キャンペーン終了まで

割引情報をチェック!

勝ったのに嬉しくない・・・ -勝者の呪い

投稿日:2011/09/21更新日:2019/08/15

問題です

以下のAさんの問題は何か。

AさんはPCを前に、あるオークションサイトで、気にいったバッグに入札中である(このオークションサイトはいくつかのサイトをモデルにした架空のものです)。

「もうすぐ残り時間1分。あと1分たてばこのバッグは私のもの。中古とはいえこのブランド品が1万円で買えたら安いものだわ。

あっ、誰か高値更新しちゃった。1万5000円か。このサイト、高値更新されると自動的に残り時間が3分になるのよね。さて、どうしよう。お給料も出たばかりだから、1万5500円でいこう。あっ、またすぐ高値更新されちゃった。1万6000円か。たぶん、向こうは自動高値更新設定にしているのね。どうしようかな。でも、このバッグなら、2万円までなら出してもいいわね。2万円で入札しちゃえ。

だめだ、今度は高値が2万500円になっちゃった。むこうは2万5000円くらいを上限にしてるのかな。うーん。どうしよう。本当は2万円くらいまでで買いたかったな。でも、このチャンスを逃すと後悔しそうだし。ここは度胸を決めて2万5500円でどうだ。あっ、また2万6000円になった。ほんとにどうしよう。欲しいバッグだしなあ。3万円でどうだ!ああ、ダメ、今度は3万500円に更新されちゃったわ」

そして十数分後。高値更新合戦の末、ようやくAさんがこのバッグを落札した。

「何とか4万6000円で落札できたわ。ようやく向こうも根負けしたみたいね。でも、何だか嬉しいような嬉しくないような・・・」

19348310ff28d8badc458f5d6efc5781 e1422005048972

解答です

今回の落とし穴は、「勝者の呪い」です。英語ではWinner'sCurseといいます。「勝者の呪い」はさまざまなバリエーションの使われ方をする言葉ですが、オークションでは、落札に最後までこだわった人間が、当初予定していた以上の高値で落札してしまった場合に用います。オークション(競り)というゲームには勝ったものの、本来感じていた価値以上のお金を支払わざるを得ない状況です。

ちなみに、ネゴシエーションでは、最初に提示した条件を相手があっさり了承した場合などにも、「勝者の呪い」という言葉を用いることがあります。たとえば家賃交渉をする際に、落とし所を18万くらいに想定していた借主が、最初の提示価格として16万円と言った時に、交渉相手である大家が「それでOKです」とすぐに交渉が妥結するようなケースです。

借り手としては、落とし所を18万円と想定していたのですから、16万円で妥結したなら決して悪くはないはずなのですが、「実は大家はもっと安い価格でもOKと言ったのではないだろうか。最初にもっと安い値段を提示すればよかった」と感じてしまい、敗北感にも似た感覚を持ってしまうのです。

話をオークションに戻しましょう。今回は比較的少額の個人オークションを取り上げましたが、オークションはこうしたシンプルなケースにとどまるものだけではなく、数十億円単位に上る企業や事業の買収、ビジネスの入札、あるいは人材の引き抜きなど、多岐にわたる応用範囲があります。その際に、値付けを始め適切な行動をとることは、経営上非常に重要な意味を持ちます。

今回のケースでは、Aさんは、本来、このバッグに2万円までは出していいと感じていたのですから、2万円まで応札することは特段問題はありません。問題はその後です。そこで降りていればよかったのに、気がつくと、落札はしたものの、4万6000円を支払うはめになってしまいました。まさに、本来Aさんが感じていた価値以上のお金を支払わざるを得ない状況になってしまったのです。

オークションにおいては、この「落札した方が負け」という現象がよく起こります。それを典型的に示すのが、マックス・ベイザーマンらの実験です。この実験では、ガラス瓶に硬貨を一杯入れ、その金額を推定させながら、これを競争入札のオークションにかけます。

ボストン大学のMBAの学生達を対象にした数十回の実験では、瓶の実際の中身が8ドルであったのに対して、推定値平均は5.13ドルでした。しかし驚くべきは、その平均の落札価格が10.01ドルだったことです。つまり、最終落札額は、学生たちの平均推定値のほぼ倍だったのです。

このような事態が起こる原因としては、「勝つことにこだわる」というバイアスに捉われてしまうこと、さらには、そうした状況下で落札する対象物の本当の経済価値に関して情報が不足しているときには楽観的な評価をしがちであることなどが指摘されています。実際、様々な調査によると、企業買収やスポーツ選手の獲得などの場面において、往々にしてこの現象が発生し、買収者は高値づかみをしやすいということが報告されています。

なお、ゲーム理論に基づけば、今回のような値段が上がっていくタイプのオークション(これをイングリッシュ・オークションといいます)の場合は、「自分が出してもいいと思う最高額までは応札をし、その額を超えた瞬間にオークションから降りる」のが最善の戦略とされています。聞いてみれば当たり前のことですが、それがなかなかできないのです。経営者から、「絶対に負けないように」などという指示が出ている場合には、ますますその傾向は強くなります。

いずれにせよ、オークションに参加する本来の目的は、「落札する」ことそのものではなく、「適切な価格の範囲内での落札」です。目的を取り違えてはいけません。そして、そのためには、勝とうとするバイアスに捉われないよう意識しつつ、事前にしっかりと対象物の価値を見定め、限度額を決めておくことが必要なのです。

  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

関連動画

学びを深くする

記事に関連する、一緒に学ぶべき動画学習コースをまとめました。

関連記事

合わせて読みたい

一緒に読みたい、関連するトピックをまとめました。

サブスクリプション

学ぶ習慣が、
あなたを強くする

スキマ時間を使った動画学習で、効率的に仕事スキルをアップデート。

17,800本以上の
ビジネス動画が見放題

7日間の無料体験へ もっと詳細を見る

※ 期間内に自動更新を停止いただければ
料金は一切かかりません

利用者の97%以上から
好評価をいただきました

スマホを眺める5分
学びの時間に。

まずは7日間無料
体験してみよう!!

7日間の無料体験へ もっと詳細を見る

※ 期間内に自動更新を停止いただければ
料金は一切かかりません

新着記事

新着動画コース

10分以内の動画コース

再生回数の多い動画コース

コメントの多い動画コース