかということをマクロに申し上げると、参加型社会とか直接民主主義が実現しようとしていると思うんです。

これはNPOだけではなくて、今の政権の歴史的な任務というのは、おそらくその辺りにあるだろうし、あってほしいと願っています。そういう文脈から見てみると、確かに受益者負担が期待できない分野は、本来、政府がやるべきではないかという意見は、よく分かるんです。ただ我々には、税金を政府が使うときに、本当に望んでいるところに使われているのかということに対する、根本的な疑問があるんですね。

例えば、明日から福祉税を何パーセントか徴収しますといわれて、福祉に使うという大義名分はいいですけれど、本当にちゃんと使ってくれるのかと。それに対してNPOという形式にはいろんな問題がありながらも、実は直接民主主義の形態ですよね。そしてある意味、参加型社会でもありますよね。理想的には税金を通じて政府に使ってもらいたいけれど、それが信用できないから直接やれるようにしようという流れに、歴史的にはなっているんですね。

もちろん政府というものまた進化するかもしれません。情報を現場から細やかに吸い上げて、賢い方が割り振ることが起こるかもしれない。これは未来の問題ですから分からないですけれど、現時点においては意識的にも無意識的にも、国民一人ひとりが、自分たちの税金をどう使うかを決めさせて貰いたいと思っている。

その意味において、先程の話に出てきた情報の公開が非常に重要だと思います。つまり、何をやっているのか分からないまま寄付を続けたくないというのは、それをおっしゃる通りです。自分が提供したお金は、ちゃんと使われているんだと。また社会的にこういう大きな問題が出てきたから、来年からはあちらに寄付するというように、福祉における自由競争市場が起こってもいい。

企業セクターにもNPOにかかわるメリットがある(宮城)

藤沢:根本的にしたい話が沢山あって、どれを優先的にしようかと悩ましく思わけですが、我儘で申し上げると、担い手の問題をもう少し議論したいと思います。官や民を補完するような、もしくは直接民主主義としてみんなが参加するようなプラットフォームにNPOや社会起業がなるのかもしれない。ただ現状、NPOや社会起業家的な人が、まだそれほどは多くないのが現実だと思うんですよね。それがなぜ増えないのか。どうしたら増えるのか。今日ご参加の方々ができるサポートはあるのか。その辺りを伺いたいんです。

宮城:「新しい公共」の議論の延長上でもあると思うんですけれども、内閣府が70億円の予算をつけて、新しいNPO、あるいは社会起業家という切り口で、地域や社会を元気にしていくためのチャレンジを応援しようという試みを打ち出しています。これが先日、採択されました。私どもも参画させて頂くことになったんですけれども、いわばこの70億円のお金を、乱暴に言えば盛大にばらまきましょうという話なんですね。つまり国がリスクマネーを出して、儲からないかもしれないけれども重要な新しいチャレンジに対して、スタートアップを支援しましょうという話です。

これは下手をすれば、本当にばらまきで失敗に終わるという予算でもあると思っているんですけれども、私はそうはさせたくない。この国がせっかく出すリスクマネーを、可能性を耕していく投資にしていくためには、どうすればいいのかということを考えています。私どもの担当としては、130組のスタートアップを支援して、ここに300万円から500万円ぐらいの資金を提供するという事業です。いろんな手段を使って新しいアイデアを募集して、それをブラッシュアップしていくのに、私としてはビジネスセクターにいらっしゃる方や、行政で活躍している方に、そのプロジェクトのチームに入っていただいて、プロジェクトを推進する当事者になっていただきたい。そういう環境をつくりながら、新しいNPOの事業を立ち上げていきたいと思っています。そうして、この動きが投資となって、継続的に続いていくビジネスマーケットを生み出していく基盤としたいと考えています。

社会起業家というのは、単独で存在してもつまらないですね。いろんな地域や社会に資源を持った方々と、繋がりやすいということに意味があるわけです。それぞれが持っている資源を出し合って、新しいイノベーションにチャレンジしていく。そこで一つ申し上げたいのは、ここに来ているリーダーの方々が、こうした実践を自ら始めていただく、あるいはすでにやられていることをさらに加速していただくことが、結果的には今日の議論の答えになっていくんじゃないかと思っています。結局、まだまだ歴史も浅いし、こういう分野でチャレンジしていくという履歴が、無さすぎると思っているんですね。

また、力のある方々が、まだまだ参画して来ていないというのが現状でしょう。今日いらっしゃっているような方々の中に、資源やアイデアを持っている方がたくさんいます。そういう方にこそ始めていただきたいし、それに対して現場の担い手になるような人を、私がお手伝いして送り込むこともできます。そのことを頭に入れておいていただければというのが、私からのお願いです。

