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論点を把握する(7)〜広げる(4):合意形成のステップを細分化する(2)〜

投稿日:2010/11/25更新日:2019/08/15

前回は、「合意形成のステップ」をさらに細分化し、それぞれ論点とすることで、汎用性の高いチェックリストをつくるという考え方を導入、その1番目となる<場の目的共有>部分について検討しました。引き続き今回からは、「合意形成のステップ」の2番目<アクションの理由の共有・合意>の部分について考えていきましょう。

「問題解決のステップ」を用いて論点を洗い出す

「アクションの理由」には、いろいろな論点が考えられますが、ここでは「問題解決のステップ」をベースに論点を洗い出す方法を考えていきます。

ビジネスにおける様々なアクションは、「何らかの課題や問題を解決するために検討・決定・実行される」ものです。つまり、アクションについて集団で議論するということは、問題解決を行うために、集団で必要な論点を考え、議論するということと同義です。この際、適切な問題解決を行う上で検討すべき思考の流れ、そしてその中で考えるべき論点を「型」として用いることで、適切なアクション(問題解決の具体策)に辿りつくことができます。

「問題解決のステップ」と言っても様々な考え方がありますが、ここでは私が最も活用しやすく、適切な結論が導けると考える「What→Where→Why→(How)」というステップをご紹介します。議論における各ステップの論点の説明に入る前に、今回は「問題解決のステップ」の考え方自体について、基本的な思想を説明します。これを理解することで、その後の具体的論点がわかりやすくなるはずです。

【What→Where→Why→How】
What→Where→Why→Howの問題解決のステップとは、ビジネスにおける様々な課題・問題について、

・What:何が問題なのか?(問題意識の明確化)
・Where:どこが問題なのか?(問題箇所の特定)
・Why:なぜそうなっているのか?問題が生じる原因は何か?(真因の追求)
・How:どうするのか?(対策の立案・選択)

という流れで考える「思考のステップ」です。「合意形成のプロセス」との関係では、Howが<アクションの選択と合意>であり、そこに至るWhat、Where、Whyが<アクションの理由の共有・合意>に対応します。

「広げて→絞る」

この思考のステップの本質は、「広げて→絞る」、つまり広く見るべき対象を捉えた上で、思い込みによる決め付けや、見落としを避けながら、重要箇所に絞り込み、論理的に有効な対策を導こうという考え方です。「問題の明確化(What)」で、あるべき姿が備えるべき要件をしっかり広げて押さえ、「問題箇所の特定(Where)」では、現状を多面的に幅広く見て、全体を俯瞰し、問題がある箇所を漏らさず捉える。「真因の追求(Why)」では、考えうる原因をできる限り広く洗い出したうえで、本質的な原因に絞り込む。そして「対策の立案(How)」において、考え得るオプションを一旦洗い出し、その中からより良い対策を選択します。

このように、各段階において、一旦見落としがないように視点を広げ、全体を漏れなく把握する、一旦考え得る可能性を洗い出すことを行います。ただ、洗い出したもの全てをそのまま考えていくと、ステップが進むにつれ考えるべきことが多くなりすぎ収拾がつかなくなってしまうので、特にどのような要件にギャップがあるのか、問題が集中しているところはどこか、原因の中で最も大きな影響を与えているのはどれか、そして様々なオプションの中で最も適切なものはどれか、を考え、絞り込んでいきます。

思考の癖を矯正するギブス

この考え方が必要なのは、人が課題・問題に対して取りがちな誤った思考の癖があるからです。そのひとつが「決め打ち」です。新たな課題や問題に直面したとき、人はそれまでの経験や知識から、原因を決め付け、先に対策を考えてしまうことがあります。そしてその対策に合うように課題の設定や分析をしてしまうのです。状況があまり変化しないのであればそうしたアプローチでもある程度通用することもあるでしょうが、新たな課題、なかなか解決が難しい問題の場合、こうした「決め打ち」の対策を実行しても本当の課題が解決しないことが多いものです。

もうひとつの思考の癖は、いわゆる「絨毯爆撃」です。決め打ちを避けようとするのは良いのですが、問題箇所や原因などを全て洗い出したまま絞り込まず、しらみつぶしに検討し、結果数多くの対策を打とうとしてしまいます。そうすると効果の薄いところにまで手を打って資源を浪費したり、たくさんの策を実行し切ることができず、問題が解決しない、ということになりがちです。こうした癖に陥るのを避け、押さえるべきポイントを押さえ、考えるべきことを自分自身に考えさせるために「問題解決のステップ」があります。いわば癖を矯正するギブスのようなものだと考えるとよいでしょう。

