前回は、人の話をより深く理解するための方法として、「論理の三角形」を意識し、語られていない前提など欠落点を補って相手の主張を成立させるように話を聴く考え方をご紹介しました。今回はもう少し詳しく、この頭の使い方を見てみたいと思います。
相手の話の構造を推測し、確認し、問いかける
実際に行われているコミュニケーションでは、きっちりとした論理の三角形ができている発言は極めて稀です。ほとんどの場合、構造的に整理されてはおらず、かつかなり欠落が多い状態です。この状態に対して、相手の話をよりよく理解し、そこから適切に議論を導くには、以下のようなステップを意識するとよいでしょう。
(1)相手の話をざくっと、不完全な論理の三角形でイメージする
(2)欠落している点が何か?を考える
(3)欠落している点の中で、重要度の高い部分について話し手に確認する
(4)議論を進めるうえで必要な論点や確認が必要な部分について他の人にも問いかける
まずは、頭の中に論理の三角形をイメージしながら相手の話を聴きます。主張は何か、そして主張を支えている根拠は何か?をざくっとでよいのでイメージし、相手の話の骨格を掴みます。次に、相手の主張が適切に成立するとしたら、あと何が足りないのかを考えます。そのうえで、特に重要と思われる部分、つまり主張を成立させる上でどうしても必要であると思われる部分について、自分の理解を相手に伝え、自分の理解が正しいかどうか確認します。そのうえで、結論を出すうえで議論が分かれそうなポイント、もしくは事実関係などで他の人の意見を聴く必要がある部分について問いかけ、議論を進めます。
ここで大事なのは(3)です。(1)、(2)で自分が考えたことを正しいと決めつけず、まずは相手の真意を確かめるべく確認をするということです。このステップを飛ばしていきなり(4)に行ってしまうと、「自分はそんなことは言っていない」「勝手に話を作られては困る」と感じさせてしまうためです。また、相手の話をある程度理解すると、いろいろと他にも考えるべき点が見えてきたり、論理的に不十分な部分を指摘したくなってしまいますが、ここで大事なのはあら探しや指摘ではなく、相手の話を理解することです。その目的に絞って、理解を確認することにフォーカスするとよいでしょう。
そのうえで、相手の主張を成立させるためにで重要な欠落点を探し、補完するには何が必要か?を考えます。その際、特に次の点に着目するとよいでしょう。
まずは主張を明確にする
意外に思われるかもしれませんが、まず押さえるべきなのは「主張を明確にする」ことです。何らかの意見を言っているのだから主張はあるのではないか?と感じる方も多いかと思いますが、実際の議論の中で出てくる意見には、主張が不明確なものが思いのほか多いものです。ありがちなのは、様々な状況を説明しているが、結局それで何が言いたいのかがわからない、主張をしているが抽象的で結局何が言いたいのかがはっきりしない、いろいろな話を盛り込みすぎて、何がメインの主張かよくわからない、といったパターンです。
たとえば、「X国の市場に参入すべきか?」という議題について議論しているとしましょう。そこで出された「X国は人口が多く、経済成長率も高い」という発言は、主張が不明確です。
だから何なのか?(So what?)を考えると、たとえば「だから市場は魅力的であり、参入を検討する意義は大きい」とでもなるでしょう。もしくは「X国に参入するには、わが社の商品戦略の見直しが必要だ」という発言はどうでしょうか?「商品戦略の見直し」とは具体的に何をどう変えるのか?がはっきりしません。もしくは「市場は魅力的である一方でカントリーリスクにも注意が必要」といった発言は、複数の主張が入っていて、どちらに力点があるのかがはっきりしません。
実際の議論ではこうした曖昧な意見が極めて多いものです。このままの状態では何が主張なのかがはっきりせず、それを支える論理をチェック・補完することができません。こうした発言に対しては、「それは市場が魅力的ということでしょうか?」「商品戦略の見直しとは、具体的には何を変えることがポイントでしょう?」「まずは市場の魅力度という部分に絞って議論をしたいのですがよろしいですか?」といった形で、主張を明確、具体的にしてもらうように働きかけるとよいでしょう。
特に日本語でのコミュニケーションの場合、最終的な主張をはっきり表現しないことも多いものです。全てを実際に明確に表現し直す必要はありませんが、話を理解する上では、あえてより明確、具体的な主張をイメージしながら聴くようにします。そうすることでその主張を支える上で何が欠けているのかをチェックしやすくなります。
たとえば、「A工程でのミスは顧客に大きな迷惑をかける。ミスを減らすために、A工程の後に新たにチェック手順を導入すべきだ」という意見があるとします。主張は「A工程の後に新たにチェック手順を導入すべき」で、その根拠として前段で述べていることは、「ミスを減らす必要がある」と言うことだと考えられます。一見論理が成立しているようですが、実は不完全です。なぜなら、「ミスを減らす必要がある」が正しいとしても、そのミスを減らすために適した方法が「新たなチェック手順の導入」とは言い切れず、たとえば別の解決策も検討可能だからです。この場合、たとえば「ミスを減らすためには、A工程の後に新たにチェック手順を導入【するしかない】」といった具合により強く、明確にして考えてみると、論理的に欠けているポイントを発見しやすくなります。
他にも注目すべき点がありますが、だいぶ長くなりましたので、続きは次回に譲りたいと思います。(続きはこちら)