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聖域なき歳出改革を!(独法改革、政府調達、特会改革等)

投稿日:2013/08/09更新日:2019/04/09

初稿執筆日:2013年8月9日

第二稿執筆日:2015年7月23日

前回の提言において社会保障費削減の方策について提言した。歳出改革の本丸は社会保障費の削減だが、当然それ以外の分野でも行政改革の努力を怠るべきではない。分野別に各論を進めると、文部科学分野、国土交通分野とすべての省庁の所管する行政分野に議論が波及するが、それらの論点については、この後の各行政分野への「行動」において提言を行うこととし、今回は、分野横断的な歳出改革について、提言を進めたい。

1. 独立行政法人の抜本的な見直しを!

独立行政法人という制度は、12年前、2001年の中央省庁改革の一貫として、効率的で国民のニーズにあった行政サービスを提供するといった目的のために創設されたものだ。行政における企画立案部門と実施部門(エージェンシー部門)を分離することで、企画立案部門の能力の向上と、実施部門に法人格を与えて独立させることで業務の効率性と質の向上を図る、という制度趣旨であった。

そのため、独立行政法人には、各省庁から与えられた目標の範囲内で運営面における幅広い裁量権が与えられ、予算も運営交付金として一括交付され、柔軟な執行が可能とされたのだ。

独立行政法人は、制度発足時に国の試験研究機関などが法人化され、その後特殊法人の多くも独立行政法人に移行されて現時点で101の法人数だ。国の財政支出は2兆8960億円となっている。

はたしてこの制度は現在、当初の目的通りに上手く機能していると言えるだろうか。筆者はそうは思わない。むしろ、大幅な裁量権が与えられたために政府によるガバナンスが効きにくくなり、行政としての透明性も低下していると言えよう。特に財源の多くが税金であるのに、無駄の排除や業務の効率化が自立的に行われず、財政規律が働かないことは問題だろう。

したがって、独立行政法人の改革にあたっては、法人を2つの分類に分け、

(1)民間で出来るものは民間で行うという方針を徹底し、本来、国が必ずしも行う必要のない業務を行っている法人に関しては、民営化(廃止、もしくは国費による運営交付金の投入を禁止)する。

(2)国が行う必要のある業務を行っている法人については、むしろそのガバナンスを強化し、職員の身分も公務員とし、予算の執行も一括運営交付金ではなく本庁と同様に厳しく査定する。

といった方針で法人の組織と業務を精査し、改革することが必要だ。

例えば、厚生労働省は、

国立健康・栄養研究所

労働安全衛生総合研究所

高齢・障害・求職者雇用支援機構

福祉医療機構

国立重度知的障害者総合施設のぞみの園

労働政策研究・研修機構

労働者健康福祉機構

国立病院機構

医薬品医療機器総合機構

医薬基盤研究所

国立がん研究センター

国立循環器研究センター

国立精神・神経医療研究センター

国立国際医療研究センター

国立成育医療研究センター

国立長寿医療研究センター

といった独立行政法人を持つが、国として必要不可欠な医療研究を行う組織を1つに統合し、その他はすべて(1)の廃止もしくは民営化に分類できるだろう。

同じく、文部科学省には、国立青少年教育振興機構、国立女性教育会館、国立特別支援教育総合研究所をはじめとして各種研究機関、学術文化系の独立行政法人が23ある。国土交通省には、土木研究所、建築研究所、交通安全環境研究所、をはじめとした20の独立行政法人がある。大幅な整理合理化が可能だ。

これらの独立行政法人は、天下りの温床となりやすい。だからこそポストを維持しておきたいという抵抗が働く。1つの発想として、理事長や理事の報酬を、無償か少額にするのも一案だ。NPOの理事長や理事が無償奉仕の事例も多い。日本財団は理事長も理事も無償奉仕だという。筆者が理事を務める日本棋院もすべて無償奉仕だ。そうなると有能な人が兼務で行うことが多くなろう。問題点があるかもしれないが、その分、現場・実務のリーダーに裁量が委ねられ、ガバナンスと執行の分離が進むことが想定できる。

独立行政法人を民営化、廃止、統合化し、理事長・理事の報酬を著しく下げれば、天下りが無くなり、ガバナンスが働き、かなりの国費が削減できることが予想される。

2. 政府調達の改革を!

