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「3C分析」で読み解く -家庭教師派遣会社の営業リーダー・島根の悩み

投稿日:2011/12/20更新日:2022/10/05

本連載「ストーリーで学ぶ経営戦略シリーズ」では様々な立場の現場のマネジャーのストーリーを基点に、古今東西の優れた戦略論から彼・彼女らの仕事をより良くするヒントが得られるかを具体的に考えていきます。

ストーリー概要

島根は来週の本部長との面談が待ち遠しかった。本部長との面談は、四半期に一度行っているものであり、面談では期初に立てた目標が達成できたか、そして来期は具体的に何に取り組むのか、ということについて意見交換を行うことになっている。島根は来週のその面談において、現状の業績に対する具体的な改善案を提出する予定だった。島根はこの改善案に強い自信があり、早く本部長に提案し、認めてもらいたいと考えていた。

島根は地方A県に拠点を置く家庭教師派遣事業のチャレンジ社における営業リーダーである。家庭教師派遣事業は難しいビジネスであった。家庭環境ごとに、こだわりたいポイントは違い、生徒の学力も千差万別である。行きたい学校によっても強化すべき学習項目は異なる。その中で、チャレンジ社はA県の学校に関する豊富な情報やデータをもとに、家庭ごとの多様なニーズを踏まえながら、教師と営業担当が二人三脚で的確に学習方針を決めながらサポート対応していくことで評価を受けていた。そしてその評判が口コミを呼び、チャレンジ社が拠点を置くA県においては根強い人気を持つようになっていた。

しかし、昨今の営業成績は芳しいものではなかった。要因はいろいろと考えられた。当然少子化の影響もあるだろう。全国的に展開している競合がこの地方にも参入してきた影響も少なからずあるようだ。徐々に落ち込みつつある営業成績を見て、前回の本部長との面談は重苦しい雰囲気だった。

島根は、もはやA県では数字が伸びる可能性は見込めないので、別の地域に参入するタイミングではないかと考えていた。そして1つのアイディアとして、D県が有望だと思っていた。D県は、A県からは多少離れるものの、島根はかなり教育熱心な地域と見ており、教育の需要が高いと思っていた。ただ、まだ何を伝えるべきかの骨子が固まっておらず、次回の面談までには何とかまとめたいと思っていた。

そんな折、とある経営セミナーを聴講した島根は、1つのヒントを得た。そのセミナーで島根が学んだことは、「3C分析」の重要性であった。ビジネスにおいてはCustomer(市場・顧客)、Competitor(競合)、そしてCompany(自社)という3つのCを丁寧に分析することが大事であり、現状のビジネスの改善提案などにも使えるということであった。

「そうか、市場は魅力的であり、競合は強力なプレイヤーが不在である。うちは今の市場で頭打ちであり、今後の成長に向けて何かの施策が必要。だからこそ、今こそD県に進出すべき、という流れでまとめればいいんだな」という流れが浮かんだ。思いついた島根は、急いで自分のアイディアの骨子をまとめ始めた。

「まず市場・顧客について。これについては、D県は、今の拠点からは距離があるものの、子供の教育に関心の高い家庭が多く、有名私立校も多いというデータを提示し、チャレンジ社のいる市場と同じように教育熱心な市場であるということを言わないとダメだな。また、それを具体化するために、D県の家庭教師の市場規模と3年後の想定市場規模についての仮説を提示し、どれくらい市場が大きくなりそうか、ということを提示するのがいいだろう」。

市場分析

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「次に競合。競合はX社とY社の2社が存在する。両社ともこの地域だけにある地場企業だから、両社のおおよその売上規模からシェアがどうなっているかは分かるな。それから、この2社ともに大規模な資本を持った大手ではないために、サービスで秀でることができれば十分戦える、という解釈も言えるだろう」。

競合分析

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「そして、最後に自社について。ここはA県ではもう伸びが見込めずに頭打ちになってしまうこと、そして距離はあるものの、この市場を攻略できれば、今後のうちにとっての成長戦略の一つの足掛かりになるだろう、という意気込みを伝えたいな。データは少ないけどこれくらいで十分だろう」。

