「サムライ人材論」(原題:Japan’sBusinessRenaissance)の共著者であるジョン・C・ベック氏が、グロービス主催の特別セミナーにおいて、日本における人材の変化と、日本企業にとっての、その変化が意味するところを語った。
ベック氏によると、最近の日本の従業員の意識は、以前と比べて変わってきていることが、種々の調査研究結果からみてとれるという。例えば、「企業は効率的であるよりも独自性を持つべきである」と考えているビジネスパーソンは、アメリカ人よりも日本人のほうが多く、「起業家となることに興味を持っている」という人の割合もアメリカ人よりも日本人のほうが高かった。一方では、「自社のリーダーを尊敬しているか」、「伝統に敬意を表するべきだと感じているか」、「最重要視している価値観に対し忠誠心を感じているか」といういずれの項目においても、日本人はアメリカ人よりも「イエス」と答える割合が低かった。
1980年代の日本から比べると、この意識調査の結果は“激変”だという。当時、日本は戦後の再建の中から生み出された手法がようやく実を結び、経済は右肩上がりとなっていた。日本の「チーム志向」のマネジメントスタイルは、新しい流行となり、多くの組織が我先にと「日本型マネジメント手法」を採用した。
しかし、バブルが崩壊すると、そのシステムは突然魅力を失ってしまった。その後、日本は10年以上の不景気が続いたが、それもようやく峠を越し、回復の兆しが見えてきた。一体、何が日本に回復をもたらしたのだろうか?ベック氏の説明によると、個人も企業も国家も「再生サイクル」を通過したことが、その要因だという。この「再生サイクル」は、横軸は関心の方向(外部・内部)、縦軸は変化の規模(大・小)という2つの軸で4段階に分けられる。(下図参照)
ほとんどの企業や国家は、「定着期」で留まりやすいが、その理由は、最小の資源で最大の利益を生み出すことができる時期だからである。しかし、時折、新たな競合の出現、消費者嗜好の変化、あるいは外部の衝撃的な出来事などが起こり、それによって組織は、心地よい領域である「定着期」から押し出され、再びこのサイクルを回ることになる。新たな方向を探る「準備期」から、どのような変革を起こす必要があるのかを決断する「計画期」、必要な変化を実行に移す「実行期」を通って、変化の小さい「定着期」へと戻り、新しいシステムが定着する。
ベック氏の研究結果からみてとれる日本の従業員の態度は、日本が次の大きな変化への準備に入ったことを示している。この変化のなかで、日本企業は次なるチャレンジであるグローバル化に立ち向かうことになる。モバイル技術、エンタテイメント、高齢者医療などの分野では、日本は既にかなり優位な立場にたっており、これらの分野では日本はグローバルリーダーとなるであろう。
このほかどのような分野であっても、従業員が再生サイクルの各段階に対処すべく準備を行えば、その企業は成功を収めることができる。そのためには自分たちが今、再生サイクルのどの段階にいるのかを認識し、それに応じて人材戦略をたてることが求められる。個人個人の従業員は、当然のことながら、同じ段階にとどまろうとする傾向がある。だからこそ企業は、さまざまな観点から変化を見て取れるマネージャーをチーム内にうまく配置しなければならない。結局のところ、最高の企業チームというのは、再生サイクルの各段階を、迅速かつ機敏に進むよう、うまく舵取りしていくことが求められるのだ。日本の進化における次なる段階に備えて準備をする企業というのは、その従業員も、運用、戦略、文化など、あらゆるチャレンジに対応する準備ができているのである。