官公庁による政府調達は、2011年で6兆9428億円だ。5年前は8兆3875億円だったことを考えれば減少傾向だが、未だに全体の約20%にあたる1兆3729億円の調達は競争性のない随意契約となっている。また、実態としては、各省庁においてバラバラに物品や役務、情報システムなどを調達しているのが現状だ。政府調達による支出を最小限にするために、政府内に各省庁が自立的に調達額を抑えるような仕組みをビルトインすることが必要だ。

(1)まず、各省庁による調達計画を策定・公表させ、毎年評価を行う。評価には外部からの意見が不可欠だろう。

(2)その上で、各省庁の翌年度の予算編成には前年度の評価を的確に反映するよう、官邸が主導する。

(3)さらに、情報システムやバックヤード役務等政府全体での共通化が可能なものは一括調達して規模の経済を働かせるといった点や、随意契約を排除してベンチャー企業を含めて政府調達をオープンにし、新規参入の促進によって競争原理を働かせて調達額を下げるといった点においても官邸の主導が必要だ。

この様に、オープンな計画を外部から評価し、各省縦割りにならないよう官邸主導で予算を配分するといった仕組みの構築により、政府調達を改革すべきだ。

加えて、情報システム調達に関しては、さらなる視点が必要だ。政府の情報システム調達の事例をみると、特許庁の情報システム調達で、2006年から5年間の開発期間を予定して55億円の予算を投じたが、開発遅延が続き、2012年に結局、中止が決定されるなど、失敗事例が生じている。

これは、政府の情報システム調達の指針である「情報システムの調達にかかる総合評価落札方式の標準ガイド」(平成14年7月調達関係省庁申合せ)等において、システム開発事業者の選定の際、事業者の技術力やプロジェクトマネジメント能力を正しく評価できない指針になっていること等に問題がある。それらの指針の合理的な見直しに加えて、情報システム調達に関しては政府CIOの権限の強化も含めて、調達の在り方を抜本的に見直すべきである。

3. 歳出改革の一環としてさらなる行政改革を!

歳出改革には不断の継続的な取り組みが必要だ。当然、ここで挙げた以外の分野でも、すべての政策分野において改革が必要である。必要最小限の予算で政策目的を実現させるために、実効性のあるPDCAサイクルを確立することが重要だ。

これまでもそういった取り組みが行われているが、実効性があったかと言えば極めて疑問であり、一度スタートした施策はその必要性が無くなったり、効果が少なかったりしても、なかなか止められないというのが現状であろう。

このため、

(1)まず、評価の体制だ。各省庁が独自に行うのではなく、PDCAサイクルを評価する司令塔を作ることが必要だ。官邸における会議体で強力に推進すべきだろう。

(2)加えて、評価の手法だ。政策を評価するための具体的な数値目標を置くことを義務化し、政策の進捗状況等を毎年中間評価し、効果の上がらないものは途中でも直ちに中止できるようにし、評価結果は翌年度予算に反映することを徹底する。

(3)さらに、外部による評価も行われるよう、評価結果やデータはオープン化することも必要だ。

PDCAサイクルを実効性あるものにするためには、政治の強力なリーダーシップが欠かせない。評価の体制、評価の手法を確立し、政治・官邸のリーダーシップによって、しつこく継続的に評価と査定を繰り返し、各省庁の予算の効率化を進めるべきだ。

そういう意味では、現在官邸主導で行われている「官民ファンド統括アドバイザリー委員会」は、とても良い取り組みだと思う。官邸が主導して、民間有識者と関係省庁の局長級で、組成された官民ファンドのあり方やガバナンス等を討議する仕組みになっている。

国民が働いた結果得られる税金、その使い途は常に第三者の目によって評価される。そのPDCAサイクルを回すことによって、良いものは継続され、必要無いものは廃止されることになろう。この当たり前のプロセスをしっかりと回せる行政組織のみが、強い国家の柱となり得るのであろう。

4. 特別会計の改革に踏み込め!

今から10年以上前のことになるが(2004年)、当時の塩川財務大臣が、「母屋でおかゆをすすっているのに、離れではすき焼きを食べている」という表現で特別会計でのムダを指摘した。それ以降、歴代政権が累次、特別会計の改革に取り組み、当時は31あった特別会計が2015年現在は、15にまで整理統合されている。

一方で、最近新設された特別会計もある。東日本大震災復興特別会計だ。これは復興に必要とされる国費を他の経費とは区分して確保するために新設された特別会計である。復興にかかる費用を国費でしっかりと確保すべきという考え方自体は否定しないが、基本的には可能な限り特別会計を作って区分経理することは避けるべきだ。なぜなら、「財源が確保され区分経理された特別会計」の存在そのものが、役所によるムダ遣いを構造的に生み出してしまうからだ。実際、東日本大震災特別会計でも、復興予算の流用問題が起こった。財務省によって厳しく査定される一般会計とは異なり、最初から財源が確保されている特別会計では、役所が予算の使い切りをする構造になり、査定する財務省側も予算削減のインセンティブが生じないのだ。