自社分析

18953

島根は時が経つのを忘れて作業に没頭していたが、出来上がった資料を眺め「客観的に見ても、我ながらなかなかの仕上がりだな」と、満足した。

「本部長はまさかここまで考えているとは思っていないだろう。驚くだろうな」。島根は本部長との次の面談を心待ちにしていた。

理論編:実は危険?な3C分析 ―原典は大前研一氏

「3C分析」というキーワードは、何らかの形で経営戦略にかかわったことがある人であれば必ず耳にしたことがある言葉ではないかと思います。Customer(市場)-Competitor(競合)-Company(自社)の3つのCの頭文字を取って、この3つをそれぞれ分析することを一般的に3C分析と呼ばれています。

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平たく言えば、「お客さんを見て、競合を把握し、それに対して自社がどうしていくか」ということであり、戦略を考える視点として概念的に分かりやすいのが特徴です。そのために、この3Cは、他の多くの戦略のフレームワークと比較しても、もっとも多用されるものとなっています。

しかし、「分かりやすい」ということは、「あまり深く理解しなくてもそれらしく使えてしまう」危険性を伴う、ということでもあります。つまり、3Cというフレームワークを使って話せば何となく重要な論点は押さえられ、戦略を「それらしく」説明できた気になってしまう、ということです。

戦略を「それらしく」伝えて、受け手も「それらしく」理解したつもりになって、いざ実行段階で火を噴くということはよくある話です。単に「3つのCを見る」というレベルの話は、野球で言えば「走攻守のバランスが大事」と言っているにすぎず、とてもではないですが現場の真剣勝負においては使えません。もちろん、自社製品のことばかり考えてマーケットの動向や競合の動きに対して全く関心を払っていない部下に対して、「お前な、ちゃんと市場や競合を見なきゃだめだぞ」というニュアンスで3Cというフレームワークの存在を教えてあげることに一定の意味はあるでしょう。でもそこまでのことです。3Cというツールを使って、真剣に事業課題を考える、もしくは新規事業を立案する、といったことになると、その程度の理解では全く太刀打ちできないのです。

したがって、もし本気で3Cというツールを現場の意思決定に使おうと思うのであれば、しっかりその原理原則や詳細の部分を理解しなくてはなりません。今回は、そんな観点で、実践的に使う3C分析ということに焦点をおいて、ご説明をしていきたいと思います。

なお、3C分析は、大前研一氏によって提唱された考え方であり、1983年の「事業戦略の本質」という論文に遡ります。この論文において、大前氏は、優れた事業戦略の要件として、

(1)市場が明確に定義されている
(2)企業の得意分野と市場のニーズが一致している
(3)カギとなる成功要素において、競合と比べ優れた実績を発揮している

という3点を述べています。そして、この3点を満たすためには、3つのC、つまり、市場、競合、自社という3点について、それぞれしっかり考慮する必要がある、と言及しています。

またそれ以前にも、1975年に書いた『企業参謀―戦略的思考とはなにか』における「製品・市場戦略」-PMS(Product Market Strategy)おいて、3C分析という表現こそ使っていないものの、市場や競合、自社を分析するための視点を詳しく説いています。

3C分析は、お客様と提供者をマクロ・ミクロの視点で分析していく行為

では、3C分析というのは何を分析するものなのか、という点について、これから深く考えていきたいと思います。

ただ、その前に1つ質問です。よく、「市場分析」、「顧客分析」、はたまた「業界分析」という言葉を使うケースがあると思います。これらの言葉はそれぞれ意味が異なるのですが、その違いを皆さんは理解して使っているでしょうか?