藤沢:なるほど。そう考えると、企業の方々にしてほしいということというのは、何でもいいからしてというふうにも聞こえてくるんですけれども……。

宮城:あの、何でもいいんですけれども、やはり今日集まっていらっしゃる方々はリーダーなので、ご自身のアイデアもあるでしょう。それを始めていただいくなら、私はそういうプロジェクトに若者を入れて、彼らにみなさんの背中を見せつつ、次のリーダーを育てたいと思います。

その一方で、企業セクターの側がこういう活動に参画していくことは、社員のモチベーションや創造性に随分と影響すると思っています。いまNECなどいくつかの会社に、社会強化支援のプログラムに参画していただいているんですけれども、それは企業側にとっても、社員の自立心や起業家精神を育んでいくための機会になっているという部分もあります。

藤沢:なるほど。よく分かりました。広義にとらえると、どちらにしても社会的にプラスになるということだと思います。佐藤さんはいかがでしょうか。

「Just Giving」が照らすNPOの新しい可能性(佐藤)

佐藤:沢山ご質問頂いたので、答えたい質問と難しいと思う質問の両方あります。概ね反論はありません。税額控除と所得控除が違うという話は、その通りだと思います。税額控除になったら、寄付金が増えるかもしれない。もちろんそれを狙って、そこに手をつけていきたいと思っておりますので、まったく同感です。どちらにせよ、NPO自身が頑張らないとダメだという僕の考えは変わりません。NPOを運営する者としても、寄付者に対する満足度向上は取り組んでいかねばならないと思います。

誰でも関われるNPO支援というか、支援という言葉はもはや古くて、一緒にやりましょうよという感覚のほうが実はしっくりくるんですが、企業も個人もNPOも政府もみんな、世の中の問題を解決するという点においては、共通しています。それを踏まえて、こんなかかわり方もあるということを、一つご紹介しておきます。

国内のNPO法人、3万9000のうちの6000団体ぐらいに直接会ったという話をしました。なぜそうしたかというと、NPOの評価をするため、ベストソリューションを見つけるためだったんです。ベストなものを見つければ、それを宣伝しておけばボトムが上がり、アベレージがどんどん上がっていく。そういう狙いがあったんですけど、いくつか見つかったものの、ボロボロ出てくるという感覚ではありませんでした。

国内のリサーチはもう十分やりました。チャリティの世界の先進国はアメリカとイギリスなので、世界に目を向けてみようと思ってリサーチを始めました。ベスト・アンド・ブライテストはどこにあるかと思って調べたところ、一つ見つけたのがイギリスにある「JustGiving」という団体でした。これを紹介させていただきます。

チャレンジャーは、皆さんご自身です。宮城さんがチャレンジャーだとしましょう。どのNPOを応援するかは、宮城さんご自身が決められます。どこでも結構です。ただしテロ支援組織とか、暴力団が関わっているというのはまずいので、私どもが評価した団体のみにします。ただ基準はそんなに厳しくありません。概ねOKです。

自分で選んで、1団体を決めていいです。応援の仕方は、直接寄付をするというやり方はもちろんいいんですが、寄付には限界がありますから、例えばマラソンを頑張るというように、しんどいことにチャレンジするわけです。ダイエットするということでも結構です。禁煙するということでも構いません。そういうことを宣言して、友人に伝えるんですね。「実は自分の母が倒れて、要介護者になった。そのときに大変お世話になったNPOがある。どうしてもここを応援したい。自分のお金には限界があるし、能力にも限界があるから、みんなの力を借りたいんだ。タダでは頼まない。僕はフルマラソンにチャレンジするから、ちょっと一口乗ってくれないか」と。

正直いってサポーターの友人・知人は、その介護系NPOについては、あまり興味がないかもしれません。しかし、宮城君に頼まれたら断れないという関係性はあるかもしれないんですね。それで「いいよ。頑張って」と、1口500円とか1000円とか、小口のお金が集まってくる。宮城君は、その全額をNPOに寄付する。こんな仕組みのNPOを立ち上げたわけなんです。

NPOのソリューションの一つとして、これは決定打だと思いました。僕自身も経験がありますけれども、「寄付してください」と言われてもちょっと抵抗を感じます。正直言って「うわ、嫌だな。頼まれちゃった。どうしよう」と思うわけなんですけれども、「俺、マラソン出るから、応援してくれ」といったメールが来ると、楽しみながら1口協力してやるかと、ポジティブな感じになります。地球が危ないからとか、この子が可哀想だからとか、知りたくないものを知ってしまったというような、僕自身そういう感覚になるんですね。大変なのは分かるけど、悲しい現実を見せるよりも、ハッピーな未来を見せたほうが、乗りやすいという感覚があります。

