時間のあるゴールデンウィークにおすすめの書籍を、グロービス経営大学院の教員がご紹介します。
戦略とは「何をしないかを決めること 」
推薦者:嶋田毅 グロービス経営大学院教員
本書は、最近ニュースなどでも取り上げられることの多いワークマンについて、創業者の甥で同社躍進の原動力ともなった、ワークマン専務取締役の土屋哲雄氏が解説したものだ。
「戦略とは何をするかだけではなく、何をしないかを決めること」と言ったのは戦略論の大家であるマイケル・ポーター教授であるが、ワークマンの経営は、単に事業や機能を超えて、
「しないこと」であふれている。
たとえば「仕事の期限を設けない」「顧客管理をしない」「取引先を変えない」「社内行事はしない」「経営幹部は極力出社しない」などである。極めつけは「頑張るはしないどころか禁止だ」という個所ではないだろうか。
「それで会社は回るのか?」と思う方も多いだろうが、理由を聞くといちいちもっともであるのが、ワークマンの面白いところだ。
昭和の名著に『「バカな」と「なるほど」』がある。一見、そんなバカなと思うことが、ライバルも模倣しにくいがゆえに競争優位につながるという趣旨だが、ワークマンはそれを地で行っている企業と言えよう。本書のもう1つのエッセンスである「エクセル経営」もユニークだ。
あらゆる企業にとって参考になるかは別の話だが、経営というものの面白さや奥深さを改めて感じさせてくれる1冊ではないだろうか。
『ワークマン式「しない経営」―― 4000億円の空白市場を切り拓いた秘密』
著者:土屋 哲雄 発行日:2020/10/21 価格:1760円 発売元:ダイヤモンド社
進化論を吟味し、人間の認知の歪みを知る
推薦者:難波美帆 グロービス経営大学院 教員
この本はあしかけ20年の構想を経て2014年に単行本になり、そしてこの度、さらに多くの人に読まれるべき本として増補新版として文庫化された。
養老孟司先生は「おもしろくて読み続けて…全部読んでしまった」と解説に書かれている。しかし、この一見して分厚い硬派な感じのする本を読み始めるとすぐに、さっさと読める本ではないことに気づく。
あとがきに「自分の掘った思索の穴を埋めるようにして」この本を著した、とあるように、著者の丁寧な思索(問いと答えの報告)の跡が記されている。巻末に添えられた参考文献の分量がその膨大な思索の量を物語って
この本は、新しい進化論を創造し開陳する本ではない。進化論が大好きな私たち「現代人のセルフポートレート」であり、「物事の理由(原因)だけでなく、意味(目的)をも-中略-求めてしまう」私たちの「認知バイアスの話をしているのだ」とある。
「適者生存」とか「淘汰」とか、進化論をすぐ、ビジネスや社会を語るのに援用してしまう人にぜひ、自分の認知を映す鏡として読んで欲しい。たとえこの本を読むのにGWの3日を費やしたとしても、著者がこの本を書くのに参照した文献を全て読むのにかかる時間のわずか0.04%ぐらいにしかならない。
著者:吉川 浩満 発行日:2021/4/12 価格:1210円 発売元:筑摩書房
哲学に学ぶリーダーシップ論
推薦者:芹沢宗一郎 グロービス経営大学院 教員
「人間として よく生きるには?」
その客観的指針を問いつづけてきた哲学。それが今の時代に求められる経営スタイルやリーダーのあり方とどう関係しているのかを整理したのが本書である。個を活かす組織運営の必要性が言われている今、「リーダーとは、究極的には、人々が“よく生きる”ための環境づくりの責任者たれ」と記されている。
ホッブズの社会契約説によれば、「人間は生まれながらに平等かつ自発的な意識をもっている」という考えのもと、権限は地位に伴う権利ではなく、他者から合意を受けた贈り物として“下から上に委譲されるもの”。その権限は人々が活躍できるよう公正に用いられるべきものだとしている。しかし現実のリーダーの意識は、「権限は上から下に委譲するもので、相手を”手段”として扱ってしまう」傾向がどうしても強いとそのギャップを指摘する。