実は、この「違い」こそが、3C分析を正しく理解する上での重要なポイントの1つです。これらの言葉のニュアンスの違いなどを踏まえながら、概念を整理すると、以下のような構図になります。

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※ジョン・W・ムリンズ著『ビジネスロードテスト―新規事業を成功に導く7つの条件』に着想を得、筆者が作図・編集した。

つまり、買い手をミクロ、つまり出来るだけ細かい視点で考えれば、それは1人、もしくは1社の「顧客」という存在になります。それを大きなマクロの視点で捉えれば、顧客の集合としての「市場」という存在が出来上がります。

一方で、買い手に対する提供者、つまり、売り手という観点からミクロで見ると、それは「競合企業」、もしくは「自社」という存在となり、そういったプレイヤーの集合をマクロで捉えると、それらの企業の集合体である「業界」という存在になります。

その理解の上で、3C分析の位置づけを見てみましょう。

まずCustomerというのは、この図で言うところの「顧客」であり、またその顧客の集合である「市場」になります。次に、Competitorというのは、図の右側の「競合企業」であり、そしてその集合の「業界」になります。そして、Companyというのは、その右下にある「自社」が該当します。

つまり、3C分析とは、「お客様と提供者の関係を、マクロ、ミクロ双方の視点から分析していく行為である」、と言い換えることができます。

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よく「業界」と「市場」を一緒くたにしたまま「業界分析」と言ったり「市場分析」と言ったりするのを見かけます。それ自体は必ずしも悪いことではありませんが、その言葉の含む多様な意味を整理しないままに「業界分析」と銘打った分析を進めるのはやや危険です。つまり、たとえばこの図でいうところの「業界」は押さえられるかもしれませんが、「市場」や「顧客」分析を怠ってしまい、抜け漏れが出てくる可能性がある、ということです。

それでは、これからそれぞれのマスにおいて、具体的に何を見ていけばいいのかを深めていきましょう。

市場分析:どう細分化するかの勝負

まずは左上の市場から考えていきたいと思います。

市場を分析する、ということは、何を見るということでしょうか?まず、市場分析において必要なデータは、市場規模(金額・顧客数)、その推移や成長率といった市場全体を捉えるための数値になります。大事なことは「拡大傾向にある」といったようなざっくりとした定性表現ではなく、具体的に何%伸びているのか、ということを具体的な数値で示すことです。

しかし、一般的にはこれほど大きなデータからは何も見えてきません。「やっぱりうちの市場は停滞気味だよね」とか「伸び率が縮んでますね」というのが関の山です。重要なのは、大きな定義の市場を、「どういう切り口で細分化(=セグメンテーション)するか」ということです。たとえ停滞しているように見える市場も、ある切り口で細分化してみれば、必ずユニークな動きを見せる可能性のある市場は存在します。

たとえば、菓子市場というのは、国内全体で2兆円ほどありますが、2009年以降は漸減傾向にあります。その中で、急激に伸びているセグメントがあります。それはオフィスグリコ*1が開拓した「置き菓子」市場です。これは、菓子市場を細分化し、オフィスでの手軽なおやつということに焦点を当てて深堀りした結果成功した事例です。

*1 オフィスグリコとは、オフィスの中に設置されたボックスのことであり、購入者はそのボックスから菓子を選び、100円を集金箱に入れてもらうことで回収します。

特に、日本市場で考えると、これから先、急成長する市場を見出すのは非常に難しいです。ただ、そこで思考停止せずに、どうやって切るか。そこが極めて重要になります。1000億円の市場が年率1%程度縮んできている、という分析で終わらせるのか、50億円の市場が年率10%で伸びている、というところまで具体化して考えられるのか。ここには分析する当人が市場をどう真剣に考えているのか、という姿勢が大きく出てくるところです。3C分析のかなりキモの考察と言っても過言ではありません。

顧客分析:固有名詞で考える

大きな視点で物事を捉える市場分析に対して、顧客分析はできるだけ細かくミクロな視点で捉えることになります。具体的に典型的な顧客像をイメージして、その顧客が具体的にどういうニーズを持ち、そのニーズを満たすためにどのような行動をするのか、ということについて、リアリティを持って考えることが重要です。そうすることによって、マクロからでは見えなかった具体的なアクションをイメージしやすくなります。そのために、この顧客像は、架空の人物像ではあるものの、年齢、性別、居住地、職業、勤務先、役職、年収、家族構成、趣味嗜好、価値観、身体的特徴などの個人情報まで設定していくこともあります。大事なことは、そこまで具体的に考えることによって、1人の顧客の動きを徹底的にイメージする、ということです。

