今年3月発売の『マトリクス思考』から「2章 新規マトリクスを考案し、使ってみるプロセス」の一部を紹介します。
オリジナルのマトリクスを作る最後のプロセスは、「実際に使用して有用性や普遍性を評価する」となります。マトリクスに限らず、あらゆるフレームワークは、実際に使ってみてこそその有用性や普遍性がわかるものです。
まずは身近なデータをもとに、実際にプロットしてみるのが単純ですが早道です。一見良い結果が得られたようであっても、1回だと偶然ということもあるので、複数回使ってみることでその普遍性を確認しましょう。
そして、「この軸の方がより面白い結果が出るのでは?」と感じたら、それも使ってみましょう。こうしたプロセスを経ることで、役に立つオリジナルのマトリクスが出来上がるのです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、東洋経済新報社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
実際に使用して有用性や普遍性を評価する
マトリクスが出来上がったら、まず実際に使ってみることでその有用性を確認します。ポジショニング型、セル型(分類型)、センターボックス型では要素をプロットしてみます。想定した効用、すなわち課題解決の解像度が上がり、役に立つ示唆が得られたら、基本的には良いマトリクスです。一方、セル型(方向性型)やメカニズム型の場合はプロットするという作業ではなく、思いついた要素を書き込んだり現状の自分の地位を知りヒントを得たりという作業になります。使用する上での作業は異なりますが、これもやはり良い示唆が得られれば良いマトリクスと言えます。
なお、プロットにあたって定量的な軸を選んだ場合、そのデータがとれることは必要条件です。たとえば自社と他社の比較をマトリクスに落とし込む場合、自社データはデータ入手可能な一方で、他社情報はとりにくいこともありえます。そうしたマトリクスは、理論上は綺麗でも実務的には使いづらくなります。マトリクスは実務で使えてこそ価値がありますので、理念先行になりすぎないようにしましょう。
普遍性の評価については少し難易度は上がります。自分にとっては有用性のあるマトリクスに思えたとしても、それが普遍性を持つかはなかなか難しい問題です。一般のビジネスパーソンが世の中で使われるようなマトリクスを作るシーンは稀だと思いますので、社内での横展開くらいをまずはイメージして検討するといいでしょう。社内で横展開できそうか、自分で再度使えそうか、そもそも常識的に考えて違和感がないか、といった視点で見返してみるのです。他者に意見をもらうこと有効です。
たとえば下記は出版社のある部門において今年上半期の出版物を「内容に斬新さがある/ない」と「構成が良い/平凡」の2軸でマトリクスにしてみたものです。円の大きさは売上を表しています。ここから概ね、2つの要素のうちのどちらかが優れていればヒットになりやすく、両者が揃うとさらに売れやすいことがわかります。これは常識的に考えても普遍性が高そうです。プロットされたものの中には例外的に、斬新さがあったのに売れなかったものや、両方いまいちなのにそこそこ売れたものもありますが、例外は常につきものです。例外の個別事情を検討した上で、その普遍性を検討してみましょう。

次のものは横展開が微妙なものです。同じプロット対象について、今度は「1ページ当たりの価格が高い/低い」と「時事性がある/ない」でプロットしてみました。

時事性はあまり売れ行きに関係なく、1ページ当たりの価格が高い方が売れているという傾向が見られます。これは偶然の可能性が高く、他者に説明するのは難しそうです。汎用的なマトリクスとは言えないでしょう。