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ニーズはあるのに・・・ -ニーズ無視の規制の罠

投稿日:2010/09/22更新日:2019/08/15

問題です

以下の考え方の問題点は何でしょうか。

ある国の国家元首はこう考えていた。

「我が国の国民のギャンブル好きは目に余るものがある。ある調査では、国民の7-8%がギャンブル中毒だと言うし、それによる生産性の低下や破産者の増大はもはや無視できないレベルにある。金額換算すると、公営ギャンブルからの税収の数倍の費用となるという。関係者の雇用の問題などは何とかするとして、公営ギャンブルは廃止の方向で考えよう」

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解答です

今回の落とし穴は、ニーズ無視の規制の罠です。正式な用語ではありませんが、本稿ではこう呼ぶことにします。これは、人間が本質的に持つニーズに対して、むやみに規制をしても、結局は効果があがらないどころか、かえって意図しない副作用をもたらすというものです。

為政者は、往々にして、飲酒やギャンブル、売春、高利貸しなどを「悪徳」とみなしてこれらを規制しようとすることがあります。清廉な為政者ほどその傾向は強いと言えるかもしれません。しかし、そうした規制は、善意や正義から生まれながら、往々にしてかえって好ましくない結果をもたらすことがあるのです。

その典型的な例が、1919年から30年代前半にかけてアメリカで施行された「禁酒法」です。アメリカは時々プロテスタント的禁欲主義の一面が強く顔を出すお国柄ですが、この時も、アルコールの供給を規制することで、さまざまな社会問題が改善されると考えられました。

しかし、結果は逆でした。アルコールに対する人間の根源的なニーズはなくなるものではありません。正式なアルコール製造・販売が禁止された結果、これらは地下マフィアの格好の資金源となり、彼らの勢力拡大に一役買うことになりました。ギャング映画などでおなじみのアル・カポネもそうしたマフィアの一人です。

また、粗悪な密造酒が出回り、かえって国民の健康を損なうことにもなってしまいました。酒税による税収もなくなり、また、政府に対する不満も爆発したことから、政府にとっては踏んだり蹴ったりの結果となってしまったのです。ここまで極端ではありませんが、アルコールに対する規制の失敗は、80年代の旧ソ連などでも起こっています。

日本では、昨今、貸金業に関する一連の規制(グレーゾーン金利の撤廃、年収等の3分の1を超える貸付けの禁止など)が敷かれましたが、これについても、アングラ化の懸念が呈されています。ある程度高利でもいいからお金を貸してほしいというニーズはやはりあるものです。そうしたニーズがあるにもかかわらず、受け皿となる合法的な供給元を規制してしまえば、どうしてもそこに付け込むアングラ業者は現われるものです。

事実、そうしたニーズを狙って、たとえば無審査であるクレジットカードのショッピング枠を利用して現金化するサービスなどが横行し始めています。詳細はここには記しませんが、ご興味のある方は調べてみてください。行政サイドとしては、いかにそうしたアングラビジネスをはびこらせないか、知恵の絞りどころと言えるでしょう(個人的には、ハイリスクであれば、それに見合う金利で合法的に貸し出す機関がある方がいいとは思うのですが)。

そうした「悪徳」のニーズはあるものだ、と割り切って、これを「必要悪」として合法化する国もあります。オランダの売春や、オーストラリアの一部地域における、ある種の麻薬の合法化などがそれです。アングラ化してかえって国民に不利益を与えるくらいなら、合法化して、より管理しやすい状態にしておこうという発想です。実際にはさまざまな事情が絡んでいるので一概には言えないのですが、ある意味、非常に合理的な発想と言えるでしょう。いずれにせよ、さまざまな国でそうしたニーズに対して、実験的に規制や自由化がおこなわれているのが現実です。

さて、ここまでに挙げた例は国の法律レベルの話でしたが、ビジネスパーソンにも無縁の話ではありません。たとえば、社内での「おしゃべり」の禁止という例を考えてみましょう。どれだけ規制しようとしたところで、ある程度おしゃべりをしたいというのは人間の自然なニーズです。「社内でのおしゃべり」がダメなら、社外に出ておしゃべりをする、などという抜け道を発見する人間も出てくるでしょう。あるいは、PCで仕事をするふりをしながらチャットに興じる人間が出てくるかもしれません。それをまたいちいち監視するというのも冴えない話です。

「水清くして魚住まず」という諺もあります。「悪徳」とまで行かなくても、ある程度の息抜きは人間の本質的なニーズと言えます。往々にしてある種のリーダーは、潔癖症で、意志の強い人間です。それゆえ、他人にもそれを強制してしまいがちですが、度を過ぎると独善になりかねません。

どこでバランスをとるべきかは、直ちに答えの出る問題ではありませんが、ビジネスリーダーとしては、そうした人間の根源的なニーズを理解し、ある施策がどのような結果をもたらすかを、イマジネーションをもって予測しておきたいものです。

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