また、法人の顧客の場合などに典型的ですが、購買者と意思決定者が分かれる場合があります(購買者は購買担当者であるが、意思決定者は生産担当役員といったような場合)。その際は、DMU(=Decision Making Unit、意思決定者・組織)が誰であり、そのDMUのニーズは何か、ということを具体的に考えることも必要になります。

いずれにせよ、重要なのは、マクロ的な視点でざっくりとその市場の大きな傾向を捉えつつ、その市場を構成する具体的な個人像を語れるくらいまで考える、ということです。一般的には、マクロ(市場分析)とミクロ(顧客分析)の視点は、どういう業界にいるかによって偏りが出てきます。たとえば法人顧客を相手にしたビジネスの場合、主な顧客は数えられる程度、という場合があります。そういう場合は、視点としてミクロ、すなわち個別具体的な顧客企業の分析が中心になるでしょう。逆にマスを相手にした個人顧客ビジネスの場合は、マクロで顧客全般のトレンドをつかむような分析が主になります。ここで大事なのは、その偏った分析のまま終わるのではなく、その逆もちゃんと分析すべき、ということです。たとえば法人ビジネスであっても、市場全体を俯瞰したマクロの分析でトレンドを把握してみる。個人のマス相手のビジネスの場合は、逆に特定の顧客をイメージしてプロファイルをしながら実際に顧客になったつもりで購買行動を追いかけてみる。そういった「今まで日常的に考えていなかった視点」の分析をすることが大事です。

業界分析:「5つの力」を丁寧に読み解く

次は「業界分析」です。これは、そのセグメントされた「市場」に対して、どういう企業がどのようなルールに従って、どういう戦い方をしているのか、ということを大きな視点で読み解く、ということになります。

そのためには、第1回に紹介した「5つの力」分析が極めて有効になります。詳細はそちらに譲りますが、大事なことは5つのハコを埋めるのではなく、一体どのような力学がこの業界に働いているのか、ということを大局的に理解することです。

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競合・自社分析:視点を絞ってから考える

さて、このようにして、市場・顧客・業界といった取り巻く環境を理解した上で、その土俵で戦う具体的な競合企業や自社を見ていきます。

ただ、会社というのはそんなに簡単に分析できるものではありません。たとえば、皆さんが、「あなたの会社を分析してください」と言われたら、何をやるでしょうか?当たり前ですが、目的なく「分析しろ」と言われても筋の良い分析ができるはずがありません。具体的にどんな目的で、どんな仮説に基づいて企業を見るのか、という視点が定まらない限りにおいては、闇雲にデータを集めても自己満足にしかならないのです。

したがって、大事なことは、市場・顧客・業界を分析した上で、「このビジネスを行う上ではここが大事!」という重点ポイント*2を予め設定しておく、ということです。たとえば、この市場を攻めるためには、「オペレーションが勝負だ」というアタリがつけられていれば、競合、そして自社の分析は、オペレーションに絞って具体的に見ていきます。そんなときに、企業の全体像を網羅的に幅広く分析したところで単なる時間のロスにしかなりません。我々は分析するのが目的ではなく、ビジネスを前に進めることが目的です。したがって、大事なことは「メリハリ」をつけて企業を見ること。逆に言えば、その市場・顧客・業界の分析を通じて、このビジネスを行う上での重点ポイントが浮かび上がってこなければアウトです。

* 2経営用語では、この重点ポイントをKSF=Key Success Factorと言いますが、ここでは敢えて平易な用語を用います。

初期仮説立案こそ、ミドルリーダーの役割

3C分析は進化させてこそ価値がある

3Cにおいてそれぞれ見るべきポイントをざっくり追いかけてきましたが、実はここまでのことは様々な本にも書かれていることですし、皆さんもお聞きになったことは多いのではないかと思います。しかし、大事なのはこれからです。3C分析での着眼点だけを押さえていたところで、残念ながら意味のある3C分析はできません。