イギリスで生まれたもので、だいたい10年やっているんですが、国民が日本の半分、6000万人しかいないのに、1000万人がすでに関わっている。金額にして1ポンド160円ぐらいで計算すると、1年間で300億円ぐらい集めるインターネット会社になっているわけなんです。

面白い例として、ハイチの地震があった時に、7歳の少年が、「僕が自転車で一生懸命自宅の周りをぐるぐる走るから、募金をしてよ」と呼びかけたんですね。そうしたら、なんと1ヶ月で3000万円集まった。もちろんメディアに取り上げられたことが大きいんですけれども、そういった例が出てきています。

ということもあって、日本で「JUSTGIVINGJAPAN」を3月9日にスタートしました。始まったばかりですが、早速いろんな人がチャリティ目的でチャレンジをしています。元プロ野球選手の古田敦也さんや、元マラソン選手の有森裕子さんにも協力いただいています。古田さんは、もともとフリーターやニートの自立支援のNPOとご縁があり、そこを応援するために、人生初のトライアスロンに出るということで、毎日練習されている。

そういう仕掛けをこれから展開していきたいんです。もはや企業の人、NPOの人、政府の人といったように、分かれていない。みんなが関わる方法がある。しかも簡単に、あまり労力を掛けずに関わる方法があるということを申し添えて、最後のご挨拶にしたいと思います。

藤沢:有り難うございました。この会の参加者の方で、マラソンやトライアスロンをやっている方は非常に多いですから、今日からでも登録していただいて、寄付集めに参加していただければと思います。

佐藤:NPOが頑張らないといけないですね。自分のために走ってくださいということを、NPOが頑張って訴えていかないといけないということです。

藤沢:なるほど。最後に私が感じたことを申し上げます。NPOという言葉で議論を始めることの問題を感じました。これはとても古い器だったなと。非常に古い器で議論するので、何となく議論が分かりにくくなってしまう。細かなところに向かっていってしまう。

でも実際に皆様の話、ご意見を伺っていて思うのは、いま求められているものは確実にあるということ。官はできない、民はできないことを超えて、一人ひとりの個人が「おかしい」と思っていることに対して、行動を起こしたいし、起こせる時代がやってきたにもかかわらず、その受け皿がいまいち見えないという中で、社会起業家やNPOがある。また企業の側でも本業を通じて社会貢献している、というものもポツポツ出てきて、それがまだ点の状態で面になっていない。そこをNPOといった昔の言葉で括ろうとするから、分かりにくくなっているかもしれない。今日議論しながら、そう感じていたんですね。そしてそういうものを改めて考えたときに、あまり器の論議はあまり必要ないのかなと、若干思いました。

ただ、その器の論議を別にしたとしても、それぞれの担い手になれる人は沢山いて、非常に面白いと思ったのは、営利企業も十分、そのプレイヤーになり得ることを、いろんな観点から感じさせていただいたんです。志や共感があれば、1週間で子どもでも3000万円集められるわけです。それは企業にも、ヒントになりますよね。お客様のニーズというものの組み方を間違えていたんじゃないかと。お客さんがもっと便利に、もっと楽になったらいいと思ってサービスをしていたんだけれど、違う観点があるんじゃないかと提示を頂いたような気もします。

NPO的になかなか受益者からお金をいただけないというところで活動する人にとっては、逆に企業がやっているようなお客様に対する説明とか、評価の仕方とか、どうやってあなたのお金が使われていて、どれくらい社会的にインパクトを与えたのかという説明といったものが必要です。日本の中での知恵の交流というか、貸し借りが非常に求められていて、今日はその議論をNPOという形のほうからする機会になったのかなと思います。

議論の中で出てきていた税制の問題や、活動に対してお金を出すにあたって評価システムをどうするのかといったものの個別の議論は、やはり重要になってくるのでしょう。それはさらにG1の中で、来年はさらに分科会で細かく議論を進められればと思います。皆さん一人ひとりの中で、何ができるか、どういう関わり方ができるかということを、お考えいただければ幸いです。この辺りで失礼したいと思います。

新着動画

10分以内の動画コース

再生回数の多い動画コース

コメントの多い動画コース

オンライン学習サービス部門 20代〜30代ビジネスパーソン334名を対象とした調査の結果 4部門で高評価達成!

7日間の無料体験を試してみよう

無料会員登録

期間内に自動更新を停止いただければ、料金は一切かかりません。