今年3月発売の『マトリクス思考』から「2章 新規マトリクスを考案し、使ってみるプロセス」の一部を紹介します。
オリジナルのマトリクスを作るプロセスは、大きく以下5段階に分かれます。
1. 「イシュー(課題・問題・論点)を正しく捉える」
2. 「マトリクスの型を選ぶ」
3. 「軸の候補を選ぶ」
4. 「マトリクスを作る」
5. 「実際に使用して有用性や普遍性を評価する」
どのプロセスも大切ですが、最終的なマトリクスの骨格を決めるのは3つ目の「軸の候補を選ぶ」です。ここで良い軸が出せなければ、その後どんなに頑張っても良いオリジナルマトリクスは作れません。
同僚と議論したり、書籍やネット、動画で学んだりなどして、自分なりの軸の候補をたくさん持てるようにしたいものです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、東洋経済新報社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
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軸の候補を選ぶ
たとえば「従業員の残業時間を適正な範囲に抑えたい」という課題に対して、まず実態把握したいと考えます。縦軸を実際の残業時間と置くとしたら、横軸に何をとると面白い示唆が得られそうでしょうか。
おそらく以下のような軸が考えられるでしょう
・職責
・リモートワークの活用度合い
・タイムマネジメント能力
・緊急度の高い業務の比率
・全般的なスキルのレベル
・健康状態
・総年収など
仮に実際にプロットした結果、タイムマネジメント能力と残業時間に強い相関が発見されたなら、今度はタイムマネジメント能力向上のための施策を検討するのに適切なマトリクスの軸を考えます。たとえば以下のようなものです。
・効果
・費用
・OJT/Off-JT
・即効性
こうしたキーワード出しは、1人で行ってもよいですが、複数人で行うと自分では思いもつかない観点からの軸を得られる可能性が高まります。また最近は生成AIが劇的に進化しているので、それをブレスト相手にするのも有効です。
大きな要素をMECE的にブレークダウンするのも軸の候補を出す上で効果的です。たとえばある喫茶店の売上を上げるにはどうすればいいかを考えてみましょう。売上を分解すると、客数と客単価に分解できます。また、客数を分解してみると、新規客かリピート客かで分けることもできます。さらに、性別や年代で区切ることもできます。客単価は、平均価格と平均購入アイテム数とに分けることができます。
分析の結果、リピート客の客単価を上げることが重要だとわかったとしましょう。その上で対策を考えるのなら、たとえば縦軸に「男性/女性」、横軸に「平均価格向上/平均購入アイテム数向上」と置いてみます。そうすると4象限に分けることができ、それぞれの象限について具体的な施策案を考えやすくなってきます。
軸の候補を考える際には、いくつかの注意点があります。典型的なものを挙げましょう。
まず、軸の左右または上下で反対の意味を表すものとなっているか(そのようにできるか)注意しましょう。特に定量化が難しい軸においては、これは重要です(定量化できる軸では大小は自明です)。たとえばアイゼンハワーマトリクスの緊急度や重要度のように「高い/低い」などはわかりやすく反対の意味になっています。アルコールの「甘口/辛口」も反対の意味と見なしていいでしょう。
では人材の「理系/文系」はどうでしょうか。これは多少意見が分かれるかもしれません。理系的センスが高く、かつ文系的センスが高い人もいるからです。たとえばアップルのティム・クックCEOや、マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは、理系のバックグラウンドを持ち、かつMBAを取得し、経営者として活躍しています。まさに両方のセンスが非常に高いわけです。であれば、このケースは2つの軸に分けて「理系的センスが高い/低い」「文系的センスが高い/低い」と考える方がいいかもしれません。
「情緒的/機能的」なども、そのまま使えることもあれば、状況によっては2軸に分ける方がいいケースがあるでしょう。目的にもよりますが、本来1つの軸で表しにくいものを無理に詰め込んでいないかという点は注意が必要です。
『マトリクス思考: 2軸で切る、視える、決める』
著:グロービス経営大学院 監修:嶋田 毅 発行日:2025/3/19 価格:1,980円 発行元:東洋経済新報社
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