他に、「誰もが自らの人格と行動に責任に負うべし」とするニーチェ、「自分のコントロールできることに集中せよ」とするストア派のエビクテトス、「人生は苦しみの連続だが、自分対世界の苦しみから自由になる道を選択せよ」とする仏陀、リレーショナル・リーダーシップにもつながる人間の本性であるエンカウンター(出会い)精神を説いたブーパー、多元主義のバーリンなども登場する。
唯一、日本人にとって最も身近な東洋思想に関してはほとんど触れられてないので、そこは是非自学自習をおすすめしたい。
著者:アリソン・レイノルズ、ドミニク・ホウルダー、ジュールス・ゴダード、デイヴィッド・ルイス 訳:石井ひろみ 発行日:2020/7/31 価格:1870円 発売元:CCCメディアハウス
かつての空想が一気に現実化する未来へのガイド
推薦者:渡邉由美 グロービス経営大学院 教員
「空飛ぶ車」、「アンドロイド教師」、「若返り」、「水上都市」。
少し前までは映画やアニメの世界の話だったことが、複数のテクノロジーの進化の融合によって急速に現実になろうとしている。
本書は、そんな時代に2030年を予測した未来へのガイドのような1冊だ。
広告、エンターテインメント、教育、医療、保険、金融、不動産、食料など幅広い分野の最先端の動向が章立てて読みやすい分量にまとめられている。また、具体的な事例が紹介されており、詳しく知りたいと思った分野があれば掘り下げて調べていくきっかけにもなりそうだ。
本書を読むと、未来へのワクワク感と同時に、加速度的に進化するテクノロジーによってもたらされる急激な変化への適応を急き立てられるような感覚になるかもしれない。その気持ちを、ビジネスチャンスを見つけたり、自分の取り組みたいことを見つけたりするきっかけにしてほしい。
ゴールデンウィークに一呼吸して、本書をガイドに、これからの変化をどう捉え、どう備えるのか、未来に思いを馳せて自分なりに考える時間を持ってみてはいかがでしょうか。
著者:ピーター・ディアマンディス、スティーブン・コトラー その他:山本 康正 訳:土方奈美 発行日:2020/12/24 価格:2640円 発売元:NewsPicksパブリッシング
ESG投資の潮流を理解する
推薦者:大嶋博英 グロービス経営大学院 教員
「SDGsって最近話題になっているけど、一緒に言われるESGって何ですか?」
最近こんな疑問をよく耳にします。ESGとはE(環境)、S(社会)、G(企業統治)の省略で、投資家が投資先を選ぶ際に重視する論点となってきています。SDGsは目的。それに対して、ESG投資は手段といえます。
「でも、ESGってCSR(企業の社会的責任)でしょ?企業が環境・社会に配慮しても儲からないよね」と思われるかもしれません。しかし、最近では「環境・社会に配慮しないオールド資本主義」から、「環境・社会に配慮するからこそ儲かるニュー資本主義」へと資本主義そのものが変化しつつある傾向が見られます。
本書ではオールド資本主義からニュー資本主義への流れが時系列で記載されています。リーマン・ショックについての記載は詳細で、これが分岐点になったことがよくわかります。また、日本にESG思考が広まるきっかけとなった、世界最大の機関投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のESG投資の開始などにも触れており、なぜ今ESG投資の潮流が来ているのかをわかりやすくおさえることができます。
ESG投資では、「企業が持続可能な活動をしているか否か」も評価対象となり、投資家は財務データだけでなく具体的な企業活動も詳細に分析します。そのため、企業の対投資家活動においても、財務報告だけではなく企業の活動報告を求められるようになっています。こうした新しい流れもビジネスパーソンであれば知っておくべきでしょう。
皆さんの今後の活動においても「ESGに配慮した活動を行うとともに、投資家に丁寧に発信する」流れが主流になってくることを、本書を通じて理解いただければと思います。
『ESG思考 激変資本主義1990-2020、経営者も投資家もここまで変わった』
著者:夫馬 賢治 発行日:2020/4/15 価格:968円 発売元:講談社