ステップを飛ばさない

このWhat→Where→Why→Howの考え方において重要なことは、Howの前にWhy、Whyの前にWhere、そしてWhereの前にWhatを考えるという流れそのものです。何らかの問題・課題に直面すると、人は多くの場合、どうしたらよいのか?(How)から考えてしまう、もしくは、少し立ち止まって考えたとしても、なぜそうなっているのか?(Why)から考え始めるという強い傾向を持っています。問題を生じる本質的原因を掴むことなく、目に付く問題や思いつきの原因に手を打った場合、一時は状況を改善できたとしても、しばらくすると同様の問題が再発してきます。つまり本質的な解決に至っていないわけです。そこで、いきなり打ち手に行くのではなく、本質的な原因(真因)を掴むことが重要になりますが、これが非常に難しいことなのです。

たとえば「最近うちの会社で退職者が増えている」という問題があるとしましょう。なぜ人がやめるのか?をいきなり考えると、「仕事がつまらない」「上司との関係が上手くいかない」「給料に不満がある」「会社の先行きに不満」「家庭の事情」・・と、それこそ限りなく原因の候補が出てきます。この状態のまま何が本質的な原因だろうか?と考えても、決定的な答えは出ないでしょう。なぜなら、問題を生じている状況に影響を与える原因は、非常にたくさん考え得ること、そしてその原因相互が複雑に絡み合っていること、さらに様々な原因の中で、特にどの原因が強く影響を与えているのか判断することが難しいからです。結果、事実に基づかない印象を基にした議論に終始したり、それぞれが挙げている原因のどれが影響力の大きなものかが判断できず、水掛け論になってしまうことが多くなります。

こうした状況に陥らないためには、なぜやめるのか?の前に、どんな人がやめるのか?どのような部署の人がやめるのか?どういったタイミングでやめるのか?など、Whereを考え、どこに問題があるのか?を調べ、傾向を把握することです。そうして調べていくと、たとえば、「A事業の技術系のベテラン社員が、管理職登用後にやめる傾向がここ数年続いている」「B事業部の若手営業社員の退職が、昨年から急激に増えている」といった傾向が見えてきます。そうすると、前者の退職者のやめる原因と、後者の退職者のやめる原因は、おそらくそれぞれ相当に異なる原因であるとともに、それぞれの問題箇所においては、ある程度共通する原因が見出せるはずです。つまり、原理的に原因の洗い出し、特定が難しいWhyから考えるのではなく、「どこに問題があり、どこに問題が無いのか?」「問題がある状況は、どのような条件が重なった場合なのか?」を整理・分析し、原因を考える出発点を絞り込むのです。こうしたWhereの分析は、Whyによりも結果として表れている事実をもって議論しやすいため、生産的な議論に繋がり易くなります。

更に言えば、そもそも「人がやめる」ことの何が問題なのか?、つまりWhatから考える必要があります。たとえばこの会社ではそもそも人の入れ替えが激しく、また求職者が極めて多く、人の補充には事欠かないという状況であれば、「人がやめる」こと自体は問題にならないはずです。

逆に、「入社した人にはできるだけ長期に働いてほしい」というポリシーがあるのであれば、たとえば退職者の補充ができたとしても、「人がやめること自体が問題だ」となるはずです。何が問題なのか?を明確にしないまま議論をすると、途中で「そもそもそれは問題なのか?」「いろいろ議論しているが、結局何を解決したいのだろうか?」といった「そもそも論」に話が戻ってしまい、それまでの議論が無駄になってしまうことが多いものです。

こうした混乱を避けるためにも、What→Whereをしっかり押さえてから、Why→Howと議論を進めていくことが有効かつ必要なのです。

では、次回は、それぞれの部分に関して、特に集団での問題解決・合意形成の視点から、ポイントを見ていきましょう。

  • 吉田 素文

    グロービス経営大学院 教員

    立教大学大学院文学研究科教育学専攻修士課程修了。ロンドン・ビジネススクールSEP(Senior Executive Program)修了。大手私鉄会社を経て現職。グロービスでは、ケースメソッド等インタラクティブな経営教育の方法論を専門とし、多数の質の高い講師・クラスを創出。論理思考・問題解決・コミュニケーション・経営戦略・リーダーシップ・アカウンティング・組織論等の経営の広範な領域においてのコンセプト・プログラム・コンテンツ開発多数。グロービス経営大学院での講義の他、企業での経営者育成、シニアマネジメント向けプログラムの設計、および企業の実際の戦略・組織課題を扱うセッションの講師を多数務める。著書に『ファシリテーションの教科書』(東洋経済新報社)がある。

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