そもそも、財政の健全性を確保するためには、国の施策を一覧して管理できるよう、一般会計ひとつで経理することが基本であり、特別会計はまさに「特別」であるはずだ。しかし、行政の複雑化に伴って特別会計が肥大化し、今では一般会計の倍以上の195兆円(歳出純計)という規模にまで特別会計が膨らんでいるのだ。

特別会計の改革は、数を減らすだけでは本質的な意味はない。改革にあたっては、特別会計の必要性を精査し、

(1)国土交通省や農林水産省の事業を行う事業系の特別会計(事業系)

(2)年金特別会計、労働保険特別会計、地震再保険特別会計など、保険料収入による特別会計(保険系)

(3)エネルギー特別会計や特許特別会計など、目的税や特定財源との関係で受益と負担の関係を明確にするための特別会計(特定財源系)

(4)外国為替資金特別会計、国債整理基金特別会計、財政投融資特別会計、交付税特別会計など基金/資金との関係において技術的に必要性のある特別会計(技術系)

に分類し、技術的な必要性からなる(4)は認めたうえで、それ以外については以下の改革を行うことが必要だ。

(1)事業系特別会計を全廃せよ!

高度成長期には、道路や空港、食料安定化等のための公共事業に予算を確保するために特別会計を作るのは合理的だったのかもしれない。しかし、今では目的と手段が入れ替わり、それらの特別会計の存在が、不要な事業等を生み出すシステムとなっていると言っていいだろう。

従って、国が行う公共事業等にかかる予算を確保するために作られた特別会計は全廃すべきだ。それらの事業がまったく必要ないとは言わないが、本当に必要なものは一般会計で行えばよいのだ。この考え方に従って、2013年には国交省の社会資本整備事業特別会計、農水省の国有林野事業特別会計が廃止された。このことは率直に評価し、加えて、農水省の食料安定供給特別会計の廃止も求めたい。

(2)保険系特別会計の保険料での事業実施の禁止を!

歳入が税金のみではなく、一定の保険料が歳入の一部となっている場合は、特別会計として区分経理する合理性があるといえよう。しかし、過去に社会保険庁が年金事業で作ったグリーンピアといった壮大な無駄をその中で行うことは許されない。年金特別会計は将来の年金支払いのための資金運用に特化すべきであり、その観点で日本年金機構のガバナンスも強化するべきだ。

さらに、労働保険料を原資とした「雇用保険二事業」には、過去に批判された「わたしの仕事館」や「ジョブカード制度」など、国が行うべきなのか極めて疑問である事業が多い。真に必要な事業であれば一般会計で行えばよく、無駄な事業をする資金があるのであれば労働保険料を下げるのが本来だ。従って、年金特別会計、労働保険特別会計等、保険系特別会計で事業を行うことは禁止することが必要だ。

(3)目的税や特定財源による特別会計の無駄をなくせ!

目的税とは、特定の経費に充てることを目的として課される税で、法律で使途が特定されているものであり、電気料金に課される電源開発促進税や石油石炭税などである。また、特許料や電波利用料が特定財源にあたるものだ。

税金や使用料の負担者たるユーザーに対して、受益と負担の関係を明確にするために特別会計で管理することは必要だが、この「予め使途が特定されている」制度によって、役所による無駄を生み出す要因となってしまっては本末転倒だ。本来、国が行う必要のある事業が減少し予算が余るのであれば、目的税の税率を下げるのが筋であるはずだ。したがって、こういった特別会計の予算の査定と管理は一層厳しく行い、目的税や特定財源を原資とした無駄な事業が行われないようにすることが必要だ。

日本の危機的な財政状況に鑑みれば、予め歳入が確保され、使途が決められている特別会計という制度は、予算の使いきりを促し、必要性の高くない事業を生み出すインセンティブを霞が関の役所に与えるものであり、政府は特別会計を(1)事業系、(2)保険系、(3)特定財源系、(4)技術系に分類した上で、(1)事業系特別会計は全廃し、(2)保険系特別会計、(3)特定財源系特別会計における予算執行に関しても厳しく精査をすることを通じて、国の財政の一層の透明性の向上を図ることが必要だ。

<2015年現在の特別会計一覧>

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