ビル・ゲイツが認めた日本人起業家・西和彦の失敗談―『反省記』

ビル・ゲイツが認めた「伝説の起業家」の半生(いや、反省?)

起業家の失敗談―これは絶対に読むべき類の本だ。しかも、当事者がパソコン黎明期に日本の第一線で活躍した伝説の起業家、西和彦氏の自伝であれば、なおさらのことだろう。

著者である西氏のことを知らない方のために、著者の経歴を少しだけ紹介しておこう。

早稲田大学在学中にアスキー出版を創業。初期のマイクロソフトに参画し、ビル・ゲイツ、ポール・アレン(マイクロソフト共同創業者)に次ぐ、ナンバー3のボードメンバーとして活躍するも、マイクロソフト上場直前にビル・ゲイツと喧嘩別れをし、マイクロソフトを退社。その後、アスキー社長として、史上最年少でアスキーを上場(当時)させるも、資金難に陥り、CSKの出資を仰ぎ、CSKのグループ企業になるが、結局負債超過となり、責任をとって社長を退任。その後、教育業界に転身。

「起業家の失敗談」と聞いて思い起こされるのは、板倉雄一郎氏による『社長失格』ではないだろうか。私は学生時代に偶然この本に出会い、板倉氏の貴重な失敗経験を疑似体験させてもらい、非常に印象に残っている。『社長失格』も素晴らしい本だが、この『反省記』も負けずとも劣らず素晴らしい本だ。

読むだけでも楽しいイケイケドンドンの前半部分

本書は大きく分けると2つの構成から成る--何をやってもうまくいくイケイケドンドンの前半部分と読んでいる方も暗くなる、成功からの転落が記された後半部分だ。

前半は、「理想のパソコンを作りたい」という著者の高い志を原動力に物語は進んでいく。幼いころから機械いじりが大好きだった少年が高校生の頃にプログラミングに出会い、のめり込んでいく。ビル・ゲイツとの出会いが「直電(国際電話)」というのも、当時ならではで時代を感じる。図書館で当時まだ無名だったマイクロソフトの小さな記事に「ビビビッ」ときた著者は、その日のうちにビル・ゲイツに国際電話をかける。二度目の電話でビルとの会話に成功した著者は、4カ月後のカンファレンスで会う約束を取り付けるのだ。そして、実際に直接面会をして、意気投合。ここから著者の人生はマイクロソフトの成功と共にどんどん開けていく。

友人2人と共に創業したアスキーの逸話も面白い。創刊したパソコン雑誌「月間アスキー」を置いてもらうための書店への直接営業がクスっと笑ってしまうくらい、面白く、巧妙だ。書店に売り込んだ際、トイレに行くふりをして、雑誌を棚に置き、その間にサクラである共同創業者が雑誌を買っていくという、セーフとアウトのギリギリのラインをいくようななりふり構わない行動に出るのだ。実績のないスタートアップはゲリラ戦もいとわないということか。

そして前段のビル・ゲイツと出会い、マイクロソフトの仕事に邁進していくわけだが、NECや京セラ始め、日本の大手企業とマイクロソフトのまさに〝ハブ〟となって、理想のパソコン作りに明け暮れる。もちろん、失敗がない訳ではないが、不思議なことにイケイケドンドンの時期にはあまり表出してこない。そんな前半は、まさしく日本のパーソナルコンピュータの歴史のど真ん中を著者が突き進んでいる様子を疑似体験できるストーリーだ。

しかし、暗雲が立ち込み始める―ビル・ゲイツとガチンコの大喧嘩

しかし、成功は長くは続かなかった。ビル・ゲイツとの経営方針の相違により、大喧嘩をしてしまう。タラ・レバは言っても仕方がないが、この喧嘩がなければ、今頃著者は大金持ちだ。ここから著者の転落人生の幕開けとも言える(「転落」という表現が正しいか疑問が残るが、あえてここではわかりやすい表現を用いる)。

盟友だったビル・ゲイツはマイクロソフトの上場により、社会的にも金銭的にも時の人となった。それに比べて、自分は…?自尊心を失った著者は、ビル・ゲイツに追いつくべく、社長としてアスキーを33歳で上場させる。資産も30億円まで増えた。しかし、満足できない。なぜなら、比較対象はあの「ビル・ゲイツ」だから。

この辺りから、著者の悪い部分が頻繁に芽を出す。著者の欠点を補ってくれていただろう共同創業者だった二人とも決別。そこからは、あれよあれよと転落していき、倒産の危機に瀕する。救済後のリストラにより、復活したかに見えたが、ここでも役員に造反されてしまう……。前半の成功とは打って変わって、著者の負の側面が至る所で出てきてしまう。

著者の見出した反省とは?

終盤、改めて著者が自身の人生を振り返ってきたときに、見えてきたものは何か?詳細は、本書で著者の半生を追体験した後に確認して頂きたいが、結構ありきたりな内容に見えるかもしれない。しかし、普通の人では決して体験できないジェットコースターのような半生を歩んだ上で抽出された著者の人生訓は熟成され、味わい深いものだ。

本書で著者は自分の失敗談を余すことなく語ってくれる。本でその失敗を追体験するのは難しい。それでも、私が本書を薦めたいのは、パソコンが世に出始めた頃、日本で歴史を築いた伝説的起業家から、学べることがたくさんあるからだ。著者のようにはなれないかもしれないが、それでも著者のような壮大な志や高い視点を持とうと努力することは重要だ。もちろん、負の側面を出さない努力も必要だろう。純粋にパソコン黎明期の物語としても十分に面白いが、読者の皆さんも是非、著者の経験や失敗から何かを学び取って欲しい。

反省記
:西 和彦 発行日:2020年9月9日 価格:1,760円 発行元:ダイヤモンド社

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