たとえば、実際に何か新たな取り組みを始める時、もしくは既存のビジネスのテコ入れを考える場面を想像しましょう。この3Cについて、まずはその時点での3Cを整理していくことに少なからず意味はあるでしょう。

しかし、それは単なるスタートに過ぎません。3C分析をして「こうすべき」という初期仮説が立ったとしても、実行段階ではまた全く違う世界が見えてきます。「想像以上に顧客が少なかった」「予想していない競合が存在した」「やってみたらオペレーションが全く回らなかった」・・・。こんなことは枚挙にいとまがありません。大事なことは、そこでの実践経験を踏まえて、改めて3Cをより現実感のあるデータに更新していき、どんどん進化させていく、ということです。

3C分析は、初回の静止画像での分析にあまり価値はありません。世の中やってみなければ分からないことだらけです。したがって、実行を通じて欠けている情報を埋めていき、自分たちの初期仮説をより手触り感のあるものに仕上げていくツールなのです。言い換えるならば、3Cは「進化させてこそ価値がある」ということです。

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データは「ある」ものではなく「自分で調べる」もの

しかし、市場分析のところで、ユニークな視点で細分化しようとしても、市場規模など最低限必要な情報すら入手できないことに気付きます。もちろん、業界分析も何も見えてきません。どうすればいいのでしょうか?

忘れてはならないことは、データは「どこかにあるもの」ではない、ということです。そうではなく、「地道に自分の手足で調べる」ものだと理解しましょう。

たとえばユニークな市場が見つかったとしても、「情報がない」「分からない」というだけで目をつぶってしまいます。しかし、情報なんて自分で拾おうと思えばいくらでも拾えます。バイトを雇って一日店の前で顧客数のカウントをさせるのもよし、自分の足で出来る限り多くの顧客の声を集めるのもよし、その業界に長い人を捕まえて、3人くらいに話を聞くだけでもざっくりとした話は見えてきます。

新しく市場機会を見出そうと思ったら、データがないのは当たり前です。むしろネットなどで市場規模などのデータが拾えるという時点で、「既に手垢のついたマーケット」ということで、厳しい戦いを覚悟した方がいいです。

3C分析で本当に役立つのは、「顧客に直接声を聞きまくった」といったような自らの手で集めた情報です。逆に言えば、外部の二次情報だけで考えたことをベースに作られた3C分析は、相当危うい思った方がいいでしょう。

先に述べた通り、3C分析は進化させていくものです。最初にデータがないのは当たり前。だからこそ、まずは限られた範囲でもいいから聞いてみる。そこで初期仮説を組み立てて、後は実践の過程でより正確な情報を取っていけばいいのです。

そして、実際に「自分の手で汗かきながら情報を拾ってきた」という行為が、最終段階での迫力を生みます。仮に公開されているようなデータを加工して資料を綺麗に見せたところで、本人の実感を伴わないデータであれば最終的な段階での説得力が生まれません。なぜならば、そのデータに「自信」が伴わないからです。そして、仮に実行段階でうまく行かなかったときも、実感の伴わないデータの集積で仕上げた場合は、ふんばりがききません。自分が現実感を持っているからこそ、最後で突っ張ることができるのです。

結局は今後の市場が伸びるのか?競合は本当に強いのか?そんなことは、白黒はっきりつけられることはありません。したがって、最終的に大事なのは、必要なことを網羅的に押さえつつも、「私はこう思います。なぜならば・・・」ということを「自信」を持って言い切れることです。そのためにも、重要なファクトは手軽に「自らの手で集める」ことをお薦めしたいと思います。

初期仮説立案こそ、ミドルリーダーの役割

しかし、現場でこういうことを言うと、「データは何とかなるとしても、そもそも初期仮説が浮かびません」ということを言われることがあります。確かに仮説がないと、3C分析はどうしても漠然としたものになってしまい、それぞれのハコをとりあえず埋めていく、という「穴埋め状態」に陥ってしまいます。

では、その仮説はどうしたら立てられるようになるのでしょうか?

