堅そうに見えるけど、読んでみると実践的でとても使える『幸せのトリセツ』

推薦者:米良 克美(グロービス経営大学院 教員)
『幸せ白書 ~人がより良く生きるために政策関係者、地方自治体、学校現場、企業は何をすべきか』は、一見まじめな政策本…と思いきや、その中身は意外にも我々にとって非常に使える「幸せのトリセツ」だ。
「GDPが上がれば人は幸せになるのか?」そんな問いに、鋭く、そして優しく切り込む本書は、政策提言書という枠を飛び越え、私たち一人ひとりに「あなたの幸せは、社会の仕組みとどうつながっているのか?」を問いかけてくる。
執筆陣は、学者や政治家、実務家など多彩な有識者たち。
経済、教育、まちづくり、企業経営など、さまざまな分野から「幸せ」のかたちを描き出していく姿は、まるで多様なレンズを通して世界を覗き込むよう。
そして浮かび上がるのは、経済成長でも、福利厚生でもない、「人と人のつながり」「信頼」「希望」といった、目に見えにくいけれど確かに大切なものたちだ。
読み進めるうちに、あなたは気づくだろう。
幸せは誰かが与えてくれるものではなく、社会の仕組みや文化、教育のあり方と密接に関係し、そして私たち一人ひとりの選択にもかかっているのだと。
地方自治体の職員も、学校の先生も、企業のリーダーも、もちろん市民である私たちも、本書から学べる「自分にできる一歩」を実践し、より幸せな世界を築いていきたい。
『幸せ白書 ~人がより良く生きるために政策関係者、地方自治体、学校現場、企業は何をすべきか』
著:一般社団法人ウェルビーイング政策研究所 発行日:2024/7/1 価格:1,540円 発行元:文芸社
「今後二度と起こりえない物語」から「自由」の意味を問い直す

推薦者:許勢 仁美(グロービス経営大学院 教員)
1989年11月9日ベルリンの壁崩壊。
この時、あなたは何歳で、どこで何をしていただろうか。
まだ生まれる前で、歴史の教科書の一行としてのみ記憶している方もいるかもしれない。
本書は、アンゲラ・メルケル氏が、自身の生い立ちから首相退任までの歩みを綴った回顧録だ。
旧東ドイツで育ち、科学者としての訓練を受け、その後政治の世界へと転身した彼女のキャリアは、まさに「今後二度と起こりえない」稀有な物語と言えるだろう。
ドイツ首相を4期16年(2005~2021年)務め、激動の時代を牽引したリーダーの意思決定の軌跡は、私たち自身の仕事や人生における「自由」の意味を深く問いかける。
特に印象的なのは、国家のリーダーとして「自由」をどのように定義し、守り抜こうとしたかという点だ。
個人の自由と社会全体の安定、経済的繁栄と倫理的責任。
相反する価値観の間でいかにバランスを取り、最適解を導き出すか。
その葛藤と熟慮のプロセスは、複雑化する現代社会で多様なステークホルダーとの合意形成を求められるビジネスリーダーにとって、まさに生きたケーススタディとなるだろう。
また、本書はメルケル氏の人間的な側面にも光を当てている。
決してカリスマ性で引っ張るタイプではない彼女が、いかにして多様な意見をまとめ、国民の信頼を勝ち得てきたのか。
その背景には、他者への深い敬意と、対話を通じて合意形成を図る粘り強い努力があった。
私たちは日々、不確実な情報の中で決断を迫られている。
本書は、「自分にとっての自由とは何か」、「隣人にとっての自由とは何か」、「いかにしてその自由を守り、活かしていくか」を考えるために、立ち止まるきっかけとなるだろう。
混迷の時代を生き抜くための知恵と勇気をくれる一冊だ。
『自由』上下巻
著:アンゲラ・メルケル 訳:長谷川 圭、柴田 さとみ 発行日:2025/05/28 価格:各2,750円 発行元:KADOKAWA
『検討します』はもうやめよう!意思決定の極意

推薦者:嶋田 毅(グロービス経営大学院 教員)
本書は、「識学」で有名な安藤広大氏による意思決定に関する著作である。
識学は、組織運営や人材マネジメントに関するオリジナルの理論体系で、主に上司と部下の関係性に着目している。
そのうえで、曖昧なコミュニケーションや不公平な対応を排除することで、組織の生産性を高めることを目的としている。
感情に引っ張られすぎない論理性と、組織のルールを優先する点に特徴がある。
本書の帯にある「『検討します』は、全裸より恥ずかしい」という言葉はなかなかに刺激的だ。
ただ、多くの人々は自分で意思決定することから逃げてしまい、「検討します」と答えたまま、結局は意思決定しないことも多いのではないだろうか。
決めない理由については本書の中でいくつか触れられているが、それでは組織も個人も前進しない。
すべての意思決定には反対意見や批判が出ることを理解したうえで、したたかに意思決定をできる人間こそ評価されるべきという主張は全くその通りであろう。
本書は、意思決定を行うための肝を4つの章でそれぞれ紹介している。具体的には以下だ。
- 「修正」を当然とする
- 問題の「解像度」を上げる → 同調圧力に負けず、反対意見を取り入れる
- 情報の「ノイズ」を取り除く→ 自分が決めない聖域を作っていく
- 最後は勇気で決めるVUCAの現代において、100%の正解は存在しない。
そうした環境の中でより組織にとって価値のある意思決定をしたいという人には参考になるであろう1冊である。
『パーフェクトな意思決定――「決める瞬間」の思考法』
著:安藤広大 発行日:2024/9/25 価格:1,980円 発行元:ダイヤモンド社
「お金」と「働き方」に学ぶ、山崎元氏の人生論

推薦者:森 暁郎(グロービス経営大学院 教員)
2024年1月1日に他界した著者が最後に遺したお金・働き方・人生の指南書である。
お金や投資に関わる数多くの著作がある山崎氏は、シンプルな原理原則を説きつつ、時にユーモアを交えたスタイルで数多くの読者をひきつけてきた。
本書は単に経済や投資への考え方のアドバイスにとどまらず、働き方論や幸福な人生論にまで及ぶ、短いながらも読み応えのある一冊だ。
働き方については、労働者をタイプA=替えの効く労働者と、タイプB=価値を創造する戦略家に分けた上で、旧来の日本的雇用モデル、すなわち一社への忠誠と引き換えに安定と退職金を得るというタイプAの働き方は経済合理性を欠いた割が悪い選択である一方、 意図をもって替えの効かないタイプBの人材を目指すことを勧める。
お金については、 彼が繰り返し説いてきた「長期」「分散」「低コスト」という投資の三つの鉄則の解説などを通じて、自由に生きるための道具としてのお金との賢い付き合い方のコツが多角的に述べられる。
主体的な人生を生きるためにお金持ちになることは必須条件ではないが、お金に翻弄されて損をする側に回るような生き方は避けるべきであるとのメッセージが込められている。
そして筆者の幸福論は「人の幸福感は『自分が承認されている感覚』で出来ている」という考え方に集約されるが、なぜ前述のタイプBの働き方やお金と上手に付き合っていくことが、こうして定義された幸福に近づくカギとなるのかが解き明かされていく。
山崎氏の現実的でありつつも人間味あふれる「最後のメッセージ」を読むことで、よりよい人生を生きたいとの活気が湧いてくるような感覚になるのではないだろうか。
『経済評論家の父から息子への手紙』
著:山崎 元 発行日:2024/2/15 価格:1,760円 発行元:Gakken
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