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その発想の方向でOK? -認知的不協和

投稿日:2010/11/10更新日:2019/08/15

問題です

以下のZさんの考え方の問題点は何か。

「ビールをたくさん飲むと痛風になりやすくなるのは分かっている。でもビールは美味しいから止められないし・・・。まあしかし、ビールをたくさん飲んでも皆が痛風になるわけではない。むしろ発症するのは少数派だ。うじうじ悩むのも馬鹿らしいから、やはりこれからも美味しくビールを飲むことにしよう」

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解答です

今回の落とし穴は、「認知的不協和」です。心理学において非常に有名な概念で、人間が、矛盾する認知を持った時に不快な感じを持つことを指します。

なお、認知的不協和自体は、必ずしもそれ自体が問題というわけではありません。認知的不協和の状態となった時に、この不快感を解消するために、望ましい認知を持つ(さらには行動をとる)のではなく、望ましくない認知を持ち行動することが問題なのです。

たとえばケースの状況であれば、ここでのZさんの最初の矛盾する認知は、「ビールをたくさん飲みたい」と「ビールを飲みすぎると痛風になりやすい」です。筆者もビール好きですのでよく分かりますが、非常に悩ましい認知的不協和と言えます。

さて、ここで「ビールをたくさん飲むと痛風になりやすい」という認知を重くみて、「ビールを控えて量を減らそう」と考え行動するのは望ましい認知の変更と言えるでしょう。ところが、Zさんは、「ビールをたくさん飲んでも痛風にならない人の方が多数派だ」と考え、これまで通りビールを飲み続けることにしました。つまり、「ビールを飲み続けても、痛風になる確率はたかが知れている」というように認知を変えたのです。確率論から言えばその通りなのかもそれませんが、(メンタル面での効用はいったん措くとすると)Zさんのフィジカルな健康にとってはやはりマイナスと言わざるをえません。

人間は基本的に弱い動物ですから、Zさんのような認知の変更を行うことで、認知的不協和を解決する人は少なくありません。自分自身を振り返っても、決して非難はできないな、という読者の方は多いでしょう。しかし、こうした認知の変更は、以下に挙げるような心理的なバイアスと相まって、望ましくない行動をさらに強化する可能性が高いことは覚えておいてください。

・確認バイアス:自分の下した判断やとった行動を支持する情報だけを集めたがるバイアス。たとえば、A大学とB大学に合格してA大学に入学した場合、いかにA大学が良い大学か、B大学が良くない大学か、という情報ばかりに反応するようになる心理的傾向

・反確認バイアス:確認バイアスとは逆に、自分の下した判断やとった行動にとって好ましくない情報を無視する傾向。上記の例で言えば、「B大学出身者の方が生涯賃金が多い」という情報があったとしても、それをことさら無視するか、「まあ、B大学はもともと金持ちの子息が多いからな」あるいは「B大学は卒業後のネットワーキングだけは熱心だからな」といったように、自分を納得させるような理屈(時には屁理屈)をつけたがる

・合同バイアス:上記の例で言えば、「A大学の方が良い」という仮説についてはそれを支持する情報を集めようとするものの、「B大学の方が良い」という仮説については、そのような仮説すら立てようとしない傾向

・現状維持バイアス:人間は慣れ親しんだ状態や行動パターンを好み、それらを変えることに抵抗感を示すことが多い。ケースの例で言えば、「ビールをたくさん飲む」という行動が現在の行動であり、大きな不都合がない限り、その行動をいつまでもとってしまいがちになる

・バンドワゴン効果:周りにいる人々の考え方に自分もいつの間にか染まってしまう現象。俗にいう、「朱に交われば赤くなる」の状況。もし、Zさんの友人がお酒好きの人ばかりであれば、「酒なくして何の人生か」といった考え方に染まりやすくなる。むしろ、そうした友人を求めて積極的に交わろうとするとも言える

つまり、認知的不協和の状況に置かれること自体は別に悪いことではないのですが、そこでいったん誤った意思決定をしてしまうと、その意思決定は様々なバイアスによって強化され、なかなか修正がきかなくなってしまうのです。これは、個人レベルだけではなく、集団レベルでも起きます。集団の方が、惰性がつきやすい分、厄介だとも言えるでしょう。

特効薬はなかなかないのが実際ですが、この連載でも何回も指摘してきたように、自分自身を客観視する癖をつけるとともに、誘惑を合理的に肯定しない人間的な強さを身につけたいものです。

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