私は、仮説のタネは現場にいくらでも転がっていると考えています。「お客様の反応がどうも最近芳しくない」「現場の社員がどうも辛そうだ」・・・といったような現場での肌感覚こそが、仮説のタネになります。これをいかに見逃さずに拾い上げて仮説を作っていくか、ということこそが、現場を知るミドルリーダーの役割の根幹だと思っています。これは高い場所から眺めているトップリーダーには出来ない芸当です。もし、3Cを考えても何の初期仮説も立たないのだとしたら、まずは現場に行きましょう。そして、お客様や現場の社員の仕事ぶりを眺めてください。分析はそれからでも遅くはないのです。

現場感の伴わない分析は、結果的に本人の自己満足にしかなりません。分析の手順や、見るべきポイントなど、過度に形式にとらわれる必要はありません。まず現場の問題意識に根付いた仮説を立て、3C分析によってそれを検証し、そして実践を通じて進化させる、ということにつなげていってもらいたいと思います。

解説:島根さんはどうすべきか?

さて、上記を踏まえて、島根さんのアプローチを振り返ってみましょう。

まず、3Cで考えるということの着眼は悪くないと思います。そして、ある仮説を持って分析に臨んでいることもいいでしょう。しかし、この分析には大きく3つの欠陥があります。先の説明を読んだ方はもう分かりますよね。

まずは、「顧客分析」の視点が欠けていることです。

「顧客分析」の視点と言うのは、先に記載した通り、ミクロの視点で具体的な顧客像を踏まえた分析のことです。具体的にこの地域にはどういうお客さんがいるのでしょう?「教育熱心」という言葉を使っていますが、これは日常的にどういう行動を取るということなのでしょうか?DMU(購買意思決定者)は父親なのでしょうか、母親なのでしょうか・・・?そういった具体的なイメージが全く見えてきていません。高度2万メートルの分析はいいとしても、地に足のついたファクトがほとんどない、というのは大きな欠陥です。

もちろん、そんな情報は外部に落ちているはずがありません。したがって、自分の手でそういう情報は取ってこなくてはならないのですが、そういったことを怠っている、というのが次の欠陥です。もし本気でやる気があるならば、数人でもいいので実際に顧客のインタビューをしておくべきでしょう。競合についても、実際に見てくるとか、ユーザーの声を聞いてくるなど、いくらでも出来ることはあるはずです。初動でどれくらいそういった行為が出来るかが、3C分析が意味のあるものになるのかどうかを左右します。

そして、最後の欠陥が、島根さんがこの3Cが「進化の過程にある」という認識が欠如している、ということです。つまり、この3C分析というのは、初期仮説の初期仮説であるはずです。だとするならば、「今、分かっていないことは何なのか?」「それはどうやって検証していくのか?」という具体的なアクションも含めて分析に織り込むべきです。

「いきなりそこまで求めるのは酷だ」、という意見も聞こえてきそうですが、初回の3C分析なんてどれだけ考えようとしても穴だらけです。大事なのは、「穴だらけだ」という前提で「これを検証していこう」という姿勢を持つのか、「これで完璧だ」と思ってしまうのかの違いです。そして、その姿勢の差は、「3C分析」というフォーマットだけで提案が終わるのか、その後に1枚、「今後を見据えた検証のアクション」が続くのか、というところに表れてきます。この違いは本当に大切なのです。

しかし、今回の島根さんのような「一見きれいな3C分析」は、ちょっと勉強した人がよく陥りがちなパターンでもあります。美しく仕上げられているように見えるので、そこで満足してしまうのです。冒頭に「3Cというツールは危険」と書いたことはまさにそのことであり、3Cという「形」を知ってしまっている人ほど、このことを肝に銘じるべきでしょう。

■参考文献:
企業参謀
大前研一 戦略論―戦略コンセプトの原点
ビジネスロードテスト 新規事業を成功に導く7つの条件

■連載一覧はこちら
#ストーリーで学ぶ経営戦略シリーズ

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