「100の行動」の防衛分野(行動23〜26)が執筆されたのは2013年6月のことだ。安倍政権が発足してから半年が経過し、その安全保障・防衛政策をどのように推進していくべきか、「100の行動」執筆陣が苦心して練り上げた提言集だった。驚くべきことに、公開から2年3カ月を経て、防衛分野の行動は全体の半分以上が「実施済み」、残りの提言の多くも「大幅な前進」もしくは「一歩前進」という政策を実現させた。安倍政権は防衛分野においてまさに行動する政権であり、現代の防衛政策の進化に果たした役割は偉業といってよい。
政策提言のなかで実現した内容には以下のような項目がある。
「国家安全保障戦略の策定」(2013年12月実施済)
「国家安全保障会議(局)の創設」(2014年1月設置済)
「武器輸出三原則の緩和」(2014年4月実施済)
「集団的自衛権の行使の認定」(2014年7月及び15年9月に限定的に実施済)
「国際平和協力に積極的に参加する体制整備」(2015年9月に実施済)
これらの施策は、冷戦終結後の四半世紀の間、日本の安全保障政策に積み重なった課題群であり、安倍政権はその本丸に立ち向かい、現代の防衛政策の法的・制度的基盤を整備した。
日本の防衛政策の真価が問われるのは、これからの新たな行動である。ここでは4つの主要な課題を掲げたい。
第1は切れ目のない領土防衛だ。平時から武力攻撃事態までシームレスな防衛態勢を整備するためには、防衛力の量と質の一層の充実化が必要である。また平時と有事の間のグレーゾーン事態にも隙間なく対応できる警察力・防衛力の平素からの連携が重要だ。
第2は日米同盟及び地域内友好国との一層の協力強化である。中国に建設的な行動を促すためにも、力による現状変更を許さないコスト賦課戦略と、紛争に対する介入能力の強化が必須である。また南シナ海の秩序を維持するためにも、ASEAN沿岸諸国(比・越)に対する能力構築支援を一層強化しなければならない。
第3は日本の国際平和協力とグローバルな関与である。中東・北アフリカ・西アフリカでは、内戦や過激主義の台頭による秩序の溶解が顕著となっている。日本はこうした地域の人道的危機に立ち向かい、秩序構築を主導するプレーヤーとして、積極的に平和維持・平和構築に参画する必要がある。そのために現代の不安定な情勢下でのPKOに参加する態勢整備や、国家建設・復興支援を重視すべきだ。
第4は現代のテクノロジーの進化を防衛政策に積極的に取り込むことだ。無人技術(UAV: Unmanned aerial vehicle、ドローン、ロボット兵器)、人工知能、サイバー、宇宙分野の先進技術開発を積極的に推進しなければならない。防衛省の技術研究開発・研究推進制度の予算は著しく限られており、予算拡充と産官学連携を推進することは喫緊の課題である。
【今回のまとめ】
◆「100の行動」の防衛分野の行動提言は、大半が「実施済み」か「前進」を実現
◆これは安倍政権の偉業である。日本の安全保障政策の法的・制度的基盤が整備された
◆今後の課題は「切れ目ない領土防衛」「日米同盟等の強化」「国際平和協力」「先進技術開発」
< 「100の行動」「G1政策研究所」とは? >
「100の行動」とは、日本のビジョンを「100の行動計画」というカタチで、国民的政策論議を喚起しながら描くプロジェクト。一般社団法人G1サミット 代表理事、グロービス経営大学院 学長、グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナーである堀義人が、2011年7月に開始した。どんな会社でもやるべきことを10やれば再生できる、閉塞感あるこの国も100ぐらいやれば明るい未来が開けるという信念に基づく「静かな革命」である。堀義人による4年をかけた執筆は2015年7月に完了した。
「G1政策研究所」は2014年8月に一般社団法人G1サミットによって創設されたシンクタンク機能。日本を良くするための具体的なビジョンと方法論を「100の行動」として提示し、行動していくことを目的としている。アドバイザリーボードの構成は以下の通り。
【顧問】
竹中 平蔵 慶應義塾大学教授、グローバルセキュリティ研究所 所長
【アドバイザリーボード】
秋山 咲恵 株式会社サキコーポレーション 代表取締役社長
翁 百合 株式会社日本総合研究所 副理事長
神保 謙 慶應義塾大学 総合政策学部准教授
御立 尚資 ボストン コンサルティング グループ 日本代表
柳川 範之 東京大学 大学院経済学研究科・経済学部教授
堀 義人 グロービス経営大学院 学長、グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー