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こんなことは知っているはず -知識の呪い

投稿日:2011/09/07更新日:2019/08/15

問題です

以下のAさんの問題は何か。

Aさんは大学院生。最近、学習塾で、小学5年生向けのクラスの講師のアルバイトを始めた。Aさんの大学での専門は現代日本史である。

「さて、社会の確認テストの問題を作らないと。毎週、テストの問題を作るのもけっこう面倒なものね。今回は、平成になってからの問題が5題は必要かな。問1は、『平成になって最初の夏季オリンピック開催地はバルセロナです。その次の開催地はどこでしょう』くらいかな。でも、こんなの、アトランタでやったことくらいみんな知っていそうね。『平成になってからの夏季オリンピック開催地を順に挙げなさい』くらいにしないと問題にならないかな。テキストの巻末の年表見れば一応わかることだから、とりあえずそうしよう。

問2は、『沖縄サミットをきっかけにして新たにつくられた紙幣(お札)は何でしょう』にしようかな。でも、これも二千円札なのは常識ね。『沖縄サミットをきっかけにして新たにつくられた紙幣(お札)で肖像になっているのは誰でしょう』にしようっと。テキストに、二千円札の写真が小さくチラッと出ていたはずだし。問3は・・・」

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解答です

今回の落とし穴は、「知識の呪い」です。英語ではCurseofKnowledgeと言います。これは、自分の持っている知識や情報、常識をベースに、「他の人間もこの程度のことは知っているはず」と考える思考の落とし穴を指します。しばしば、ミスコミュニケーションや、相手のニーズに沿わない行動の原因となります。

冒頭のケースでは、大学院で日本の現代史を専攻するAさんが、小学生向けのテストの問題を作っています。平成になって開かれた夏季オリンピックの開催地も、二千円札の肖像も、Aさんにとっては常識なのでしょう。

しかし、相手は、小学5年生です。2011年現在を起点に考えると、2000年もしくは2001年に生まれた子どもにすぎません。テキストをくまなく見ればたしかに出ているのかもしれませんが、彼らにとっては常識でもなければ、実際に見たりしたことがないものでしょう。2000年生まれの子どもであれば、夏季オリンピックで現実に記憶があるのは2008年の北京オリンピックからでしょうし、二千円札がほとんど流通していない昨今、実物に触ったことのない子どもも多いはずです。

今回のテストは、毎週行う確認テストですから、基本知識を確認するために行うというのが本来の趣旨でしょう。にもかかわらず、かなり難易度の高いクイズのようになってしまっています。これでは、本来の目的が果たせない可能性が高いでしょう。自分の知識の豊富さゆえに、落とし穴にはまってしまったといえます。

(なお、答えが気になる、という方のために念のため書いておくと、問1の答えはバルセロナ、アトランタ、シドニー、アテネ、北京。問2の答えは紫式部です。さっと出てきましたか?)

知識の呪いがミスコミュニケーション引き起こす例としては、たとえば以下のようなケースがあります。

ロシアでは、ビジネスの場などでも好んで皮肉表現が使われることがあります。ロシア通のBさんはそのことをよく知っています。同僚のCさんが、ロシアの取引先に対して納期遅れを起こして何とかトラブルシューティングをした後、先方から、以下のようなメールを受け取ったとします。「いろいろありましたが、あなたの迅速な対応に非常に感謝します。今後も弊社のことをお忘れなくフォロー願えれば幸いです」。このメールをBさんも見たとします。

Bさんは、これはきっと皮肉だ、と考え、他の人に「先方をかなり怒らせたようだから、今後、皆で頑張ってリカバリーしないとな」と言ったとします。Cさんもロシア通ならすぐに意志疎通できるかもしれませんが、Cさんがメール文面を文字通り受け取っているとすると、「なぜ、俺のことを悪く言うんだ」と、Bさんとの間に波風が立ちかねません。

人間は、基本的に自分の持っている全知識を活用して考えたり、問題解決をしたりしようとします。そのこと自体は問題ないのですが、他の人間も、自分と同じ知識や情報を持っていると考えると、手痛い目にあいかねません。

常日頃、コミュニケーションを密にすることで、ビジネス上重要な関係者(部下や上司、取引先など)の知識や理解レベルを正しく把握しておきたいものです。

  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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