今年2月発売の『ビジネススクールで教えている 武器としてのAI×TECHスキル』から「Chapter1 生成AIで生産性を上げる」の一部を紹介します。
前回も書いたように、生成AIはビジネスパーソンの生産性を大きく上げてくれます。ただ、それをきわめて効果的に活用できる人間と、そこそこのレベルでしか使えない人間の差はますます開くことになるでしょう。
その結果起こるのは、ホワイトカラーの二極化です。典型的なパレートの法則(80%の結果は、20%の要素からもたらされるという経験則)はもはや当てはまらなくなり、90%以上の結果を10%未満の人間が生み出すようになる可能性もあります。
では、生成AIを初めてとするテクノロジーを上手く活用できない人間はどのようなキャリアを歩めばいいのでしょうか。道は3つです。なんとかテクノロジーを使いこなせるように努力するか、テクノロジー以外の部分、たとえば感情労働などに活路を求めるか、あるいは隙間仕事に甘んじるか。「あの時もっと頑張っておけば」という悔いは残さないよう、若いうちからキャリア設計をしっかり考えることが必要になってきているのです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、東洋経済新報社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
アウトプットの二極化が進む
ChatGPTは結局ビジネスの世界をどのように変えてしまうのでしょうか。
さまざまなシナリオが考えられますが、我々は「少数精鋭の時代が来る」と予想しています。まず、現在Microsoft365で行っているようなことは10分の1の時間でできるようになるでしょう。若手も、ベテランが長年かけて習熟してきた作業にキャッチアップしやすくなります。これだけを聞くと残業も減り、若手も早く仕事ができるようになり、いい話のようにも思えます。
一方で、ChatGPTの進化とともに起こることとして、社内データの蓄積・可視化が進み、検索も容易になることが想定されます。つまり、さまざまなKPI(重要業績評価指標、重要経営指標)やノウハウにより容易にアクセスできるということです。そうなると何か起きるでしょうか。
まず、仕事を進めるうえで必要だった打ち合わせやブレストなどの必要性が減ります。収集したデータをベースにChatGPTを用いると、高いレベルのアウトプットが得やすくなります。部下も管理職も、高いレベルのアウトプットを今まで以上に容易に出せるようになるのです。
また、さまざまなルーティーンワークの負荷も減ると予想されます。必然的により価値創造につながる仕事にフォーカスできるようになるでしょう(短期的には玉石混交のアウトプットが生まれるため、その評価に時間がかかり、かえって忙しさは増しそうですが)。
一方で、基本ツールとなるChatGPTをうまく使いこなせない部下や管理職はアウトプットのレベルが相対的にはなかなか上がりません。つまり部下も管理職も、アウトプットを出せる人と出せない人の優勝劣敗がより明確になり、二極化が進むということです。
では、この状況でサバイブするためには何が必要なのでしょうか。もちろんChatGPTの使い方を磨く必要があります。プロップトの与え方やプラグインの活用方法などはしっかり勉強する必要があるでしょう。そしてそれができるためには、ベースとしての論理思考力を磨く必要があります。ある程度の創造性ももちろん重要です。チャレンジ精神をもってChatGPTの進化にしっかりキャッチアップすることが何より大切となるのです。
部下や後進の育成が難しくなる
人材育成はChatGPTの進化によって難しくなることが予想されます。一次情報と言える、生々しい体験を全員に積ませることは難しくなると考えられるからです。加えて、最初からChatGPTを用いて「下駄を履かせた」インプットやアウトプットに慣れてしまうと、そうした一次情報に対する感度がそもそも鈍る可能性があります。
できる人とそうでない人の二極化か進むがゆえ、マネジャーが誰にどの程度の時間を割いて指導するかの判断に悩むケ-スも増えることが予想されます。メリハリをつけた指導をすることが必要になりそうです。
ChatGPTは結局人を幸せにするのか?
ChatGPTが業務効率や生産性を上げることはまず間違いないでしょう。一方で、簡単な仕事を人から奪ったり、ビジネスパーソンの優勝劣敗をより明確なものにしていったりする可能性は高いと言えます。こうした世界が住みやすいかと言えば難しい話です。
実力があり向上心のある人は、今まで以上に速いスピードで駆け上がっていくことができます。逆にそうでない人(こちらが多数でしょう)はなかなか生産性を上げられず、補助的な仕事に甘んじるしかありません。資本主義の必然として、どれだけ定型業務が効率化されたとしても、企業はどんどん仕事の総量を増やしていくと思われます。しかし後者の人々が、新しい仕事に向けてリスリングできるかと言えば難しいものがあります。二極化した人材の適切な配置は大きな問題となるでしょう。
もちろん、ITへのキャッチアップに苦戦している人材も、人間ならではの身体性や感情労働の力を活かすという方向性もあります。たとえば日本料理の職人としての腕を磨けば、英語ができればアメリカで10~20万ドル稼ぐことも可能です。今後需要が増し、かつロボットでは対応しにくい介護の仕事に転職するという道もあります。
今まで以上にキャリアビルディングについて、早くかつ真剣に考えるべき時代が来ていると言えそうです。
もう1つ意識すべきは「日本語の障壁」や「日本の国境の障壁」が下がることです。日本語は世界で最も習得が難しい言語と言われ、我々はそれに守られる部分も大でした。特にサービス業においてはその恩恵は大です。しかし、テクノロジーが進化すれば、世界のあらゆる企業が競合となりうるのです(もちろん、逆に市場が大きくなるという側面もあります)。強烈な価格破壊やビジネスモデルの破壊がより頻繁に起こるかもしれません。
そうした中で日本人や日本企業がどのようにサバイブしていくのかという視点を常に持ち続けることもとても大事になるでしょう。
<Point>
- 生成AIによってビジネスパーソンの優勝劣敗がより明確になる
- 勝ち組になりきれない人は慎重かつ幅広にキャリアを検討する必要がある
『ビジネススクールで教えている 武器としてのAI×TECHスキル』
著:グロービス経営大学院 発行日:2024/2/28 価格:1,980円 発行元:東洋経済新報社